●広翼の孔雀58●
「ローション追加しますねー」
妖しい粘液をさらに垂らされ、体中に伸ばされる。
わき腹や下腹を撫でまわされ、陶酔しそうなほどの快感が肌の上を走る。
「んっ!んんんんんっ!」
鬼灯の白い上半身がさらに反らされ、誰の目から見ても鬼灯が激しく感じているのがわかる。
はあはあと荒い息を吐いてドサリと体を落とすが、獄卒の手の動きは止まらない。
触れられる度に我慢できないほどの快感が身体の芯に溶け込み、どんどん鬼灯の意識を蝕んでゆく。
(ううっ・・・いい加減に、終われっ・・・!)
触れられるたびに鬼灯の身体は激しくのけ反ったが、何度ものけ反っているうちに、身体が快感を受け入れ始めたのか、ヒクヒクと痙攣し、時折電気が走ったかのように激しく反応するだけで、獄卒たちの愛撫を受け入れ始めていた。
くねる白い肌の上に、淫らな粘液、さらに六本の手に撫でまわされるたびに震える白い肌に、重なるはぁはぁと言う官能的な息遣い。
時折甘い声が部屋に響き、鬼たちの睦み合いを、これ以上ないほど妖しく蠱惑的な画にさせている。
「鬼灯様、いい加減に観念してください・・・気持ちいいんでしょ?」
「くっ、誰がっ・・・!はぁぁ・・・!」
「ほら、その感じてる声。たまらないなあ・・・」
「だ、黙れっ・・・!」
しかし鬼灯の身体と意思は、自分でもわかるほど獄卒たちの欲望を迎合し、すでに愉悦に狂おうとしていた。
(た、頼むからやめてくれ・・・!)
鬼灯は柄にもなく、誰かに助けを乞いたい気分になった。
「全く、お前は本当に犯されるのが好きだよね!」
そう言われて鬼灯は言い返そうとしたが、白澤の真面目な視線に怯み、言葉を詰まらせてしまった。
こうなってしまった元凶は白澤にある。この二日間を思うと、千と罵声してあまりあるほどの恨みがあったが、白澤のその瞳があまりに真摯で、怒りに燃えていたため、鬼灯は一瞬自分の感情を忘れた。
「こうなっていたなら、どうして正直に言わないの!それだったら、僕ももっとちゃんと考えて術の解除にとりかかってたのに!」
ここまで怒鳴られ、鬼灯はようやく我に返った。
「こうなった元凶のおまえが、何を言うんだ・・・」
鬼灯の声は低く、こちらも負けず劣らず怒りを湛えた声だった。
「あー!あー!術のことに関しては僕も謝るよ!だけどね!こんな事態になるまでなんで放っておいたの!」
「放っていたわけではありません!こちらから連絡をしても、あなたが全く出なかったじゃないですか!」
「お前だって、こっちから連絡しても出てくれなかったじゃないか!」
それを聞いて、鬼灯はハッと思い当たる節があった。おそらく携帯が壊れたあとに白澤は連絡を入れたのだろう。しかし、そんなことは白澤にはわからないし、鬼灯も連絡がくるなどとは思っていなかった。たとえ出れても、今日はずっと獄卒たちに犯されっぱなしで、取るどころではなかっただろう。
「それはっ・・・!携帯が壊れたから・・・!」
「あー!知らない知らない!」
鬼灯はだんだん本格的に腹が立ってきた。被害者である自分がなぜここまで怒りをむけられなければならないのか。もともと白澤が鬼灯に妙な術をかけていなければ、こんなことにはならないはずなのだ。
「このっ・・・!」
怒りに任せて、鬼灯は白澤の頬を打擲した。
パン!と乾いた音が空間に響き、突然ひっぱたかれた白澤は唖然としている。
「誰のせいだと・・・っ!」
「な、泣くなよ・・・」
「泣いてなどいません!」
そう言ったが、鬼灯はいつの間にか自分の頬に熱い液体が伝うのを感じていた。
それに気づいて急いで手の甲で涙をぬぐうが、いつまでたっても止まらない。
自分がなぜ泣いているのかわからない。怒りすぎたせいか、白澤に助けられた安堵のためか、この二日間で起こった受難のせいか・・・
そんな鬼灯に白澤は近づき、両手を柔らかく掴んでそのまま鬼灯の頬を舐め始めた。
「ちょっ・・・ちょっと・・・!」
「無理すんな」
優しくそう言われて、鬼灯の瞳からは、さらに涙があふれてくる。早く止めないとみっともない、と自分でも思いながら、涙は自分の意思ではどうしようもできず、喉元に嗚咽までこみあげてきて鬼灯は引き攣るような息を皮切りに、涙をしゃくりあげ始める。
「ううっ・・・」
「鬼灯、もう泣かないでいいよ、安心してよ・・・」
白澤にそう言われるが、涙は止まらない。鬼灯は白澤の手から離れて、量の腕をいつの間にか白澤の背中に回していた。
「んっ、んんっ・・・」
ペロペロと鬼灯の頬を舐めていた白澤の舌が、鬼灯の唇に移動して上下に舐め始める。
鬼灯は口を少し開け、中からわずかに舌を出すと、その動きに応えた。
しばらく啄むような口づけを交わしたかと思うと、白澤の方から鬼灯の口腔へ大胆に舌を差し入れ、深い口づけへと移行する。
その瞬間、白澤の思考が鬼灯に流れ込んできた。
『鬼灯やっぱり可愛いなあ・・・今日はどんなお仕置きしよう?散々犯されてるんだから、それに見合うぐらいのプレイはしてもらわないとね・・・あー、考えただけでゾクゾクする・・・・』
「てい!」
「いだあ!」
鬼灯は白澤を投げ飛ばしていた。
先ほどの甘やかな雰囲気は一気に払拭され、代わりに不穏な空気が漂い始める。
腰を強かに打った白澤が痛む箇所を撫でながら、振り返って鬼灯に文句を言う。
「いきなり何するんだよ!ひどいじゃないか!」
「ひどいのはそちらです・・・あなた、何いかがわしいことを考えているんですか・・・!」
怒りで涙が一瞬でひっこんだ鬼灯は、白澤を見下ろしながら言い放つ。
「ちぇ・・・なんだよ、僕にはそんな風に抵抗できるくせに・・・」
白澤はそう言うが、平然としている鬼灯の身体の芯が、再び疼き始めていたことなど知る由もなかった。