ポケトレスラー ホミカ VS メイ 時間無制限 一本勝負 ハードコアマッチ
ジムの中には無数のスピーカーが設置され、そこから腹に響くようなベースのリズムが吐き出される。
「D・O・G・A・R・S・・・DOGARS!」「D・O・G・A・R・S・・・DOGARS!」
まだ対戦前にもかかわらず、ジムを満たすギャラリーの歓声と熱気たるや凄まじく、まさにライブ会場のような盛り上がりだった。
ジムの中央、色とりどりのスポットライトに照らされたリングにはリングコスチュームに身を包んだ二人の少女が対峙していた。
一人は、白髪ショートヘアの少女。このジムのリーダー、ホミカ。
髪を頭の上でゴムで縛り、ちょんまげのようにしている。リングコスチュームは紫と浅葱のストライプ柄。黒の厚底ブーツを履き、手にはペンドラーをモチーフにしたベースギターを握っている。
もう一人は、茶髪のロングヘアをお団子ツインテールにしている少女。挑戦者のメイ。
体にフィットしたスポーティなタイプのリングコスチュームの腰の当たりには女の子らしい黄色のフリルがあしらわれている。淡い水色のリングシューズに、ピンクの指ぬきグローブも彼女によく似合っている。
ホミカは、自分の対戦相手の姿を足の先から頭の先まで、まるで値踏みするような目で眺めまわした。
ぴったりとフィットしたリングコスチュームのおかげで、メイの豊かな胸と引き締まったお腹のラインがくっきりと浮かび上がっている。
そして、端正な顔立ち、ぱっちりとした大きな瞳、天真爛漫な表情。きっと幼いころから、周りからちやほやされて生きてきたにちがいないとホミカは思った。
ホミカは心の中に、メイに対する妬みと嘲りの入り混じったドロドロとした感情が湧き上がってくるのを感じた。
ホミカは、心の中でメイを痛めつける算段をつけると心の中でつぶやいた。
いい気になってるのも今のうちだよ。すぐ慰み者にしてやるから。
しかしメイは、ホミカがそんなことを考えているなんて、知る由もない。
まもなくバトル開始のゴングが鳴るということで、メイはホミカに歩み寄った。
「ホミカさん。よろしくお願いします。いいバトルにしましょうね」
メイはそう言って、ホミカににっこりと笑いかけると、握手のために手を差し伸べた。
「・・・」
ホミカは口元を思わず引きつらせながら、メイが差し伸べた手をじっと見た。
メイのいかにもいい子然とした態度が、ホミカをよりムカつかせる結果になったらしい。
バチンという乾いた音がリングに響く。
ホミカがメイの差し伸べた手を手で弾いたのだ。
ホミカは呆気に取られて固まっているメイを尻目に、リングサイドに控えていたセコンドからマイクをひったくった。
「いい子ぶってんじゃねぇぞ!すぐにハードコアマッチの恐ろしさ教えてやっからな!」
ホミカはそういうとマイクをリングに叩き付けた。
そして、メイを指さした後に、親指で自分の首を掻き切るポーズ。おまけとばかりに、舌をべっと出すとメイに向かって中指を立てた。
その瞬間、会場はどっと沸いた。
「ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!」
早速のホミカのパフォーマンスに観客からホミカコールが湧き上がり、瞬く間に会場を埋め尽くす。会場のあちこちから、やっちまえホミカとか、挑戦者をぶっつぶせ!という野次が飛ぶ。
「なんなの?これ?」
今まで経験したことのない完全アウェーな雰囲気に、メイは戸惑い、飲まれてしまっていた。
これこそがホミカの狙い。メイはホミカの術中にはまってしまった。
メイの心はざわつき落ち着かないまま、ゴングの音がリングに響き、バトルの火ぶたが切って落とされた。
このままじゃいけない。バトルに集中しなくちゃ。
メイは自分を奮い立たせるように両手のひらで自分の頬をパンパンと軽くたたくと、ホミカを見据え、ファイティングポーズをとった。
