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にのまえ 2022/12/17 14:14

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にのまえ 2022/12/10 19:29

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にのまえ 2022/12/10 19:19

チョコレートローション【フォロワー公開】

「ど…どうも。こんばんは…」

 里仲羊一はいつもの如く顔を上げられなかった。だって気配ですらイケメンなのだ。
 彼と会うときは奮発して、彼にふさわしい、華美でなくとも上等なホテルと決めている。だから絨毯の赤色は深く装飾も細かい。
 そこに立つ黒い革靴は、今、扉の前で磨いたかのように美しかった。

「里仲さん」
「っご、ごめんなさい」

 ラブホテルの部屋で出迎えるたび、まるで介錯を頼む武士のように俯いている、とはもう十度は言われたことだ。笑い混じりの呼びかけにいつもの指摘を感じて、里仲は慌てて顔を上げる。
 人目を気にする職の彼はいつもマスクを付けてくる。黒色のそれで半分覆われている顔すら美しいのに、形の良い指でそれを引き下げ、柔らかく微笑んだ表情は目が潰れそうなほど美しい。彼はいつも完璧だった。
 里仲は彼の自撮りを見たときから、ずっと彼に恋していた。もちろん、付き合いが一年を超えた今だって好きだ。直視できないほどに。
 再び俯いた里仲に、ユタカ、という名の出張ホストは笑って言う。

「いつも指名してくれてありがとう、里仲さん。ねえ知ってる? 今日はバレンタインなんだよ」


***


 今思えばあれは営業アカウントだったのだろう。口元を隠したアイコンの、日常の呟きに時々出勤報告の交じるSNS。
 里仲はそのときの自分が何をしていたか覚えていない。何しろ一年以上前だ。けれどゲイという性指向で検索していたのは間違いないだろう。生来内気な里仲は人前では萎縮するばかりだったが、その反動のように、インターネット上では自分の趣味に正直だった。
 けれど交流を求めたことはない。自分と同じ人がいるのだと、その存在を垣間見るだけで満足だったのだ。…彼を見つけるまでは。

 大人びた柔らかい微笑み。ビジネスマナーに反しない程度淡い色合いの、襟足を綺麗に揃えた髪。スーツの似合う逆三角形の体つきは、けれどマッチョと呼ぶほど男臭くなく、爪先まで形の良い彼の手のようにどこかが上品だった。
 里仲は保守的な家で育ったし、もともと奥手な気質もあって性や夜の職については疎かった。だから彼が「売り専バー」という店で働いていることも、それがどういう趣旨の店舗なのかも、彼に教えられて初めて知った。
 翻して言えば何もわからないままに彼を指名していたのだ。
 ユタカというその男には金を払えば会える。コンサートやミュージカルのチケットを買うような気持ちで、里仲は最初、彼を買った。




「一人暮らしには慣れた?」

 店舗へ連絡をして、ユタカはベッドサイドからそう里仲を振り返った。気鬱な冬の最中、上等な茶色のスーツは彼にだけひと足早く春を与えているようだ。
 一年間、少なくても月に二度は会っている。彼がふたつみっつ年上なのも関係しているのだろう。最初は里仲の不慣れゆえの言動で戸惑わせてしまったし、多分今だって変なことをしているだろうが、里仲のテンポを掴んだのかユタカは鷹揚だ。

 問題は一年経っても彼と同じ空気を吸うことに慣れない里仲である。
 ユタカを迎え入れたドア前に立ち尽くしたまま、里仲は俯き、ソワソワと指を組みながら答える。

「あ、えっと、…はい」
「本当に? だって初めての一人暮らしでしょう? それにまだ三ヶ月だ」
「でも、その、自由になりました。色々…」
「緊張しないで過ごせる?」
「はい」

 その通り。毎日気が楽だ。
 里仲は遅く生まれた末息子で、両親は老齢だった。性嗜好の話なんか単語からして伝わらない。異星人ですと言うに等しいカミングアウトで両親の平穏を破りたいなど考えたこともなかった。
 ただ、里仲はとにかく小心者なのだ。
 気づいていない。そういう性嗜好をそもそも知らない。わかっているが、流行りの女装タレントがテレビに映るたびドキッとする。親族の誰が結婚したしないという話題に緊張する。
 両親は何も言っていない。ただ里仲がビクビクしていただけだ。けれど遅い独立を果たした今、緊張から解放された日々は気楽だ。
 ユタカは微笑む。穏やかでやさしい彼の性根通りの、柔らかい笑顔だ。

