柊雪華 2023/12/15 19:00

ヒルチャールに穢されていく高潔な女たち 夜蘭編

『原作』原神
『人物』夜蘭

 新種のヒルチャールが出てからというもの璃月の女性達は夜出歩くことはなくなった。昼間も一人きりで璃月を離れることもない。如何に力を持つ烈女であったとしても小さなヒルチャールを見ると足が震え背筋が凍るのである。
 理由は幾つかある。新種のヒルチャールはニンゲンを○す。美女であろうとなかろうと女性であれば拉致し、拐かし、罠に嵌める。そして絶対ともいうべき種付け力で繁殖する。一説には一度に五匹のヒルチャールを産まされた女性もいるのだとか。
 戦闘力はほぼ皆無という説明もある。武器は持たず、術も使わない。だが彼らの性器による媚薬効果や催淫効能は桁違いに強い。精液の匂いを嗅ぐと忽ち下腹部が熱くなるのだという。

「新種のヒルチャールね。どうやら璃月だけではなくモンドや稲妻でも見かけられているという話だけれど……」

 璃月港に一人の美女がいた。
 夜の影にひっそりと佇む蒼い髪の美女。黒のアンダースーツに青いドレス服。肩には白いファーコートを羽織っいる。
 どこかの令嬢か……あるいは刺客か……見る者の心を惑わせる胡乱な彼女の名前は夜蘭。
 璃月、岩上茶室に所属している。璃月七星とも馴染みがあり、凝光とは契約を結んだ特別情報官である。様々な事件怪異を追って活躍している美人だ。
 彼女はテイワット全域に広がりつつある新種のヒルチャールの情報を追っていた。

「文淵、商華、璃月周辺の状況は?」

 夜蘭が一声掛けるとどこからともなく二人の男が現れた。膝をつき頭を垂れて背後に控えていたのである。

「ハッ……夜蘭様が仰られたとおり……今より数周前に凝光様と刻晴様、そして北斗船長の三名がヒルチャール討伐に山へ入られたことがあるようです」
「三名は無事帰還しておりますがヒルチャールの討伐に関しての報告は……」

 二人の口は声を発したくないようだった。

「わかったわ。その様子だけで何があったか推測は出来る。貴方たちも口にしたくないでしょう」
「……その後の情報です。新種のヒルチャールは山で見かけられたあと、麓に下り、現在は散らばっている様子。姿こそ見せておりませんが幾つか隠れ家のような場所を確認しております」
「ですが夜蘭様が出向くことはお奨めできません。あなたほどの美人は奴らにとっては……極上の獲物となりかねます」
「嬉しい事をいってくれるわね。つまり私自身がヒルチャールにとっては喉から手が出るほどほしい女なのよね……奴らの戦闘力は?」

 文淵と商華は跪いたまま顔を見合わせた。

「もう一度聞くわよ。奴らの戦力は如何ほどかしら」
「……はい。ある洞穴を確認したところ数は五。他のヒルチャールが周辺に三体ほど」
「もっとも手薄な場所でございます」

 夜蘭は諜報活動と事件の調査を得意とする。彼女の戦闘力が低いわけではない。これは一種の趣味だ。標的を追い詰めていくことが好きな徹底した現場主義である彼女の趣である。

「いいわ。まずはそこから落としましょう。文淵、商華、貴方たちの力も借りるわよ」
「「了解しました、夜蘭様。あなたのご命令ならば我らは命を賭けます!」」

 夜蘭は夜空を見上げた。深い蒼の空に星がいくつも瞬いていた。親愛なる友人の身に起きた事件を思う。

「凝光……」

 夜明けに文淵と商華を伴ってヒルチャールの隠れ家である洞穴に近づいた。周辺にはヒルチャールが作ったと思わしきボロ小屋が幾つか存在している。眠っているのかヒルチャールの姿は見えなかった。
 新種のヒルチャールの姿もどこにもない。状況から察するに彼らも眠っているのだろう。

