【無料公開版】かるちゃあノベルpt4 銀河探偵リーィン・パープ第1話

銀河探偵 リーィン・パープ
see through she sleuth rein purp
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深く広い神秘の大宇宙。
その漆黒の闇の中にポツリと小型の外洋宇宙船が浮かんでいた。
ただ流されるままの機体の側には、よく見るとダルマのような宇宙服を着た人影がある。外部パネルを開きプカプカと漂いながら何やら作業をする様は、弄ばれる起き上がりこぼしのように滑稽だが本人はいたって必死の様で、無意味にも手で額の汗を拭う仕草までしてしまい、ヘルメットに厚い手袋と操作パネルをぶつけてよろけていた。小一時間ほどの格闘の後、『真空の』宇宙にけたたましいスロットル音が響き、宇宙船のバーニアノズルに青い炎が灯った。宇宙服はコクピットの方に向けて親指を突き立て、そのまま側面の乗船ハッチの方へと流れていった。

ハッチが開き、宇宙ダルマは慣性にまかせゆっくりと船内に戻ってくる。外部ハッチが閉じ、服の除染が終わると内部ハッチが開いたがまだガレージは無重力のままだ。
宇宙服の内線にやや機械的なアナウンスが流れる。
「お仕事お疲れ様でした。食事になさいますか?それとも先にお風呂になさいますか?」
「汗びっしょりなの。シャワーをあびるわ。」
「ではBコースにお進みください。」
ダルマはそのまま緑に点灯するBの通路へと泳いだ。ところがそのまん丸な体がポロリポロリと欠けていく。宇宙服のロックが解かれ、中から白く美しい身体が見え隠れし始めていた。
なんと彼女は宇宙服以外は何も身につけていなかった!しかしなぜ女性とわかったのか?それはそうとしか言いようのないふくよかな二つの胸が拘束を解かれてプルンと弾けたからだし、最後に排出用のチューブが股間からポンと外れたときには彼女の薄桃色の綺麗な秘部までもが露わになったからであった。

全裸の彼女はまるで南洋の海にでも潜っているかのようにB通路を流れていった。事実通路の側面は先程の無機質なガレージとは程遠いファンシーでカラフルなデザインが施されていた。やがて無重力シャワー室へと入ったその身体を、浮遊した億万の温かい水粒が包むと、彼女はさも満足そうな笑顔で中空を裸でクルリと回ってみせた。先程の作業の疲れをほぐすように大の字にそのトランジスタグラマーな身体を伸ばせば若く張った肌が水泡を四方にはじき飛ばすのだった。

とそこに突然無愛想なアラーム音が鳴り響き、側面パネルにコクピット内の様子が映し出される。そこにはすごい剣幕で大型通信モニターにどなる小さな相棒の姿があった。その彼が怒りの矛先を向ける相手とは…『所長』じゃないか!
「マズイ!」
彼女は操縦室へ直通出来る緊急ボタンを押した。
突然床に大きな丸い穴が開き、重力の働きと共に彼女は大量のシャワー水とその穴に転がり落ちた。
「うわぁああぁあぁあぁあ!」
グネグネと曲がるパイプの中を裸のままとんでもない格好で転がる彼女はそれでも出口付近に据付けられたバスローブだけはしっかりとキャッチし、そのまま操縦室へと飛び出した。中空へ投げ出された瞬間に上手くバスローブを身体に巻き付けはしたが濡れた足が滑って着地には失敗し、計基盤の角にしこたま頭をぶつけた。
「アイたぁ!」
それでもなんとか気を取り直し、あからさまな営業スマイルを作って立ち上がっては、メインモニターに映し出された『所長』に挨拶する。
「こ、これはこれは親愛なるミスターS・K・ベイス。御機嫌麗しゅう。今日はどんなご用件で?」
「おぉ、リーィン・パープ!久しぶりですねぇ。少し見ないうちにまた成長したんじゃないですか?」
モニターに映るブクブクと肥え太ったこれぞ中間管理職といった風体の男は、どうみてもリーィンの顔から数十センチ下を凝視しながら彼女との会話を続けている。
「そ、そうですかねぇ〜、はは…ははは。」
そう呆れながらも巻いたバスローブの胸元をリーィンは少し緩めた。それぐらいで仕事のひとつでも取れるなら安いものだ。
「そうですとも、そうですとも。あ、いやね。実は君に是非やってもらいたい仕事があったんですがね。どうにも君のパートナーと話しててもラチがあかないのですよ。」
「あら〜、そうでしたの。それはそれは。少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
「よろしくどうぞ。」
リーィンは相方の方へと向き直ると愛想笑いを悪鬼のような表情に変え、彼の胸ぐらを掴んで壁に叩き付けた後、そのまま締め上げた。
「おんどりゃああ!ワシに断りもなく何大事な依頼を潰そうとしてんねん!」
リーィンの相棒、小柄で半獣人系のジョー・ブロはウブ毛の多い顔を真っ赤にし、今にも泡を吹き出しそうだった。

「グギギギ…お、おいリーィン。冷静になって依頼内容を聞いてみろ。宇宙座標801のヤマだぞ?それだけで分かんだろ…」
「801…?ハッ⁈もしかして…ウスハのシマか!…」
ウスハ・カヌマーン!リーィンの頭に高笑いをする冷血女の顔が浮かぶ。一体いくつの仕事をあの女に邪魔され、騙され、その手柄を横取りされたことだろうか。アイツに関わるとロクなことがない!!

