●広翼の孔雀37●

鬼灯が淫獄からの輪○から逃れられたのは、就業時間の3時間前だった。
やはり獄卒たちも鬼ということで、その精力は絶倫で、足の先から髪の先まで媚薬に濡れて激しく欲情した鬼灯を○すのに、三巡はしたであろう。



(なぜ、あんなことを許したっ・・・!)



鬼灯は解放された自室へと続く通路で、激しく壁に拳を打ち込んだ。
普段ならば同心円状に壁がへこみ、壁の破片が周囲に吹っ飛び散るというのに、打たれたそこに変化は現れない。
まだ鬼神の力が戻っていないことを忌々しく感じ、鬼灯は激情に駆られて無痛になった拳に、痛みが走るまで壁を殴り続けた。



彼らに輪○されたことは許されることではないが、一番許せないのは、激しい凌○を受けているというに、身体が反応して、心までこのまま気持ちよくなりたい、と一瞬でも思ってしまったことだった。



(あんなヤツらにっ・・・!)



鬼灯は確実に自分の身体の意思に変化をもたらし、鬼神の力を奪った原因の主に、怒り任せにコールして返答を待った。



すると、意外なことにすぐさま相手が通話に応じる表示。



『ふああ・・・なんだよ、闇鬼神。僕に何か用?』



人にこれほどのことをしておいて、何が「何か用?」だ。鬼灯は静かな怒りが心の沼でグツグツと煮えたぎるのを感じながら、低くドスの利いた声で口を開いた。



「いますぐ、この変な呪いを解け、白豚・・・!」



白澤も鬼灯の尋常ではない怒りのオーラを感じ取ったのか、一瞬ヒエ、と叫んで声が遠ざかったが、すぐに戻って、いつもの飄々とした口調で応じた。



『あ、効いてる?どうだ痛いか?これで自分がどれだけみんなからやらしい目で見られているかわかっただろう?』



「は?」



わけのわからない返答を聞き、鬼灯は再びドスの利いた声で言い返す。



「鬼神の力がなくなって、部下から舐められまくりなんですけれど」



『え?どういうこと?』



鬼灯の冗談の隙もない言い方を聞いて、どうやら自分の思惑通りに術が働いていないと、すぐさま察知した白澤が若干真面目な声で声を出す。



『・・・どうなってるの?』



「ですから、鬼神の力が失われて、部下たちに迫られて困っているんです!」



怒りまじりに再び壁を強かにたたき、鬼灯は早朝にも関わらず廊下で大声を叫んだ。



『え?お前迫られてるの・・・?まずいなあ・・・』



まずいのはこっちだ、と鬼灯は心の中で毒づきながら、鬼灯は返した。



「一体、私にどんな術をかけるつもりだったんですか」



『いや、お前隙だらけで無防備じゃん?だから、エロい目線で見られると痛みを感じるようにしたんだよね。鬼神の力は、まあ・・・半分ぐらいに減るよう仕掛けたけど・・・』



「全然術の効果が違うじゃねえかこのボンクラ!」



と鬼灯は歯ぎしりし、携帯を強く握りしめてミシと言わせる。



『あー、ごめんごめん。まさか全然なくなるとは思わなかったんだよね・・・僕ってやっぱり失敗が多いなあ・・・あはは』



悪びれない白澤の笑いが鬼灯の神経を逆なでする。



「いま!すぐ!この場で術を解け!」



もはや周囲を配慮せず怒り狂っている鬼灯は、沸騰していた怒りが噴水となって喉から噴出しそうだった。



『うーん、それはできないなあ。本来の術も、練るのに一週間かかったんだよね。だから悪いけど、もう一週間それでいてよ?』



「なっ・・・!いっ・・・!」



一日でも十人近い人数に犯されたというのに、この先一週間このままだなど目の前が暗くなる。



「鬼神の力だけでもとりもどすことはできないんですか?」



『うーん、まあ術とセットだからなあ・・・難しいかなあ』



「このっ・・・!煮え切らない返事ばかり・・・!」



『わーっ!怒るなよ!大体迫られてるって、セクハラとかされてんの?いいじゃんちょっとぐらい。我慢してよ』



「がっちり犯されています」



鬼灯の言葉に、電話口の向こうの相手が「ええ!?」と大変驚愕の声を上げる。



『お前を○すヤツがいるなんて、考えられないんねー。』



「そんなヤツをことあるごとに抱いているあなたは何なんですか」



『まあ、鬼神の剛力がなければ力づくじゃかなわないか・・・でも、あの恐ろしの鬼灯様だろ?ホイホイ手を出してくる輩もいないだろう。犯されたって、何人?』



それを言われて、鬼灯は再び怒りを沸騰させたが、人数を言うのには戸惑った。十人近くに犯されたというのも恥ずかしいし、軽蔑されるかもしれない。なにより、犯されて悦んでしまった自分がいたことも確かだったので、鬼灯は罪悪感から何も言えなくなってしまった。



「いえ・・・別に・・・」



『だろー?まったく、びっくりさせるようなこと言わないでよー。鬼神の力がなくなったって、そうそう上司に手を出すヤツなんているわけないじゃん。バカだね―お前』



今回の受難の元凶である白澤にバカ呼ばわりされ、鬼灯の怒りの糸がブチ切れた。
と、同時に右手に持った携帯電話が破壊された。
バツン!と大きな音をたてて内回路を露出させた鉄塊となりはて、もはや本来の機能は果たせなくなっている。



軽く舌打ちし、鬼灯は鉄塊を睨みつけた。
とにかく、鬼神の力と欲情の嵐は一週間たたなければ終わらないという事か。
データは残ってるだろう、と、スクラップと化した携帯を懐にしまい、鬼灯は若干冷静になって思案する。



白澤は膨大な知識量を持ってはいるが、決定的に術を操るセンスがない。剪紙成兵術などの術はできるようだが、今回鬼灯に行ったのは、鬼を操る召鬼法のたぐいに違いないだろうが、千人力の鬼を操る・・・大きな力を操るということになると、手順は案外面倒なのだ。



しかも、欲情の目線を向けられると痛みを感じるなどと言う高等技術、あのボンクラにできた類ではないだろう。
その結果、鬼灯は鬼神の力を失い、激しく欲情してしまうようになってしまった。
激しく欲情する・・・?
白澤は、自分にいかがわしい思いを抱いた者に見られると、鬼灯が痛がるように術を施した。
中途半端に術が効いている、半分は成功しているとすれば、自分に欲情した者にみつめられると、鬼灯は発情する、ということになってしまっているのではないか?



しかし鬼灯はかぶりを振った。
くだらない、そんなに、自分に対していかがわしい思いを抱いている獄卒がいるものか。しかも、女性ならともかく男になど・・・。



しかし、そう考えると、昨日までの鬼灯の身体の変化には納得できるものがあった。
どの場面も、そういう目を向けられてから鬼灯は感じてしまっていたような気がする。だが、浴場での出来事は一体どういうことだ?
あれでは、まるで、鬼灯を○すために万事用意していたような段取りの良さだったではないか。
誰かが鬼灯の身体の秘密に気づいて、仕掛けてきたのだろうか?
腑に落ちない思いを描きながら、鬼灯は自室に戻って部屋の鍵をかける。



あと二時間ぐらいは眠れるだろう、と鬼灯が瞑った眼を開けた瞬間、寝台の上に大きな影を見つけてため息を吐いた。


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