無名@憑依空間 2024/06/30 16:06

★無料★<憑依>花火の舞う空②~救出~(完)

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花火が舞う中ー、
初デートを楽しんでいる最中だった孝之は、
険しい表情を浮かべながら
彼女の麻友を見つめていたー。

彼女の麻友は笑っているー。

しかしー
その笑みはデートを楽しんでいる笑みではないー。

「ー100万円を用意するまではこの女は預かっておくー」
麻友が自分のことをまるで他人のようにそう言うと、
孝之は「ま、待ってくれ…!」と、困惑した様子で呟くー。

「ーま、麻友のことは今、ここで解放してくれー
か、金は必ず払うからー」

孝之は必死に、嘆願するかのようにそう呟くー。

けれど、花火の光に照らされた麻友は
邪悪な笑みを浮かべたー

「ーそれはできない相談だなー
この女の身体を返せば、お前は金を払わない可能性もあるー」

麻友の冷たい口調に、
孝之は「で、でも…!麻友にだって、毎日いろいろやることがー」と、
”長期間憑依されたまま”になってしまうことの
影響を心配して、そう叫ぶー。

「ーうるせぇよ」
麻友が孝之を睨みつけるー

彼女に”睨まれた”ー
そんな経験は初めてー。

いつもの可愛らしい麻友の顔なのに、
その目つきに、孝之は底知れない恐怖を感じてしまうー。

「ーお前、自分の立場、分かってるのか?
俺がその気になれば、今からこの女の身体で
どこかビルの屋上に行って、笑いながら飛び降りることだって
できるし、交差点のど真ん中でエッチしながら車に
轢かれることだってできるんだぞ?」

その言葉に、
孝之は震えるー。

大学生活も順調でー、
人生初めての彼女も出来てー
将来的には実家の会社を継ぐ予定もある孝之ー

人生は、順調のはずだったー。
なのにー
なのに、こんなことになるなんてー。

いや、自分のことはどうでもいいー。
好きになった人のことを絶対に守りたいー。
麻友のことを絶対に助けたいー。

そのためなら、金はいくらでも用意するー。

孝之は「わ、分かったー」と答えると、
「それで、お金はどう支払えばいい?」と孝之は麻友に確認するー。

花火大会はクライマックスを迎えー、
派手に花火が連射されている中、
麻友は答えたー。

「流石に今、財布に100万円持ち歩いたりはしてねぇだろ?
だから、後日渡してもらおうー」

その言葉に、
孝之は「方法はー?」と、再度確認するー。

「ーククー
”振込”じゃ、信用できねぇだろ?
だから、”手渡し”にしてやるー。

俺たちが金を受け取ったら、この女はその場で解放してやるー
これで、どうだ?」

麻友が腕組みをしながら笑うー。

「ーー…わ、わかったー」
孝之がそう返事をすると、麻友は
「金の用意が出来たらこの女に連絡しろー…
あぁ、まぁースマホは壊しちまったから、連絡先は
こっちから指定するー」と、
孝之のLINEに連絡先を送ることを約束するー

周囲で歓声が上がるー。
麻友が花火のほうを見て、ニヤニヤと笑みを浮かべると、
孝之は「本当に、麻友を開放してくれるんだろうな?」と、
麻友に確認するー。

麻友は花火から孝之の方に視線を戻すと
「あぁ、俺たちの目的はこの女じゃなくて、金だからなー」
と、笑みを浮かべたー。

「ま、金が手に入らないときは
この女の身体で、俺も、俺の仲間も楽しみまくるだけだ」

その言葉に、イヤでも”麻友のそういう姿”が
頭にイメージされてしまい、孝之は首を横に振るー。

「ーーー…金は…数日で用意するー
だからー…だから、その間、麻友には何もしないでくれー」

孝之がそう言うと、
麻友は「へへ…”1週間”は待ってやるー」と、答えるー

「まぁ、トイレとか着替えとか、
そういう生活に必要なことはさせてもらうけどよー
1週間以内に金を払えば、
この女の人生を壊すようなこととか、
エロイことはしないでおいてやるよ」

