火鷲将――恋人の次、キスの先
今頃何を言ってるんだという時期になってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!
先日、ギリギリまで粘っていたWindows10への移行が完了しました。
XPから7への移行の時はいろいろと勝手が違いすぎて発狂寸前でしたが、7→10は思ったよりもすんなり進んでホッとしています。それでも完全に以前の環境を再現するまでに一週間以上かかってしまいましたが(;´Д`)
ともあれ、もうデスクトップを買い換えることも無さそうですし、この新たな相棒とともにバリバリ創作活動をがんばってまいります。
さて、2020年最初の記事は、前々回からのシナリオの続きを公開させていただきたいと思います。
まずは、前々回有料プランで先行公開した本編シナリオの一部から。
(一部シーンを省略しております)
(中略)
「それではお話の続きを。えぇと――そうそう、ロートレック王国の滅亡についてでしたね」
「……ええ」
ルリカがわずかに困惑している様子が伝わってくる。
まさかこんなに堂々と応対されるとは思ってもみなかったのだろう。
それどころかネグレイロスが進んで答えようとしているのだから。
「中立国であるロートレックを侵略するのは……ふふ、国際法違反である――と」
「ええ、そうです」
「ですが姫。姫はご存じなかったかもしれませんが、我が国は国際法に則り正式な宣戦布告をしていたのですよ」
「攻め入る前日に、でしょう?」
ルリカの唇が嘲笑をかたどった。
「相手の都合を完全に無視した、一刻の猶予も与えぬ無慈悲で一方的な宣戦布告。果たしてそれは正当な交渉と言えるのかしら」
「………………」
「そもそも、バルツァトラウム帝国の圧倒的な軍事力を前に、ロートレック王国がまともな応戦などできようはずもない。それは当時の国力差の検証から見ても明らかです。勝機のない相手をただ蹂躙するなんて、そんなのフェアな外交とは認められないわ」
「フェア、ですか。……ふ、ふふ、ふっ……
ふはははははははははははははははははははははははっ!!」
唐突なネグレイロスの高笑いが響き渡った。
「ッ、だからっ……何がそんなに可笑しいというのですか!」
明らかにルリカを小馬鹿にしている。
こんなにも発言権がない我が身を悔しく思ったことはない。俺は怒りを必死で鎮めようと奥歯をぎりっと噛んだ。せめて視線だけはネグレイロスから逸らすまいと心に決めて。
「い、いや……はは、その、申し訳ない。ただ、ククッ……あまりに姫がその……いいえ、そう――そうですね。客観的事実のみを語れば、姫の仰る通りかもしれません。ええ」
「客観的も何も、それが歴史に刻まれた真実でしょう」
「それがそうとも言いきれぬのですよ、姫。まぁ一言で説明するのも難しいのですが……どの国家にも起こりうる、やむなき事情を汲んでいただきたく――」
「やむなき事情ですって? ……まさか、ロートレック王国の件は先代皇帝の――父親のやったことだから自分は関係ない、とでも言うつもりじゃないでしょうね」
白熱するあまり、ルリカはすっかり言葉遣いがくだけてきている。
もはや公的な会談とは言い難い応酬だ。
「もちろんです、ルリカ王女。バルツァトラウムのすべては過去の功罪も含め先代皇帝から私に委任されています。たとえ先代が独断で押し進めた所業であろうと、皇帝の名を引き継ぐからには我知らずというわけにはまいりません」
そしてネグレイロスの方も、最初の頃と比べるとずいぶんと気安い話し方になっていた。
「だがしかし、奇しくもそれは貴国も同様であると言えましょう。そうですよね? アルネイオス王」
「――――……」
ネグレイロスの意味深な一言で、国王様の顔色がサッと変わった。
……どういう意味だ?
なぜこいつは急にルリカではなく王様に話をふったんだ?
「どういう、こと?」
ルリカもその言葉の意図を掴みかねているらしく、呆然とネグレイロスと国王様を見比べている。
「なに、そのままの意味ですよ。
たったいま姫ご自身がおっしゃったではないですか」
――『父親のやったことだから自分は関係ない、とでも言うつもりじゃないでしょうね』――
「え? え……?」
「私の口からはこれ以上なにも申し上げられることはありません。きっと、あなたのお父上が一番ご存知でしょうから」
「お父様……?」
ルリカの目線が呆然と国王様を追う。
「お互い辛い立場ですな。アルネイオス国王陛下」
「………………」
だが国王様はルリカと目を合わさず、そしてネグレイロスの言葉にも返答しなかった。
「…………ルリカ。もう気は済んだだろう」
国王陛下は悲痛な面持ちで沈黙を続けていたが、しばらくして重々しく口を開いた。
「お父様、でも……」
「おまえの我が侭のせいでどれほどの人々に迷惑がかかったと思っている?
時間も押している。これ以上の討論は無意味だ」
「で、でも……」
「ネグレイロス殿も、帝国の随伴の方々も、おまえの自己満足のために列席しているのではない。いいかげん弁えなさい」
「…………」
(国王陛下……どうして……)
俺にはわかる。ルリカは今ひどく傷ついている。
国王陛下、違います。違うんです。
ルリカは決して自己満足なんかで意見してるんじゃない。
発言権のない俺の代わりに、この場にいながら欺瞞に囚われて何も言えないでいる列席者の代わりに、正々堂々と相手に立ち向かってくれているだけなんです。
ルリカの言動に偽りがないことは誰の目から見ても明らかだろうに。
それは父親たるあなたが一番わかっているはずではないのですか……?
「……っ……」
俯きながら肩を震わせる恋人の姿を見ても、俺は何もしてやれない。
(どうして……)
どうして俺はあの席に座れないのだろう。
ルリカの後ろに立っているのに。今こんなにも近くにいるのに。
何のために、俺はここにいるんだろう。
「――もうよいではないですか、アルネイオス王。ルリカ王女殿下はご立派だ。
それはこの場にいる誰しもが認めることでしょう」
その時、やけに朗らかなネグレイロスの声がこの気まずい空気を打ち砕いた。
端から見ればルリカを庇ったようにも思える。
「しかし、ネグレイロス殿……」
「無意味だなんてとんでもない。姫との弁論は私にとっても非常に有意義な時間でした。迷惑をかけられたなどとも思っていませんよ」
……猛烈に悔しかった。あまりにも理不尽な現実に。
どうしてルリカに助け船を出してやれるのが俺じゃなく、よりによって元凶のあいつなんだ。
「そう――ですか。ネグレイロス殿がそう仰るのなら……。
ルリカ、もう座りなさい。ネグレイロス殿のご厚情に深く感謝するように」
「…………はい」
憮然とした面持ちでやっと着席するルリカ。
短い返事の中に、無念や失望が滲んでいた。
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