短編小説(後日談以外)
あまりにも遅筆な短編小説の続きです。
なんとかエロシーンまで終わりました。
あと、推敲と後日談的な話が残ってますが、
ほぼ自己満足用の内容なので、ここでこっそりちょい見せを
————本編————
「——よって、今こそ愚かな人間供に我々の力を示すべきである」
演説も終盤、会場からわっという歓声が上がる。
青肌の少女はすかさずバルコニーから身を乗り出し、群衆をさらに煽った。
「立ち上がれ!同胞達よ!魔族の誇りを取り戻せ!」
天に極大魔法を放ち、漆黒の雷雲が空を埋め尽くす。
天候すらも操る人智を超えた大魔術に会場中の視線と心が釘付けにされた。
「この魔王リリス・イキュリス・アルテンシアが暗黒の時代の再来を約束しよう!」
「ウオォォォォォォォッッッ!!!」
思い描いた通りの熱狂で魔王城が揺れたのを確認し、リリスはバルコニーの奥へと姿を消した。
「お疲れ様です。魔王様」
城内に戻ったリリスを竜族のメイドが出迎える。
「——この後の予定は?」
「昨年の勇者との戦闘よる被災地の慰問。奈落谷の魔工房の視察を行なって頂き、6つばかりの会合へ御出席。その後、死神伯爵とのお食事会です」
「そう......。出発まで時間があるでしょう? 溜まってる書類を片付ける。部屋に用意させて。全部」
「既にご用意しております」
「相変わらず気が効くわね。ギルドラ」
「いえ......」
ギルドラと呼ばれた竜メイドは謙遜しながら、主人の3歩後ろをぴったりと付き従う。
式典用の装束をギルドラに預けながら廊下を進む。まもなくある一室の前にたどり着いた。精鋭のガーゴイル兵に、簡単な労いの言葉をかけ"執務室"と書かれた扉を開く。
「ふぅ......」
部屋の最奥、魔界の全権を担う者のみが腰掛けるのを許される椅子に背中を預け、堪えていた一息をようやく吐き出す。
そのまま休む間もなく、書類の束で埋め尽くされた机を見て『今日は控えめだな』と、心の中でぽつりと溢した。
「暗夜の草原で摘まれたハーブです。魔力の回復に効果が」
「頂くわ」
ハーブティーを一口含んでから手近の書類を手に取る。
——人界に潜伏した密偵からの報告書、革新的と謳う魔導研究の予算承認願い、各地の民からの嘆願書。その他諸々魔界運営に関する書類群たち。
一通り目を通した後、ペンを取り、一枚一枚処理をしていく。
ちょうど50回目の署名を終えた時だった。ふと、軽快に走っていた手が止まる。
「......悪いけど、もう一つカップを用意して頂戴。あぁ、コカトリスの血を一滴垂らしたものを」
「はい?」
「——"お客様"よ。もう、そこまで来てる」
こめかみから伸びるツノをトントンと叩いて、リリスは言う。
その仕草と呆れ混じりのはにかみ顔で察しがついたのだろう。ギルドラは「かしこまりました」と返事をと、命じられたまま茶器の用意を始めた。
そのすぐ後だった。——ドンッ!城内の何処かで炸裂音が轟いた。
おそらくは侵入者用のトラップが連鎖起動したのだろう。先の演説の熱狂より大きく魔王城が揺れる。徐々に近づいてくる爆音の先頭、高速で駆け抜ける魔力反応をリリスは感知していた。
特上のトラップを嘲笑うかのような軽いステップ音。大迷宮と名高い魔王城を慣れ親しんだ公園のように駆け抜ける。
まもなく、爆音は止み、扉の奥で着地音が鳴った。
「——ヤッホ〜! リリィ〜! さっきの演説見てたよ〜。すっかり人気者だねぇ〜」
バンッ!とけたたましいノックと共に扉を叩いたのは、
白肌金髪の少女だった。
髪の先端が黒がかったダークな金髪。
不吉な月を連想させる緋色の如き眼。
ニヒルな笑みから、チラリと覗かせる2本の鋭い牙。
いわゆるゴシック・ロリータと呼ばれるフリル付きの黒いドレスに身を包む少女。
少女の名は——リーゼンシフォン・ヴァンシュタイン。始祖の血を継ぐ吸血姫にして、アンデット族を束ねる族長である。
「おっ。仕事中? 流っ石は魔王様っ。一息つく暇もなさそうだねぇ」
「ヴァンシュタイン卿。魔王様の御前ですよ。もう少し相応しい振る舞いを——」
「良い。今は我らの他に誰もいない」
「そーそー。メイド長はお堅いんだから。私達がどういう関係か知ってる癖に。それはもうお互いのホクロの数まで知り尽くした愛しの——」
「ただの昔馴染みだ。はぁ......適当に座って」
「はいはーい」
促されるよりも早く、リーゼンシフォンはソファにダイブする。
リリスはため息を吐きつつ、客人をもてなすようギルドラに目配せした。
「どうぞ」
「わー!サンキュ!ウチからぶっ続けで走って来たから喉カラカラなんだよね〜」
出された血染めのハーブティーを一口で呑み干す。
本当に幸せそうなその満面の笑みをチラリと見て、止まったペンを再び走らせた。
「それにしても、リリィが魔王になってもうすぐ一年かぁ。ねぇねぇ、魔界の支配者ってどんな気分?」
「そんなの考える暇もない。それに......正確にはまだ代理よ」
「でも、もう実質そうみたいなもんじゃん。誰もリリィのやることにケチつけてないよ」
「仕事にはね。だからこそ、余計複雑に思われてる。やっぱり、|刻印《しるし》なしの魔王には抵抗があるのよ」
歴代の魔王には、その身に王の証たる刻印が刻まれている。
今より、魔界の階級制度に個人の武力が重視されていた時代、絶対的強者の証として、初代魔王が己に刻み込んだ刻印。それを始まりとして、次代の王へと継承されてきた紋章。
何十という革命を経ても受け継がれて来たその証は、不変のシンボルの如く、魔王=刻印のイメージを魔界の民の海馬に根強く定着させていた。
——リリスには刻印がない。
元々、次期魔王最有力候補であった彼女は現魔王である父から継承するはずだったが、昨年の勇者との決戦の直後、魔王は刻印と共に行方を絡ました。
