次回作予定:クトゥルフもの 台本2
前回意見募集しましたが、ホラーテイストならば男性ナレでも平気そうという事で有難う御座いました!
ご意見参考にしつつ、作成していこうと思いますっ!
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そう、あれは確か、暇を持て余した連休中にふと思い立ってしまったのが原因でだったはずある。
特に帰省(きせい)する予定もなく、かといってめっきり寒くなってきたこの頃、何処か明確に予定を作り遊びに行くというのも気分が乗らないと、特に何の予定も立てていなかった、貴方。
その結果、最初こそ骨休めと家でゆっくりしていたのだが、それを過ぎると時間を持て余し始めてしまい、休みが終わるまであと何日、何時間などと……益体もなく考えてるようになってしまっていた。
連休も半ばを過ぎ、今更何処かに予定を立てて旅行に行くのもなと、ついつい無為に過ごしてしまい、ネットで動画やSNS等の文字をぼうっと眺めるだけの時間を過ごしていく。
特にこれといって目を引くものもなく、眠気がやってきてくれるまでの暇つぶしという思い過ごしていた貴方は……ふと、一つの話題に目を留めた。
それは、貴方の住所から割合近い……電車で数駅離れた先にあるとある、山奥の廃屋の話であった。
曰く、廃屋になる以前の持ち主は怪しげな男で、その男が住んでから山の動物の姿を見る機会が減っている。
曰く、その持ち主の男は数週間に一度、買い物をしに町まで降りていたが、もう数ヶ月その姿を見ていない。
曰く、持ち主の消えた洋館……廃屋からは、夜毎奇怪な生き物の鳴き声のようなものが聞こえて、人が寄り付かない。
曰く、噂を聞き興味本位で行った大学生のグループが、酷く慌てた様子で逃げ帰り"怪物”を見たなどと騒いだらしい。
曰く、そうした話に好奇心を刺激された物好きが何人もそこに向かい、怪物は見なかったが不気味な雰囲気を感じたと声を揃えている。
曰く、……そうした物好きたちの中には、行くと言ったきり行方不明になったまま未だ帰ってきていないものもいるという。
そんな、よくある怪談。都市伝説の類にある、子供だましのような話。
SNS上では嘘か真かと、冗談半分に面白がって行った行ってないなどといった盛り上がりを見せていたその話に、貴方は……目を留めてしまったのだ。
普段であれば、くだらないと読み飛ばすか、ふざけて冗談交じりに一言二言参加してみる程度であっただろうその話題。
だが、どうしたものだろうか……暇と、無為に時間を過ごさずに済むという僅かな高揚でもあったのだろうか?
行き帰りを考えても、使うのは精々数時間、その程度であれば構うまいと……どうせ悪ふざけに過ぎないのであろうからと。
そのノリと雰囲気と……軽い恐怖を愉しんでやろうなどと、貴方はその廃屋へ、足を向かわせる事を決めてしまったのだ。
《ざっざっざ……ざぁぁぁぁ、かーかーかー……》
(山奥を歩く音、鳥の鳴き声)
駅を降り、最寄までのバスから降りた頃にはすっかりと夜は暮れ、小さな山とはいえ深緑(しんりょく)に覆われた道を歩くのは、それだけで心の中の小さな恐怖心を煽り立てるようであった。
手元にあるのは用意してきた懐中電灯の頼りない明り。
それは深い緑色の闇の中でか細い光の束を作り出し……跳ね返る光は、恐怖を肴に面白おかしく語るのであれば成る程、うってつけと言えるのかもしれない。
確かにこんな雰囲気の中にある廃屋ならば、噂の1つも湧いて出てくるだろうという事は理解出来るものであった。
周囲から聞こえてくる鳥の……夜鷹の類(たぐい)の鳴き声であろうか?
