●それだけでもいいんです3●


「それでは・・・本当に申し訳ありませんね」



背後で鬼灯様が動く気配が伝わり、俺は心臓の高鳴りを止められなかった。背中に汗がにじんでいないだろうか。たとえにじんでいたとしても、鬼灯様の脚立として励んだため、汗をかいたと思われれば良いのだ。
しかし、同時に脚立代わりごときで・・・と呆れられないか、と思ってしまう。



俺の頭で鬼灯様によく思われようと思考がフル回転する中、



「それでは失礼します」



と、するりと俺の頬を通って鬼灯様の御み足が通過し、肩に重量のある柔らかいぬくもりがのしかかってくる。
鬼灯様の太ももとお尻・・・!
嬉しい。嬉しすぎる。俺は勃起していた。
鬼灯様の太ももは白いステテコに覆われていたが、その禁断の黒い着流しの中のぬくもりを感じることができて、俺はここ数十年、味わったことがない至福感に包まれた。



「では、立っていただけますか?」



「は、はい!」



俺はそのまま立ち上がろうとしたが、鬼灯様がバランスを崩しかけ、俺は慌ててその御み足を両手で掴んだ。
自分の反射的な行動力に自分でも驚いてしまう。
しかし肩車をするとする方が相手の両足を固定しないと不安定になってしまうので、肩車としてはこれは正しいのだ。
やましい行為ではない。
それにしても、ああああ・・・鬼灯様の尻が、俺の肩に・・・。後頭部には下腹の温かさが・・・もしや、首の根元に当たっているのはご神体!?



それに思い至った瞬間、俺の性欲は爆発した。両足が震え、心臓が耳にまでドクドクと響き、鼻からは血が出そうだ。



「・・・大丈夫ですか?」



ガクガクと震え始めた俺の様子を慮って声をかけてくださっている!ああ、幸せだ・・・!



「いえ、大丈夫です!ちゃんと肩車します!」



そう言って俺はズンと力強く立ち上がり、立派に肩車して見せた。
急に直立され、鬼灯様が再びバランスを崩しかけたが、両足をしっかりと、しっかりと握って固定してさしあげた。
ああ・・・俺の両頬に鬼灯様の太ももが・・・温かい!正直、この太ももに挟まれて窒息死してもいい・・・!



顔を上げると、鬼灯様が両手に抱えた巻物を、手を伸ばして資料棚へ突っ込んでいる。
下から覗く鬼灯様のアングルなんて、そうそう見れたものではない。
無駄な肉のないほっそりとした顎のラインと、瞬く長いまつげがやっぱり色っぽい。
俺はばれないようにため息をついて、自分の中で滾る熱をゆっくりと吐き出す。
首回りがとてつもなく幸せだ・・・。
両頬も素晴らしいが、お尻が乗っていらっしゃる両肩には心地よい弾み具合と温かさが伝わってくる。
そして首の真後ろには・・・
いかんいかん、こういうことは考えてはいけない。



俺は正直言って男色には抵抗がない。
自分が生まれたご時世が、まさに男色流行時で、武士同士で念友と言って男色の友達がいるのが普通と言った世の中だった。
そんな亡者が大量にあの世にやってきて、すくなからずも現世の流行を黄泉にまで影響させるのだ。
正直、生まれてこのかたホモったことは何度もある。このゴツい体型の俺だ・・・。
ぶっちゃけその方面にはモテていた。
が、流行りは廃るもの・・・。徐々に世間は女色へと傾向し、男色が気味悪がられる世相へと変わっていった
(一部変な方向で支持する女性が新たに増えたのは俺も想像外だったが彼女たちはガチの男色はみたくないだろう)



今は廃れたとはいえ、俺の中にはバイセクシャルな嗜好が残留し、どちらでもイケる口になっている。

男色真っただ中な時に一番噂されていたのは、当然一番目立つ位置にいて一番美しかった鬼灯様である。
獄卒に就任したのも、鬼灯様目当てだった・・・。
同じようなムジナの同士が数人いて、鬼灯様が触った紙切れやら、鬼灯様が捨てた割り箸やら、鬼灯様が座っていた直後の椅子やら、ホクホク顔で奪い合ったものだ。
今思うと、若気の至りだったと思う・・・。



そんな風に面白がっていたやつらも人事で方々へ飛ばされたり、女色に鞍替えしたりと、もう当時の興奮ぶりはなくなってしまった。
あいつらも、今でも心ひそかに鬼灯様を慕っているだろうか?



ざまあみろ、俺はその鬼灯様を、今、肩車しているのだああ!!



「・・・すみませんが、もうちょっと安定おねがいします」



「ああっ、すみません!」



感動のあまり肩から体が溶けそうになっていたが、自分が与えらえた正確な使命を思い出し、俺は姿勢を正してシャンと脚立へと成り代わった。
憧れの相手が目の前にいて、相手が嫌がることとわかっていながら自分の欲を満たすためにムチャをする輩がいるが、俺はそういうのは大嫌いだ。
鬼灯様が脚立を望むなら、アカデミー賞級の脚立を演じてみせるのみだ。



ああ、しかし幸せだ・・・鬼灯様が動くたびに両肩の幸せがぐにぐにと動き、肩から下げられた両足がひらひらと俺の両の目の端に映っている。
態勢を安定させてるため、鬼灯様の足首に添えられた俺の手は、その滑らかな白い肌の感覚を細胞レベルで感じとっていた。



それにしても、俺は幸せだ。幸せすぎて、腰が前かがみになってきて、ちょっとシャレにならんことになってきてしまっている。
顔が熱くて鼻血も出そうで、興奮の息を気づかれないように吐くのが精いっぱいだ。
俺のでかい鼻からズヒューズヒューと吹き出る厄介な鼻息に気づき、鬼灯様が手を止めて下を向く。
なんてことだ、顔を真っ赤にさせて下から鬼灯様の美貌を見つめていた俺と、ばっちり目があってしまった。



「あの・・・」



鬼灯様が何か言おうとした瞬間、バツン、と世界が暗くなった。


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