【MooNSHINeR】10月作品【乙女向け】
■プレリュード
「おはよう、ダーリン♪」
目が覚めた時、見知らぬ美少年が隣で微笑んでいたらあなたはどうするだろうか。
私は……まず、自分の体を見た。
全裸だった。
もう一度少年を見た。
上半身は裸だ。下半身は……と、確認する度胸はない。
慌ててもう一度自分の体を、思い切り股を広げて股間を見てさわった。
「うわ。そんな確認する? するか。あはは」
無邪気に笑う美少年の手が頬に伸びる。
そして。
「ゆうべはとっても可愛かったよ。ご馳走様でした……お姉さん♪」
優しく重ねられた唇が熱い。
人生初のキスに目まいを覚える。
いいえ。
これは、二日酔だから、なのかしら――
* * *
昨晩のアルコールが抜けて、まともな思考力が戻るのに一時間ほどを要した。
うろたえる私を尻目に彼はテキパキと料理をして、二日酔の胃に優しいお粥を作って振る舞ってくれた。
ボクもいただくね、と言ってソーセージとタマネギを炒めて目玉焼きを載せたおかずまで作ってペロリとたいらげる様に感心してしまう。
まるでもう何ヶ月も一緒に暮らしているかのように、彼の動きはスムーズだった。
もちろん、そんなハズはない。
同棲経験などないし、そもそもこれまでの二十数年間の人生で彼氏がいたこともない私だ。
こんな年下(に見える)美少年とお知り合いになったこともなければ、裸を見たことも、見られてこともない、ハズだった。
「それで……あ、あの。シュン、くん? だっけ? 私が、キミを?」
「そう。お姉さんがボクを拾ってくれたんだよ。いわゆる神様ってヤツ」
神待ち――家出をした人が泊めてくれる人を探して待つ行為。
主に少女が男性を待ち、そして一晩の宿代代わりに体を差し出すというふしだらな行為。
それを、私が!
こんな美少年を相手に!?
この華奢な体を差し出されて、いただいてしまったと言うの!!??
いい歳して処女なのに!!!???
「あぁ、安心して? ゆうべは中出ししてないから。さすがに初めてでそれはまずいもんね?」
「なんで私が初めてだってわかったのよ~! よ、酔ってる時にそんな……なにも覚えてないのに!!」
盛大に墓穴を掘っているのだけど、それにも気付かないほどうろたえる。
別に大事に取っておいたわけではなくて、ただモテなくてそんな機会がなかっただけ。恋愛に興味を持たず、勉強と仕事に明け暮れてアラサーになってしまった、ただの行かず後家。
もう一生、恋愛とは無関係なのだろうと、仕事に人生を捧げようとしていた。
その仕事にも裏切られ、浴びるように酒を飲んでしまったのが昨日。そして家出少年を拾って連れ帰り、あろうことか酔った勢いで淫行してしまうとは。
どうやら私は、人生そのものを踏み外しかけているらしかった。
「なるほどね~。社会人は大変だ。けど、クビになったり左遷されるわけじゃないんでしょ? お姉さんがいなければ、今後の業務にも差し支えそうだし」
「そうね。でもまた面倒事ばかり押し付けられて、業績は副部長に横取りされる……それならもう自分から辞めた方が」
「目を付けられてるんなら上手いこと転職するっていうのは難しいかもよ?」
「ぐえぇ」
「あはは。とにかく、一週間は休暇もらえたんだし、その間にゆっくり対応策練ればいいんじゃない? お姉さん、仕事できるんでしょ? だったら、その頭脳を別方向に向けてやれば、ねぇ?」
あくどい笑みを浮かべる美少年――シュン。
気付けば私は、前後不覚になるまで酔い潰れた原因を話して聞かせていた。
ゆうべは私が発案し、私のチームが実行した業務の大成功を祝うパーティーだった。
ただし主役は私たちではなく、副部長。
私たちの仕事は副部長の旗振りによって行われたことになっており、その業績は副部長一人のものとして扱われていた。
私たちのチーム以外にも事情を察した人たちはいたが、立場上それを指摘できる人はなく。あえなく私たちの業績は盗まれてしまった。
問題は、これが初めてというワケではないことだった。
私のチーム以外も副部長に業績を横取りされた人は多い。しかしそれを指摘した人はすぐにその席を失い、追われるようにして自主退職していった。
お偉方の親族であるという副部長は、これまでもそうして人の業績を奪うことでその地位にしがみついてきた。今後も変わることはないだろう。
私も業績を奪われたのはこれで三度目になる。
さすがに、もう疲れてしまった。
パーティーの後、逃げ帰ろうとする私の手を取ったのは副部長派閥の男性社員たち。
嫌味でも言われるのかと思ったのに、彼らもまた副部長に従わされているのだと窮状を訴えかけてきた。
あまり話すことのなかった彼らと意気投合し、行きつけだという高級そうなバーで呑み始めたことは覚えている。
副部長への愚痴を肴に調子良く呑まされ続けた結果……どうやって店を出たのかは覚えていなかった。
どう酔っ払えば、バーのあった六本木でシュンくんを拾って祐天寺の自宅マンションまで連れ帰って来られるのか。しかもその後、しっかりとやることをやり、ちゃんと化粧を落としてから寝ただなんて。
性知識どころか恋愛経験さえない私が、こんな美少年相手にセックスできるハズがない……のだけれど、酔い過ぎていてなにをしでかしたかわかったものではない。
もしかしたら、酔い潰れた私を彼が無理矢理に? こんな十人並みの器量でしかない私を? 女性に困ったことなど一度もなさそうな絶世の美少年が?
あり得ない。
つまり、私の方が犯罪者の可能性が高いわけで。
「こんなオバサンに付き合わせてしまって悪かったわ。あの、できれば訴えないでもらえると助かるのだけど」
「あ~……それじゃ、ひとつお願いしてもいい?」
「で、できること、なら」
「あと二三日……ん~、お姉さんが休みだっていう一週間、置いてくれない?」
「え?」
「せっかく現れてくれた神様と一晩でお別れするなんて寂しいじゃない? だから、ね?」
「ええ?」
「もちろん、神様へのご奉仕はしっかりとさせてもらうよ……この体で♪」
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10月28日(土)発売予定!
声優・イラストはこちらのお二人。
姫咲遙さんは初参加の男性声優さん、
そしてイラストはうちではロリショタ系でおなじみのアラタシノブさんです。
近日中にDLsite様にも予告ページができます(内容は同じ
ボイスサンプルは近日公開しますのでお楽しみに!
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