今、リリスが玉座につけているのは魔王の不在による混乱を避ける為という側面が大きい。
僅か一年間という短いスパンで見ても既に十分な実績を残しているリリスだが、数千年という歴史は根強く、未だ真の王と認めないという声は一定数あった。
「今日の演説に集まったのも半分近くが代行就任以前からの支持者達。同じ魔王と言っても実質的な権限はお父様の半分もない。ハリボテの王様もいいとこよ」
「ふーん。そんなに大事なモノだったんだアレ。ただのタトューにしか見えなかったけどなぁ。
あれ? じゃあさじゃあさ、ちゃんとした魔王様ってどうやって決めるの? 流石にずっと代理って訳にも......いや、なにその顔?」
「......それでも魔王軍の幹部?って呆れただけ。はぁ......ギルドラ」
「畏まりました」
流石に一から説明する気はない。その役はギルドラに任せ、仕事に戻る。
「ヴァンシュタイン卿。|魔王の資格《刻印》を引き継ぐ方法は2つです。
①現魔王様から任命され、刻印を継承すること。
②現魔王様を殺害し、刻印を奪うこと。
ただし、これらは刻印の所在が明らかな場合のみ有効です。今回、魔王様が不在という異例中の異例のため、数千年ぶりに特例条件が適応されます」
「特例?」
「何らかの事象により刻印の所在が不明となった場合、緋色の月が輝く夜、新たな王に刻印を継承する。
そして、今から42日後が緋色の月の日です」
「......えっ?じゃあ!?」
リーゼンシフォンはソファからガバッと起き上がり、リリスの方に振り向く。
「——その日が来れば、私は晴れて正統な魔王ってこと。
当日は魔王軍幹部全員が立ち合いの元、継承の儀を実施する」
「リーゼンシフォン卿にも招集の書状を送った筈ですが.....」
「あ、そうだっけ......。ま、それはそれとして——やったじゃん!リリィ!」
「何も良くないわよ。古臭い慣例のせいで1年も就任が遅れた。人界に同じ分の遅れをとったようなものよ。こうしてる間にも次の勇者が生まれてるかも知れないのに」
「でもでも、夢だったんでしょ!昔から言ってたじゃん。おじ様みたいな魔王様になりたいって!」
「それは......そうだけど」
「ねっ!今はあんまり良い状況じゃないかもしれないけど......。リリィがちゃんと魔王様になったら、きっとすぐ良くなるよ!」
目をキラキラと輝かせて、リーゼンシフォンは言う。
曇りない真紅の宝石2つに、黒で染まった自分の眼がよく写った。
子供の頃から変わらない。まるで自分のことのように喜び、はしゃぐ少女の笑みに、陰気に考える自分が少し馬鹿らしく思えた。
(......よく言えば純粋、悪く言えば成長がないというか。フフッ)
「ん?どうしたの?」
「何でもない。......そう、ね。少なくともお父様よりはマシな魔界にする自信はあるわ。仮初の王様なんて称号はもうおしまい。魔界をまとめられるのは私だけよ」
「うんっ!頑張れ!リリィ。幼馴染として応援してるよ!」
「......正式に就任したら、貴女にはもっともっと働いて貰うつもりだから。今後は気軽に仕事を放り出して、お茶会しに来れるとは思わないで」
「やっぱり、もうしばらく代理でもいいんじゃないですか?」
リーゼンシフォンの誤魔化し笑いを無視して、リリスはカップに口を付ける。僅かに上がった口角をカップの裏に隠しながら。
そうだ。この混沌怪怪とした魔界を担える者は他にいない。自分の、友の、民の夢と期待に応える王になる。
決意を新たに、再び、ペンを走らせた。
——そして、その時は来た。
魔王城地下第44階層の特級儀式場、視認できるほどの特濃の瘴気が立ち込めるフロアに彼らは集結していた。
大魔獣ゾマイラ
暴虐王ドリス
腐海の魔女ゾルマ
死神騎士オムザ
呪眼のサーペンス
吸血姫リーゼンシフォン
——魔王軍最高戦力第一から第六幹部。それぞれが各種族の頂点に君臨する怪物達。
人界基準での一国と同等に近い戦闘力を有する彼らも、この後行われる事象には特別な感情を抱いてるのだろう。それぞれ、沈黙しながらも零れる魔力は濃く。瘴気と混ざって、精鋭の兵士如きでは立っていられないほどの圧がフロアには充満していた。
「——遅れてすまない」
そんな空間に易々と脚を踏み入れる影が2つ。
第七幹部、殲滅竜ギルドラ
魔王軍最高指導者代行、悪魔姫リリス。
彼女達の到着に幹部達は揃って片膝を付き、|首《こうべ》を下げる。
「よい、楽にしろ」
中央の祭壇にリリスは立ち、幹部達を見下ろす。
「各々多忙にも関わらず、出席してくれたこと感謝する。
皆も周知の通り、我が父......現魔王ディアブロが消息を絶って一年が経った。混乱を避ける為、父に変わって私が代行として魔界を統治をしてきたが......未だ父の消息は不明だ。いつまでも正統な魔王が不在のままでは民に示しがつかん。
よって、私は仮初の王の座を辞退し、正統な魔王の資格を継承することをここに宣言する。——異論ある者は?」
返ってきた答えは沈黙だった。
「では、これより継承の儀を始める」
タンッ!床の魔法陣を踏み、継承術式を起動させる。
「魔王様」
ギルドラから儀礼用の短剣を受け取り、淡い光を放つ魔法陣の中心に立った。
「大魔界に眠る邪な神々よ。我、リリス・イキュリス・アルテンシアは、第131魔王の座を継承することを宣言する。我が身に刻印を授けよ!」
術詞を詠唱すると共に、手の平に短剣の先を沈め、魔王陣に鮮血を垂らす。ブォンという音の後、陣から溢れる光量が増した。
リリスの身に王たる器があると認められ、術式が本運転を始めた合図だった。後は処理を終わるまで待てば自動で刻印が継承される。
(これで......私は、魔王に......)