麻友がそう言い放つと、
孝之は最後の1発として盛大に打ちあがった花火を見つめながらー
”麻友ー…すぐに助けるから、待ってろよー”
とー、決意を心の中で呟いたー。

花火大会が終わり、麻友は、麻友に憑依した男の仲間の方に
立ち去っていくー

ニヤッと振り返る麻友ー。

孝之は悔しそうに表情を歪めながらも、
すぐに家に向かって走り出したー。

一刻も早くー
一刻も早く、金をかき集めるためにー。

正直ー
金を払えば麻友が解放される保証はないー。

だが、本当に解放される可能性もあるー。

”憑依された麻友”は完全に支配されていたー。
あの場で暴れても、自分がフリになるだけだし、
本当に麻友の人生を破壊するようなことを
されてしまう可能性もあったー。

だから、”まずは”金を支払った方がいい、と
孝之は考えていたー

それで麻友が解放されなければ、
その時はやつらに正面から立ち向かう必要があるがー、
まだ、その時ではないー。

最初から対決すれば、
二度と”交渉”には応じないだろうー。

まずは、交渉だー。

孝之は、そう考えて、ひたすらに走ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3日後ー

貯金ー、
私物の売却ー
両親の援助ー。

それにより、100万円をかき集めた孝之は、
麻友から指定された連絡先に連絡を入れて、
夜に河川敷で会う約束をしたー。

そしてー
麻友がやって来るー。

麻友のミニスカート姿を見て、
”憑依されている間に着替えさせられた”ことを
改めて実感し、孝之は怒りを感じるー。

ニヤニヤしながら、麻友は「金」と冷たく言い放つと、
孝之は、100万円の入った封筒を手にしたー。

そして、100万円が本物であることを見せ付けると
麻友が手を伸ばす。

だがー、
孝之は、背後にいる麻友に憑依した男の仲間のほうを見ると、
「金は、あんたに渡すー」と、言い放つー。

麻友に渡せば、そのまま逃げられる可能性を考えたのだー

「ー麻友が正気に戻った瞬間に、俺が封筒から手を離すー。

これで、どうだ?」

孝之は、震えながらそう言うと、
麻友は「ケッ…ちゃんと返すって言ってるだろうが」と、言いながらも
「まぁいい、それで構わない」と答えたー。

孝之が、麻友に憑依した男の仲間に封筒を差し出すー。

孝之がそれを握りしめたままー
麻友の方を見ると、
麻友はニヤッと笑ったあとに、その場に倒れ込んだー

数秒後ー
麻友は寝起きかのように目をこすりながら
起き上がると
「え…???な、なに… ここ…? え???」と、
困惑した様子を見せるー。

孝之は”本当に麻友に戻ったのだろうか”と、
思いながらも、男の背後にある車の中で
あくびをしながら目を覚ました男が、
ニヤニヤとこちらを見ているのに気づくー

祭りの時にもいた、麻友に憑依して倒れていた例の男だー。

「ーた、孝之ー…?」
正気を取り戻した麻友の不安そうな表情ー。

孝之は100万円入りの封筒から手を放し、
男にそれを与えると、
男はすぐに封筒を再確認して
「確かに」と言うと、そのまま立ち去って行ったー。

「麻友…よかったー」
孝之が、麻友に駆け寄ると
麻友は「は…花火は…?」と困惑した様子で孝之のほうを見つめたー。

「ーーそ、それがーーー」
孝之は戸惑いながらも
”隠し通すことはできない”と、
麻友に起きたことを全て語ったー

”自分があいつらに100万円を払った”
と、いう事実だけを伏せてー。

”麻友のために、俺、100万円払ったんだ”みたいな
ことを言うのは嫌だったし、
麻友も絶対に気にするのは、分かっているー。

だから、言わなかったー。

「ーそ…そんな…」
全てを知った麻友は怯えた表情を浮かべるー。

「ー大丈夫…もう、大丈夫だからー」
孝之はなんとか麻友を安心させようと静かに麻友の手を
握りしめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”もう一度、憑依されたくなかったら、10万円を追加で
支払ってもらおうかー”

例の男たちから、そんな連絡が入ったのは
翌月のことだったー。

「ーそ、そんなー……」
孝之は呆然とするー

だが、男たちは言うー。

”約束通り、お前の女は解放したぞ?
こういうことをしないとは言っていない”

とー。

孝之は、仕方がなく10万円を支払うー。

だがー、
その次の月も、次の月も、10万円を要求され、
孝之は麻友に内緒で金を支払い続けたー。

「ーーー……くそっー」

だがー月10万という金額は、フルでバイトをし、
実家の力を借りれば、なんとか支払える金額で
あったことから、孝之は麻友を守るため、
麻友に内緒で金銭を支払い続けたー。

