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怪談の記事 (5)

WsdHarumaki 2023/02/03 00:04

SS 動かない鬼

「悪い鬼が居るぞ」
 父は逃げた。侍達が追いかける。小石を投げつけられる。当たれば痛いが黙って逃げる。それが掟だ。追儺(ついな)の儀式は大事だ。災いを避けるために必須な行事。自分の家は代々その役割を担う。

 鬼の面をつけて赤い着物で逃げる。宮司が太鼓を叩き、巫女の踊りが終わると、鬼やらい人が逃げる。逃げる後ろから石つぶてを投げる。普通は当てないのだが、中には当てる侍も居る。散々に嬲られた父親は家に戻る。扶持米(ふちまい)も少ない家で周囲から疎まれているが大事なお役目だ。

 金が足りないと内職する。農作業した作物で換金する。鉢植えや栗や梨、柿などで金を作るくらいで、他の侍とは交流しない。

「鬼の役目は大事だ、次はお前が継ぐ事になる」

 父の厳命だ。お家のための犠牲だ。元は鬼に祟られた城主を救うために家来を生け贄にしたのが由来と聞いた。形骸化したが行事として残っている。

「今年は豊作でね、金になりませんよ」

 作った作物が売れない。換金できなければ粗末な食事に耐える事になる。家の者はみなが痩せ細っていた。父が病に倒れると耐えられずに死んだ。自分が後を継ぐ。子供の頃から父の苦痛を間近で感じていた。損な役割な上に、大事にされない。理不尽な怒りが自分の中にある。

「今年の追儺の儀式は、新しい嫡男が行う」

 鬼の面をかぶり赤い着物をつけて立つ。儀式が進み鬼が逃げる番だ。俺は逃げない。動かない鬼だ。

「どうした、逃げないと石が当たるぞ」

 侍たちが石をなげる。体にも当たる。逃げない鬼に向かって本気で投げる侍も居る。ごつごつと当たる。誰かが刀を抜いた。脅すつもりだが激高したのか、俺を刺し殺した。

 俺は死んだ筈だが痛みすらない。体に刺さる刀を引き抜くと侍の首をもぎとる。俺は鬼だ。鬼が乗り移った。先代の呪いの鬼かもしれない。細かい事は気にならない。境内に居るすべての侍を殺した。俺は山に入る。

xxx

 今でも村人は恐れている。
「あの山には鬼がいるぞ、人の事を鬼扱いしたからな……」

終わり

WsdHarumaki 2023/01/04 20:42

SS 本当は叶ってほしくない願い事がある。 #ストーリーの種

本当は叶ってほしくない願い事がある。彼の幸せだ。彼が幸せになると私が不幸になる。

「別れてくれ」
彼は何回も頭を下げる。離婚してくれ。浮気相手に子供が居る。金は払う。家もやる。俺は家族を持ちたい。お前じゃダメなんだ。

私は泣きもしないで彼を見る。黙って見ている。私を彼は恐ろしそうに見る。最後は怒鳴る。

「お前はいつもそうだ、何も言わない、何を考えているか判らない」
私にも判らない。幸せが何か判らない。彼が怒る理由も判らない、自分がどうしたいのか不明だ。私はきっと他人が幸せになるのが耐えられない。自分が幸せなのを実感できないから……

寝ていると苦しくなる、目を開けると夫が私の首をしめていた。私は苦しいが黙って見ている。夫は良心の呵責でいつもやめてしまう。私を殺せない。弱い男だ。

「あんたが居るから」
怒鳴りながら私を罵倒する、殴る時もある。頬をぶたれる。ひどく痛いが我慢する。血が流れる。近所の人が警察を呼んだ。彼女は連れて行かれた。

「奥さん、大丈夫?」
「旦那さんと話さないと」
近所の人達は私に同情している。当たり前だ。罵倒されて傷をつけられたのは私だ。私は心のどこかが暖かくなる。
「いえ私も悪いんです、夫の事を理解できなくて」
みなが私に同情する。

旦那と浮気相手は子供を連れてダムに飛び込んだ。車が見つかる。無理心中だ。幼い子供はまだ二歳くらいでかわいい盛りなのに、かわいそうと感じる。

家に戻ると旦那が居る。恨めしそうに私を見ている。浮気相手の女も子供も居る。みなが私を見る。私が悪い。お前のせいだ。元凶はお前だ。

浮気をしたのは誰なのかしら?子供まで作って殺したのは誰なのかしら?私は笑い出す。人のせいにしか出来ない奴らが私を見ている。ゲラゲラ笑い出す。こんなに楽しい事は生まれて初めて。

私はマッチングアプリで若い男と交際する。部屋に呼んで行為を見せつける。幽霊はそれを黙って見ている。何も言わない。まるで昔の私みたい。

たまに霊感があるのか男が文句を言う。
「なんか部屋が寒くないか?」
「気のせいよ」

今は最高の気分で生きている。

終わり

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