人前というのについつい安堵の息が零れる。思えば......これまで長かった。
本当に大変なのはこれからだと分かってはいながらも、今だけはこの待ち時間を束の間の休息と考え、自分を許した。
やがて、光が明滅し、儀式の終わりの合図を知らせる。最後に一際大きく光を放ち、リリスの身に刻印が——
バチィィッ!
「なっ!?」
が、違った。直後、身に感じたのは爆ぜる魔力の音と衝撃だった。
継承術式がリリスを拒むかのように魔法陣の外へと追い出す。
(弾かれた!?どうして!?条件は全部......!)
咄嗟で羽根を広げ、爆風の衝撃に抗う。幸いにも爆発自体は対した威力ではなかった魔力障壁なしでも殆どダメージはない。
そんなことよりも、たった今起きた事象の分析に頭のリソースを使う。
考えうる一番の可能性は、継承の条件を満たしてないこと。だが、それは再三確認して問題がないのを......。
「あ、すいませーん。ちょっと良いですか〜?」
珍しく動揺するリリス。そんな彼女とは反対に能天気な声でリーゼンシフォンは挙手する。
「っ!後にしてっ!きっと古い術式の誤作動よ......再構築してもう一度——」
「魔王様を殺したの私です」
「............は?」
術式の解析を始めようとした手を止め、リリスはリーゼンシフォンの方に振り返る。
今、なんと言った? 殺した? 父を?
聞き間違えかと自分の耳を疑う。だが、今はっきりと......。
固まるリリスに、リーゼンシフォンはこれが真実とばかりに胸元をはだけさせた。
雪のような白い肌の上、父の身に刻まれていたのと同じ印がそこにあった。
「ずっと黙っててごめんなさぁい。なかなか言い出すタイミングがなくてぇ......。でも、こうして幹部が揃った今、ちょうど良いと思いましてぇ。
というわけで皆さん。突然で申し訳ないですけど、私が新魔王ということでよろしくお願いします。
——それじゃ、早速ですが最初の命令です。そこの魔王を騙る不届き者を拘束して下さい」
リーゼンシフォンが命じたと同時だった。それまで沈黙していた幹部達が一斉に敵意を向けてくる。
「ッ!?」
咄嗟にリリスは距離を取り、魔力を解放して応戦体勢を取る。
「無駄だよ。リリィ。この場にいるのは魔界の最高戦力達。
私や君を含めて、一人一人の戦闘力はほぼ互角。一人でこの数を相手取るのはどうやったって無理さ」
「くっ......!」
「——それにこっちには最強の竜族だっているんだよ」
宣告の直後だった。地面から火柱が上がり、リリスの逃げ場を塞ぐ。
そして、立ち上がる火柱の一つから全幅の信頼を寄せる配下が姿を現した。
「ギルドラっ!?」
「......申し訳ございません。リリス様。魔王様のご命令です」
本当に申し訳なさそうにギルドラは言う。だが、その言葉とは反対に火柱は火力の上昇を続けながら移動し、リリスの背後を包囲した。
「——よそ見はダメだよ」
「ガッ!?」
裏切りにつく裏切り、動揺するリリスにリーゼンシフォンは甘くなかった。
まるで熟練の武道家のように、たったの一瞬で距離を詰め、混乱するリリスの腹に容赦のないボディブローを放つ。
全くの意識外からの攻撃、元々近接戦闘が得意でないリリスの意識を刈り取るには十分な一発だった。
「ごめんね。でも、これが現実だよ。リリィ」
遠のく意識の中、リリスが最期に見たのは、見たことのない冷たい笑顔を浮かべる幼馴染の姿だった。
——それから数日間の魔界は、まさにお祭り騒ぎといってよかった。
刻印を宿した正統な新魔王の就任に、魔界全土が湧きに湧き、民達は魔の未来は明るいと泣いて喜んだ。
商才あるオークは就任記念と題したアクセサリを売り叩き、魔教徒達は魔王城の方角に祈りを捧げる。夜になると、魔王を讃えるセイレーンの歌を肴に兵達は呑み明かし、潰れた兵の懐からゴブリンが金目のものを拝借したという。
ここ数年明るい話題に乏しかった魔界に突如舞い降りた熱量あるニュース。
——本来なら、その最中にいるはずだった少女には言付けでしか外の様子を知らされなかった。
来賓用の客室フロア。その中の最上客用の一室が元魔王代行リリス・イキュリス・アルテンシアの牢であった。
一人ではあまりに持て余す空間。退屈に満ち満ちた部屋の窓際で今宵も魔界の月を眺める。
何もしない日というにも少し慣れてきた。全く不服だが数年ぶりの余暇に心身が癒えていくのを実感する。今日もこのまま本を読んで眠るだけ......。昨日の続きから読もうと付箋の挟んだページを開こうとした時だった。
こめかみのツノが近づいくる魔力を感知する。そのよく見知った波長から誰の魔力かすぐに分かり、リリスはため息と共に本を置いた。
「やっほー!元気ぃ?」
相変わらずの粗暴なノック。いつもと変わらない明るさを振りまいて、リーゼンシフォンは入室した。
「いや〜ごめんごめん。就任直後でゴタゴタしててさー。ホントはすぐ会いに行きたかったんだけど。魔王って忙しいねぇ〜」
「......」
「あ〜〜〜......やっぱり怒ってる?」
「いいえ、別に。ただ、軽蔑してるだけ」
リリスは窓に映った夜景を眺めながら振り向かずに答える。
「......そっか。まぁ、そうだよね。自分でもかなり酷いことしたって思うもん」
「でしょうね。けど、後悔はしてないんでしょう?」