「いくよ!あんたの理性ぶっとばすから!」
ホミカはそう叫んで、ベースギターを振りかぶりメイに向かって来た。
恐がったらダメ。落ち着いてメイ。メイは自分自身に言い聞かせる。
反則無用のハードコアマッチ。凶器攻撃は覚悟の上だ。
恐がって目を離さなければ、来るとわかっている凶器攻撃は「みきる」ことができる。
「これでも食らいな!」
ホミカはベースギターの柄を強く握り直し、まるで野球のバッターがするようにフルスイングした。
今だ!メイは目を見開くとギターの軌跡を捕らえた。
そして、両手でギターのボディをがっちりと掴む。
「やった」
思わずメイの口から安堵の声が漏れる。
後は、ギターをホミカから奪い取れれば、メイはそんなことを考え、顔を上げた。
次の瞬間、メイの目にはホミカの顔の表情がまるでコマ送りのように変化したように映った。
最初は、ギターを受け止められた驚きの表情、しかし、その表情はしてやったりという顔に変化した。そして、ホミカの頬がぷくっと膨らむ。次の瞬間、その口から毒々しい緑の液体がメイめがけて吹きかけられた。
「いやあああああああああ」
メイは目に激痛が走り、悲鳴を上げ、あまりの痛みに思わずうずくまってしまった。
痛みで目がまともに開くことができずに、目の前は真っ暗だ。
メイの耳に「でたー、ホミカの毒霧だ」というギャラリーの歓声が聞こえてくる。
毒霧。ギターを使った凶器攻撃と毒霧の二段構えの反則攻撃。やはり、ジムリーダーの実力は伊達ではない。
「たくっ、いつまでうずくまってんだよ」
メイの背後からホミカのいらだった声がした。そして、次の瞬間、メイの背中に激痛が走る。ホミカがギターのボディでメイの背中を打ち据えたのだ。
「きゃあっ」
メイの目からは涙が溢れ、口からは女の子らしい悲鳴が漏れてしまう。
メイは懸命にホミカの姿を取られようとするが、まだ視界が霞んで、はっきりしない。メイは視覚を奪われ、どこから攻撃されるかわからない恐怖に震えおののいた。
とりあえず、袋叩きにされないようによろよろと立ち上がり、音を頼りに辺りの気配を探ろうとするが、スピーカーから出る爆音と観客の歓声が邪魔して、ホミカの気配が掴めない。
ホミカはメイをあざ笑うかのように、声やベースの音をわざと出して翻弄してくる。
「ほーら、あたしはこっちだよ」
メイがホミカの声に反応して振り向くと、反対側から蹴りを入れられ、ベースで打ち据えられる。
「ほらほら、もっといい声で泣けよ」
ホミカがメイの耳元で挑発してくる。
悔しいがメイにできるのは視力が回復するまで腹や顔面を攻撃されないように、前かがみになり、両腕で前をガードすることだけだ。挑発に乗ってガードを解けば、ホミカの思うつぼだ。
メイは、悲鳴を上げまいと唇を噛み、ぐっと攻撃に耐えた。
「おらおら、どうした?悔しかったら。反撃してみろよ」
ホミカの攻撃は、メイが反撃しないのをいいことに苛烈を極めた。
特にメイの肩はベースで散々打ち据えられて内出血し痛々しい痣になっていた。
一方的になぶられ、劣勢に立たされているメイだが、わずかな希望もあった。
目の痛みが引き、奪われた視覚が徐々にではあるが戻ってきた。
しかし、そんなメイのわずかな希望もホミカの攻撃に打ち砕かれることになる。
「ったく、てめぇが悲鳴を上げなきゃ、ライブが盛り上がんねぇだろうが」
背後からホミカの声が聞こえた次の瞬間、棒状のものでメイは突然、首を絞められた。
「きゃああああああああ」
メイの口から、尾を引いた悲鳴が絞り出される。
「そうそう。それだよ。それ。もっと聞かせてよ!」
ホミカはベースギターのネックの部分をメイの喉に再度押し当てると、自分の体を反らして、メイの体を引き絞った。
メイはたまらず、また尾を引いた悲鳴を上げる。メイは必死に喉に食い込んだギターのネックを腕で外そうともがくが、ホミカに体を揺すぶられてうまくいかない。
