○逆らえない鬼52○

白澤の寝室らしい部屋に通され、壁際のベッドにヤツは仰向けに寝かされた。
なんだか気だるい感じが艶っぽくて、白いシーツに黒髪が散ってエロい。



鏡に映った頭に指を当てると、ヤツの思考が流れ込んでくる。



(香水の香り・・・また誰か女性を連れ込んでいたんですね・・・・)



怒るでもない、半ばあきれたような感情だった。白澤の女たらしぶりを知っているからか、他の女と遊ぶのは容認しているらしい。しかし、少し面白くなさそうな感情とも読み取れなくもない。
複雑だな・・・鬼神様は多少なりとも白澤に恋心みたいなのを抱いているみたいなのに、相手はセフレの一人としか見てくれてないってわけか?



まあ、そこは俺が憐れんれやる必要はない。勝手に惚れたコイツが悪いんだ。
ヤツが不機嫌そうに眼を閉じ、ベッドの上で体勢を整えようとすると、華奢な男の手がその肩を押してシーツの上に張り付けさせる。
そして瞼を閉じた白い顔に影がかかり、完全に闇になる。
鏡を引くと、やはり白澤が覆いかぶさってキスをしていた。
ヤツはシーツに手を置いて少しだけ握りしめている。無抵抗なのが気に障る。キスされている顔も、なんだか悦んでいるようにすら見えてくる。



「ふっとばせ」



俺の一言で、ヤツは上体をバネのように起こして、両手を前に突き出して身体の上に覆いかぶさっていた白澤をふっとばした。



バン!と白澤の身体が壁に跳ね返る音が響き、次いで床に落下する爆音が聞こえてくる。
自分のやってしまった突然の行為にヤツも目をむいて驚いていたが、そそくさと視線をそらすと口元をぬぐいながら



『・・・まだ昼間ですっ・・・』



と、いけしゃあしゃあと言い放った。
さっきはキスだけで身体を痺れさせていたというのに・・・ツンデレもここまで来ると極端だな、嫌われるぞ・・・?



『いたた・・・ひどい!いきなり暴力はやめろよ!』



白澤が打ったらしい肩をさすりながらヤツにかみつく。それにしても、鬼神様にふっとばされてこれぐらいで済むコイツも大概丈夫だな。



『・・・無用な事をするからです・・・私は、ただ薬をいただきに・・・』



だが、再び白澤に覆いかぶさられて、ヤツは簡単にもう一度シーツの上に黒髪を散らした。



『薬やるから、ちょっとおとなしくしてろよ・・・』



『まさか「注射」とか言わないでしょうね。低俗の極みです』



鬼神様の辛辣な物言いに、何かを含むような邪悪な笑みを浮かべ、白澤はヤツの上体から影を反らせた。
それにしても、頬がほんのり紅く染まって白いシーツに黒髪を散らせて、襟元を肌蹴させている姿は果てしなくエロい。
もうすでに、例のエロい香りがヤツからたちあがってるのだろうか・・・。見ているだけで、昨日のセックスを思い出してギン勃ちしそうだ。



鏡はヤツの上半身を映しているだけなのでその下の出来事はわからないが、白澤が何かをしでかしたらしい。



『あっ・・・!だめです・・・!』



急いでヤツが起き上がろうとするが、振り上げた両手首が上から透明の手に押さえつけられたように、両肩の横でシーツに縫いとめられる。



『うぅっ!これ、卑怯です!解放してください!』



どうやら特別な拘束の術でも使ったらしい。両手首を縛られているらしく、上半身の首や胸元は動いても、手首だけはシーツにはりついたままだった。



『嫌ーだよ。さっきの仕返しを、これからするんだから・・・』



あの影を含んだ笑みはそういう意味を込めていたのか。良いぞ、もっと苛めてやれ。そして、恥ずかしい場所を好きな男に見てもらうんだ。



『仕返しなどっ・・・!あなたが全て悪い・・・!あっ、捲るな!』



鏡はヤツの上半身の姿で固定だ。
下でどんな卑猥な事が行われ、ヤツがどんな表情をするか、しっかりと見届けてやろう。



珍しく焦りの見える表情で上半身をくねらせ、首を捻って下半身で悪戯をしかけている白澤に声を荒げている。
しかし、当人はどこ吹く風、だ。
たぶん両手が動かないとわかりきっているから余裕なんだろう。・・・これは、今までもかなり使ったな、この術。
これを使って、数々の女たちもモノにしてきたのか?いや、それにしては、女たちから過剰な不満声は聴かない。
浮気された、よその女と合いびきをしていた、違う女の名で呼ばれた・・・これらはしょっちゅう聞く。
なんだかだんだんムカついてきた。
女から聞く不満の声は、浮気性、だらしない、誰とでもつるむ・・・要はこいつがモテてるって証拠じゃないか。
女に不自由していない上に、地獄の補佐官様までモノにして、一体なんなんだコイツは?
ツラは悪くないが、体つきなんて、俺に比べたら貧相なもんだ。俺だったら、女ができたら浮気どころか、相手に浮気されないか心配する側だというのに・・・