「それはよかった」
「ユタカさん、相談を…聞いてもらって、その…」
「うん」
「あ、あの…」

 礼を言いたい。
 けれど里仲の目の前まで戻ってきたユタカが鼻先をくすぐるから、そのまま下半身を密着させるように腰を抱くから、里仲の言葉は迷子になってしまう。息を吹きかけそうで呼吸ひとつ上手くできない。
 反してユタカは余裕たっぷりに笑っていた。
 いつもクリーニングしたてのスーツを着ていてそうは見えない品の良さだが、こんな職業をしているのだ、こういった接触には慣れているのだろう。

「真っ赤になった」
「…やめてください」

 里仲は俯いたけれど、会社勤めの短髪は耳の赤みまで隠してくれないし、もちろん、そこに口づけてくる唇を防いでもくれない。

「っあ、ぁ、…あの…っうう♡」
「まだ慣れない?」
「そりゃ…だって…」
「一年間、ずっとしてるでしょう? それに予約するときいつも俺のプロフィールを見てるはずだ。イチャイチャするのが好きだって、毎回目に入ってるよね?」
「う、う…っ♡」

 耳元に触れる囁き声はもはや愛撫だと思うのだが、過敏すぎるだろうか。こんなのただの挨拶で、自分は日常的な接触に興奮しているのだろうか。里仲は自分だけ卑しい気がして、顎が喉元へ触れるほどに視線を下げる。
 所在なく降ろしていた手を取られ、指先を握ったり絡ませたり、やはり愛撫のようなことをされる。「ねえ」という声に返答を促され里仲は息を呑みながら訴えた。

「な、慣れないです…無理です…っ! ゆ、ユタカさん、い、いつも、ずっと、格好いい…っ!」
「ありがとう。…これだけ長く指名されて気に入られてるのはわかってるけど、改めてそう言われると嬉しいな」
「でもあの、あの…もうくっつくのは、その、後で良くて…あの…」

 出張ホストを、それがどういうサービスを施してくれるのか知っていて呼んだ。なのに居た堪れなくなるのはいつものことだ。
 触れ合う時間を後に伸ばしたくて、里仲は気になってもいないことを問う。

「バレンタインって、な、何か、ありましたか。すみません。予定があるのに呼んじゃいましたか」

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にのまえ 2022/12/10 19:07

痴○希望の匿名くん【フォロワー公開】

 汗が浮かび、何度唾液を飲んでも口が乾く。いつもの満員電車が異世界に思えた。
 司秋人は手のひらの汗をニットで拭う。晩秋とはいえ満員のホームはもちろん暑いが、額をじっとり濡らすのは緊張感だった。とても着ていられずに、秋人はジャケットを脱いでいる。
 いや、違う。暑いのも脱ぎたかったのも本当だけれど、一番は下腹部を隠したかったからだ。股間はテーパードパンツでも隠せないほどになっている。

「…………」

 昨日初めて、痴○掲示板に書き込んだ。
 黒背景に白文字の、いかにも古びたネット掲示板だった。本物なのか、見ている人がいるのか、文系大学生である秋人にはわからない。痴○希望のメッセージはぽつぽつ書き込まれていたが、同じくらい頻繁に消されていた。
 見ている人はいるのだろうか。書き込みはプログラムを使ったサクラで、消されるのは禁止単語を自動で察知しているから。こんなところ、こんな安っぽいページ、誰も見ていないのではないか。
 それとも誰か見ているのか。
 自分の書き込みを、自慰途中の興奮のまま書いた文面を、もう、誰か見ているのだろうか。

「……っ♡」

 誰かにこの欲を知られているかもと思うだけで、テーパードパンツの中で勃起したものが跳ねる。
 大きくなったもののせいで歩きにくい。ぎこちなく満員電車に乗り込んだ秋人は背中や肩を周りの乗客にぶつけてしまった。縮こまり、俯いたままぺこぺこ頭を下げて奥に進む。

