Aqua-baiser 2018/01/02 21:30

【感想】ニルハナ

ゆにっとちーずさんの最終作「ニルハナ」をプレイしました。
作品の公式サイトへは、このブログの右下に貼ってあるナミダちゃんのバナーから飛べるのでぜひ見てください!

私はニルハナをいち早くプレイしたい、パッケージ版やサントラや設定資料集などを絶対に手に入れたい!という意地から、朝早く高速バスに乗り込み、会場に着いたら1時間未満ですぐとんぼ返りをするという突貫スケジュールでC93に一般参加しました。
こんなにも無理やりなコミケ参戦は人生初でした。そのくらい本作を欲していました。
私の我が侭を聞いてくださった山野さんには感謝してもしきれません。本当にありがとうございます…!


※注意!!※

この感想はニルハナ本編のネタバレのみならず、ゆにっとちーずさんの過去作の盛大なネタバレも含んでいます。
ニルハナ本編を未プレイな方はもちろん、「ネタバレ上等! 寧ろネタバレを読んでから楽しむタイプ!」な方も出来れば読まないでください。
私が個人的に最も衝撃を受けたとある秘密。
何も知らない状態でプレイして、ご自身で少しずつ解き明かしてほしいのです。


















↓ 以下、初っ端から盛大なネタバレ





































「個人的に最も衝撃を受けたとある秘密」とは、もちろん彼女のこと。


クレハルさんです。


最初、私は彼女をテマリちゃんと同じポジションの脇役として見ていました(テマリちゃんも本来は過去作のとあるキャラが元になる予定だったそうですが)。キーチャイルドに軟禁されている哀れな生け贄の一人に過ぎないと。

プレイ中、私は何気なくこんなことを呟きました。
>

沙樹@aqua_baiser
> IFの話だけれど、みつ希とタツヤさんが出会ったらお互いをどう見るか少し気になった #ニルハナ
>
>
> 2017/12/30 22:50:40

呟いた本人もこの時は深く考えていませんでした。

ニルハナの主人公タツヤは、「ご主人さまにあ」のヒロインみつ希が過去に出会った"屍奪鬼"の男に似た性癖を持っていました。
他人の不幸を覗き見するのが、とりわけ複雑な事情を抱えた少女の心の闇に触れるのが大好きで、それでいて自身は決して当事者にならず、安全な場所から彼女らの煩悶を眺めては己の生を実感する。
ご主人さまにあのみつ希からすると嫌悪してやまない人物そのものです。多分みつ希は過去の"屍奪鬼"以外にもそういう人間達と出会って、その本質を見抜き、試し、心の中で蔑んできたのでしょう。
ただタツヤもこの時点では一筋縄ではいかない男で、おそらく過去に何度もみつ希のような女性に近付き飼い慣らしてきた(もしかしたら女性達を飼い慣らしていた『つもり』でしかなかっただけなのかもしれないけど)はずです。
そんな二人が出会ったら、お互いをどんなふうに分析するのか。
ナイフを持ったまま牽制し合うような緊迫感のある心理描写が特徴の山野さんのシナリオならではのIF展開を脳内で呑気に楽しんでいました。楽しむだけの心の余裕がありました。この時はまだ。

彼女の正体に気付くまでは。

もともと私はサンプルボイスを聞いた時からクレハルの声がとりわけ気に入っていました。
大人の女性然とした落ち着いた喋り方ながら、愛らしさの感ぜられる可憐な声だなーと思っていました。
でもHシーンでの乱れボイスを聞いた時にふと気になったんです。
「この喘ぎ、どこかで聞いたことがある」と。
すると、Hシーン以外の通常ボイスも「そう遠くない過去に聞いた誰かに似ている」と感じるようになりました。
しかしダメ絶対音感に定評のある自分を私が一番知っていましたから、よくあることだとこの時もあまり深く考えていませんでした。

シナリオを進めて行くうちに、「入水自殺を図る」「本人が『自分は既に死者だ』と語る」「妊娠していた過去がある」「夫がいた」「子を胎に宿したまま入水した」などのキーワードに、そうとは気付かぬまま徐々に違和感を抱いていく私がいました。
この時この物語がどういう着地を見せるのかに気を取られていながらも、少しずつ、着実に、クレハルの人物像が引っ掛かっていたのだと思います。