「おい、こいつを蹴れ!」



怒りにまかせて鏡に向かって命令する。しかし足も拘束されているらしく、ヤツがジタバタしている姿だけが映し出され、白澤の無様な叫び声などは聞こえてこなかった。



『脚っ・・・!縛るのやめてください!』



縛ってるのか?ちょっと興味がわいた俺は、鏡の目線を下に落として下半身を映したが、軽く膝を立てて開き気味の足首には、縄の跡すらない。
両手を拘束しているのと同じやり方で動きを止めているのだろうな。しかしいいな、この術。俺も習得したい。女を抱くだけじゃなく、金儲けにも利用できそうだ。もちろん非合法の。



『あれ?下、履いてないね。どうしたの?』



ステテコが無いのを指摘され、再び上半身に焦点を合わせた鏡にヤツのふて腐れた顔が映る。



『今日は蒸れるから・・・脱いだだけです・・・』



『ふーん、「今日も」・・・ね・・・』



『あっ!』



ビクン、とヤツの首が反り返り、吊りあがっていた眉が悩ましげに歪められる。白澤に悪戯をされ始めたらしい。



ナニをされているのか見たいが、ここはコイツの表情だけを眺めて、その感じぶりから読み取ってやろう。



『止めてください、触らないでっ・・・』



語尾は息を詰め、それ以上言葉にならないようだった。瞼を強く瞑り、首を左右に振って嫌がる仕草を見せる。
可愛いな。
ヤルときはいつも自分の気持ちよさとコイツの声と雰囲気と白い肌の感触だけで精一杯だったが、こうやって冷静に・・・いや、興奮気味だな、俺も・・・表情だけ見てみると実に面白い。
あの冷静沈着で仏頂面を崩さない無表情の化身が、色事に関するとこんなに色んな顔をみせるのもかと思うと、笑みがこぼれてくる。
一体何人がこいつのこんな表情を知ってるんだ?
白澤は間違いないとして、こいつは他にも抱かれているって口ぶりだったな。
どこの馬の骨かわからない低俗な男たちにセクハラされているのを見るのも楽しいが、この表情を俺だけのものにしたいという欲望もわきあがってくる。
この悪戯が終わったら、俺以外に抱かれるな、とでも言い置いておこうか・・・。



俺がそんな事を考えているうちにも、鏡の向こうの補佐官様の表情はくるくると変わってゆく。



『うあっ!・・・脚、閉じさせろ・・・ばかっ!』



『バカはお前だよー。触診してるんだよー』



白澤のバカみたいな声が鏡の枠外から聞こえてくる。
脚を広げられて、敏感な膝や太腿とかをさわられているんだろうか?触られるたびにヤツはグッと息をのみ、快感の声を出すまいと堪えるように口をつぐんで、首を逸らせたり左右に振ったりを繰り返している。



『こことかも変な感覚あるの?』



『ぅっ・・・あ、あります・・・っ』



『へえ、ここも?』



『て、手つきが気持ち悪いっ・・・です・・・っ!』



『こいつ・・・。せっかく診断してやってるってのに随分な口の聞き方するじゃないか・・・』



拗ねたような白澤の声がしたかと思うと、ヤツがあああっと声をはりあげ、しきりに激しく身体を蠢かせ始めた。



『裾っ・・・!捲りすぎです!下げてください!』



ヤツの言葉どおり、上半身、腰帯から上しか映していない鏡の映像に、黒い着物の裾がわずかに映った。
これは完全に褌丸見えだな。
今のヤツの身体には、全身を舐められている感触がはい回っているからな。特に、乳首とアソコの性感帯は入念に愛撫されているから、恥ずかしくも反応しているだろう。



『ふふん、感じてる割には反応薄いね』



ヤツの両足の間を覗きながららしく、白澤のスケベそうな声が聞こえた。
そう言えば、この鏡の命令でいくら感じても、直接触られない限り実体は反応しないんだったな・・・
無様におっ勃ててるところを見られて取り乱す顔がみたかったが、まあ仕方ないか。
白澤のエロ神獣が、ここまできて何の悪戯もしないなんてわけはないだろう・・・。



俺は再び鬼神様の頭に指をあてて、その思考を読み取った。



(反応していないのか・・・よかった。でも、こんなに感じてるのに・・・?)



くく、やはり相当感じているらしい。



「ほら、もっと激しく舐め回されろ」



『んぐっ!?んんんん・・・・っ!』



俺の追加命令に、上体を激しく反らせて必死で口を噤み、声を出すまいとがんばっている。だが、そんな様子を白澤が見逃すわけないよな?



『あれ?どうしたの?もしかして、今凄く感じちゃってる?』



『んっ・・・なわけ・・・・っ!』



(あぁぁぁ・・・話しかけるな、口を開くと、声が出そうになるっ・・・)



『ふふ、内腿がブルブル震えてるんだけど?』



『ひゃあっ!あっ!』



ヤツが素っ頓狂な声をあげて首を逸らせた。



(脚、舐めるなっ・・・!も、もう我慢できない・・・!)



なんだ、もう我慢できないのか?仕方ないな、少し緩めてやるか・・・



「アソコも胸も、ケツも全部激しく舐め回されてるぞ?」



『うぐっ!?あぁぁっ!あっ!やめ、やめ・・・!』



はは、とうとう声出しやがった。何もされてないのに、「止めろ」だと。笑えるな。



『やっぱり昨日と同じヤツに、また玩具にされてんの?お前も好きだねー』


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