無名@憑依空間 2024/05/26 17:19

★無料★<寄生>外の世界への憧れ②~現実~(完)

・・・・・・・・・・・・・・・

「なぜこんなことをした!?
 彼女は死ぬぞ!?」

梨絵がいた地下空間ー
”東北Bブロック”では、
梨絵と共に地上への脱走を企てた啓介が
管理長に捕まり、尋問を受けていたー

「ーーーー」
啓介は答えないー。

騒ぎを聞きつけた梨絵の幼馴染・勝重も
駆け付け、啓介に向かって声を上げるー

「啓介!テメェ、なんてことを!」
地上の世界を見に行こうと梨絵に持ち掛けた
啓介に対して、勝重は大声で怒りの声を上げるー。

地下世界は”独裁”が行われているわけではなくー
地上に出ることを除いては”自由”だー。

地上に出ることを厳しく禁じているのは、
”自分たちの身を守るため”には仕方のないことだー。

「ーーー…地上の世界は汚染されているー…
 梨絵ちゃんは、もう助からないぞー」

管理長が、ため息をついて首を横に振るー。

実のところー
管理長ですら、”外の世界”の真実は知らないー。

空は赤く染まり、紫色の毒素が充満した世界が
外に広がっていると思っているー

「ー梨絵をどうやって、外の世界に誘ったんだ?」
勝重が、啓介に対してそう質問すると、
啓介は「外の世界は本当は汚染されていないって言ってやったんだよ」と、
笑みを浮かべるー

「ーー!!」
勝重と管理長、他の地下の住人数名が困惑の表情を浮かべるー

「そ、それは、マジなのか?」
勝重が啓介に言うと、
啓介は突然笑い出したー

「はははははは!嘘に決まってんだろ!
 あいつは馬鹿みたいに俺の話、ホイホイ信じてさぁ…!
 目を輝かせながら外に行っちまった!」

啓介の笑い声に
唖然とする勝重と管理長たちー。

啓介の話は、梨絵に”嘘”をついたー。
啓介も、世界が”大気汚染”されていて、人間は地上では
生活できない、という話を心の底から信じていたが、
梨絵に嘘を吹き込んだのだー。

実際のところー
世界は大気汚染されておらず、別のモノー”寄生虫”に支配されていて、
ある意味では、啓介の”大気汚染なんてされていない”という嘘は
半分本当になってしまっていたものの、
そんなこと、地下で暮らしている人間たちは、
もうほとんど知らないー。

「ーーふざけるな!!!何で!?どうして!?」
勝重が、そう叫ぶと、啓介はにやりと笑ったー

「ーあいつ、お前とばっかり仲良くしてて、
 ムカついたからさー
 汚染されてる地上に行かせてー
 ぶっ殺してやろうと思ってさー」

啓介は、冷たい口調でそう呟いたー

勝重は怒りの形相で啓介を睨みつけると、
走り出そうとしたー

「待ちなさい!」
管理長が叫ぶー

「もう、手遅れだー
 彼女は地上の”猛毒”で今頃変わり果てた姿になっているー

 地上では、人間は生きることはできないー」

管理長のそんな言葉に、勝重は悔しそうに涙を流しー、

そしてー、
啓介は”罪人”として、地下に存在する牢屋に幽閉されたー。

それでもー
啓介は笑みを浮かべていたー

”同じ幼馴染同士なのに、勝重のほうと仲良くしていた梨絵”を、
苦しめてやりたかったー。

その目的を果たした啓介は、
ヘラヘラと牢屋の中で一人、笑い続けたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

だがーーー
地下で暮らす人々の悲しみを他所にー
地上に出た梨絵は”無事”だったー。

そうー
地上は大気汚染などされていないのだー。

街を見つめながら、憧れのまなざしを向ける梨絵ー

「すごい…… わぁぁぁ… すっごい…」
梨絵は、ひたすら街並みを見つめながら微笑むー。

”パラサイト”は地上に残っていた人間全てに寄生、
支配して、人類の文明を丸ごと、自分たち流にアレンジして
乗っ取っていたー

「ーーあら、普段、見ない顔ねー?」
背後から声がして、梨絵はドキッとして振り返るー

生まれてからずっと地下で暮らしてきた梨絵にとって、
”外の人間”と話すのは初めてだったからだー

「ー…(綺麗な人ー…)」
眼鏡をかけた美人女性を見て、少しドキドキしながらも、
梨絵は「あ…はい、え、えっとー」と、
地下で読んだ本を元に「りょ、旅行でー」と、呟くー。