ジョーを離したリーィンはベイスに向き直り毅然とした態度で返答した。
「イヤです!所長!この仕事、丁重にお断りします!」
「君までそんなつれない事言うんですか?人を1人探してくれただけで900万ゼゼコですよ?」
「なっ⁈900万…ゼゼコ…」
きゅーひゃく!食える!それだけあれば2年はマトモに生活出来る!彼女の頭が皮算用を始める。
「今オッケーしてくれましたのなら200は前払いしますとも。」
200万か!このいよいよガタが来始めた中古のポンコツ船を完璧にオーバーホールするには丁度いい値だ。もうあんな汗まみれの船外作業はウンザリしていたところなんだ!
「やる!やります!是非やらせてください!!!」
彼女は目をドル柄に輝かせて返事をした。
「では決まりですな。」
「なっ⁈気でも狂ったか、リーィン?今回の山、そのウスハがしくじって今も行方不明なんだぞ⁈」
慌ててジョーがその決定に待ったをかけた。
「へっ?」
あの…ウスハが?たしかにあの高慢チキなクソ泥棒猫のことは大嫌いだが、この業界でも名高い彼女の腕前を知らないリーィンではなかった。その彼女が失敗した仕事とあれば、果たして900でも割に合うかどうかは疑わしいところだろう。し・か・し、だがしかし…
「キャンセル!キャンセル!彼女はこう言ってるが、こんな危険なヤマは受けられ…ウグッ⁈」
所長に向かって懇願するジョーを彼女は再び締め上げた。
「いいジョー?これはチャンスなのよ。あのウスハですら無理だったこの仕事を片付けてみなさい?報酬以上のメリットがあるわ。2人で有名になって錦を飾ろうって田舎を飛び出してもう3年…グスッ…これがワテラに残された最後のチャンスやあらしまへんのんか?」
わざとらしく目に涙をためてリーィンはジョーに詰め寄った。
「ぐ、ぐぐ…お、俺は反対だぜ。それにそのアホみたいな夢は『2人の』じゃなくて『オマエの』誇大妄想だ…」
「…フン!じゃあアンタなんかとっととあのクソ田舎に帰ってボーンベイの大農場にでも骨を埋めりゃいいんだわ!所長!この仕事私1人でも受けるわよ。資料を飛ばしてちょうだい!」
小柄なジョーを投げ飛ばしながらリーィンは所長にそう告げると身支度のためにブリッジを去ろうとした。
「ま、待てよ!オマエ1人じゃ出来っこないって!」
なんだかんだでこの幼馴染みが彼女に優しいのをリーィンはよく分かっていた。実際あのど田舎の辺境惑星にしてはかなりの優良企業に内定を決めていたにもかかわらず、彼は彼が言うところの『彼女の誇大妄想的な夢』に付き合って、2人で故郷を飛び出してくれたのだ。
バスローブをその大きな胸が見えそうなほどさらに緩め、悩ましげな笑顔でリーィンは振り向いた。
「じゃあ、どうすんのよォ?♡」

いつものお約束で顔を真っ赤にしながら目線を合わせられずにジョー・ブロがお決まりのセリフを吐く。
「こ、この件が成功したらよ!お、お、俺と性交してくれるってんなら考えても、い、いいぜ。」
「ウフ♡楽しみにしておくわ。」
いまだ叶えられていないジョーの望みにリーィンは投げキッスを返し、毎度の彼の狼狽する様を楽しむのだった。


♦︎
「でぇ?そのクジャガーガー博士ってのを探し出せばそれでいいわけ?」
すでにワープを終え、目標地点まであと数十分というところで、リーィンとジョーは大雑把なミーティングを行った。大体が先にジョーが仕事内容の資料を熟読して作戦内容を決定し、それに対してリーィンが気ままに気になった点を質問するといったいつものスタイルだ。

ここで彼等の職種について少し話しておかねばならないだろう。

そう遠くない未来、人類は遂にワープ航行に成功し、その活動範囲を宇宙全域にまで広げた。もちろん幾多の地球外生命体とも接触し、血生臭い星間戦争や、偏見、差別、異種同士で起きた新たな病気や問題もあったが、それをもなんとかくぐりぬけ、いまや銀河生命体はインテリジェンスカンブリア期とも呼べる大繁栄時代の只中にあった。

しかし平和な世でも宇宙を股にかけた犯罪は爆発的に増え、広大な星域の中で次々起こる各種族の身体的特徴を生かしたより複雑化した犯行の数々は、とても統合警察だけで手に負える物では無くなっていった。

