Aqua-baiser 2019/12/28 19:00

会談にて――欺瞞と対話

12月は、いきなり耳鳴りが止まなくなったり、耳鼻科に駆け込もうとしたら車のバッテリーが上がってしまったり、歯みがきをしたら詰め物が取れたり、聴力検査室の段差で足を挫いたりと散々な出だしでしたが、今はどうにか日常を取り戻せつつあります。
無事オフの仕事納めとなり、忘年会も終わってやっと休みに入れました。
シナリオは現在356KBで、大体アンニュイ天使と同じくらいまでになりましたが、それでも全体の半分も進んでいなくて戦々恐々としております……。
Hシーンが今までで一番多いことも理由の一つではあるのですが、ひょっとしたら初めてのMB突入になるかもしれません。

そんなわけで、年が明けてもまだ文章のみの更新が続くかと思われますが、連載web小説を追うような感じで見守っていただければ……と思います。申し訳ございません;


さて、10年間お世話になっていたDLsiteブログが近々サービス提供終了とのことで、今後の進捗はこのCi-enのみで報告していく次第です。
以前は無料・有料プランのみの公開でしたが、これからは「誰でも」見られる記事を基本として更新していくことになりました。コメント欄も開いておりますので、いつでもお気軽にご意見をお寄せください。
また無料プランではこの誰でも見られる記事に加えて少しの未公開部分を、有料プランでは従来通り無料プランの約2倍ほどの情報量を載せていく予定です。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


ここからは、前回有料プランで先行公開した本編シナリオの一部を掲載させていただきます。
(一部シーンを省略しております)



(中略)


 その語り口から、ルリカの嫌悪感がひしひしと伝わってくる。

「そいつは確かに……気味が悪いな」
「でしょ? あんなもの目にしたくもなかったのに、侍女たちが他のドレスと一緒に出してきたものだから……忘れた頃に嫌なものを見せられて、私も必要以上に苛立っちゃって……でも、ガートルード達にはただの八つ当たりだったわよね。悪いことをしたわ」
「いや、それは仕方ないよ」

 それもセベンヌ先生の意図だったのかもしれないとルリカの話を聞きながら俺は思った。
 あの先生は決して悪い人ではないが、王女としてのルリカを思うあまりに必要以上の礼節を強いるきらいがある。
 明日の会談で贈り物のドレスを着たルリカを見せれば、ネグレイロスの機嫌をよくさせて、あわよくば少しでも有利に交渉を進められると考えたのだろう。

「しかし……ルリカは本当にネグレイロスのことが嫌いなんだな」
「当たり前じゃない! あんなやつのどこに好きになれる要素があるっていうのよ!」
「お、おお……」

 ルリカの熱の入り様に気圧される俺。

「そもそも帝国は敵よ。仲良くなんて出来るわけないわ。
 コウキとマナだって――」

 そこまで言い掛けて、ルリカがハッとしたように口を噤む。

「ごめんなさい……」
「いいんだよ。俺は気にしてないから」

 ルリカも俺とマナの事情を知っている。

「……そうだな。ルリカが言うように、俺とマナにとっても帝国は仇だ」

 頷くと、ルリカの表情がホッとしたように緩んだ。

「うん。だから、私も許せないの」
「4年前に代替わりしたらしいけどな。今の奴は先代の息子なんだろ?」

 しかもかなり若いはずだ。
 本人に会ったことはないが顔は肖像画で見たことがある。20代後半くらいの長髪の優男だった。
 俺とマナにとっての本当の仇は、正確には現皇帝ネグレイロスではなく、やつの父親――4年前に病気だかなんだかであっけなくくたばったという――つまり先代の皇帝だ。死に際はずいぶん悲惨だったようで、多少溜飲が下がったといえばそうだが、俺としては正直複雑な気持ちでもある。
 あの男にはしっかり罪を償わせたかった。俺が直々に制裁を下す夢だって何度も見てきた。それなのに。
 やつの死を聞かされて、俺のくすぶった怒りは宙ぶらりんになってしまった。
 
