無名@憑依空間 2024/05/25 16:37

★無料★<寄生>外の世界への憧れ①~地上~

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー”地上”ってどんな世界だったのかなー?」

”生まれた時から”ずっと地下で暮らしている
女子高生・瀬尾 梨絵(せのお りえ)が、
ふと、口を開くー。

「ーさぁなぁ~」
幼馴染の男子、熊原 勝重(くまはら かつしげ)が
歩きながらそう呟くと、
「ー太陽とか、海とか、山とかー…
 色々本とかでは見たことあるけど、
 俺たちには遠い世界って言うかー… 
 よく分からない世界だよな」と、言葉を続けるー

「ーーー…いつか、見てみたいなぁ…」
梨絵が笑いながら言うと、
「ーおいおい、間違っても外に出たりするなよー?
 地上じゃ、もう俺たちは生活できないんだからよー」
と、勝重は、好奇心旺盛な梨絵を注意するー

「分かってるってば~!いくらわたしでもそんなことはしないよー
 大気汚染で、大気が変質して猛毒になっちゃったんだから、
 出たら死ぬことぐらい分かってるし」

その言葉に、勝重は安心したようにうなずくー。

「ーまぁでも、生まれた時から地下暮らしだと、
 地上って言われてもピンとは来ないよなぁ…」

現在の人間の住処はー
”地下”ー。

とある理由で地下に逃げ込んだ人間たちが、長い年月をかけて、
それなりに快適に暮らせる世界が現在は築き上げられているー。

世界の人口は全盛期の5分の1程度にまでー
いや、もっと減少しているかもしれない状況で、
地下同士の連絡の取り合いも困難なためー、
梨絵たちが今、暮らしている地下空間、”東北Bブロック”と呼ばれる地区以外の
状況がどうなっているのかは、梨絵たちには分からなかったー

日本でも、他の各国でも
”難を逃れて地下に避難した”人々はたくさん存在している、とは聞いている。

だが、他の場所に何人ぐらい避難しているのか、
どういう状況なのかー
そういったことはほとんど情報として入って来ていないー。

梨絵たちのいるこの”東北Bブロック”と呼ばれる地下空間には
およそ1000人ほどが生活していて、
病院や学校、飲食店など、そういったものも存在しており
一つの町のような状態になっているー。

既にこういう生活を数十年ー
この世界の人間は続けており、
梨絵たちに至っては
”生まれた時からずっと地下暮らしで、地上を知らない世代”だー。

この世界では、そんな梨絵たちのことを”地下世代”と呼んでいるー。

原因はー
”大気汚染による環境汚染”と表向きにはされており、
人間にとって猛毒のガスが大気中に含まれるようになってしまったため、
人間は地下に避難、巨大な環境維持装置により、
地下空間で生き永らえているー…
と、いうことにされているー。

だが、実際は違うー。

既に50年以上も昔の話で、
今はその事実を知る人間も少なくなりつつあるもののー

本当の理由はー
”パラサイト”ー

他の生命体を無差別に支配する
恐るべき寄生虫によって、地上は占拠されてしまったのだー。

今から数十年前ー。
一人の科学者が遺伝子操作で”人間にも寄生することができる寄生虫”を
生み出したー。

とある地域に存在していたエデラニア共和国と呼ばれる国の科学者が
”捕らえた人間を尋問するために”生み出した寄生虫で、
これを寄生させることにより、
口を割らせることが主な目的だったというー。

しかし、その寄生虫は制御できずに暴走ー
”生産コストを削減する”という目的で
繁殖能力を大幅に強化していたため、あっという間に寄生虫は恐ろしい数に増え、
寄生虫を開発していたエデラニア共和国は壊滅、
ほぼ全ての人間が支配されてしまい、
やがて、隣国、そのまた隣国と、パラサイトに支配されていったー。

その異常すぎる繁殖力に、とても人間は太刀打ちすることはできず、
しかも人間だけではなく、人間以外の動物にも変幻自在に寄生していく
その生命体に、人類は一気に”地上”を奪われたー。