しばらくして、悲鳴は枯れ、腕はだらりと下がり、メイは力なく膝をついてしまった。
目の焦点が合わず、完全に酸欠状態だ。
「もう、おねんねかよ?」
ホミカは握っていたベースギターをリングの上に置くと右手でメイの髪の毛を乱暴につかんで無理やり立ち上がらせた。
酸欠状態のメイにはなすすべがない。
「まだ、おねんねの時間には早いんだよ!」
そう言って、ホミカはメイを引きずるように連れまわし、体を背中からコーナーに叩き付けた。
「かひゅっ・・・」
メイは苦し気に顔を一度歪め、リングに尻餅をついて、動けない状態だ。
「いくぞ!みんな!Hey!Hey!Hey!Hey!」
ホミカはメイの腕をリングの一番下のロープにひっかけて固定すると、手拍子で観客を煽った。
会場はホミカに合わせて「Hey!Hey!」という掛け声で包まれた。
ホミカはゆっくりとした足取りで未だに立ち上がれずコーナーにへたり込んだメイに近づく。
メイの上にスポットライトを背にしたホミカが影を落とす。
メイは怯えた表情で自分を見下ろすホミカの顔を上目遣いで見上げた。
ホミカは悦に入った表情で言った。
「そうそう。その怯えた表情最高だよ。だけど、もっと綺麗にしてやるよ」
ホミカはいくぞっという掛け声で、観客を煽ると足を振り上げた。
メイの顔にホミカのブーツの靴底が迫ってくる。
「いやっ・・・うぶっ!」
メイの端正な顔をホミカのブーツの靴底が蹂躙し、悲鳴すら押しつぶす。
フェイスウォッシュ。
ホミカは会場の手拍子に合わせて、一発、二発、三発、四発とメイの顔を自分のブーツの靴底で擦りあげる。
まるで身の程知らずな挑戦者の体に、格の差と屈辱感を刷り込むように、情け容赦がない。
四発目のフェイスウォッシュを放つとホミカは唐突に、逆サイドのコーナーに走り出した。
ホミカはいくぞっという掛け声とともに腕を突き上げて観客を煽るとメイに向かって突進した。
「いやっ、やだ・・・」
何をされるか察したメイは、怯えた表情で突進してくるホミカを見つめる。
メイの目の前でホミカは脚を振り上げ、力いっぱいメイの顔を踏み抜いた。
「きゃあああああああ」
メイの悲鳴が響く。メイの上半身はサードロープとセカンドロープの間で、ぐったりとしている。その様子はまるで衝撃実験のダミー人形のようだった。
そんな中、会場から残酷なコールが上がる。
「もう一回!もう一回!」
ホミカは手を振り上げて、会場を盛り上げる。
小さかったもう一回コールは次第に大きくなり、会場を飲み込んだ。
会場の盛り上がりが最高潮に達したとき、ホミカはもう一度逆サイドのコーナーに走り、メイにとどめをするべく突進をしかける。
「あうぅ……」
メイはなすすべなくホミカのフェイスウォッシュの餌食になる。
「ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!ホ・ミ・カ!」
会場はホミカコールで埋め尽くされる。ホミカがリング中央で腕を振り上げると会場からどっと歓声が上がった。
ホミカは称賛と尊敬の念が自分に一心に注がれているのを感じ優越感を抱いた。
しかし、異変が起きた。会場の観客たちの歓声がやみ、急にざわめきに代わった。
思わず、ホミカは眉をひそめた。
次の瞬間、ホミカは背後に殺気を感じて、振り返った。
するとそこには、傷つきながらもファイティングポーズを取ったメイの姿があった。
フェイスウォッシュで額から血が流れ、リボンが千切れて、髪が乱れた痛々しい姿だが、メイの瞳から闘志は消えていなかった。
ホミカはメイの姿を見て、呆れたように大げさに肩をすくめて見せた。
「ふーん。あれ食らって、まだ立ち上がれるんだ」
「私は、まだやれる・・・」
メイははぁはぁと、荒い息遣いで言った。
「立ち上がらなければ、楽になれたのにさ」
ホミカはメイを憐れむように口調だ。
「叩きのめされて・・・何もできないまま・・・終わるなんて、そんなの嫌!」