「アハッ。分かるぅ?」
『何十年の付き合いだと思ってるの』そう言おうとした口を寸前で閉ざす。
「......一つだけ聞かせて」
意を決して振り向き、一週間ぶりにリーゼンシフォンと顔を見合わせる。
魔王の正装を羽織る幼馴染の姿は、心にズキンとくるものがあった。
「うん。何?」
「本当にお父様を殺したの?」
「うん。そうだよ。勇者との戦闘後の消耗したところを、ね。その時に刻印を奪った」
「そう......」
「一応断っておくと、おじ様のことは尊敬していたよ。誰もが認める立派な魔族だったと思う。
でもね。邪魔だったの。私の計画にどうしても邪魔だった。だから、ね。 ......最期の言葉も託されてるけど。聞く?」
「いや、いい。今の私にそれを聞く資格はない」
「......そっか」
リーゼンシフォンは似合わない真面目な顔を浮かべて、次の言葉をジッと待つ。緊張しているのだろう。ツノを通して魔力が大きく波打ってるのを感じる。
その顔を見て、ふと、口を開くのを渋る自分に驚いた。
——しかし、自分達はもうそんな関係ではない。裏切られたのだ。今までのような間柄には決して戻れない。
だから、リリスは迷いを捨て、ハッキリとその言葉を告げた。
「貴女のことは一番の友のように思って|いた《・・》」
「......うん。私もだよ」
たった1人の親友へ送る絶縁の言葉。
これだけはどうしても伝えておきたかった。あの日からずっと胸の奥でつかえてたものがスッと消えていくのを感じる。
「......案外私より向いてるかもね。少し学が足りないのは気になるけど。その辺りはギルドラが上手くサポートするでしょう。あとは——覚悟の問題ね」
「リリィ?」
「——私を殺して。魔王の椅子はあげる。その代わり、貴女の手で私の命を終わらせて」
「いやいやいや!? 何言ってんの!? 殺さないよ!?」
「何言ってるのはこっちのセリフよ。そもそもこの状況がおかしいの。私を生かしても得はない。むしろ、いつ引火すると分からない火薬を懐に抱えておくようなもの。
貴女はもう魔王。魔界に害を為す可能性を排除するのが貴女の義務。人の夢を挫いたの。なら最後まで責任を負って。
その手で私の首を刎ねて、王の資格を証明してみせて」
「そんなこと言われても......。別に......私、魔王になりたかったわけじゃ......」
「はぁ......!? 何よ!? いまさらっ!? じゃあ、『計画』って何? お父様から刻印を奪って新しい魔王に成り代わる。それが貴女の『計画』でしょう!?」
「......あぁ、そっか。ごめん。ちゃんと言ってなかったね。私の計画は『魔王の席を手に入れる』ことじゃない。
『魔王リリスを手に入れる』ことだよ」
「......? どういう——」
その先の言葉を続けることは叶わなかった。
「ん......っ」
直後、首を伸ばしてきたリーゼンシフォンに口を塞がれ、物理的に封じられたから。
「んん......っ!?」
互いの距離がゼロになる。
「ちゅ......っ。プハッ!」
「っ......!? ぇ.....? ぁ......?」
たったの一瞬、それでも2人にとっては永い時間だった。
今?何をされた?目を見開き動揺するリリス。対するリーゼンシフォンは頬を赤め——
「アハッ......! しちゃった.....。リリィとキスしちゃった!」
「な.....な、何を......!?」
「私ね。リリィのことがずっと好きだったんだ」
「ハァァ!?」
「子供の頃からずっと一緒で、ずっと隣で見てきて......。ある時、自分の中のこの気持ちに気づいちゃったの。そうしたら、だんだん友達として見れなくなっちゃって......」
頬をこれでもかと赤らめた乙女の顔で告白する。
リリスは動揺のあまり生まれて初めて言葉を失った。
「あ......ダメ。今日はまだ我慢しようって決めてたのに......」
「え? な......? キャァ!」
肩を掴まれ、袖にあったキングサイズのベットに押し倒される。
リーゼンシフォンは流れるように覆い被さると、息を荒げ、飢えた獣のような血走ったような眼で捕らえた獲物に視線を落とした。
「リリィが悪いんだよ。『殺せ』なんて変なこと言うから......。だから......責任、とってね?」
「ちょ......まっ——」
静止の声は間に合わなくて。再び、互いの距離がゼロになる。
「んぐっ......!?」
2度目のキスはうんと長く、激しく。
強引に押し入ったが短い舌が、自分の長い舌を絡めらめ取ろうと我が物顔で駆け回る。ほのかな鉄の味が口内に広がった。
「んっ......っは......!リリィ......!リリィ!」
「んむぅ!……まっ……!んむぅ......!」
2人の唾液が混ざり合い、口からこぼれ落ちていく。
「ハァ……リリィ……好きぃ……大好き」
「くぁ......」
ようやく口が解放されたと思ったら、今度はペロペロと唇を舐め回してきた。
子供の頃飼っていたケルベロスを思い出す。あのバカ犬と同じだ。止めろと叱っても構わず戯れてきて人の顔を舐め回す。
獣と同レベルまで堕ちた幼馴染の姿に、失いかけていた意識と気力がハッと目を覚ました。
「このっ......!いい加減に、しろっ!」
「んぁ......?ちょちょちょ......っ!?」
