Aqua-baiser 2020/01/31 19:00

打ち上げの夜

年が明けたと思ったら一月ももう最後の日となってしまいました。
時の流れの速さに恐れ戦いております……がんばらねば。


さて、今回もシナリオの一部を公開させていただきます。
今回はちょっと短めですが、よかったら読んでいただけると嬉しいです。
(一部シーンを省略しております)



(中略)


【10月5日】 19時


「せーのっ、」


「かんぱ~~~~い!!」


 人がごった返す夕方の白樺亭に、ルリカの乾杯の音頭とカチンとグラスが当たる音が響き渡った。

「んっ……んっ……んっ……
 ……っふぅ~! おいし~♥ 白樺亭といえばやっぱりコレよね」

 薄桃色のシャンパンを飲み干し、満足げに息を吐き出すルリカ。

「姫様もコウくんもお疲れさまです」

 手元のオレンジジュースをこくんと一口飲み込み、ほがらかに微笑むマナ。
 ちなみにマナはまだ酒が飲めない。

「マナもお疲れさま。今日は忙しかったでしょ?」
「いえそんな、わたしなんて全然。姫様とコウくんのほうがずっと大変だったと思います。帝国との会談なんて、わたしには雲の上すぎて想像もつきませんけど、皆さん朝から本当に忙しそうにしてましたから……すごいなぁって」
「そういうマナだって、今日はバルツァトラウム一行の救護班を担当していたんでしょう? 確か特別に専用の救護室を一つ開けたんだったわよね」
「え、えぇ。でもほとんどいつも通りでしたよ。午前と午後にお一人ずつ、ちょっと体調を崩されたって方を看ただけですから」
「でも、いつもと違う仕事をしなきゃいけないってだけで気が張っちゃって辛いわよね」
「……実はそうなんです。お仕事自体はいつもより楽なくらいだったんですけど、相手はバルツァトラウム帝国の人ですし、いつどんな症状の方がいらっしゃるかと思うと……だから、今日はずぅっと緊張しっぱなしでした」

 あはは……と力なく苦笑するマナの横で、ルリカはうんうんと頷いている。

「わかるわかる。マナも本当に大変だったのよね」

 まさかシャンパン一杯で酔ったわけじゃないよな?

「それじゃ、はい! もう一回乾杯しましょ。マナと私、お疲れ~♪」
「お、お疲れさまです~……」

 カチン。軽くグラスがぶつかる小気味良い音が鳴る。
 そんなプチ女子会を横目に眺めながら、俺は半ばあきれ顔でエールをあおった。



 夕飯時の白樺亭は客足もピークを迎え、昼間以上に混み合っていた。
 俺とルリカとマナの3人が来店した時には既にほぼ満席の状態で、店主の計らいでなんとか隅のカウンター席に案内してもらえたのが10分と少し前。
 左から俺、ルリカ、マナの順で座っている。ちなみにマナの右側は壁だ。防犯上、隣に誰が座ってもいいように俺が左端の席についている。


 それにしても、まさか昼に続いて夜もここに来ることになるとは。

 いや、別に白樺亭は悪い店じゃない。むしろ俺もしょっちゅう足を運んでいる。そこそこ安く、酒も料理も美味く、城下町の食事処の中では格段に内装がきれいで女性客も多い。
 ここでの晩飯を提案してきたのはルリカだ。マナも誘って3人で打ち上げしようと言われては断る理由もない。しかし……

「いいのかよ、お姫様がこんなところに来て」

 先付けの魚のすり身を口に運びながら、右隣のルリカに声をかける。
 本来ならルリカは、城内の王族専用ダイニングホールで王様や王妃様と一緒に晩餐の席についているはずなのだ。こんな民衆向けの食事処で安物のシャンパンを空けていい身分じゃない。まぁルリカらしいといえばらしいが。

「いいの。今日はずっと堅苦しかったんだから。ちゃあんと許可だってもらってるもの」
「許可、ねぇ……」

 眉をつり上げて猛反対するセベンヌ先生と、どこ吹く風で取り合わないルリカと、仕方ないわねぇ……とため息をついている王妃様のイメージが一瞬で頭に思い浮かんだ。

「それにコウキも一緒だし。もちろん白樺亭で食べるってことも伝えてあるわ」
「ならいいんだけどな。しっかし、王妃様はともかく、よく国王陛下がお許しになったな」
「別に? 反対すらされなかったわよ。好きにしろ、ですって。私が――」

 そこまで言い掛けて、ぐいっとグラスを傾けるルリカ。その捨て鉢な仕草には小さな怒りがくすぶって見えた。

「――今日一日我慢してみせたから。お父様にしてみれば、そのご褒美を与えてやってる、くらいのつもりなのかもね」

 ルリカはまだ、昼の会談での一件で王様に対して不信感を持っている。それがよくわかる言葉だった。

(そういえば……)

