●広翼の孔雀21●

鬼灯はいつまでたっても出ない相手に苛立ちの頂点を迎えていた。
そしてようやく出たと思えば、相手は桃太郎である。



「はい、極楽満月ですー」



「・・・あの白豚はどこへ行ったんですか・・・」



電話口からでも縮み上がりそうなほどの恐怖オーラが漂ってくる声だった。
当然その声に当てられた桃太郎は狼狽し、おたおたと周囲を見回しながら言い繕う。



「は、はいいっ・・・!あの、えと、そうですね・・・いない、みたいですけど・・・」



「携帯にもかけたんですけれど、まったくつながらないんです・・・かなり困ったことになっているので、帰宅次第こちらに連絡を入れるように言い置いてください」



鬼灯の声はどんどん闇が濃くなってゆく。
桃太郎は鬼灯の迫力に圧倒され、背筋を伸ばして直立不動で電話に聞き入るしかできない。



「わ、わかりましたっ・・・!本人には、必ず・・・!」



「よろしくお願いします」



最後だけ鬼灯らしく丁寧に念を押し、電話を切った。



(あのバカ、一体私に何をしたんですか・・・!)



自室に戻り、新しい着流しに着替え終え、鬼灯は盛大な舌打ちをする。
今日だけで5人に犯されたようなものだ。
仕事もはかどらないし、今夜は徹夜かもしれない。



自分の体よりも、自分の仕事を邪魔されることのほうが杞憂な鬼灯は、深くため息を吐いた。



先日まで、白澤はスーパー白澤だった。
いつもの壊滅的なセンスが鳴りを潜め、絵は達者、女遊びはしない、術は巧みにこなす・・・
まさに「神」そのもので、何事でも品行方正にできた。
ただ、いきなり鬼灯に言い寄り、しつこく求婚してきたのだけはうっとおしかったが。



そのスーパー白澤の時期でならば、鬼灯の身体をどうにかすることはできただろうが、今のボンクラ白澤には、知識はあってもできるだけの技量がない・・・ハズだ。
しかし、周囲の人間がすべからく鬼灯に欲情し、迫ってくるなど異常な事態で、最後に会った相手である白澤でしか原因は考えられなかった。



(とりあえず、執務室に戻って書類整理の続きをしないと・・・)



鬼灯は懐中時計を片手にもう一度ため息をつき、文字盤を確認する。
時間は6時を回っており、そろそろ夕飯時だ。いつ食事がとれるかわからない身なので、今のうちに食べておこうと思い、鬼灯は食堂に向かおうと腰を上げた。


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