たった一息の間に練り上げた魔力で小規模の雷を生成し、指先から発射する。リーゼンシフォンは慌てて身を起こし、片手でソレを受けた。
バチチチッ! 指の隙間から漏れた極小の雷撃が、直径5mmにも満たない穴を作って魔王城の頂上まで貫通する。
「うわっちちちっ! もうっ! あっぶないなぁ! 怪我しちゃうでしょ!」
「お前がおかしなこと言うからだろう!離せっ!」
「うわっ、酷っい〜。女の子の告白をそんな風に言うのって最低なんだよ。リリィだから特別許してあげるけど」
「......本当に、私を?」
真面目な顔で改まって問われ恥ずかしかったのだろう。リーゼンシフォンは頬を赤らめ、こくんと頷く。
「......っ!?まさか魔王の座を奪い取ったのも......?」
「ピンポ〜ン。流っ石ぁ!頭の回転早いねぇ。
だってだって、リリィ魔王になったら、パイプ作り以外の理由で結婚する気なかったでしょ?」
「!そんな......こと」
「い〜や、絶対そうだね。リリィのことは誰よりも知ってるもん」
自信満々の顔でリーゼンシフォンは言う。
「何処かの貴族の男にリリィが取られるなんて許せない。
だから、決めたんだ。私が魔王になってリリィを娶るって。例え親友の夢だろうが踏み躙るって」
「娶るって......まさか」
「うんっ!結婚しよ!リリィ!」
一才の迷いのない真っ直ぐな眼差しでリーゼンシフォンは言う。一度裏切られた手前、信用の欠ける審美眼だが断言できた。本気だ。本気で自分を娶ろうとしている。
「じゃ、照れ臭い話もほどほどにして〜......続きしよっか」
そう言って、リーゼンシフォンはリリスのドレスを捲り上げた。
上質の魔素を含んだ光沢ある青肌とつつましいサイズの双球が晒される。
「アハッ。やっぱ、リリィってスリムだよね〜。私ってばついつい食べすぎちゃうから羨ましいなぁ〜」
「やめ......ベタベタ触るなっ!」
「え〜? 昔は一緒にお風呂入ってたじゃん」
「いつの話だ! 今は——ひゃう!?」
胸の突起に湿っぽさを感じて、ピクンと跳ね上がる。
「んちゅ......。リリィのおっぱい......おいひ」
「っ〜〜っ......! ヒトの、はなしをき、け——んんっ!?」
頭を掴んで突き放そうとするも離れない。夢中で乳首に吸いつき、舌で弄ぶ。
「ちゅ......レロ.....はむっ」
再び獣に戻ったリーゼンシフォンは、十数年間待ち焦がれた情欲を晴らすように無我夢中で舌を動かす。
胸から肩、肩から首、首からこめかみへと本能に任せるままリリスの味と匂いを堪能した。
「んあ......。ごめん。なんか言った?」
「ひゃ......く、っ......ぃぁ......」
「あ、ちょっとやりすぎちゃったかな......」
頭の後ろをポリポリと書いて、ちょっぴり反省した顔を浮かべる。
その様子を下から見上げていたリリスは戦慄した。
(この娘......上手すぎ......)
よだれと汗で汚れた身体をピクピクと震わせながら、そういえばとリーゼンシフォンの出身を思い出す。
若い娘の生き血を好んで啜るヴァンパイア族だ。捕らえた女体の扱い方に間してはサキュバスにも引けを取らない。ましてや、始祖の血を継ぐ姫だ。喰らってきた娘の人数は数知れず。
もしリリスが人間の気娘だったら最初のキスで快楽に狂っていた。
「可愛いよ。リリィ」
リーゼンシフォンにとってリリスは餌ではない。これでも気遣っているつもりなのだろう。花を愛でるように、小動物を抱えるように、丁寧な手つきで愛する人の頭を撫でる。
やがて、リリスの呼吸が落ち着いたのを待って、ゆっくりとその手を下に移した。
「ダメ......!?そこは——」
「恥ずかしい? リリィも女の子だもんね〜」
だけど、リーゼンシフォンの手は止まらない。慣れた手つきで寝巻きの中に腕を滑らせ、中の下着に指をかける。そのままゆっくりと下ろした。
「へ〜、リリィって剃る派なんだ。お揃いにしていい?」
「っ〜〜っ......!?」
聞くなそんなこと。いつもなら反射で出てくるツッコミも今回ばかりは出てこない。
自分でもしっかりと見たことのない顕にされた秘部をまじまじと観察されて、全身が沸騰するような恥辱を覚えた。
「アハッ。あのクールビューティーリリス様がおまんこ丸出しにされて半泣きしてるなんて、魔界の皆が知ったらどう思うんだろうね。
あ、でも、安心して。誰にも見せる気はないから。皆が知らない魔王様の顔......。私だけのリリィの顔......。もっともっと見せて」
そう言って、指で秘部の入口をなぞる。
「ゃ......」
反射的に後退りしようとしたが、そんなもので逃れられるわけがない。
次の瞬間、リーゼンシフォンは容赦なく指を突き入れた。
「んぃぃっ!?」
開く。開かれる。誰の侵入も許さなかった魔族の姫の陰部が。
沈む。沈んでいく。ズププという水音を立てて細長い指が奥へ奥へとその身を埋めていく。
「キツキツだね。オナニーしてる? 私は毎日リリィのこと考えながらしてたよ」
「知る、か......んんっ!?」
当然ながらただ指を沈めただけで終わりの訳がない。
リーゼンシフォンは二つの関節を巧みに動かし、膣の裏側を擦る。雷に打たれたような快楽がリリスを襲った。
(今の......なに......?)
