『ヤンデレCD Re:Turn』プレリュード第四楽章
「ねえ夢乃、授業も終わったし弓亜と放課後デートしよーぜー」
5限目が終わり先生が教室を出た瞬間、四季島弓亜……シッキーが、そのスゴイでかいおっぱいをあたしの腕に押し付けてきた。……まあ、大きさでは人のこと言えないけど。
「うーん、今日はあっくんちにご飯持ってってあげようと思うんだけど……。昨日はどっかの誰かのせいで邪魔されたしね! あの量の肉ジャガ全部食べちゃうかふつー?」
「だって弓亜、成長期なんだもん、ハート♪ なんちゃって」
「それ以上そのおっぱいデカくしてどーすんの……」
「あれれー? おっぱいは男をたらしこむ武器であり、時には凶器になるんですぞ小鳥遊氏? いい歳してカレシもいないんじゃーそのぶるんぶるんのおっぱいが夜泣きしちゃうんじゃないかなー?」
「シッキーだっていないだろっ!」
「弓亜のカレシはー、このスマホのアプリの中にいるでござるー♪」
「はいはい、一生やってなさい」
あたしは腕に押し付けられたシッキーのおっぱいを振り払って教室を出ようとする。全く、ここ2~3日シッキーがよく絡んでくるなー。まさか、実は何か悩みがあったり……とか? シッキーの悩みなんて、お気にの乙女ゲーアプリがサービス終了とか、そんなくらいしか思いつかんけど。
「ちょっと夢乃さーん? いま何かすごく失礼な想像したっしょ?」
すぐに追いついてきた弓亜が頬を膨らませてあたしに言った。その愛くるしい表情をクラスの男子に見せてやんなよ、10人くらい一気に恋に落ちるよたぶん……。
「シッキーの悩みなんて、お気にの乙女ゲーアプリがサービス終了とか、そんなくらいしか思いつかんけど、って思った」
「ひでえ……そりゃひでぇよ小鳥遊氏……今の暴言のお詫びは駅前のクレープで許してやろう。さ、行くよ夢乃ー♪」
「ちょ、ちょっとシッキー……引っ張るなー! 手をはーなーせー!!」
こうして今日もあたしはシッキーに振り回されて、あっくんちには行けないのであった……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆☆☆☆☆
「あれ……? 岬ちゃん?」
「ん? あー、あっくんの妹ちゃんだっけ」
わたしと夢乃は駅前のクレープ屋の前で極上の糖分補給をしていたところ。夢乃は幼なじみのお家訪問を邪魔されて最初は不満そうだったけど、女の子は甘いもの食べてりゃ大抵の不満はバグダッドあたりに吹き飛んじゃうのだ。
満足そうにデラックスフルーツクレープを頬張っていた夢乃は、気になる彼の妹ちゃんを見つけたようだ。わたしも夢乃の視線の先を追う。
学園の帰りに寄ったのだろう、スーパーから出てきたと思われるその子は学園指定のカバンの他に、ネギが突き出た、食材いっぱいのビニール袋を手に提げて私たちから離れていった。
ふーん……あれが……“野々原岬”ちゃん……ね……。
わたしはこの街で諍いを起こすつもりはない、“死季嶌書房”は遠からず廃刊になる、12人の“姉”たちのその後の身の振り方など、このわたしの知ったことではない。今は……言うなればバケーション? 一度くらいはね、“普通のJK”ってやつを体験しておきたかったのだ。
しかし、“普通のJK”に成り切ろうと思ってたのに“千里塚”に余計な頼み事までしちゃうなんて。お友達のために心までJKに擬態しちゃってたかな。うーん、わたしの演技も堂に入ってるなあ。これなら“亜桜”にだって張り合えるかもね。まああっちはお人形遊びだけど。
うん、とにかく夢乃のおかげですっごくリフレッシュ出来たかな、こーゆー経験はきっと役に立つ、ありがと夢乃……。今後のための優良なデータも収集出来ました。夢乃さんには本当にお世話になってしまいこの“ユーミア”、感謝の念に堪えません。
恩返しと言っては何ですが……、せめてこのくらいは……させていただきましょう。
「ねえ夢乃、あの子も誘ってさ、どっかでお茶してこうよ」
「うぇ!? いいのシッキー!?」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、でしょ? 妹ちゃんと仲良くなっといて損はあるのかー?」
「ちょ、ちょっと! だからそんなんじゃないって言ってんのにもう!」
「はいはい、行くよ!」
夢乃の手を引っ張って、野々原岬の元へ駆け出す。
さて、“ユーミア”のお節介を生かすも殺すもあなた次第です、小鳥遊夢乃。
それをもって……、ユーミアの長き休暇を終了とすることといたしましょう。
※このミニストーリーは、2020年7月26日配信予定の『ヤンデレCD Re:Turn』プレストーリーです。読まなくても本編には全く関係ございませんのであしからず。