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2020年 02月の記事 (6)

思叫堂~ロア~ 2020/02/28 22:09

次回作の予定仮題「のらねこ」台本:05

《ガヤガヤガヤ》
(雑踏の音)

ノラ
「ほらおっさん、そっちの荷物持ってくれよ!
オレ一人じゃ持ちきれないんだからさ!
安売りしてる時に買い溜めしとく方がお得なんだから、協力してくれよぉ!
あっ、そこの魚の塩漬け出来が良さそうだな……ちょっとオレ見てくる!」

《タッタッタ……》
(走り去る音)

ノラと暮らし始めて数日が過ぎた。
彼女は宣言通り貴方の家の家事全般をきっちりとこなし、果てには貴方の冒険に行く際の食事として簡単な弁当まで用意してくれるようになっていた。
いつもならばお決まりの保存食を持ってくるだけだった貴方が、突然弁当などを持ち始めたのもあり、周囲からは随分と冷やかされ、むずがゆい思いをさせらたものである。

ノラ
「お……やっぱりだ!
ほらおっさん、見てみろよ!
これ、肉厚だし塩漬けの具合もいい感じだ。
こいつならおっさんが遠出する時にも使えるし、スープなんかに入れても美味いと思うぞ!」

貴方の家にいられると分かった安心感からか、ノラは最初に比べて随分明るく、元気になったように思える。
彼女の行動力の高さを考えれば、元々こういう性格であったのかもしれない。
今では泊めてやっている家主であるはずの貴方の方が、その元気さに振り回されこうして買い物に付き合わされる始末である。

ノラ
「へへ、なぁ店主さんよ!
どうだい、このおっさん冒険者だからよ、保存食とか定期的に買うぜぇ?
今日もちょっと多めに買っていってもいいと思ってるしさ、数を買うのと今後の付き合いって事で、ちぃとばっかり手心を加えてくれるとか、そういうのないのかなぁ?」

だが、こうして貴方のためにと色々手を尽くす姿を見ていてしまうと、それらの冷やかしやからかいの声も……悪くないもののように思えてくるのだから不思議なものである。
何より、冒険から戻ればそこに待っていてくれる相手がいて、暖かい食事が待っているというのは、貴方にとっても初めての経験で、それが妙にこそばゆくも心地よいものであった。
尤も、そのせいで馴染みの娼婦に顔を出す機会が減り、少々恨み事を言われてしまう問題もあったりするのだが……。

ノラ
「よっしゃ! へへ、店長話が分かるねぇ!
じゃあ、これと、これと、これ……うん、全部で10匹ぐらい包んでくれよ!
あ、おっさーん! まだ荷物増えるけど大丈夫だよなー?」

貴方の承諾を得る前に話を纏めてしまったノラが、振り返り気味にそう聞いてくる。
買う前に話を通せ、という思いが沸いて来なくもないが……明るく楽しそうな彼女の顔を見ていると、まぁそれくらいならばいいかと、つい甘く許してしまう自分に気付きながらも、苦笑しながら頷き返す、貴方。
少女はそれを見て、更にパっと顔を輝かせる。

ノラ
「へへっ♪ ありがとよ、おっさん!
んじゃ、今日はこの魚を使ってスープはこの間作ったし、何か揚げ焼き的なもので……も。
……え?」

突如、今まで明るかったノラの顔が固まった。
あまりの唐突さに何かあったのかと彼女の視線の先を追うと、見れば遠くの人だかりの中、昼間から酒に酔っているのか着崩れたみすぼらしい姿の壮年の男が、ふらふらとした千鳥足で路地へと消えていく所であった。

ノラ
「あ……」

ノラは男が消えた後も、顔色を悪くし、そのままじっと路地を見つめ続けていた。
あまりの変化に不安になった貴方は彼女へ近付くと、その肩に手を置き、
【おい、大丈夫か?】と、軽く揺すりながら声をかけた。

ノラ
「えっ!? あ……うん、す、すまねぇ……大丈夫だよ!
ちょ、ちょっと……急にクラって来て、目が回っちまったみたいで……はは、ハハハハ……。
さ、さぁ……良い魚も買えたし今日はもう帰らねぇか!
なんだか色々買って、おっさんにも持たせすぎまってるしよ! へ、へへへ……。
帰ったら、美味いもの作ってやるから、楽しみにしてろよぉ!」

