【男勝りの巨乳妻を学生時代のヤリチン旧友に抱かせてみた】 第2話 「仇敵との再会」
僕らが通っていた高校のクラス会は、今回で二度目になる。
一回目は高校を卒業してから二年後。お察しの通り成人式のときだった。そのときは文字通りの“クラス会”で、同じクラスのメンバー二十数人による小規模な会だったのを覚えている。僕と紅音(あかね)は同じクラス出身のだったので、当然一緒にその会に参加した。以前話した通り、そのとき僕らは既に恋人同士だった。
しかし今回の同窓会は、学年全体の大規模なものだった。単純計算、四十人のクラスが十クラスで、総勢四百名の大所帯になる。
この手の会の出席率が100パーセントなんてことはまずありえないから、無論ある程度は目減りするだろうが、それでも二百名弱の参加が予定されているらしい。
そうなると開催場所が居酒屋やカラオケルームというわけにはいかない。今回はホテルの催事場を貸し切って行われるようである。
ホテル――ということはある程度のドレスコードが生じてくる。もちろん舞踏会じゃないからタキシードとドレスなどということにはならないが、僕たちももう二十代半ばの大人としてそれなりの格好をする必要があった。
「へ、変じゃねーかな?」
ホテルまでの道すがら、紅音はしきりにみずからの格好を気にしていた。
ごく普通のパーティドレス。色はネイビーで派手さもほとんどないが、肩の辺りがレース生地で少し透けている。強いて言えば胸元の開き方がかなり大人っぽいドレスではあった。友人の結婚式で着るとしたら少し目立つが、今回はとくに主役のいない会なのでこれぐらいは普通だと思った。
「私はスカートだって自分の結婚式以来なんだぞ?」
そうだった。紅音は常にパンツスタイル。引退したとはいえ空手家の一人娘にとってパーティドレスはかなりハードルの高い代物らしい。ドレスに合わせたヒールでの歩みもぎこちないし、先程から何度か僕が肩を貸すシーンがあった。
「さくらのやつ……会場で会ったら覚えてろよ」
この服装、実は紅音の親友である皆口(みなぐち)さくらさんが選んだものだった。
同窓会でドレスなんてさっぱりわからんとロクに考えもせず匙を投げたのが紅音で、そんな紅音が頼ったのが皆口さんだった。先週の日曜日で二人で買い物に行っていた。
紅音いわく、本当はもっと地味なドレスを買ったはずとのこと。しかし皆口さんが店員さんと示し合わせて、直前でこのドレスに差し替えたようだ。そして今朝初めて買物袋を開けた紅音が仰天した、というのが事の顛末らしい。たしかに紅音が選んだにしては派手な方だとは思っていた。大人っぽいドレスということもあって胸の谷間が少しあけすけに見えてしまっているし、“硬派”な紅音にしてればかなり冒険した服装だ。僕としては普段見られない紅音が見られて、ある意味眼福なんだけど。
「しゃーない。もし私がこけたら賢介がクッションになれよな」
「そ、それだと僕の被害が甚大じゃ……」
昔の紅音だったら「こんもん着られるか」と普段着で同窓会に臨む暴挙に及んだはず。しかしそれをしないのは、紅音も大人になったということだろう。それもそのはず、僕らはもう二十六歳なのだ。高校を卒業してから既に十年弱が経過しようとしている。
その間に僕と紅音は夫婦になり、夫婦ならではの“悩み”も抱えるようになった。それでもまだ結婚もしていないクラスメイトからすれば贅沢な話なのだろう。
僕と紅音は今、幸せである。そのことを忘れてはいけない。
そもそも夫婦揃って高校の同窓会に参加するなんて漫画みたいな話だ。たしか僕らの他にも同じ学年で夫婦になったカップルが一組いたはずだけど、それでも合計二組だ。どんだけレアなんだよという話である。しかも当時の松川(旧姓)紅音は飛ぶ鳥を落とすほどの人気だった。
「あれ? “松川”さんじゃーん」
それは、僕が久しぶりに聞いた紅音の旧姓だった。結婚してほぼ三年。その名字で紅音を呼ぶ人間はほぼいない。
しかし同窓会ともなるとその可能性はあると思っていた。僕らが結婚したことは身内の人間しか知らないし、結婚式に呼んだのもせいぜい三十人。同窓会に参加する“過半数”の元生徒が、僕と紅音が夫婦になったことを知らないのだ。だから紅音が旧姓で呼ばれることは予想の範囲内だった。
しかし世界でただ一人、紅音がその名字で呼ばれることを毛嫌いする人物がいた。
いや旧姓以前に声を掛けられること自体、顔を見ることでさえ、怖気が走ると紅音が言っていた人物。
「久しぶりだねー、高校卒業以来? 俺が主催した有志のクラス会にも来てくれなかったもんねー」
あれから十年近く、経っている。
でもその人物への印象はまるっきり変わらなかった。
同世代らしからぬ茶髪の長い髪に、外からただ張り付けたような胡散臭い笑顔。どことなく周りの人間を見下したような双眸。人生を通して“遊んで”きましたということをこれほどまでに見た目で表現できる男はそういない。