そして私は、首を絞められるクレハルに誰かの面影を見ました。
頭の中に散らばっていた点々が結びついて一本の線になったのが、感情を吸い出す際のマユの台詞。
(以下、ニルハナ本編より引用)

「父との恋も…引き裂かれたことも……暴かれた運命も、あなたに心を向けて、
それでも受け入れられなかった人の思い出も…なにもかも甘い……」

……一瞬の出来事でした。

私「みつ希だこれ!! みつ希だ! みつ希なんだ! うわああああああああああ……」

もうね、鳥肌がブワーッと。
悲しいとか嬉しいとかを通り越した何かの感情が一気に吹き出しました。すごい衝撃でしたよ。
>

沙樹@aqua_baiser
> クレハルさんもしかして……あ――――――(鳥肌) #ニルハナ
>
>
> 2017/12/31 01:20:07

山野さんすごい……すごすぎる……ありがとうございます!って一人勝手に泣きそうになってた。
なんか、自分で思ってた以上にみつ希に思い入れがあったんだなって……
少し前……去年の秋くらい?にご主人さまにあを再プレイしていたことも大きかったです。

Twitterでも語りましたが、ご主人さまにあは二周目こそが本番だと思うのです。ご主人さまにあは紛れもない名作ですが、一周目(初回プレイ時)は諸々のセンセーショナルなエピソードに脳内を支配され、作品の本質に辿りつけないまま「良い作品だった。好き」だけで終わってしまう可能性があります。現に私がそうなりかけていました。一周だけでは真の魅力を噛みしめることができないんです。それほどの情報量(単に文章の量だけの話ではない)が詰められている魂の作品なんです。
すべてを知った上で、登場人物の台詞ひとつひとつを紐解きながら読んでいくと……もう泣くしかない。ただただ悲しい。
だからこそ私はご主人さまにあが、みつ希が、浅見さんが、由貴がいとおしいのです。

そんなみつ希がクレハルに名と姿を変えてニルハナに登場してくれたのがすごく嬉しかった。
クリア後いそいそと設定資料集を開いて真っ先にクレハルの項を探したほどで、自分の推測が間違っていなかったとわかってさらに感激。
>

沙樹@aqua_baiser
> 設定資料集よんでる。真っ先に彼女の項から。ああ〜やっぱりそうだったか! プレイ中「ん……?」と引っ掛かって。頭の中で線が結び付いた時は衝撃と感動で鳥肌たった。タツヤ君との絡みが無性に泣けてきます…… #ニルハナ
>
>
> 2017/12/31 06:32:02

他の方の感想を読むと、クレハル=みつ希に気付いてなかった人もいたみたいなので何だか訳の分からない優越感がw
特に彼女が妊娠していたことは、後日談のSS「水中花」を読まないとわからないですし。
でもクレハルのシーンをいくつか読み返してみると、「うそばかりついてごめんなさい」ってそのものズバリなことを言ってますね。ここでハッと気付けなかったのは不覚。

資料集で山野さんが仰っているように、確かにニルハナでもクレハル(みつ希)は可哀想な目に遭っているのですが、ご主人さまにあプレイ後に心に沈んだ澱のほんの一部が、光をまといながら水面に消えていったような(無駄に詩的)……そんなふうに少しだけ吹っ切れた気持ちになりました。

タツヤと浅見さんは声優さん(三橋渡さん)こそ同じですが全くの別人です。
でも、浅見さんと同じ声をもつタツヤが随所でクレハル(みつ希)と絡んで、後半のある重要な場面で救いの手を差し出してもらえたことが非常に感慨深く涙が零れました。
たとえニルハの依り代というかたちだったとしても、あのシーンで再びクレハルと言葉を交わせたことが素直に嬉しかった。
ニルハナの世界での出来事は、みつ希にとっては救いでもなんでもないかもしれないけど、あの場面でタツヤを助けてくれたのは確かにクレハル(ニルハ)で。今も漂っているであろう彼女の魂と感情に、その出来事がほんの少しでも変化を……光をもたらしてくれたらと願わずにいられません。