 左の乗車口からまっすぐ正面。右手ドアの近くに立ったのは、秋人の意図ではなかった。乗客のほとんどがそうであるように流されただけ、空いたスペースに詰めただけだ。

「ひっ♡」

 けれど今日の流れだけは、きっと人為的なものだった。

 秋人は肩を跳ね上げてジャケットを抱き締める。テーパードパンツの尻に何かが触れている。いや、触れているなんてものじゃない。五指の形がはっきりわかるほど尻肉を強く揉まれていた。
 痴○だ。今までこんなのされたことないのに、掲示板に書いてすぐに。
 まさか本当に? 痴○なのか?
 あんな赤裸々な文章が読まれたのか。秋人の欲を知っているのか。震えるほどの不安はしかし、満員電車では口にできない。

「っ、……ん、っ、……っん♡」
「…………」
「あ、……っあ、ちょ、……っ♡」

 人違いだとか、犯罪だとか、そういった躊躇が一切ない性欲丸出しの手付きに、秋人のほうが不安になってくる。
 確かにこの路線は痴○で有名だった。最寄り駅を告げれば大学の仲間は十人が十人、男だというのに秋人の身を案じるし、そういうフィクションではよく舞台にされている。
 だからきっと他の路線よりは、そういう趣味の人間が集まっているだろう。多少不自然なことがあっても許容されるだろう。そう思ってはいたが、とはいえこんなに、ここまであからさまに。

「ぁ、あ……っ♡」

 味わうような手が持ち上がり、ニットの裾から入り込んでくる。細いが、しかし男の手だ。腹を撫でられるだけで相手の性欲が伝わってくる。
 どうやら痴○は真後ろではなく、右斜め背後、秋人を扉横の角に閉じ込める格好で立っているようだ。一歩近づかれると背中にぴったり体温を感じる。
 太っていない。自分より少し背が高い。気配を探っていた秋人は、薄手のニットの中で乳首を弾かれ先走りを滲ませた。

「ゃ、……っ、や、やめて、くださ……っんぉおッ♡」

 小さな声は自分でもわかるほど媚びている。
 清純ぶった言葉を叱るように乳首をつねられ、秋人は息を飲みながら背伸びをするように胸を張る。背後の人物に体重を預ける格好になったが、その男はびくともしなかった。
 耳元に低い声が触れる。

「……痴○されたいって、書いてたよね?」
「……っ、そんな、こと……♡ 人違い……ッおおッ♡♡」
「チクニーしまくりの……こんな、っ、雑魚乳首して、何言ってんの? 触ってくださいって言ってただろう? 最初から勃起して期待してたの、ホームでずっと見てたんだ」
「っひ♡ ひ……っ♡♡ ぁ、あ……っ♡♡ 乳首、ぷるぷる、それ、っ、それぇ……っ♡♡」
「それとも本当に人違い? 『アナニー中毒の童貞大学生』じゃない? 『痴○妄想して満員電車で毎日勃起してる』変態じゃなかった?」
「……っ、読まないで、俺の書いたやつ、読ま、ッ、おぉおッ♡♡♡」

 低い声とともに乳首をいじっていた手が腹を撫で、へそをいじり、期待して履いたウエストゴムの服の中に入ってくる。
 ねだるように跳ねる勃起の横を素知らぬ顔で抜けた指が、何の遠慮も躊躇もなく、柔らかい穴を貫いた。強引な指先だったものの、秋人が自ら育てた穴は喜んで飲み込んでしまう。

「お、ぉ、お……ッ♡♡♡ っんお、おッ、おッ♡♡」
「つま先立ちして、逃げようとして……。ここ、ぷりっぷりの雑魚前立腺、一発で黙るメスポイント作っといて、これでも人違い?」
「っう、ぅううう~……ッ♡♡ や、やめて、っ、くださ、ぁ……っ♡♡ こえっ♡ 声、でちゃ、ぅ~……っ♡♡」
「最初っから勃起してたもんな、変態。メス穴いじられたかったんだろ」

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