幸い、そのパラサイトは
”海”や”地中”での活動は一切想定されておらず、
海や地中にまで追跡してくることはできないということが判明したためー
人類は地中に避難することを決意ー

元々存在していた地下商店街や地下空間などにそれぞれ避難しー
難を逃れて今に至るー。

現在ー
地上にも”人間”は残っているがー、
そのほとんどは、パラサイトに支配された人間たちでー、
人間以外の生物も、ほとんどがパラサイトに支配されているー。

地上がパラサイトに支配されて数十年ー。
もはや、地上がどうなっているのかも、人類は
ハッキリと把握することができていなかったー。

「ーーー」
そんな事実を知らない梨絵ー。
小さい頃から、好奇心旺盛で”外の世界”に対しても、
好奇心を抱いている梨絵は、高校生になった今でも
外の世界に対して、憧れを抱いていたー。

今ではほとんど記録も残っていない
”外の世界での出来事”

都会で休日を楽しむ高校生たちのものとされる写真を見て
「こんな世界が…外にはあったんだ…」と、
目をキラキラさせながら呟くー。

地下での生活も”生きていく上”では不便はないー。
しかし、人間が地上で生活することができていた時代と比べー、
あらゆるものが失われー、
生活にも大きな制限が生じていたのは事実だったー。

今ではー
地上と地下を繋ぐ入口は厳重に閉ざされていてー
外から開けることはまず困難だー。

そもそも、入口はカモフラージュされており、
入口周辺にはセンサーや、有事の際の遠隔操作可能な武器も
設置されており、侵入することは不可能に等しかったー。

内側から開けることは可能と言えば可能なのだが、
この数十年間、一度も開けた者はいないし、
定期的な扉のメンテナンスの際に、開け閉めをするぐらいだ。

”これから先も外の世界に出ることはない”

梨絵も、彼氏の勝重も、
他の人々も、誰もがそんな風に思いながら
生活を続けていたー。

だがー
そんな生活に転機が訪れたー

小さい頃から梨絵とよく遊んでいた
お調子者の男子・啓介(けいすけ)が、ある日
とんでもないことを言い出したのだー

「なぁ、梨絵
 知ってたかー?
 ”外の世界”、本当は大気汚染なんかされていないってー」

そんな啓介の言葉に、梨絵は「どういうこと?」と
言葉を口にするー

小さいころから、空は赤く染まり、紫の毒素が充満しているのが
地上の世界だと聞かされているー。

だが、啓介は”それは嘘だ”と言うのだー。

「ー聞いたんだよー。
 実は外の世界では今でもキラキラした生活をみんな送っていてー
 俺たちは、この地下に閉じ込められているんだってー」

啓介の言葉に、梨絵は困惑の表情を浮かべるー

「ー俺たちがこんな地下世界にいる理由はさー、
 地上の人口が増えすぎて土地の問題や食糧問題が
 表面化したことで、一部の人間を地下に移住させて、
 地上の快適な生活を維持しようとしたことがー
 始まりなんだってさ」

