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からすとうさぎ 2018/09/16 10:29

恋愛なんてやめた方がいいよ/掌編小説

作品概要

2018年の「パンツの日」プロジェクトにて作成した掌編小説です。

タイトルの「恋愛なんてやめた方がいいよ」は、小説家になろうにて1話のみを投稿している小説から来ています。掌編小説ではありますが、ストーリー上では3話の冒頭にあたります。

からすとうさぎ支援部では、本小説のイラストを描いていただいたイラストレーター"kodamashi"さんと画風について色々相談していた際のキャラクターデザインの初期ラフデザインを公開しています。

恋愛なんてやめた方がいいよ/掌編小説

◇イラストタイトル「女子高生は裸族」◇


 ギイィィ、バタン――やたらと壮大な外観を誇示したワンルームマンションの扉が背後で鈍い音を立てながら閉まる。

 「オートロックとはいえ、鍵をかけないなんて不用心だな」――そんなお節介を抱きながら、やや暗がりとなった室内へ目を向ける。その足を一歩踏み出そうとしたところで――小日向弥生(こひなた やよい)は凍り付いた。

 カーテンの隙間から零れた陽光を受け、塵埃がきらきらと舞い落ちていくその先、ソファーの上で片膝を抱えながら寝ている少女がいた。

 整えられた桃色の爪が彩るつま先。足首からくびれを描いて伸びる白いふくらはぎ。締まっていてそれでいて程よく肉のついたふともも。丸みを帯びた女を意識させる腰に、バスケ部を冷やかした時にチラ見したことのある細いウエスト。

 そしてその端整な顔立ちの下には、離れていてもハリと弾力が見て取れる豊かな双丘が、ツンとその頂点を上に向けて実っていた。学園では真っすぐに背へ流されている黒髪が裸体に絡まり、扇情的なアクセントを加えている。目も眩むような瑞々しい輝きを放つ肌色が、そこに顕現していた。

 固い唾を嚥下して、なんとか息を逃す。唇は乾き、指先は震えていた。対峙してまだほんの数秒も経っていないはずなのに何時間にも時間が膨張したようだ。
 ゲームや漫画、空想の世界でしかあり得ないと思っていたような造形美に圧倒され、謝って出ていくどころか、まるで縫いつけられたみたいに足が動かない。
 相手からすれば鼻息荒く無言で凝視してくるただの変態にしか見えないのかもしれない。「しかしだ」と小日向は考える。これは事故であり、自分に非は一切ない(はず)。然(しか)らばここは相手の出方を待つが上策。ゆえに――

「これ、三者面談のプリント。期限水曜までらしいから早めに提出するようにだってさ。上がるのも悪いからココ、置いておくぞ」

 さもここが学園の教室にでもなったかのように、小日向は極めて事務的に用事を済まそうとした。

 しかし、それがこの上ない悪手であったと小日向は思い知る。
 小日向が玄関に入って来ても、億劫そうに視線を投げるだけだったその少女は、何を思ったのかすっくと立ち上がると、小日向の方へ歩み寄って来たのだ。

 立ち上がった拍子に、少女のふとももから白い何かがするりと滑り落ちていく。一糸まとわぬ少女が一歩、また一歩と踏み出す度に柔肌が視界を染め上げた。「やっぱりさっさと帰るべきだった」――焦燥感と同時に、得体の知れない高揚感が体の奥の方で広がっていくのを覚えながら、小日向は少女の名を口の中で反芻した。

 竜胆奈央(りんどうなお)――小日向と同じ学園に通い、同じクラスに所属している。
 どちらかといえば寡黙で、けれど付き合いが悪いわけでもない。涼やかな顔立ちと長い黒髪に密かに憧れる男子も少なくない普通の女子生徒――のはずだった。

「なんだ小日向か。コンタクト外してたから誰かと思った」

 目を細めて訝しげに小日向の顔を見つめていた奈央は、どうでも良さそうにそう零すと顔を下に向ける。
 小日向は手に持ったままだったプリントが何かに引っ張られていることに気付いた。
 見れば奈央が相変わらずの無表情のまま、その手からプリントを抜き取ろうとしていた。

「なんだよ。あたしのなんだろ?」
「あ、ああ……そう、だけど……」
「おかしなやつだな」

 奈央はきょとんと切れ長の瞳を丸くさせ、小首を傾げる。艶やかな髪がさらりと流れ落ちるのを小日向は息をするのも忘れて見つめていた。

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