種類までは分からないが、森に住む鳥のざわめきが貴方を警戒するように……或いは、森の奥へと誘うかのように鳴き続けている事が、やけに貴方の神経を敏感にさせた。
そうして、しばらく頼りない明りの下(モト)進んでいくと……。
《ざっざっざ……ぴた》
(歩みが止まる音)
木々の葉に月明かりが減じられぼんやりと、まるで蜃気楼かのように揺らめいて……ソレは、あった。
元は白かったのであろう外壁には蔦(ツタ)が這い回り。壁には不気味な罅割れにより、緑と茶色が入り混じるまだら模様と成している。
見えている窓の幾つかには罅が入り、或いは窓枠だけを残し、その奥。
既に人の気配の絶えた空間は、まるでここは人の住むべき場所ではないと言うかのように、沈黙を湛えたぽっかりとした暗い闇を曝け出している。
地面を見れば、幾つもの茶色の石のような塊が転がっており、その様相から辛うじて、剥げ落ちた屋根の欠片なのであろう事を想像させるのであった。
一言でいえば、廃墟。
一言でいえば、残骸。
あえてきちんと名前をつけるのであれば……幽霊屋敷。
木々により、薄れた月明かりがより一層この廃屋を不気味に飾り立てる。
確かに噂の1つも沸かない方がおかしいであろう、それだけの雰囲気をこの廃墟となった洋館は携えていた。
《ぎ、ぎ、ぎ……ぎぃぃぃぃぃぃぃ》
(重く錆ついた入り口の扉を開ける音)
錆つき、鈍く重い音を立てる鉄格子の外扉を開き、触れただけでがさりと木々の欠片が零れ落ちていく中、重い正面扉に手を掛け……廃屋の扉を開く、貴方。
すでに外観の様子からして、十分過ぎる程に背筋にうすら寒いものを感じ、ごくりと唾を飲み込むものの……折角、ここまで来てしまったのだ。
中も見ていかねば勿体ないと。そう、足を……その館の中へと、進ませてしまった。
《ぎ……きぃぃぃぃぃぃ…………ぱたんっ……》
(開いた扉がゆっくりと閉まる音)
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中に入れば、そこは正しく荒れ果てた……といった言葉以外が見当たらない空間が広がっていた。
足が折れ、布地もぼろぼろと捲(マク)れている元ソファだったらしきモノ。
色褪せ(いろあせ)、糸が解れ(ほつれ)、所々床を透けさせている残骸というしかないカーペットであっただろう布きれ、等々。
かつて、人が生活していた事があったのであろう……その名残だけを残す、そんな空虚な空間がそこにはあった。
ただ良く見回してみれば、そうした荒れ果てたものに隠れるように、ペットボトルや空き缶といった、恐らくは貴方と同じように噂を聞いて見物に来たのであろう、物好き達の名残が存在していた。
本来ならば、室内にゴミが放置されているという、眉を顰めるべき環境かもしれないが。
この空間にあっては唯一、それこそ人がいた証のようで、妙に心安らぐのを貴方は感じるのであった。
《ぎしり、ぎしり……》
(軋む床の音)
朽ちた木々から漏れる月明かりと、懐中電灯の淡い光を頼りにざっと中を見回していくと……恐らくは食堂や客室であったのだろう部屋が貴方の前に姿を表す。
だが、何処も同じように朽ち果て、今も使えるようなものは殆ど残っていないようであった。
雰囲気だけならば、未だに薄ら寒いものを感じてはいるものの、その変わり映えのしない。
言ってみれば、廃墟というイメージの想像そのままである姿しかないために、それが不思議と貴方にほっとした思いを抱かせた。
――この調子なら、案外雰囲気だけはあったとか、書き込んで盛り上がれるかもしれないな。
外観の雰囲気に何処か気圧されるものを感じていた貴方は、その安心感からかぱしゃりっと記念とばかりにその荒れた様子をスマートフォンで撮りつつぐるりと見て回って行く。
マナーが悪いながら、人が確かに何度も来ていると分かるゴミを見かける度(タビ)に、苦笑いとでも言うべき笑みを浮かべながら、1階を見て周り、そして軋む階段を上り2階へ上がる。
《ぎしり、ぎしり……》
(階段の軋む音)
階段を上った所で、近くにある部屋も覗いてみたが……2階は元の住人の私室(ししつ)が多いのか寝室や物置といったものが、ちらほらと姿を見えるようになってきた。
けれど、一つだけ鍵の掛かった部屋はあったものの 。
そのどれも特別に目を引くようなものはなく……、変わりばえのしない荒れ具合に、貴方は安堵と何処か拍子抜けしたような思いが沸いてくるのを感じながら。
――もう見るべきものもないし、そろそろ帰ろうか?
などと、この廃屋への興味も薄れ始めさせていた。……2階の最も奥にある、その部屋へとその足を踏み込ませてしまう、その瞬間までは。
今にして思い返せば、違和感ならば廊下のその直前……部屋の扉に近づくにつれて注意すべきものは多かったように思える。
例えばそれは、割れたガラスの窓の縁(フチ)に妙に粘り気を残した、唾液というには量が多すぎるねとりとした付着物が着いてはいなかったか?
例えばそれは、部屋に近づくに従い落ちていたゴミが減っていき……辛うじて残っていた幾つかの物は、熱……いや、まるで酸にでも溶かされ変形したような、不可思議な形で転がってはいなかったか?