それを聞いた梨絵は「嘘…?そんな話どこから?」と
さらに困惑しながら言うー

「ーへへ…写真もゲットしたし、間違いないぜ」

啓介によれば、半年ほど前に撮影されたという
”地上”の写真ー。

そこには、女子高生たちが楽しそうに”遊園地”を
訪れている様子が映し出されていたー。

梨絵は当然、遊園地というものにも一度も行ったことがないー。
地下に、遊園地は存在しないからだー。

啓介の話に、しばらく衝撃を受けたまま沈黙している梨絵ー。

やがて、啓介はそんな梨絵の様子を見て、
静かに口を開いたー。

「ーなぁ、梨絵ー
 俺と一緒に”地上”に行かないかー?」

「え?」

驚く梨絵ー。
啓介はそんな梨絵に対して言葉を続けるー

「来週ー、半年に1回の”扉のメンテナンス”があるー
 その時がチャンスだー」

啓介は言うー。
半年に1階の出入り口のメンテナンスの時以外は
外に出る方法はない、とー。

その時だけ、合計15人の許可が必要は扉の開閉が行われてー
出ようと思えば外に出ることができるー。

メンテナンス担当の作業員と、”管理長”を麻酔で眠らせー
地下空間内の”電気”を、何らかの方法で遮断するー

そうすればー…
そうすれば、外にー…

「ーーーー」
梨絵は散々迷った挙句ー
「ーもしも、本当に地上の世界が汚染されていない言うならー
 見てみたいー」と、啓介に対して”一緒に行きたい”と、告げたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」
幼馴染の勝重は、梨絵が最近、啓介とよく何か打ち合わせ
していることに不安を感じていたー。

勝重も、啓介のことはよく知っているー
梨絵・勝重・啓介の三人は幼馴染だからだー。

だが、啓介と勝重は性格の不一致から、
昔からあまり仲が良いとは言えない状態だったー

その”不安”は正しいー。
だがー
まさか、梨絵が啓介と共に”地上”に出ようとしているなどとはー
夢にも思わなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌週ー

梨絵と啓介は”それ”を実行に移したー。

啓介が地下の電気を一時的に遮断ー、
梨絵が「ごめんなさい!」と言いながら麻酔で
”扉”のメンテナンスをしていた人たちを眠らせてー
開いている扉から、外へと抜けだすー。

「ーー啓介!」
梨絵が、まだ地下にいる啓介に向かって叫ぶー。

だが、啓介は扉のメンテナンスに立ち会っていた警備員たちを
陽動することに時間を取られていて
「ー俺も必ず行く!先に行け!」と、梨絵に向かって叫んだー。

梨絵は「でも!」と、返事をするものの、
啓介は「は、早く!」と、必死に地下から叫び返すー。

「ー今を逃したら、もう2度と”地上”は見れないぞ!」

その言葉にー、
梨絵は「ーわかった…絶対来てよね!」と、叫び返してー
そのまま地上へと向かうー。

自分たちのいた”地下世界”は、洞窟のような場所の一角にありー、
しばらく先に進むとー、
”光”が見えて来たー

梨絵が、初めて見る”太陽の光”がー。

思わず目を細めるー。

生まれてから初めて見る”太陽の光”にー
ものすごく眩しさを感じながらー
梨絵は、ゆっくり、ゆっくりとその光に慣れていくー。

「ーーーー…ぅ…」

”ずっと地下で暮らしていた人間がいきなり太陽の光を見ると
 目がやられる”

啓介から事前にそう言われていた梨絵は、
時間を掛けて、ゆっくり、ゆっくりと目をならしていくー。

そしてー
洞窟の外はー
ずっと言われているような世界ー

空が赤く染まりー、紫の毒素が充満しているー
そんな世界ではなかったー

透き通った空気にー
青空と太陽ー

そしてー
少し先には、”写真”でしか見たことがない街が広がっていたー

「わ…わぁぁぁぁ…」
梨絵は目をキラキラと輝かせるー。

ここがー
”地上の世界”ー

ずっと”地上”とは地獄のような世界だと教わってきたー

だがー。
大気汚染などされていなかったー。

梨絵は、驚きの表情を浮かべながらも、街の方に向かって歩き出すー。

「ーーーーー」
やがて、少し緊張した様子で街に近付くとー
梨絵は深呼吸しながら、”夢にまで見た地上の世界”に
向かって歩き始めたー。

だがーーーー

「ーーーー!」
街に入っていく梨絵の姿を見た
眼鏡をかけた女が「ーー人間?」と、静かに呟くー

そしてーーー
その女の耳から不気味な”パラサイト”が、顔を出すとー

「ーまだ、”器”になってないー人間ー…」
とー、静かに呟くー

既に”地上”は制圧したはずー。
まだ、”隠れていた人間”がいるのかー?

眼鏡の女はそんなことを考えながら
不気味な笑みを浮かべて、ゆらゆらと梨絵の方に向かって歩き始めたー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

禁断の地上へ…!★
完結まで無料なので、続きもぜひ~!☆(近日中に掲載します~!☆)

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

記事を検索