……さて。
クレハルだけでどんだけ長く語るのかとw
いやでも本当にファンとしてはみつ希の登場が嬉しかったんですよぅ。


主人公はタツヤで、ニルハナは彼の選択によって分岐するマルチエンド方式ですが、群像劇色の強い作品でもあります。
タツヤ視点以外にも、ナーム、ニルハを描いた三人称視点、マユ視点やリュウヤ視点、そしてカスリ視点などが交互に展開されていきます。なので、従来のゆにっとちーず作品と比較すると主人公としてのタツヤはやや影が薄い存在かもしれません。
特に後半はリュウヤとマユの兄妹メインで話が進むので(舞台の根幹に大きく関与しているし)。

ただそれでもやっぱりこれはタツヤの物語である、というのが私の所感です。
リュウヤは主人公というにはあまりにも一人で完結しすぎていて迷いや揺らぎが全くない。マユもなんだかんだで兄ありきの生き方をしている。この二人の「なぜそうなったのか」という関係性は非常に強く、説得力がありすぎて、作中での言葉を借りるなら「こうなったらいいなぁ」という魔法をかけられる余地がない。

山野さんが書かれる登場人物はいつも「なぜそうなったのか」という説得力を持っている。
説得力がありすぎるという意味ではご主人さまにあの登場人物たちもそうなのだけど、たとえばみつ希の場合ならSS「水中花」で浅見さんが言ったように浅見さんの必死さが足りていたら、力ずくで止めていたら、また違った結末もあったのかもしれない。そう読者が思える余地がある。現にみつ希は直前まで揺らいでいた。ご主人様を奪った由貴さえ許しそうになっていた。
彼女はそうなってしまうかもしれない自分をおそれて消えてしまったけれども。

そんな理由から私は、露悪的に自分を客観視しなければ生きていけない人間になってしまったタツヤが葛藤して、弱さや迷いをさらけ出し、それでも前に進んでいことうする姿に胸を打たれました。
「魔法」がかかってほしい、と無意識に願っていたことと思います。
しかしそんなタツヤを光に向かわせる切っ掛けとなった存在が、リュウヤが何もかも取っ払ってでも(それこそノータイムで首を吊ろうとしたほど)愛し抜きたいマユから分離した『ユウ』だった、というのが実に感慨深い。本当によくできていますよね。

そういえば、うみのさんが「寝取られじゃないのに寝取られと思う人がいるかもしれない」と仰っていたというあれ。クリアしてみてあーなるほどーという感じですw
まずマユがしれっと澄田さんとくっついてしまった時。リュウヤの荒れっぷりが非常にリアルで(声優さんの演技がまたすごい!)でもどこかコミカルで、「あーわかる、その気持ちわかるぞ」とか勝手に思っちゃったりして。
澄田さん、前情報でロリコンとか何とか不穏当なコメントをされていたから、良い人と思わせて実は真っ黒なのでは?とか無駄に警戒してしまいましたが、普通にいい人でしたねw 好きです。
いやそのロリ性癖を隠すために善良になろうとしているのが彼の背景なんでしょうが、そうあろうと実行している時点でもう既に本質は善良な人だと思うのですよ。
しかしマユとどんなやりとりを経て「付き合う」までに至ったのか気になるなぁ……。
リュウヤの立場になってみれば、妹から抜け出た精神の化身がよりによって「ユウ」なんて名乗っているのを知った日には……
しかもユウはタツヤと心を通わせますからね。こちらもある意味寝取られといえなくもないw
一部といえどマユなんだし。
そういえばリュウヤはナミダが「呪い」だけでなくマユの「女」の化身でもあることを知っていたんでしょうか? それともこれは初期だけの没設定なんでしょうか。マユが彼の人生の全てとはいえ、マユの一部を受け継いだナミダをあそこまで無下に扱うのは何故?とふと思ったので。
他にも、手紙と一緒に燃えてしまうテマリとか、いろいろ考察できそうです。

……まぁ……私的には、タツヤ(主人公)視点でナミダちゃんとラブラブできなかったことが寝取られなんですけども……。・゚・(ノД`)・゚・。
ゲームを始める前から失恋してたんだね私! でもしょうがないね!
いいんだタツヤ君にはユウ様がいるから……! ユウ様めちゃくちゃ可愛いから!!
私に毎日ポモドーロを作ってくだ……さ……