振り返ってみれば。
今になってみれば。
それは確かに、異変の前兆であったはずであった。
けれど貴方は、その時……それに気付く事が出来なかった。
或いはそれは、変化のない荒れ模様がもたらす退屈と安心感こそが……その目を、耳を、曇らせていたのかもしれない。
貴方は、その最奥の扉に手を掛けた。
ノブへと手を当てた時、ひやりと……一際、背筋に走る悪寒を……貴方は確かに感じたはずだったのに。
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その部屋は……いや、部屋と呼んでいいかも分からないその場所は、視界の全てを埋め尽くす程に、ソレに塗れていた。
所々、木材であるはずの床が溶けたプラスチックのように大小に侵食され、穴がぽつりぽつりと空いている。
元々設置されていたであろう、家具という家具、床や壁その全てに……何らかの残骸によるものか灰色とも茶色ともつかぬものを内包した、ぶるぶると不気味に震え続ける緑色の粘着質な唾液……いや、ナニかの這いずり回った名残としか思えぬ、むわりという刺激臭と不快感を感じさせる付着物が、余す所なくへばりついていた。
そして何より、その場所の中央……。
この空間の主であると。
この空間の源であると。
この空間こそ、自身であると。
そう主張するかのように、ぐちゅりぐちゅりと目や口を生やしては消しながら、不定形に形を変え、その透ける緑色の体内に取り込んだ何かを熱心に貪るように蠢く……貴方の知る、どんな生物とも一致しない、するはずのない……ナニかが、そこにいた。
《がた……っ》
(驚きに足音を立ててしまう音)
驚きのあまり、貴方はよろけそうになる足を支えようと足に力を込めた。
だが、倒れる事こそ耐える事が出来たが……足へと加わった力は、そのまま床へと伝わっていき。
朽ち掛け脆くなっていた床は……物理学の作用に正しく回答せんと、ぎしりと……大きな音を立ててしまう。
《ぐちゅり……ねちょり》
(ショゴスが体を動かす音)
ショゴス
《てけぇ…………????》
ぐちゅり、ぐちゅりと何か……白い、まるで大きく穴の開いたボーリングの玉のような白いナニか。
同じく白い、折れた垂木(タルキ)や、木の枝といったようなサイズの棒のようナニか。
それ等を体内に入れながら熱心に貪り、ぶるぶると震え続けていた人の背丈程もある緑色のソレは、ぴたりとその震えを止めた。
それからゆっくり……そう、形が変化し続けている以上明確にそうと分かるはずがないのに。
何故か貴方にははっきりと分かった。
ソレがぐるりと視線を動かして、確かに……貴方を認識してしまったのを。
ほんの数瞬、瞬きを何度か出来たであろう、それだけの時間。
その間だけ……ねちょりとも、ぐちゅりとも、音が一切しない沈黙が、部屋の中に広がった。
だが、それもほんの僅かな間の事だけであった。
緑色の不透明に濁った体に、貴方の方向に向けて確かに……目と口、としか形容出来ない部位を発生させたソレは、再びブルブルと体を揺らし始め……その体で、獣の、鳥の、人の。
この近くで見かけるられる生物、その全てが一つに集まり、同時に叫んだような甲高い不協和音を奏でながら……明らかな歓喜の叫びを上げたのだ。
ショゴス
《てけぇ……り、り……てけぇぇぇぇぇぇ!!りーーーりーーーーーぃぃぃいぃぃぃいい!!!!!!!!!!》
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それから先は、倒れてしまった貴方にとっても夢の……いや、悪夢のような出来事の連続であった。
一瞬にして襲われ、部屋の奥へと逃げ込むしかなかった貴方は、辛うじて上へと繋がる梯子を部屋の中に見つけ。
粘着物が体に張り付く不快感に耐えながら、緑色の化け物から逃れるべく必死に上がり、その先の部屋へと駆け上がった。
そして、そこであの黒い書物を読み…………そう、そして。
そして、……あの化け物を退けた、黒く、華奢で……何処か人間離れした雰囲気を持った少女に出会う事になったのだ。
仔山羊
「じゅる……ん、ちゅぅ……れちゅぅ……んんぅ、起きていないと勃ちが悪いですね。
ん、ちゅぅ……まったく、力が必要だと言ったというのに……マスターとして、ちゃんと分かってるんですかね?んっ、じゅるるぅぅっ……!」
倒れてしまった貴方がこれまでの経緯を思い出し、ようやく意識を取り戻そうとしていると……。
何故か妙に、下半身が生暖かく……いやはっきりと快感と分かるものが伝わってくる。
それは貴方のモノを吸い付き、しゃぶり、舐め……丹念に何度も上下に、左右にと動いている。
まだ意識がはっきりしていない中、ずきずきと痛む頭を揺り動かすようにして、ゆっくりと上半身を起こし目を開いた所で。
貴方は、化け物に襲われるのとはまた別の驚きを、味わうことになるのであった。