メイは瞳に大粒の涙を溜めて叫ぶように言った。
ホミカはそれを聞いて、あっそと小馬鹿にしたように笑った。
「あんた、大した『不屈の心』と『精神力』だよ。それともあんた、もしかしてマゾ?」
ホミカの残酷な冗談に、会場からクスクスという冷たい笑いが起こる。
「まぁいいや、お望みなら、徹底的にかわいがってやるから」
そう言うとホミカは腰を落として、メイに突進した。
「うぐっ!」
ホミカの肩がメイの下腹部に突き刺さり、メイの口から胃の中の空気が一気に吐き出される。強烈なスピアータックルでメイはホミカに押し倒された。
したたかに背中を打ち付けたメイは悶え苦しむ。
「まだ終わりじゃねぇぞ」
ホミカは素早く立ち上がると仰向けに倒れているメイの両脚を掴んだ。
そして、両脚の間に自分の右脚を差し込むと、メイの両脚をクロスさせて、一気にひっくり返した。
その瞬間、メイはカッと目を見開き、悲鳴を上げて、リングを掻き毟った。
「痛い!痛い!痛い!痛い!放して!」
「どうだい?サソリの毒は効くだろ?」
ホミカはサソリ固めを完成させるとメイの苦し気な様子を見下ろして満足げに言った。
ホミカはより一層、腰をどっしりと落とした。すると、脚と腰は軋み、痛々しい悲鳴を上げる。
これ以上続ければ、メイからギブアップを絞り出すのは容易いがホミカはわざとサソリ固めを時、次の技に移行する。
激痛で糸の切れたマリオネットのようになったメイを無理やり立ち上がらせると、背後から絡みつき、コブラツイストを完成させる。
「きゃあああああ、やめて!放して!」
メイがいくら暴れても、大蛇のように巻き付いたホミカの腕と太ももを外すことができない。
「おらっ!おらっ!痛ぇか?痛ぇか?」
ホミカが腕を引き絞るとメイの豊かな胸に調度腕があたって、胸がより強調されてしまう。
締め上げられているメイはそれどころではないが、観客はその様子を見て、思わず生唾を飲んで見つめている。
たくっ、いい体してやがるとホミカは心の中で悪態をついた。
コブラツイストでしばらくメイを痛めつけるとホミカは技を解き、リングにメイを放り出した。
メイははぁはぁと喘ぎながら、リングにへたり込む。
息一つ上がっていないホミカとは対照的だ。
「あーあ、さすがにもうあんたの相手、飽きたわ」
ホミカはコーナーにもたれかかるとメイを見下して言った。
「まだ・・・まだ・・・勝負はこれから・・・」
メイはよろよろと立ち上がり、まだホミカに向かって来ようとする。
ホミカはメイのその様子を見て、舌打ちをした。
「うぜぇんだよ。そろそろ壊れろよ」
そう言うとホミカはリングに置いておいたベースギターを拾い上げた。
ギターで殴りつけ、倒れたところを締め上げて無様に失神させる算段だ。
二度とジム戦に立てなくしてやる。
ホミカはギターを振りかぶるとメイの側頭部めがけてフルスイングした。
しかし、ホミカのフルスイングしたギターは空を切り、空振りした。
メイは咄嗟にしゃがんで、ギターのフルスイングを回避したのだ。
ホミカは予想外展開に困惑した。
そして、ホミカの予想していなかった展開は続く。
ギターが空振りして隙だらけになった自分の顎に下から強烈な一撃が叩き込まれた。
ホミカはあまりの衝撃に目から火花が飛び、脳がぐらぐら揺れるのを感じながらへたり込んでしまった。
しゃがんだメイがサマーソルトキックを鮮やかに放ち、ホミカの顎を打ち抜いたのだ。
メイの鮮やかなサマーソルトキックには、ホミカを贔屓していた観客たちも思わず感嘆のため息を漏らした。
「ううっ、生意気なまねを」
ホミカはまだグラグラする頭を手で押さえながら、立ち上がろうとした。
その矢先、メイが助走をつけ、ホミカに突進。ホミカが立ち上がろうとして立てた膝を足場にして、メイはホミカの顎にまたもキックをお見舞いするシャイニングウィザード。
「せいやっ!」