「ふぅんー」
眼鏡をかけた女性はそう呟くとー
「”どこから”来たの?」と、笑みを浮かべるー。

「ーーーあ、え、えっ~と、それはー」
梨絵は、地下世界のことを簡単に話していいのかと、
心の中で考えるー

啓介の話が本当なら、
人類は”食糧問題”などの解消のために、人間の一部を地下に幽閉したー、
というような感じだったー

”地下から出て来た”と言えばよくない展開になるかもしれないー。

そう考えた梨絵は「遠くから」と、答えたー。

「そっかそっかー……」
眼鏡の女はそう呟いて頷くとー
”それにしてもこの、人間のメスー…なかなかエロイなー”と、
小声で呟いたー

「ーーえ?」
梨絵にはその言葉がハッキリ聞き取れずに首を傾げると、
「ーーじゃあ、わたしが街を案内してあげる!」
と、眼鏡の女は笑みを浮かべたー

「あ、は、はい!ありがとうございます!」
”総人口”の少ない地下では”誰もが顔見知り”のような状態だったー

そのため”知らない人”に対する警戒心の育っていない梨絵ー。

梨絵は、近くの施設に案内されると、
奥の部屋に通されて、椅子に座らされたー

「ちょっと、ここで待っててねー」

「はい!」

梨絵は何の疑問も感じずにそう答えるー。

部屋の外に出た眼鏡の女は、ニヤリと笑みを浮かべるとー
”仲間”を招集したー

「ーなんだって?”人間”がいたのかー?」
ツインテールの少女が腕組みしながら言うー

「えぇ。”我々”が支配してない、生の人間が、ねー」
眼鏡をかけた女のその言葉に、
「ー人間は全部、俺たちのものになったはずだろ?」と、
小さな男の子が呟くー。

「ーーー…まだ、隠れている場所がある、ってことか?」
そう呟くメイド服の女は、耳から寄生虫が飛び出して、
寄生虫とメイド服の女が同じタイミングで口をぱくぱくと動かしているー。

「そうみたいー
 だからーーー」

眼鏡をかけた女は笑うー

「わたしが”引っ越し”して、
 あの子を支配してー
 ”どこに隠れてるのか”記憶を読み取ろうと思ってー」

眼鏡の女のその言葉に、
「それはいい」と、小さな男の子が笑みを浮かべたー

「ーーー!!!!!」
そんな会話をーー
梨絵は、部屋の外を覗きながら、聞いてしまったー

「ーー…な、何あれ…?」
集まっている人たちの、耳や鼻ー、口から飛び出す”寄生虫”を見て、
梨絵は直感的に危機感を覚えるー。

そしてーーー
すぐに梨絵は行動を実行に移したー。

部屋から飛び出して、逃げ出そうとする梨絵ー

「あっ!」
眼鏡の女がすぐにそれに気づくー

するとーーー
眼鏡の女の口から、寄生虫が顔を出してーー
大口を開けながら、
この世のものとは思えないような恐ろしい叫び声を発したー

それを合図にするかのように、
町中から、寄生虫を身体から飛び出せた状態の人が飛び出してくるー

「人間ー」
「人間ーっ」
「生の人間ッッ!!!」

ゾンビのように、大量の人間が追いかけて来る中ー、
梨絵はあっけなく捕まってしまい、
強引に取り押さえられたー。

悲鳴を上げる中ー、
無理矢理立たされた梨絵ー

そんな梨絵の方に、眼鏡の女が近づいてくるー

「ーふふふふふー
 あなたのその若くて、初々しい身体ー
 気に入ったわー

 わたしの新しい”宿主”にふさわしいー」

眼鏡の女はそう呟くと、口から寄生虫をじゅるじゅると吐き出しながら
笑みを浮かべるー

「ひっ!?」
思わず悲鳴を上げる梨絵ー。

しかしー
取り押さえられて抵抗できないままー
寄生虫を口から半分ほど吐き出した眼鏡の女に、そのままキスをされてー
女の口から、梨絵の口の中に寄生虫が飛び込んできたー