 午後のルリカの様子を思い出す。
 大広間での軽い打ち合わせ。その後の内覧会。そして、帰国するネグレイロス一行の見送り。
 午前の会談の時とはうって変わってルリカは終始おとなしくしていた。
 自分から発言することはなかったし、話をふられてもそつなく受け答えしていた。棘のある皮肉を言って周囲をハラハラさせることもなかった。
 ルリカの言う『我慢』がそれだったんだろうか。
 午前と少し様子が違ったのはネグレイロスもだ。内覧会の間も、見送りの時も、やつは殆どルリカに話かけることはなかった。午前の会談の時には散々ネチネチと絡んできたのに。
 ……俺がいなかった会食の間に何かあったんだろうか?

「なぁルリカ。会食の時はどうだったんだ? ネグレイロスに嫌みったらしく絡まれたとか言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

 尋ねると、ルリカはちょっとだけ眉を顰めて、手元のナッツを口に含んだ。

「それがね……特に何もなかったのよね」
「え、でもおまえ絡まれたって」
「うん。確かに2、3回くらいは嫌みったらしいことも言われたけど。最初のほうだけで、後はほとんど話さなかったわ。
 ……断っておくけど、私も一応覚悟はしてたのよ。絶対にまた何か厭な絡み方をされると思っていたから。少しでも不愉快なことを言ってきたら百倍にして返してやるって、ずっと反撃のチャンスを窺っていたの」

 そうだろうな。午前の会談のあいつの傍若無人っぷりを考えれば、ルリカでなくとも身構える。

「なのに――実際はほとんど話しかけてこなかったってわけか」
「そう。ほんとに何もなかったのよ、拍子抜けするくらい。そのくせ会食が終わって大広間に戻るときには、早めに迎賓館を出た私のすぐ後をわざわざついてきたりして――気味が悪いったら。お父様たちと一緒にもっと余裕を持って残っていてもよかったのに」

 だからあの時、ルリカの後ろにネグレイロス一行がいたのか。一緒にいるのは妙だとは思っていたが……

「……確かに不気味だな。まったく何を考えてんだか」
「さぁね。絡んでも絡んでこなくても人をここまで不愉快にさせるんだから、ある意味大した男よ。できればもう二度と顔を合わせたくないけどね。
 ――あ、ごめんなさいマスター。このローズベリーのシャンパン、もう一本空けてくださる?」

 たまたま前を通りかかった店主に、既に空になったシャンパンの瓶を差し出すルリカ。
 ちょっと飲むペースがいつもより早い気がする。昼の一件でよっぽどくさくさしてたんだろうか。
 まぁ王様の許可ももらっているというし、少しでもルリカのストレス発散になればいいか。

「はい姫様。度数は同じものでよろしいので?」
「ええ、お願い」
「かしこまりました」

 人のいい笑みを浮かべた店主は、賑わいを見せる店を見回すと、声をひそめながらぺこりと頭を下げた。

「どうもすみませんね、こんなお席しか用意できなくて。せっかく姫様がお越しくださったっていうのに」
「あっ、いいのよそんなこと! 気にしないで」

 慌てて手を振るルリカ。

「……こっちこそごめんなさい、むりやり押し掛けるような迷惑をかけちゃって。今が一番忙しい時でしょう?」
「そ、そんな、いえいえそんなめっそうもない! 姫様に来ていただけて光栄ですよ! 姫様もコウキさんも今日はお疲れでしょうし、どうぞゆっくりしていってくださいね。今夜は腕によりをかけた、とびきりの酒と料理をお出ししますから」
「どうもありがとう。おいしくいただいてるわ」
「本当にすみません。俺なんか、今日は昼までご馳走になっちゃって……」
「いえいえ、コウキさんならいつでも大歓迎ですよ! マナちゃんも、たくさん食べていってね」
「は、はい。ありがとうございます」
「おっといけねぇ! 姫様ご所望のシャンパンを取ってこないと。少々お待ちくださいね、すぐに持ってきますから」

 そう言って店主自ら奥の酒蔵に引っ込んでいく。



前置きが本当に長くなってしまって申し訳ありません。
本作は即堕ちではなくストーリー重視の寝取られなので、他の作品と比べるとエロに辿り着くまでが結構長いのです。したがって今までで一番のボリュームの作品になることが予想されますが、非エロ部分のCGやテキストなどは値段分に含めないつもりでいます。
Hシーンは大小合わせて30↑ありますので、エロが少ないということはないと思います。一つ一つの尺は大体Cordeliaと同程度かシーンによってはそれよりも少し長いくらいです。


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大体11KBほどの文量です。

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