「誰が皇帝だろうと関係ないわ。帝国は帝国よ。私たちの敵であることにかわりはない」
「まぁ……確かにな」
「やったのは父親なので私は関係ないです、なんていいわけは通らないわ。あの男だって身内なんだから関わってないはずがないのよ。見ててねコウキ、明日の会談ではその辺を私がきっちり追求してやるんだから」
「頼もしいな」

 苦笑しつつ、いきり立つ細肩をそっと抱き寄せる。
 ルリカは抵抗することなく、素直に俺に寄り添った。

「講和――」

 俺の肩にもたれながら、ルリカがぽつりと呟く。

「お母様やセベンヌ先生は平和のために必要だって言うけれど……私には納得できない。
 本当にそれでいいの? 胸に不満を抱えながら、それでもなあなあで譲歩して、敵とうわべだけでも仲良くするのが平和なの? 本当は何一つわかり合えていないのに? 私は――私はなにか、違うと思う」

 その美しい青の瞳には何が映っているのだろう。

「見せかけの平和の陰で泣いている人達がいる。そんな気がするの」

 ふと、自分とマナのことを言われているように思えてどきりとした。

「……そういう人達を見過ごせない。したくないってことか」
「うん……」
「そうか。優しいな、ルリカは」
「……そうなのかな。わからない。私は、私の思うことを言っているだけ。
 本当は……そこに正義だなんてご大層なものはないのかもね」

 今のは国の象徴たる王女がしていい発言じゃない。
 ルリカもそれがわかっているんだろう。だから俺と二人きりの今、この瞬間だけは許してほしいと訴えている。
 俺にそれを咎める権利はない。だってルリカは、俺とマナの代わりにこうして怒ってくれているのだから。
 そう。優しいんだ、ルリカは。

「わかってるの。……個人的な感情だけじゃ何も解決しないってことくらい。お父様にも何度も言われてきたことだから。でも――」

 そう言うと、ルリカは自分を抱きしめるように両腕を組んで、ぶるっと身震いした。

「それでも、やっぱりイヤ。嫌い、あいつだけは嫌いよ。どうしても好きになれないの。仲良くしたいと思えないの」
「ネグレイロスのことか?」

 こくん。ルリカが頷いて、綺麗な髪がさらさらと揺れる。

「……あいつの目。何かイヤな予感がするの。あの冷たい目。気味が悪いわ」

 ルリカがここまで誰かを毛嫌いするのは珍しい。さっきからしきりに「わかり合えない」と言っているが、本来ルリカはどんな相手にでも出来るだけ歩み寄ろうと努力する性格なのに。
 話を聞いていると、どうも理由は「敵国の皇帝だから」だけじゃないような気がする。

「本当は……明日だって顔を合わせたくない。コウキも会えばきっとわかるわ、私が言ってること」
「どんなやつなんだ」

 聞くと、ルリカは思い出すのも疎ましい、という顔で首を横に振った。

「とにかく信用ならないの。見た目だけなら――そうね、高貴な人間なのかもしれない。皇族という品位と物腰だけはしっかり備わってるわ。でも私にはそれがうわべだけのものにしか見えなくて。話していても、笑っていても、いつでも同じ――からっぽなのよ」
「からっぽ……」
「なのに心の底では世界を憎んで、ずっと怒りの中で生きている。そんな感じがするの」

 ルリカにここまで言わせる男とは一体どんな奴なのか。
 先代皇帝の蛮行の数々を思えば、その血を受け継ぐ息子の人間性もお察し――と言いたいところだが、それじゃただの偏見だ。俺はそういうのは好かない。
 仇の身内だろうと敵国の皇帝だろうと、まずは一人の人間として敬意を持って向き合わなければと考えている。

「明日は俺が付いてる。大丈夫だよ、ルリカ」
「コウキ……」

 だからこそ、直に会ってこの目で見極めたいと思う。ネグレイロスという男を。
 ――明日の課題が一つ、増えた。


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