「ーーっ!?」
ビクンと震える梨絵ー。

身体の中に、寄生虫が入り込んでくるー

「あっ… うっ…」
梨絵を取り押さえていた人たちが、梨絵を離すー

梨絵はその場に倒れ込んで、しばらくもがいていたものの、
やがてー
ゆらりと立ち上がりー、不気味な笑みを浮かべたー

「お引越し大成功~♡」
梨絵はそう呟くと、「さぁ、生の人間はどこに隠れているのかなぁ?」と、
”記憶”を探り始めるー

「ーーぅ… ぁ… ぁ…」
白目を剥いてピクピクと震えだす梨絵ー。

周囲には寄生されている人間たちが、
梨絵の様子をじっと見つめるようにして立っているー。

「ーーーえへ…」
しばらくすると、口から泡のようなものを吐き出しながら
梨絵は笑みを浮かべたー

「ー隠れている場所が分かったよぉ~♡」
梨絵はそう言うと、
梨絵に寄生したパラサイトが元々寄生していた
眼鏡の女が目を覚ましたことに気付くー

「ぅ……… あぁぅ?」

寄生された人間同士から生まれた子供には
最初から”パラサイト”が宿っているー。

この眼鏡の女性は、20代にして今、初めて
”自分の意識”を取り戻したー

だがー
身体は20代でも、中身は生まれたての赤ん坊ー。

訳も分からず、その場で赤ちゃんのように
泣き始めるー。

そんな様子をニヤニヤと見つめる梨絵や、
その仲間たちー。

やがてー
すぐに、その女性も別のパラサイトによって寄生されて、
すぐに支配されてしまったー

建物から出る梨絵ー。

梨絵はニヤニヤしながら口からパラサイトを数十匹吐き出すー。

”人間を支配した”パラサイトは、体内で繁殖し、口から生み出す行為を繰り返しー、
さらに、増えて行くー。

そんなグロテスクな光景の中、
笑みを浮かべながら「さぁ…地下のやつらも仲間にしなくちゃ」と、
ゆらゆらと歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

地下では、牢屋の前で
梨絵の幼馴染・勝重が、
梨絵を罠にはめて外に追い出した啓介と会話をしていたー

「ー俺も一緒に地上に行くって言ったら、あいつ真に受けてさぁ」
啓介が笑うー

「ー赤い空の下で、今頃死んでるんだろうなー へへ」

「お前ー!」
勝重が啓介を睨みつけるー

”パラサイト”の存在を隠すため、
表向き、地上は大気汚染で空が赤く染まり、紫色の毒素が充満していることになっているー

それを信じて疑わない地下の人間たちー。

啓介は、梨絵を騙して、地上に行かせるために”嘘”をついたが、
実際には啓介も、空は赤く染まっていると思い込んでいるー。

その時だったー

”梨絵ちゃんが帰ってきたぞ!”
地下内に放送が響き渡るー。

「え?」

地下の住人たちが騒ぎ出すー。

”扉”の前に設置してあるカメラに梨絵の姿が映ったというのだー。

「ーー梨絵ちゃんか?無事だったのか?」
すぐに管理長が対応するー

”はいー。外はー赤い空なんかじゃありませんでしたー”
梨絵が満面の笑みで言うー。

”扉”のすぐ外は洞窟ー。
死を恐れて誰もその外に出たことはなく、
真実を知るごく一部を除き、空は赤いと思い込んでいるー

”ー外の世界のこと、お話しますー 
 扉、開けてもらえますか?”

梨絵の言葉に、管理長は”分かった”とすぐに頷くー。

ここの地下にいる人間に”地上の本当の状況”を知るものはいないー。
何故、地下への入口に”有事の際の遠隔操作できる武器”がついているのかも
管理長を含め、全員が知らないー

扉を開けて、梨絵を出迎える管理長ー。

しかしー
その直後、梨絵が不気味な笑みを浮かべて
囁いたー

「バカな人間ー」
とー。

口から大量のパラサイトを吐き出す梨絵ー。

悲鳴が上げるー。

「ーーーなんだ?今のー?」
地下の牢屋の前にいた勝重が、少し離れた場所から響いてきた悲鳴に気付くー

地下空間はそれなりに広いー。
まだ離れている場所からの悲鳴ー

「ーーおい…何が起きてる?」
牢屋の中にいる啓介も不安そうに呟くー。

「ーーー…分からないー…ちょっと待ってろ!」

勝重はそう言うと、牢屋のある区画を飛び出して、
階段を駆け上がっていくー

だがー
それ以降、勝重が戻ってくることはなくー
さらに、悲鳴が近づきー
やがて、それは笑い声に変わって行ったー

「ーーお…おいっ!」
啓介が一人叫ぶとー
そこにー
梨絵がやってきたー

「ーあんたがーーー」
梨絵が呟くー

梨絵の姿を見て驚く啓介ー

「ーーーあんたが、この生のメスに外に行くように
 言ってくれたおバカさん?」

梨絵の記憶を読み取りながら
パラサイトが梨絵の身体で呟くー

「ーーーな…っ…なに?」
啓介が震えながら言うと、
梨絵は不気味な笑みを浮かべたー。

「ーーありがとうー
 おかげで、ここにいた生の人間の身体ー
 ぜ~んぶゲットしちゃったー

 最後はーーーー」

梨絵は、悪魔のような笑みを浮かべー
啓介を指さしたー

”地上”で起きていることはー
自分たちが思っていたようなこととは違ったのだと悟ると同時に、
啓介はこの時、死ぬほど後悔したー

だがー
今更後悔しても、もう、遅かったー

梨絵が囁くー

「ー最後は、お前ー」

とー。

この日ー
人間が隠れ住んでいる”地下”の一つが壊滅したー。

生物学的な死者はいないー。

だが、そこで暮らしていた人々の意識は、
もうこの世界には、ないー。

おわり

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コメント

一人の行動が招いた破滅…★
こんな状況だと、一人一人の行動が命取りになりますネ~…!

お読み下さりありがとうございました~~!

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