【時貞SS】2024梅雨
「おまたせ」
肩をたたいて人差し指を立てておいた。
イヤフォンをつけたまま振り向いたいつもの無表情な頬にぷすっと刺さって、わたしは微笑む。
"マックの3階駅側の席にいます"
今日は時貞くんと1ヶ月ぶりのデート。
7月。外は蒸し暑くて、最近はすっかり長くなった梅雨がまだ明けてない。
湿気ですこし毛量が多いようにみえる時貞くんの髪は、いつもより艶めいていてちょっとエッチ。
ぼーっと全面ガラス窓から外を眺める横顔をしばらく堪能してから声をかけたんだった。
「もうすこしいる?」
「いや………行きましょう、あでも」
「ん?」
「出る前に髪……結んでいいですか?」
「うん」
うっとおしそうに前髪をかきあげた後、目を閉じながら両手でガバッと両サイドの髪を後ろに持っていって、右手にしていた黒のヘアゴムで纏める。
「……行きますか」
「時貞くん」
「はい」
「それも好き」
「……」
無言で手を握って前に引っ張られながら、狭い階段を縦に並んでおりていく。
「今日はどこに行くの?」
「ヒミツです」
「わかった」
どこに行くにしても、時貞くんが時貞くんならそれでいいから。
天気がわるくても時貞くんが時貞くんなら全部大丈夫で、寂しくない。
大人になってからも、こんな気持ちでいることを許してくれてありがとう。
そう思って、繋いだ手にぎゅっと力を入れる。
わたしたちの夏ははじまったばかりだね。
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