ドレスコードをまるっきり無視したラフな服装に、普段から付けているのであろう複数のピアス。この距離でも漂う男物の香水の臭い。
“悪い意味”での不真面目さを、見事なまでに体現した男。“それ”が僕らの目の前に立っている。
兼原(かねはら)勇伍(ゆうご)。
その名前を、紅音は生涯忘れないと思う。
紅音の親友であるさくらちゃんの心を弄び、泣かせた、学校一の“チャラ男”だからである。
そのときは紅音が彼をぶちのめして、代わりに停学二週間を食らう羽目になった。それ以来ずっと因縁の相手であり、全人類の好感度最下位を選ぶなら間違いなくアイツだと、紅音が豪語していた相手でもある。
「兼原――」
お尻の後ろで、紅音が握り拳を作っているのが見えた。あー、これはがっつり苛ついている証拠だ。紅音もだいぶ大人になったが、兼原だけは顔を見た瞬間に殴るかもしれないと言っていた。
「せっかくだからライン交換しようよ。過去のことは水に流して今度俺と遊び行こ」
「は?」
「綺麗になったじゃん。胸も前より大きくなった? 結構大胆な服着て、さては同窓会に男探しに来たでしょ」
あーやばい。完全に紅音の目が血走っている。水に流していいのは罪を犯した側じゃなくて犯された側だろと、彼女の震えるこめかみが訴えているようだった。ここは一つ、僕の方が代わりに大人にならなければ。
「ええっと……とりあえず会場入らない? 会場のホテル、目の前でしょ」
僕はあえて紅音と兼原の間に割り込んだ。でないと空手家娘の拳が約十年ぶりに炸裂すると思ったからだ。あの頃は停学で済んだけど、今やったら傷害罪なんだからな紅音。
「ん? 君誰?」
口説きモードを阻害されて、兼原があからさまに不機嫌な顔をする。紅音の隣にいる僕のことなんて、本当にまったく見えていなかったようだ。
「同じクラスの須藤賢介だよ! 私の“旦那”のな!!」
旦那という部分をあからさまに強調して、紅音は目の前のチャラ男に投げつけるように言った。既婚というのはこの手の誘いを断る格好のカードであり、某光圀公の印籠にも似た効果があると思ったのだが、
「須藤……?」
当の兼原はぽかんと僕の顔を見つめ、しばらく考え込んでいた。
僕と兼原との間に、実は接点はほとんどない。同じクラスになったこともないし、声を掛けられていたのはいつも紅音一人だけで、思えば当初から彼の眼中にはなかったような気がする。
そんな兼原は予想通り、あっけらかんとした顔で、
「ごめん、全然覚えてないや」
失礼という言葉を母親のお腹の中に忘れてきたような、“どうでも良さそうな”笑顔を向けてきた。
紅音だけでなく、僕も思わずこめかみが“ピキって”しまった。多分紅音が彼を殴らなかったのは、怒りを通り越して呆れていたからだと思う。
「じゃ、俺先行くねー。“松川さん”、またあとでね」
兼原にウインクされて、紅音の背筋に悪寒が走っているのが傍目にもわかった。僕が知る中で、この二人は世界でもっとも相性が悪い二人だと思う。少なくとも紅音は、彼のことを世界で一番嫌っていると言える。
「すまん……ちょっと深呼吸させてくれ」
「え?」
不意打ちで、紅音が僕の手を握る。往来もあるのである程度は人目も引くが、僕は夫としてそれを受け入れた。
紅音の手のひらが熱い。物凄く怒りに打ち震えているのがわかる。
でも、我慢している。鎮めようとしている。他でもない夫の前で“人妻”を口説こうとした不届き者への怒りを、必死に深呼吸して治めようとしているのだ。
「……全然変わんないな、あいつは」
僕の方ではなく前をまっすぐ向いたまま、紅音がつぶやく。
その言葉通り、兼原勇伍への印象はまるっきり変わらなかった。大人になって地位や身分は向上したのかもしれないが、中身としての“軽薄さ”はまるっきり変わっていない。そういう印象だった。三つ子の魂百までというが、ここまで根が変わらない人間も珍しいくらいだ。
最後にもう一度深呼吸して、紅音が強く僕の手を握った。そして僕の方を振り向き、
「でも私たちは変わった。結婚して、夫婦になったからな」
紅音がニッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。ガキ大将みたいな笑みは子供っぽくもあるが、芯の部分はちゃんと大人に成長している。そんな印象を受けた。
「せっかくの同窓会なんだから、気を取り直して一緒に楽しもうぜ!」
そして僕が言おうとしたことを、先回りして言ってしまう。そまま僕の手を引き、慣れないヒールで会場のホテルの入り口に駆け出して、先程までの怒りとわだかまりを振り切った。
そこにいたのは僕が高校時代に憧れた、松川紅音その人だった。
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