「夜蘭様、行きますか」
「ええ。ヒルチャールが寝静まっている機会を逃すわけにはいかないわ」

 二人を従えて洞穴に踏み込む。寝ている間に一網打尽にしようというのだ。
 30メートルほど歩いただろうか。洞穴を進んでいくと思っていた以上に奥が深く広い。単なる寝床ではなく、普段は見えない山の内側に繋がっていた。

「これは厄介ね。ここまで広いと逃がしてしまいそうだわ。貴方たちここは一度引き返すわよ……え……」

 振り返ると文淵と商華の姿がなかった。足音ひとつ立てずに気配を消していた。二人にそんなことができるとは思えなかった。配下のなかでは指折りの二人だが夜蘭の方が圧倒的に強い。警戒心も強いため周囲の空気の動きさえ読み取れる

「文淵、商華」

 名前を呼べば現れるはずだが無音だった。
 どちらも姿を現さず一人洞穴の中で立ち尽くす。

「まさか……いえ……二人が裏切るはずがないわ。まずは撤退しないと……」

 引き返そうとするとガサッと音がした。洞穴の奥の方だ。目を向けると小さな影が蠢いた。100㎝ほどの物体だ。茶色の毛を頭につけた白い面の小男。新種のヒルチャールに間違いなかった。

「ケヒヒヒ……璃月の夜蘭様じゃないですか~」
「朝早くからいらっしゃいませー、ケヒヒヒ!」

 一体ではなかった。ぞろぞろと現れると夜蘭を囲む。

「へぇ……こんなにいたのね。随分と余裕みたいだけれど手に武器を持っていないなんていいのかしら」
「ケヒッヒッヒッ! まさか。せっかくのお客人、美人の夜蘭様に武器なんて必要ないゾ? それよりも、こいつだろ」

 ヒルチャールたちは腰蓑に手をやるとズリ下ろした。

「なっ?!」
「ケヒヒ! その反応ウブだナ。綺麗な女なのに処女丸出し! いいねー、夜蘭様は囲ってる男たちとはシテないのかナ?」
「馬鹿にしてくれるわね。たかがヒルチャール如きが……貴方たちの企みなんて考えるまでもなくわかるわ。ハッ!!」

 どこからともなく弓を取り出すと眼前に立っていたヒルチャールに向かって矢を放つ。一瞬のことで反応などできるはずがなかった。

「ケヒッ?!」
「まずは一匹よ。貴方たちには戦う力が無いことはこちらも調査済みなの。どう? 矢を受けたいヒルチャールはいるかしら。確実に眉間を貫いてみせるわよ」
「怖いナ!? ああ、怖いナ!! ケッヒッヒッ!」

 声を上げたヒルチャールの眉間に矢を撃つ。白い面を貫通して突き刺さると即死した。
 夜蘭の手際は良かった。次々にヒルチャールを射抜き倒していく。

「フフッ、まるで的ね。これなら策を弄する必要は無かったわ」
「ケヒヒヒ!」「ケッヒッヒッヒッ!」「まだ気づいてないゾ?」「ケヒヒ! 夜蘭様の鼻には問題ありかもナ」
「さっきから何を話しているの。仲間が死んでいくのが面白い?」
「ケヒヒヒ! オレたちの仲間、死んでも役に立つ! 夜蘭様の仲間と違う!」

 姿を消した二人のことだと直覚した。

「そう……文淵と商華に取り入ったわね。おそらく二人には私をここへ連れ込むようにいったのでしょうけれど頭が悪いわ。私の力は何一つ封じられていないのよ」
「ケヒヒヒ! 封じる必要がないからナ!」

 ヒルチャールは倒れた仲間の身体を蹴った。すると死んでも硬いままの肉棒から白濁の汁が噴出した。一体ではない。夜蘭が射抜いたヒルチャールの遺体全てを蹴り飛ばす。

「仲間の遺体を蹴り飛ばすなんて……」
「ケヒヒヒ! イイノカ? この匂いに気づかないのカ? さっきからずっと匂っているゾ」

 ヒルチャールの言葉に異変を察知した。吸い込んでいる空気に注意を払うと確かに奇妙な匂いがした。洞窟のなかは草木ではなく岩壁と土床の匂いを孕んでいる。空の光や潮風の流れも感じとれないのである。そこに異様な生臭さが漂っている。

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