そこで統合宇宙警察機構が広く全宇宙市民に募集を募った苦肉の策がコズミックスルース、銀河私立探偵だった。探偵といえども彼等はキルライセンスを与えられ、その役割は傭兵や殺し屋に近かった。『なるのは簡単、しかし辞めるときは棺桶の中』そう揶揄されたこのような危険な便利屋稼業にはたして飛び付く一般人などいるのかと思われたが、貧富の差が増すます広がる宇宙格差社会において、銀河探偵という職は底辺からの一発逆転、成り上がる術として意外にも労働階級の若者達に強く支持された。特にウスハ・カヌマーンのように麗しき美貌を持ちながら名実共に大成功したアイコンを産んでからは、その志願者数にも拍車がかかり、また一般大衆にとって彼等の活躍する様は新しい刺激、娯楽として受け入れられていた。まぁその危険性こそ桁違いだが、現在のユーチューバーみたいな物と思ってもらっていい。

…うん、雑で穴ぼこだらけだがそういう事にしておこう。エロ小説に複雑で大層で理に適った設定や世界観なんて不要なのだ。さてさて話はもとに戻って…


「ああそうだ。Dr.クジャガーガー。ネオバイオ工学の権威。銀河宇宙の頭脳とも呼ばれている天才だ。」
そう言ってジョーはドクターの資料をメインモニターに映し出す。
「あらやだハンサムぅ!」
リーィンが目をハートにして飛び上がる。画面に映し出された人物はたしかにムービースターかスーパーモデルかといった風貌の美男子だった。
「年齢をよく見ろよ。クジャはすでに96歳。自論をもとに発明した薬や手術は自身で試さずにはいられない男。まぁ、彼の容姿そのものが博士の革新的なバイオ工学論の生きた証とも言えるが…俺ぁ度が過ぎたナルシストの成れの果てだと思うがね…。」
「でも美形は美形だわっ!」
リーィンはモニターに釘付けで、すでにジョーを見向きもしない。
「…けっ…」
「…でその博士が3ヶ月前に行方不明になったと。なんで?」
「わからん。とりあえず今までの捜査からは、博士の乗った船は発見されておらず、事故の線は薄いとされている。そしてこれもなぜかは分からんが博士は失踪前にも度々この辺境エリアに足を運んでいた。渡航履歴にして半年で13回だ。」
「そうする意味がわからないわね。」
「801って言やぁ無法者が集まるスラム星系だ。おおかたどっかのギャングに足元見られて金をせびられ、いよいよコンクリ詰めで宇宙の藻屑となったか…まぁ、それでも自らマメに足を運ぶ理由なんてないがな。」
「他に気になった点は?」
「今のところ全く関連性もわからんし他の奴等は誰一人指摘してないが、俺が気になったのは博士のここ数年に発表された論文だ。これまでの革命的とすら言えた優れた論旨からは程遠く、妄想的でオカルトめいたそれは学会からも非難され、いよいよ奴は気がふれたともその界隈では囁かれていたらしい。」
「可哀想よねぇ、孤高の天才がゆえに、その考えを誰も理解してはくれないなんて。」
「人間は不老不死になれるなんていきなり発表すりゃあそりゃみんな懐疑的にもなるだろ?それがスランプからくる苦し紛れの嘘なのか?はたまた誰の理解も及ばない天才の大発明なのか…」
「まあまあ。要はこの人見つけだして連れ帰りゃあいいんでしょ?んで目星はついてんの?」
ジョーは次に辺境の裏寂れた小さな惑星をモニターに映した。
「ああ、惑星ストーラ。およそ50年前、この辺りの漂流隕石群の大資源採掘時代には採掘坑夫達の歓楽惑星として栄えたが、今じゃすっかりさびれて犯罪者や殺人鬼、ヤクザ者がたむろするスラム星さ。星を統治する政府だって裏の顔はギャングだってもっぱらの噂だ。だからこんなクソ偽通行証でも降りられちまう。」
と言ってジョーは自分の顔がベンチプレスで押しつぶされたかのようなパスポートをリーィンに見せた。
「きゃはははは!そっくりじゃない!」
「ほらよ、オマエの方がよく出来てるぜ。」
ひょいと投げられたパスを受け取ったリーィンは絶句した。そこに写っていたのは女子プロレスラーのヒールがお姫様に見えるような人相の、自分と同じ髪型、服装をした人物だったからだ。
「まぁ、消えたウスハからの最後の連絡もこの星からだったし、もしまだ生きてたら、博士がここにいる可能性は極めて高いな。さっき言ったこの星の悪党どもが博士を誘拐したってのも十分考えられる線だ。まぁまだ一切の犯行声明も脅迫状も出されちゃねぇがな。」
「そう言ってるうちにご到着〜っと。」
リーィン達の船は惑星衛星軌道上の検問施設へと泳いで行った。

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