そう言って、ノラは塩漬けの代金を支払うと、そそくさと荷物をまとめて、貴方を急かすように家に帰らせようとする。
どう見ても普段どおりといった様子ではない事に不審を覚え、問い詰めようとするが……彼女は答えない。

ノラ
「何でもない、何でもないって!
こんなの帰って少し休めば平気だから、おっさんにも荷物持たせちまってるんだし!
ほら、家まで帰ったらおっさんは後はゆっくりしててくれていいんだしさ!」

ただ、何でもないと繰り返すばかりでノラそれ以上は何を聞いても答えてはくれなかった。
冒険者としての勘か、それとも数日とは彼女と生活を共にしている者としての勘なのか。
貴方は釈然としない、何処か嫌な予感を覚えながらも、今はただ……彼女に促され帰るしかなかったのであった。

《カツンカツンカツン……》
(歩いて去る音)


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思叫堂~ロア~ 2020/02/26 23:23

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思叫堂~ロア~ 2020/02/24 21:46

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思叫堂~ロア~ 2020/02/24 20:11

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思叫堂~ロア~ 2020/02/22 20:24

次回作の予定仮題「のらねこ」台本:01

お待たせしておりますー!
次回作予定の台本、現在こんな感じで進んでおります!!
全部完成してから、調整や設定変更で弄る可能性はありますが、とりあえずこんな方向で行く予定です!

-=-=-=-=-=-

《ガヤガヤガヤ……》
(夜の繁華街の音、以下背景でうっすら)

娼婦
「ふふ、素敵な夜だったわぁ♪
ん、ちゅぅ♪」

少し遠出の依頼を終え、仕事あがりのいつものルーチンとして馴染みの娼婦と楽しんだ貴方。
冒険者として仕事を始めて随分経ったが、このルーチンも日常のようになっていきていた。

娼婦
「ちゅっちゅぅ……ちゅぅ、ちゅるっ♪
んっ……ふふ、貴方のキスって丁寧よね? 私、そういうの好きよ♪
今日も有難う、また遊びに来てよねぇ~♪」

《ざっ……》
(※歩き出す足音)

少し情熱的な娼婦から見送りのキスをされながら、彼女と楽しんだ余韻と酒の名残に少し酔った思考のまま彼女と別れる、貴方。
初心者である内に、命を落とす者も多い冒険者稼業につきながら、一流……とまではいかないが、確実に稼ぎを作りこうして余暇を楽しめるようになったのは、十分中堅といえるだけの実力を手に出来ていると言えるだろう。

《ガヤガヤガヤ》
(繁華街の声、男達の喜びや嘆きの声が僅かに)

周囲には同じように夜を楽しんだ男達や、失敗でもしたのかくだを巻く男達がおり彼等を横目に見ながら貴方は確かな満足感を覚えていた。
もう暫く金を貯めたら、新しい装備に買い替えをしてもう少し上を目指してもいいかもな……などと、
そんな思考を少し霞がかった頭でしながら、その満足感を楽しみながら貴方は帰路につこうとしていた。

《どんっ!》
(少女がぶつかってくる音)

???
「あっぶねぇなぁ! 気をつけろよ、おっさん!」

《タッタッタッタ!》
(少女が慌てて駆け去る音)

そこに突如、背中に小さな衝撃が走る。
勢いに体が流されそうになるのを思わずこらえながら見ると、くすんだ金色のショートカット姿をした少しみすぼらしい格好の少女が走り去っていく所であった。
気配に気付かないなんて少し酔い過ぎていたか……などと、反省気味にしていると、ふと……懐の中が先ほどまでより軽くなっている事に気付く。
まさか、と思い懐に手を入れると先ほど娼婦に支払った後確かに仕舞った筈の金を入れた皮袋が、そこにはなかった。

???
「げっ……くそ!」

慌てて先ほどの少女の姿を探すと、少し先の路地に金の髪を靡かせ急いで入っていく後ろ姿を見つける貴方。
逃げ去られてはならないと、仮にも冒険者として身を立ててるものとして不甲斐ないという気持ちを押し殺し、貴方は彼女の後を追いかけるのであった。

《ダッダッダッダ……》
(慌てて追いかける音)

-=-=-

???
「はぁ、はぁ……!!
あれ、クソ……ここ行き止まりなのかよ!?
何処か、別の場所は……っ!?」

《ダッダッダ、ダッ!》
(追いつく足音)