大学を卒業しー、
父親の会社で働き始めると、
要求額は給料に応じて次第に上がって行ったー。

”孝之がギリギリ生活できる”レベルに、
どんどん要求が跳ね上がっていくー。

「ーー…最近、元気ないね?」
遊びに来た麻友が、困惑した表情で孝之に言い放つー。

お互い、社会人になって忙しくなり、
会える回数も減ってしまったー

けれども、二人はまだ、固い絆で結ばれているー。

「ーー大丈夫ー。麻友は気にしないでー」
孝之はそう優しく微笑むと、
麻友は心配そうにしながらも「うんー…」と呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「ーー大丈夫ー。麻友は気にしないでー」」

「ーーーだってさ!!  はははははははははは!」

夜ー
麻友は、ビールを手に仲間の男たちとゲラゲラ笑っていたー。

「しかしまぁ、あいつもー
まさかこの女が”出会った時”から、
ずっと憑依されてる女なんて、知らねぇだろうなぁー」

麻友が笑うー。

麻友はーーー
”孝之と出会う前に”この男たちに既に憑依されていて、
”道具”として利用されていたー。

出会うきっかけになった”傘”の件はー、
当日、麻友が孝之の大学に忍び込んで孝之の傘を持ち帰りー、処分した上で
”偶然、傘を持っていない孝之に傘を渡す女子大生”を演出したー。
”傘を前日に大学に置きっぱなしにしたから2本持っていた”というのも嘘で、
孝之に接触するために2本持っていたー。

花火大会のあの日、孝之が目撃した”倒れている男”は、
ただ、寝てるフリをしていただけで、麻友に憑依した男とは別人だー。
孝之に”本当に麻友が憑依されている”と信じ込ませるために過ぎないー。

麻友は、ずっとずっと、憑依されているー。
孝之と出会う半年前からーずっとー。

孝之のような”金持ちの男”を見つけて親しくなりー、
相手が完全に麻友に馴染んだタイミングで”憑依された”と言い放ち、
金銭を要求ー。
その後、”解放されたフリ”をして、さらに毎月金銭を要求するー

それが、この”犯罪組織”のやり方ー。
麻友以外にも、何人か憑依された女がいて、
それぞれ、複数の金持ちの男と接触、彼女のフリをして
金銭を巻き上げ続けているー。

”麻友が正気に戻った”と思い込んでいる孝之のような金持ちは
当然、毎月、麻友のために金を支払い続けるー

まさか、麻友があの花火大会以前からー、
いや、孝之と出会うそれ以前から憑依されているとは夢にも思わずにー。

花火大会の前も、花火大会の日に憑依されたと言い放った麻友も、
その後正気に戻ったフリを続けている麻友も、
全部”憑依”を悪用して金稼ぎをしている男たちに憑依されている麻友で
あるということを、孝之は知らないー

麻友に憑依した男は、
麻友として1、2回孝之に会い、”彼女として”接するだけでいいー

その他の時間は、好き放題に麻友の身体を堪能し、欲望のままに
遊ぶ日々を送っているー。

しかしー
孝之は気づかないー。
麻友が最初からずっと憑依されていたことに、気づかないー。

麻友が本当に自分のことを好きでいてくれていると信じ続けー
孝之は毎月、麻友を守るために、男たちに金を支払い続けるー。

「ーーーくくくーホント、馬鹿な男だぜ」
ニヤニヤと笑う麻友ー。

麻友の他にも、麻友と同じような女が何人か、ニヤニヤしながら
近況を報告しているー。

「ーーお、噂をすれば馬鹿から電話!」
麻友はそう言いながら、ビールの缶を置くと、アジトの端の方に
歩いていき、声を嘘のようにガラリと変えて
「あ、もしもし~?孝之~?」
と、可愛らしい声で返事をしたー。

「ーうん!うん!え~すご~い!
 うん!そうだね~」

嬉しそうに世間話をする麻友ー。

可愛らしい声を出しながらー
その表情はニヤニヤとしー、
ビールの缶を片手に、麻友とは思えないような
だらしない態度で電話をしているー。

孝之は気づかないー。

”本来の麻友”とは一度も話したことがないことにー。

”憑依された麻友”に金づるにされているだけだということにー。

これからも気づかず、彼はお金を払い続けるー。
麻友を守るため、と思い込みながらー

ずっと、ずっとー。

おわり

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コメント

①で描かれた二人が出会った時のシチュエーションが
やや強引なのは、
彼女が最初から憑依されていて、
悪意を持って接近していたためだったのデス…!

お読み下さりありがとうございました~~!!

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