自分で弄る時とは別格の感覚。先ず、指遣いからして全く違う。何処を触ればどう悶えるか、女の身体を知り尽くしているような......。
「このままじゃ痛いと思うから。先ずはほぐしてあげるね」
「まっ——」
制止の声は届かない。そもそも聞く気がない。指の動きは止まらない。更に奥へと進み、膣壁を擦り上げる。
「あぁっ……!」
「ゆっくり擦られるのが好き?」
「っ......!」
「激しいのが良い?」
「んんっ......!」
「それともトントンって叩かれるのが好き?」
「はうぅっ!?」
「トントンだね。いっぱいしてあげる」
自分自身でも知らない身体の秘密を容易く暴かれる。強烈な快感に抵抗力が奪われていく。
「はい。あーん」
「んんっ!?ムゥぅ!?」
さらには抱き寄せられ、また唇を奪われた。
上と下2つの口を同時に掻き回される。
「んぁ......!ンングッ!んむっーー!?」
リリスが嬌声を漏らすと、リーゼンシフォンはニヤリとほくそ笑み、責める速度を上げる。
「んぅっ! んっ……むっ……!んんっ!?」
(ダメ.......っ!わたし、コレ......っ!」
上下同時に訪れる快楽の波に、為す術もなく身体を跳ねさせる。そして、愛撫が始まってから十数秒後——
「んんんっ〜〜〜〜っ......っ!!!」
リリスは絶頂に達した。
「はぁ......!ん、はぁ......」
「あ〜あ、こんな簡単にイッちゃうなんて。リリィも結構溜まってたんだね」
「ふざけ......」
「あーいいよいいよ。分かってるから。魔王様のお仕事大変だもんね。今まで頑張ってくれた分、ちゃんと労ってあげるから」
乱れた呼吸が落ち着くまで、よしよしと頭を撫でられる。
声色に悪意は感じられない。完全な善意から言っている。こちらの話を全く聞かない分タチの悪さしかないが。
「ところでそろそろ返事を聞きたいな。私と結婚してくれる?」
「......吸血術で従属させればいいだろう」
「無理だよ。アレ格下にしか効かないもん。由緒正しき魔王様の血筋相手じゃ、天地がひっくり返えっても無理。そもそも効いたとしてもイヤ。リリィの本心からお嫁さんになるって言って欲しい」
「......断る。何もかも奪った挙句、今度は自分の女になれだと? 人を馬鹿にするのもいい加減にしろっ」
「そっかぁ……残念」
リーゼンシフォンはしゅんと肩を落として、リリスの上から退く。
意外と聞き分けがいいな。そう思った時だった。
「——じゃあ、力づくで振り向いてもらうことにするね」
そう言って、リーゼンシフォンは魔王の装束を脱ぎ捨て始めた。
晒け出される雪のような白い肌と丸々と実った胸。本人にその気はないのだろうが魔王の証を見せびらかされる。そして、最後スカートに手が差し掛かった時、リリスは言葉を失った。
「は......?」
モフモフのフリルスカートの下から姿を見せるには到底似つかわしくない。黒々とした光沢を放つ肉の塔がリーゼンシフォンの股間からそびえ立っていた。
「な、なんでっ!? そんなもの......!?」
「イェーイ。驚いたぁ? ちょっとした呪術や外法手術の応用だよ。そっち方面はアンデット族の専売特許だからね。族長命令で研究させてたんだ。これなら子供も作れるし、世継ぎ問題も解決だね」
「アナタッ......! ホント......バッカじゃないのっ!!?」
「うん。そうだよ。だって、私、リリィしか見てないもん」
後悔のない満面の笑みを浮かべて、リーゼンシフォンは答える。
「はぁぁ......。見て、私のオチンチン。リリィと繋がりたいってドクドク言ってる......。コレが私の気持ちの全部だよ。受け取って」
絶頂の余韻で未だヒクヒクと震える秘部に肉棒を当てがう。
「やめ......ろ。リーゼン......シフォン......!それだけは.....」
「その呼び方やめてよ。昔みたいに『リーゼ』って呼んで」
プイッとそっぽを向けられる。
「やめて、くれ......!リーゼ......っ!」
「アハァ......!大好きだよ!リリィ!!!」
言い聞かせようとした言葉が背中を押してしまった。
ズチュリ、リーゼンシフォンの、リーゼの剛直がリリスを貫いた。
「ンイィィィィィッッッ!!?」
「はぁぁぁ......。すごっ......リリィと繋がっちゃたぁ......!」
シーツに純潔の証が零れ落ちる。
「嬉しい......っ。私がリリィの初めてになれたなんて......あぁっ!とっても嬉しいよっ......!」
本当に嬉しそうにリーゼは声を震わせる。
「リリィの中あったかぁい......。キュゥゥって締め付けてくる」
肉棒の感覚が夢ではないと証明してくれる。思い焦がれた人と現実で繋がっている。感動のあまり涙が頬を伝った。
「っ......ぁぐぅ......!」
「あ......リリィ?」
破瓜の痛みが予想以上だったのだろう。多幸感で満ちる自分とは対照的に歯を食いしばるリリスの顔を見て、一瞬、ハッと我に帰る。
「ごめんね。いま動くからね」
引き抜くという選択肢は微塵もなかった。むしろ、真逆。腰を打ちつけ、抽送を開始する。
「んあッ!? 」
「すぐに気持ちよくしてあげるからね......!」
愛おしい人を苦しみから救ってあげたい。その想いに従うまま前後に腰を動かす。
「はっ……! ん、ぅあ……っ!」
「あっ……すご......。リーゼの、なかで……!」
リーゼが動く度にリリスの腰は浮き上がり、魔羅をより深くへと咥え込んでしまう。
「リリィ気持ちいい?気持ちいいよね?いっぱい突いてあげるからね」
「ちが……!そんな……んぁぁっ!?」
リリスの膣壁は彼女の意思に反して蠢き、挿入された異物に絡みつく。膣襞一つ一つがうねる度に魔羅の形が克明に感じ取れた。
(ダメ......これ、刺激つよすぎ......)