「はうっ……」
ホミカは強かに後頭部をリングに打ち付けてダウン。観客はサマーソルトキックに続き、鮮やかに決まったシャイニングウィザードに称賛の歓声を上げた。
メイは今まで完全にアウェーだった会場の雰囲気が自分の方に傾きつつある確かな手ごたえを感じた。
メイはダウンしたホミカの脚を掴んでコーナーの近くまで引きずっていくと、自身はコーナーのトップによじ登った。
観客の注目がコーナーに上ったメイに集まる。
「みんな、いくよ!メイ!メイ!メイ!メイ!」
メイはホミカのマネをして、観客を煽った。観客の半分くらいはメイを応援してくれた。
メイはコーナーのトップから跳躍し、まるで体操の選手のように空中で美しく体を回転して、ホミカを押しつぶした。
ムーンサルトプレスが炸裂し、メイに押しつぶされたホミカは体を一度びくりと震わせて脱力した。
メイはすかさず自分の下敷きになっているホミカの肩を押さえてフォール宣言。
メイのフォールという掛け声と共に、会場から、ワン、ツーという声が響く。
あと少しでスリーカウントというところで、ホミカは目をカッと見開き、メイが押さえていた自分の肩を上げて、のしかかってきたメイの体を跳ねのけた。
ホミカの目はメイに対する憎しみで、メラメラと燃えていた。
「さっきまで、あたしの技一方的に食らって、アンアン喘ぐしかできなかったくせに、調子に乗りやがって!」
ホミカはそう吠えると拳を固めてメイに向かって来た。
「今度こそ、ぶっ壊してやる!」
ホミカの左フックがメイの頬に炸裂する。
「あうっ!」
メイの汗がリングに飛び散る。
しかし、メイも負けてはいない。殴られた瞬間、ホミカを見据え、拳をぎゅっと固めると右手を引き絞り、腰を落として正拳突きを放った。
「かはっ!」
ホミカはメイに突然懐まで間合いを詰められて、腹に正拳突きを叩き込まれた。
メイの正拳がホミカの腹に突き立てられ、ホミカの胃袋から空気を絞り出す。
ホミカは空気を求めるように口をパクパク動かし、痛みで目を白黒させてしまう。
動きの止まったホミカに対してメイは攻撃の手を緩めない。
「せいっ!やぁっ!とうっ!」
「ぐっ……あうっ……はぅっ……」
ホミカの腹や胸にメイのパンチやキックが次々に叩き込まれる。
ホミカの口からは女の子らしい喘ぎ声が漏れてしまう。
「くそっ、調子に乗るな!」
ホミカはケンカキックを放つ、メイの無防備になった腹をブーツの靴底が踏み抜いた。
「あぐっ!」
メイは苦悶の表情を浮かべ、動きが一瞬止まる。
「効いた!効いた!ざまぁ……」
満足そうにざまぁみろと言おうとしたホミカの一瞬飛びそうになる。
「なにっ?!」
ホミカは驚きと困惑の入り混じった声を漏らす。
ワンテンポ遅れて、ホミカは自分の側頭部にメイのハイキックが炸裂したことに気付く。
メイは腹を蹴られたダメージにひるむことなくホミカに攻撃を仕掛けてくる。
防御を捨てたダメージ覚悟のスタイル『インファイト』
「まじかよっ、うあっ!」
よろめいたホミカをメイのインファイトが追い詰めていく。
「くそっ!このっ!あたしから離れろ!」
ホミカもキックやパンチで応戦するが、殴られても蹴られても向かってくるメイの気迫に圧されて、じりじりと後退を余儀なくされる。
そして、ホミカが気付いた時には、メイにコーナーに追い詰められていた。
「しまったっ!」
逃げ場を失ったホミカ。メイの右腕がホミカの喉に伸びてきて、喉輪をかける。
「ひぐっ」
息苦しさと恐怖でホミカの口から小さな悲鳴が漏れる。
「捕まえた。もう逃がさない」
額から血を流したメイがホミカをギロりと睨み付ける。
メイはホミカに見せつけるように空いている左の拳をたっぷり引き絞る。
「やだっ、やめろっ」
ホミカは怯え、メイの拳から逃げようとするが喉輪をかけられて逃げることができない。
「はぁぁぁぁ、せいっ!」
メイの掛け声と共にホミカの鳩尾に拳が突き立てられる。