閑話休題。


Hシーンで一番印象に残っているのは……厳密にはHシーンではないと思うのですが、クレハルに呼び出されたタツヤが身体を拭いているうちにムラムラしてきて「ふと猛烈に、この女とやりたくなってきた」あのシーンです。
初めてタツヤがまともにクレハルと言葉を交わしたシーンで、最初は遠慮がちに敬語で話していたのに唐突に距離を縮めて攻めていく流れがなんかツボに入りました。この時はクレハルの正体を知らなかったから余計に。
淡々と自分の局所を拭かせようとする謎めいたクレハルの所作と、

「したい」
「…………だめ」
「どうして?」

この短い会話のやりとりだけでめっちゃドキドキしました。声優さんの演技がまた絶妙なのですよ。
ここからタツヤは彼女に対して敬語じゃなくなるんですよね。それがまたいい。
その後の選択肢でBADに直行する「やわらかな闇」も退廃的な美しさがあって大好きです。

あとはやっぱりリュウヤがマユを初強○してしまうシーンと、ラストのタツヤとユウのシーンですね。
この二つは心を揺さぶられた人も多いのではないでしょうか。


ユウとマユ、そしてカスリが語る創作論も響くものがありました。
頭の中には素敵なものがたくさんあるのに、それを形にしようとするとちっとも美しくならない。創作する人間にとっては永遠の悩みですよね。
作品には「祝福」が必要だというのは以前山野さんもTwitterで仰っていましたが、私は心の中でひたすら首肯するばかりでした。胸に抱えていた不定型なモヤモヤが一瞬にして形になったような。

作品を公開するうえで最も苦しいのは、厳しい批判の声ではなく「無関心」を貫かれることです。
創作は綺麗事ばかりではなく、自分の作品に対する世間の無関心さをたびたび痛感させられ、かと思えば思いがけない反応をいただけて有頂天になって、でもまた落ち込んで……
そんなことをずっと繰り返して今現在に至っています。きっとこれからもそうなんでしょう。
じゃあなんで作り続けるのかというと、作りたいものが勝手に頭の中に溢れてくるから、としか言いようがないのですが、もっと簡潔に言えば「それしか表現方法を知らないから」なのかもしれません。
ってニルハナの感想と全く関係ないな……!


話をニルハナに戻します。


設定資料集についても語らねばなるまい。
もう本文フルカラー80Pという額面だけでもすごいのだけど、実際の内容はそれ以上のボリュームがあります。とにかく情報量が半端ない。
山野さんとうみのさんが、どれほどのこだわりを持って制作に臨まれたかがよくわかります。
アクセサリーなどの小物や全体のシルエットにまですべてにおいて意味があり、そのキャラが「在る」に至って無駄な設定が何一つない。すごい。圧巻の一言。
お二人のインタビューや山野さんのコメントも非常に読み応えがあり、胸を打ちます。
設定資料集は再販が難しいとのことですが、読んだ人間としてはこれはニルハナ本編とセットといえるほど重要な本だと思うので、ぜひDL版を出していただきたい……!と勝手ながら願う次第です。
これプレイした人は絶対読まなきゃダメなあれだ!!

何度でも言う、ニルハナはすごい。
山野さんの読む人間の心に直接ガツンと響いてくる重厚かつ繊細な文章、うみのさんの透明感と光にあふれる美麗なCG、声優様方の魂が込められた圧巻のフルボイス、上質な音楽(サントラも素晴らしいんだまた)、そつなく使いやすいUI、「絵」という二次元のみならず装丁という三次元でまでも美しくデザインされたパッケージ(うみのさん曰く『持っていてうれしくなるような』とはまさにこのこと)……制作者様方が魂を込めて全力で作り上げた、まさしく集大成、宝物といえる作品。

プレイ時間はボイスをじっくり聞いて、私の読む速さで8時間30分ほどでしょうか。
このボリューム、このクオリティで1500円ははっきり言って破格です。買う以外の選択肢があろうか!
もう私なんかが無い頭ひねってオススメ文を書くまでもない大作です。ネタバレ気にせずこの記事を読んじゃった人! ぜひやってください!!

そんなわけでぼくの一推しはもちろんクレハルさんです!!
(Twitterの加工無しバージョン)
本家の美しさの足元にも及ばないけど表情は気に入ってます(* ´∀`)イメージ通りに描けたかなと。


山野さん、うみのさん、本当にお疲れさまでした。
ニルハナという作品を生み出していただき本当にありがとうございました。

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