指なんかとは比べものにならない。気づけば痛みなど消えていた。感じたことのない快楽に視界がチカチカと点滅する。
「ふぁっ……ぁ……!あっ……!」
「はぁぁぁ......リリィの中、熱々でトロトロ......」
分泌される愛液が肉棒をコーティングする。それが潤滑油となってピストンが一層激しさを増す。
「あぁ......ん! はぁぁ! やぁぁぁ!?」
身体を、意識を、心を刈り取られるような感覚。もはや、声も抑えられない。犯されているはずなのに悦んでしまう自分の身体に心底の軽蔑を覚えつつも、ジワジワとそちらに心が呑まれていく。このままでは本当に......。
「はぁぁ......もう、我慢できないっ......。射すよっ!リリィ!」
「っ!? ダメ......! それは......それだけはぁ!」
それは最悪の宣告だった。何を?などと聞かなくても分かる。宣告の直前、リリスは膨張する肉棒の感触をハッキリと感じ取っていた。
最後の抵抗でリーゼを突き放ね、逃げ出そうとするリリス。だが、愛する人を離したくない欲望の方が上だった。
——直後、リリスの中で肉棒が炸裂し、先端から白濁の愛の素が吐き出された。
「んぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?」
「んぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!?」
どぱどぷと重たい音を立てて注がれる精液。
精通と中出し。両者共に初めて感覚に互いの嬌声が共鳴する。
「ハァハァ、これぇクセになりそう......」
ズュルリ! まだまだ余韻に浸りたいが名残惜しそうに肉棒を引き抜く。
その視線は自分なんかよりもっと大切な眼前の愛する人へ。
「どうだった? リリィ」
「ひっ......あぁ......」
返事はなかった。リリスは息も絶え絶えで肩を揺らす。だらんと仰向けで倒れた身体には抵抗の魔力の起こりも見えない。
小さな手の平いっぱいで桃色に染まった顔を覆い隠し、指の隙間から嗚咽のような鳴き声を漏らした。
「.....して」
「ん〜?」
小声で何か言われ、リーゼは耳を寄せる。
「ころして......お願いだから......。夢も潰えて、親友にも裏切られて......こんな辱めまで......。わたし、もう......」
「だからイヤだって。結婚するっていうお願いなら大歓迎だけど」
「しないっ!しない!しないぃぃ!!」
「そっか......じゃ、もっかいエッチしよっか!」
「はぁぇ......?」
「一回じゃ、私の気持ち伝わらなかったんでしょ? だから、リリィが『結婚する』って言うまで。○すね。
一晩でも、3日でも、一週間でも、いくらでも付き合うよ」
何を言ってるの......?
目の前の少女の発言が理解できず、顔を覆い隠していた手をつい外す。本人は気づいてなかったが、その時のリリスは、元々の青肌が淡く見えるほど青ざめた顔をしていた。
「そんな.....!? できるわけ......」
「私を誰だと思ってるの? 不死身がウリのアンデット族だよ」
ドンっと胸を叩くリーゼ。呼応するように股間から生える肉棒もビキッと奮い立った。
「さっきは私も初めてで余裕なかったけど〜。次はもっと上手くやれると思うんだ〜」
「やだ......やめて......」
壊される。そんな確信めいた直感が脳裏によぎる。
これ以上、この娘の愛を受け止めたら自分の決定的な何かが変わってしまう。
「絶対にリリィを振り向かせてみるからねっ」
「こないで......リーゼ、おねがいっ......!」
そんな目で見つめないで、愛を囁かないで。もう壊れてしまった関係。だけど、思い出まで失いたくない。
普段のクールさなど微塵もない。気づいた時、リリスは酷く泣き腫らした顔で憧れの友に最後の懇願をしていた。
「愛してるよ。リリス」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
だが、悪魔に慈悲などない。
そして、少女達は一つ再びになった。
——それからどれくらいが過ぎただろうか。少女達は時間も忘れて交わっていた。
「もう一回射すよ!受け取って!」
「んにゃぁぁぁ!!?あちゅいの......あちゅいのまらきたぁぁぁ!!!」
「まだまだっ......!熱いの注いであげるっ!」
「んぃぃぃぃぃっっ!!!」
もう何度目か分からない射精。一向に熱さと粘り気が衰えない精液が注がれる。
「ふぅぅぅ......。じゃ、次はまたバックでしよっか」
「あへぇ......」
もはや身体に力など入らない。繋がったまま、ぐるんと身を一回転させられて勝手にお望みの体勢にされる。
「ふふんっ。リリィ、コレ好きでしょ?」
こめかみから伸びるツノの先端をコリコリっと爪で叩かれる。本来、魔力感知で使う器官からビリっと電流が流れた。
「ンァァァァっっ!!? ひゅの、ひゅのダメェぇぇっ!!!」
「ビンゴ〜♪昔からココだけは触らせてくれなかったよね〜。ほれほれ〜」
「んほぉぉぉぉぉっっ!!!?」
ガシッとツノを鷲掴みにされながらの後背位ピストン。
頭を直接掻き回されながら犯される感覚が溜まらない快楽を生み出す。
「ヒヒッ、おマゾさんなリリィも可愛いよ。んんっ......!」
「んぁぁぁぁぁぁん!!?」
「もうお腹タプタプだねぇ。結婚するより先に赤ちゃんできちゃうかも。安心してっ。2人とも絶対に幸せにするからっ!」
そう囁いた後、また抽送を再開した。
「ぁ......ぁぅ」
(なん、で......わたし......)
終わりの見えない快楽地獄。
蕩けた肉体と切り離された深層心理でリリスは孤独な自問自答を繰り返す。
(わたし......何がしたかったんだっけ?)
地位を失い。夢も奪われ、信じていた友に犯される。
自分には何もない。何も残ってない。零れる涙もとっくに枯れ果てた。
(もういい......。おわらせて、おわらせてよ......。もう、わたしの居場所はどこにも......)