油断していたとはいえ熟練の冒険者である貴方。
本気追えば、少女一人に追いつくなどは、それほど難しい事ではない。
貴方が彼女を見失わないよう追いついた頃には、貴方の追跡に焦り、突き当たりの路地裏に来てしまった少女が必死に右に左にと逃げ道を探している最中であった。

???
「げっ……嘘だろ、もう追いついたのかよ!?
な、なんだよ……オレはあんたなんかに用はねぇぞ!!」

貴方に突き当たりに追い詰められた少女は、そう言って明らかに貴方のものであった皮袋を胸に抱え、それを守るようにぎゅっと身を屈める。
小柄な少女がするにはあまりに哀れみを誘うような姿ではあったが、目だけはまるで射抜くかのように鋭く尖り、貴方を睨みつけていた。
手負いの獣さながらの威圧感に一瞬どうしたものかと迷う気持ちはあったものの、それでも少女がした事は許せるものではない。
一歩踏み出し、貴方は【財布を返せ】と、低く少女に言い放つ。

《ザッ……》
(貴方が近付こうと、一歩踏み出す音)

???
「ち、近付くんじゃねぇよ! ……なんだよ、なんだよ!!
少しくらい……少しくらい、いいだろ!?
おっさん、あんた羽振りよさそうだったし! オレはもう、3日も何も喰ってないんだ!?
これがなきゃ明日にはどっかで行き倒れになるしかねぇ……悪いけど絶対返せねぇ!」

髪を振り乱し、薄汚れた衣服を風に乱しながら少女は頭を振る。
貴方はそのスラムの子供のならば珍しくもない言い訳に内心呆れながらも、これでは埒が明かないと彼女を捕まえるべく、更に一歩足を踏み出す。

《ザッ……》
(貴方が近付こうと、一歩踏み出す音)

???
「ち、近付くなって言ってるだろう!?
こ……このぉっ!!」

《ダッ!!》
(少女の飛び掛る音)

捕まると思ったのであろう少女は、最後の手段とばかりに激昂しながら貴方に向かって飛び掛る。
だが、それは熟練の冒険者である貴方にとってはあまりに無謀な試みであった。
貴方から見るとあまりに分かり易過ぎる動きに、一歩身をかわし足を残しておくと、少女は勢いのままにその足に躓いた。

???
「なっ!? あぐっ!? ……ぅ、……っ、ぁ……」

《ガッ! バタンっ!》
(足払い、倒れる音)

《ちゃりん……》
(財布を拾う音)

少女はそのまま地面へとべしゃりと倒れこみ、懐に抱いていた貴方の財布ごと地面に転がる。
スラムの子供ならばすぐにまた起き上がり逃げ出そうとするだろうと、先回りするように財布を拾った所で、貴方は何時までも少女が起き上がってこない事に気付いた。

???
「ぅ……ん、ぅ……ぁ……ぅぅ」

まさか、あの程度で死んじまったのか……?と、流石に少し心配な思いで貴方は警戒しながらも彼女の腕を取りそっと脈を取る。
すると、とくん……っと小さいが、確かな彼女の鼓動がその指に反応を返してきた。

《きゅぅぅぅ……》
(※おなかの虫の鳴く音)

街中で人死には出さずに済んだかと安堵している貴方の耳にふと、きゅるるるぅ、という小さな音が聞こえてくる。
何の音かと耳を澄ませていると、音はどうやら少女からしているようであった。
間近でよく見てみると疲労と空腹からなのであろうか、少女の顔は僅かにこけ、目には薄っすらと隈が浮かんでいた。

どうやら少女の言葉はその場凌ぎの言い訳ではなく、事実であったらしいという事を察した貴方は、気を失ったままの少女を前にさてどうしたものかと少し悩んだ。
何処かに預けられる宛もないし、放っておいてもいいが、関わってしまった以上見捨てるのも後味悪いか……と、半ば諦めようにため息を吐きながら少女を見下す貴方。
そしてこの騒ぎですっかりと酔いの覚めてしまったのを感じながら、財布を改めて仕舞いなおし、明日の朝食用にと少しだけ買い物をしていく事を決める。
そうして一人分とするには少しばかり多すぎる量を買うべきか……などと考えながら、貴方は少女を担ぎ上げ、今度こそ宿の帰路へとつくのであった。

《ぎゅっ……ざっざっざっ》
(少女を担ぎ、歩き出す音)

???
「ん、ぅ……と……ちゃ……んぅ……」

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