あまりの衝撃にホミカの呼吸が一瞬止まる。
「………っ」
しかも、ホミカはコーナーにサンドイッチされ、衝撃の逃げ場がない。
鳩尾を押さえてのたうち回りたいほどの激痛に苛まれるホミカだが、メイがそれを許してはくれない。
情け容赦ない鬼の攻めが続く。
メイは間髪入れずに、へたり込もうとするホミカの胸を踏みつけてコーナーに串刺しにする。
「うあっ!」
ホミカの胸が押しつぶされて、強○的に肺の空気を吐き出される。
ホミカの目には痛みで涙が溢れ、衝撃で口から唾液が飛び散る。
コーナーに串刺しにされた後、たまらずホミカはずるりと腰を下ろしてへたりこんだ。
「ねぇ、誰が休んでいいって言ったの?」
青息吐息のホミカにメイが影を落とす。
「ひぃっ!」
怯えるホミカの無防備な腹にメイはストンピング。
「ぎゃあっ……いやっ……痛いっ……」
ホミカはメイに腹を踏み抜かれて、情けない悲鳴を上げる。
「へばってないで、早く立ってよ!」
そう言うとメイはホミカの髪の毛を乱暴に掴んで無理やり立ち上がらせた。
メイに髪を掴まれた拍子に、ホミカの髪留めが千切れてしまう。
散々痛めつけられて抵抗できないホミカは、メイにリング中央まで連れてこられ、投げ捨てられる。
リングに大の字にダウンしたホミカ。そんなホミカの背後からリングに置いてあったギターを拾って来たメイが組み付く。
「おかえしっ!自分のギターで堕ちちゃいなよ!」
「ぎゃあああああああああ」
ホミカが断末魔の悲鳴を上げる。
メイがホミカのギターのネックで首をグイグイと締め上げてくる。
ホミカは体をびくんと痙攣させ、悶えた。
必死に腕でギターを首から剥がそうとするが、首の後ろにはメイの胸、首の前はギターのネックが密着して、腕を差し込む隙間がなく、うまく引き剥がせない。
メイは胸とギターのネックをギュウギュウ押し付けて、ホミカの気道を圧迫してくる。
「くそっ!は、はなせっ!はなせっ!」
ホミカはM字開脚のように開かれた太ももをばたつかせて、必死に抵抗する。しかし、もがけばもがくほど、酸素を消耗して、ホミカの白い肌は赤く上気していく。
「絶対に放してあげないから」
メイはぴしゃりと言い放つとギターを引き絞る。
「こ、こんなはずじゃっ……きゃあああああああ!」
その度に、ホミカの悲痛な叫びが上がる。
やがて、限界に近付いてきたのかホ、ミカの抵抗は弱くなってきた。
ばたつかせていた太ももは小刻みに痙攣しはじめ、目は虚ろで、涙が浮かんでいる。口は歯を食いしばって抵抗の意思を見せてはいるものの端からは唾液が垂れていた。
勝気な普段のホミカからは想像できない姿だ。
「はぁ……、はぁ……、はなして……く、くるしい……」
ホミカの口から泣き言ともとれる言葉が漏れる。
もう失神寸前だ。
そんな時、メイは突然ギターをホミカの喉から外して、立ち上がった。
ホミカは支えを失ってリングに倒れ、酸素をむさぼる。
「みんな、行くよ!」
そう言って、メイは軽やかにコーナーのトップに駆け上がった。
「これで、決めるよ!」
メイはそう言うと拳を突き上げて観客を煽る。
「メイ!メイ!メイ!メイ!メイ!メイ!メイ!メイ!」
メイのフィニッシュ宣言に、観客の期待が高まり、会場はメイコールで包まれる。
観客の声援は、コーナートップのメイの心を奮い立たせ、リングにダウンして半失神状態のホミカには絶望を与える。
観客の声援が最高潮に達したとき、メイはリングにダイブした。
鮮やかなムーンサルトプレス。ダウンして、動けないホミカの体をメイが押しつぶす。
「ぎゃあっ!」
ホミカは舌を突き出して、踏みつぶされたヒキガエルのような声を上げた。
メイはそのままホミカの体に覆いかぶさり、フォール。ホミカに、メイのフォールを返す力は残されておらず。勝負は決した。
「理性とんじゃったね」
メイは覆いかぶさったホミカの耳元ではなむけの言葉として、囁いた。