●広翼の孔雀39●

早朝、出廷した鬼灯が昨日残した仕事を事務的にさばいていると、珍しく幼馴染の蓬が執務室に入ってきた。



「おい、まさかとは思うけど、なんか変な動画が拡散されてるぞ!」



いつもぼんやりとした雰囲気を放っている彼とは違い、血相を変えてマック片手に鬼灯へ詰め寄ってくる。



「おはようございます。どうされました?そんなに血相を変えて・・・」



「まあ、これを見て見ろ!」



そう言って執務机の上にマックを置き、画面を開いて見せると、そこには動画が再生されていた。
が、その内容に鬼灯は目を見張る。



『鬼灯様、気持ちいいですか?』



『んんっ!よ、よくなどっ・・・!』



『でもこんなに感じちゃって、嘘つかないでくださいよ。かわいいなあ』



『あぁぁああっ!』



そこには、複数の獄卒に犯されている自分の姿。完全に自分だった。
場所は洞窟だった。あの等活地獄で行われた恥ずべき行為が、いつの間にか録画され、公衆のネットに流されている。



『鬼灯様、どこ触っても感じてくれるなあ・・・』



『こんなに淫乱だったなんて・・・』



『うぅっ、ち、違います・・・、これは、あぁぁぁっ!』



両足を大きく開かされて、その間に獄卒の腰が入っている。激しく前後に動き、互いの肉体のぶつかる音が響いていた。



『あぁっ!あっ!あっ!ふあぁあっ!あぁぁ、あ、ああぁぁあっ!』



カメラの視点が変わり、喘ぐ鬼灯の顔にズームされる。



『鬼灯様ガン掘りオッケーなんですね』



『すげえ締め付けてきて、中キュンキュンしてる・・・気持ちいいんだ・・・』



『はぁ、はぁ、ああっ!あっ!あぁぁっ!』



のけ反った上半身の胸の突起を抓まれ、鬼灯がさらに喘ぐ声を高める。



(なんだこれっ・・・!あいつら、いつの間にか録画していたのか・・・!それにしても、ネットに流すなんて卑怯すぎます!)



鬼灯が静かに怒りの炎を心の底でくべている中、蓬は動画を切り替え、あるツイッターを見せた。



#鬼灯様レ○プ
#ヤリマン(?)
#誰でもオッケー
#強○オッケー
#輪○されるの大好物



卑猥なハッシュタグがつけられたそれには、鬼灯が輪○されているGIFと、十近い枚数の強○写真が掲載されていた。



そして、ツイッターのトレンドに「鬼灯様レ○プ」が8位に入っている。



「これ、まさかお前・・・じゃないよな・・・?」



おずおずと尋ねる蓬の言葉は頭に入っておらず、どうしてこんなことになってしまったのか、消去する方法はないのか、と鬼灯は思いを巡らせていた。



「鬼灯!」



蓬の一際大きな声で鬼灯はようやく我に返り、彼の真剣な眼差しを見上げる。



「これ、違うよな?」



「はい、当然です。しかしこれはひどい・・・。名誉棄損で訴えることができますね。それよりも、この動画やツイッター、削除できないんですか?」



「動画は通報すれば管理人の判断で消去ってことになるだろうけど、ツイッターはなあ・・・ツイートの主に直接呼びかけて、ひっこませるしかないなあ・・・」



頭を掻く蓬の顔には、この騒ぎを鎮静させるのは難しい、と書いてあった。



「閻魔庁の権限をつかって、動画の管理人に削除申請をお願いいたします。ツイッターは、申し訳ないですが、消すまで圧力をかけ続けてください」



「あ、ああ、わかった。それにしても、どうしてこんな動画が・・・」



しかもそっくりだ、と蓬はマックを閉じ、脇に抱えて執務室を出て行こうとした。去り際に



「鬼灯、なんとかするからあんまり気にするなよ」



と一言添えて。



ありがとうございます、と鬼灯は返し、蓬が去ったのを見届けると、執務室の机に拳をたたき込んだ。



「っ・・・・!」



ギリギリと拳を握りこめ、激しい怒りの形相で鬼灯は唇をかむ。



まさか自分のあずかり知らぬ場所で、こんなことになっていたとは思いもよらなかった。
等活地獄で身体を許した輩がこんな裏切り方をするとは、なんという不義理だ。
自分を輪○した輩の顔は全員覚えている。
鬼灯は素早く書類を取り出し、三人の獄卒の顔と名前を探し当てる。
すぐさま解雇通知を書こうとしたが、鬼灯は思いとどまった。ここですぐクビにすることは簡単だが、等活地獄はいま人員不足で悩んでいる部署でもある。
それに、急いでクビにすることもない。蓬には悪いが、動画サイトの管理人に通告するより、ツイッターで呼びかけるより、発信源である彼らに直接会って削除させればいいだけの話だ。



(まったく、この忙しいときに・・・!)



鬼灯はイライラとペンを回し、眉間にしわを寄せて怒りを隠そうともしない。
あの白澤に妙な術をかけられてから、災難続きだ。一体なにが吉兆の神獣だ。鬼灯にとっては、今彼は災厄の権化でしかない。



鬼神の力は未だ戻っておらず、王なら治せないかと思い至ったのは、彼が去ったあとだった。
自分の思考の回らなさに腹が立つ。まあ、あの王のことだ。たぶん面白がって鬼灯の身体をこのままにするだろう。



鬼灯はため息を一つ吐き、時計を手に取って今日の予定を考える。
等活地獄へ行くのは、全員がそろう正午あたりが良いだろう。そう考え、鬼灯は処理を終えた書類をカートに入れ、次の裁判所へ送るべく執務室を後にした。



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