絶望が遂に気高い魔族の姫の心を挫く。
もう終わりにしてしまおう。全てを手放そうと深い眠りにつこうとした時だった。閉ざそうとした視界の端にリーゼの顔が映る。
その時、とくんと胸が高鳴った。
(なんで……?)
どうして、この娘はこんな私を欲しがる?こんな無価値な女を。柄にもない魔王になんてなってまで......。
ふと、不思議に思いリーゼの目を覗き込む。その目には見覚えがあった。
(あぁ......そっか)
その時、リリスは全てを悟った。
(この娘はずっと見てくれてたんだ......)
昔からいつも一緒だった。
本当は分かっていた。気づいていたはずだ。リーゼの気持ちに。気づいていて見て見ぬ振りをしていた。
リーゼはずっと気にかけてくれてたのに......。
彼女がこんなことをしでかしたのは自分のせいだ。日に日に肥大化する彼女の感情に気づいてさえいれば、話し合っていれば......リーゼに罪を負わせることもなかったかもしれない。
(わたしのせいだ......。わたしが夢ばかり追ってたから)
たった1人の幼馴染も救えなくて何が魔王だ。初めから自分に王の資格なんて無かった。今さっきだって、1人だけ楽になろうとした。
(一緒に背負わなきゃ......。私達の罪を。
もう、リーゼを1人ぼっちにはさせない......!)
それが自分にできる唯一の償いの気がした。
浮上していく意識。絶望が晴れていく。
(......わたしも、自分に正直になって、いいよね?)
「——リリィ! リリィッ!」
尚もリリスを抱き続けるリーゼ。未だその情熱は一切衰えない。正常位で繋がり、激しく腰を打ち付ける。
「キスっ!キスしよっ!」
この一晩で普通のカップルの一生分はしただろう口付け。だが、今回のキスには初めての感覚があった。
「んぁぁ......んんっ......」
リーゼのキスに応えるように、リリスの方から口を差し出し、舌を絡ませてくる。
「リリィ......?」
どうしたの? そう言おうとした口を咄嗟につぐむ。リリスの顔を見た瞬間、彼女と通じ合ったから。
全てを理解したリーゼは腰を止めて、リリスの言葉を待った
「......つ......ます」
「聞こえないよ?」
「......っ!? いじわる......っ!」
「ごめんね。ちゃんとリリィの口から聞きたいんだ」
自分は散々愛してると言った癖に他人にはいちゃもんをつけるのか。最低。人でなし。クズ女。幾らでも罵倒の言葉が出てくる。
(——だけど、そんなリーゼが......)
もう見落とさない。手放さない。唯一残ったこの想いだけは......。恥じらいつつも決意とともにリリスは口を開いた。
「結婚......しますっ。リリス・イキュリス・アルテンシアは、リーゼの......魔王様の妻になり、ます......っ!」
それは敗北宣言だった。その時、魔王としてのリリスは本当の意味で終わりを迎えた。
「アハ......ッ! うれしい......うれしいよっ!リリィ!」
「あぁっん!」
感動のあまりリーゼはリリスを抱き寄せる。密着する形になり肉棒の形がより膣奥に刻まれた。
「好きっ!大好きだよ!」
「わたしも......すき。リーゼがすきぃ......っ!」
リーゼの背中に腕を回して抱き合う。互いの目と目が合い、何も言わず唇を差し出し合った。
「んんっ! ちゅ......んあっ、はぅっ......!」
「ちゅ......! んはっ......んんっ、あむ......っ」
絡め合う舌と舌。お互いの体液を交換し合う。たったそれだけの行為だと言うのに果てしない幸福感が胸に満たしていく。
「ん......あっ......」
一体どれだけの間、唇を重ね合っていたのだろう。例え永遠でも構わないと思える幸せな時間。でも、現実そんなことは叶わず、リーゼの方からゆっくりと身を引く。
互いの愛の架け橋である糸引く白線をリリスは口惜しそうに見つめる。
「これからいっぱいできるから、ね......っ! わたし、もぉこっちが......限界っ!」
「ぁぁん......っ!」
幸せそうに苦悶の表情を浮かべるリーゼ。
詳細に説明されなくても膣内で硬さを増した肉棒の感触でリリスには伝わった。急激な興奮で精子が上がってきたのだろう。今には破裂しそうに膨らんでいる。
「ハァハァ......!リリィ!リリィっ!」
「いいわ......きて。リーゼの赤ちゃんの素ちょうだい......! わたしを孕ませてぇ......!」
欲しい2人の愛の証が。この愛おしい人の子を産みたい。心の底からそう思う。
気づいた時、リリスは自分から腰を振っていた。リーゼの方も拙いリリスの動きに合わせるように腰を上下させる。
「リーゼっ!リーゼ!リーゼ!リーゼぇぇぇ!!!」
「リリィ!リリィ!リリィ!リリィィィィっ!」
お互いに愛しい人の名を呼び合う。何度も、何度も、何度も。何者にも切り離されないように、魂に刻み込むように叫び合った。
「ハァァァァァァァッッッ!!!」
「んぁぁぁぁぁっっっっあぁん!!!」
肉棒がこの日一番の量の精を吐き出し、リーゼの膣いっぱいを白濁で染め上げる。凄まじい勢いで放たれた半固形物の精液がボコッボコッと青肌を内側から叩いた。
「あぁ......! はぁぁぁぁぁっ!!」
長い長い射精。リリスは注がれる最後の一滴まで全て受け止めた。
「りぃぜぇ......!」
「リリィ......」
少女達は再び見つめ合い、唇を重ね合う。そして、愛の言葉を囁き合う。
今までの関係に別れを告げるために、新しい関係を祝福するように......。
彼女達の儀式は夜明けまで続いた。