●スキャンダラスブラック15●

一方、今日の鬼灯の動向を追うために、時間があればファンのツイッターを見漁っている桃太郎だったが、スクロールする手が止まる記事が掲載されていた。



「あの鬼灯様が男色家!?男たちに囲まれて、欲情の表情!」



衝撃的な文章と写り込んだ写メに、桃太郎は一瞬わが目を疑った。
電車のボックス席で数人の男に取り囲まれ、紅い顔をした鬼灯が悩ましげな表情で目をつぶっている。



(なんなだこれ!?)



困惑する桃太郎だったが、他の記事はないかと漁っていると、またまたやんごとない記事が流れてきた。



「鬼灯様と銀髪の超イケメンが二人でトイレへ・・・中でナニが起こっているの?」



写メには、文章通り顔を紅くした鬼灯と、長身銀髪の黒スーツを身にまとった男が並んでいた。



(おいおいおいおい、どうなってんだよ!)



そして次の記事には



「喧嘩!?トイレのドアがぶち破られたと思ったら、中から銀髪の美形が転げて出てきた。鬼灯様もいるけど、着物乱れてね?」



添付された写メには、トイレのドアの下敷きになっている銀髪の黒スーツと、肩から大きく着物をはだけさせている鬼灯の二カットが掲載されている。



(これ完全に鬼灯さん襲われたな・・・でも、自力でなんとかしたみいだ、よかった・・・)



桃太郎が安堵のため息を吐き、ツイッターを尚も探ると、まためを剥くような記事が飛び込んでくる。



「白澤様が鬼灯様を抱きしめながらトイレへ・・・!一体どうなってしまうの!?」



という煽り文と共に、うなだれた鬼灯の肩を貸して、駅ビルの中を歩く白澤の姿が映されていた。
鬼灯は一見して力が入っていない様子で、何も思わない者がみれば体調を崩した鬼灯を、白澤が介抱しているんだろうな、と考えるのが関の山だが、やましい気持ちを持つ者と、二人の仲を知っている者からすればとんでもない事態だった。
当の桃太郎も、写真を見た瞬間、思わず「えっ」とつぶやいてしまった。
そして世間で吹聴されている仲は偽りで、本当は閨を交わすほどの仲だということを知っている桃太郎から見れば、これは明らかに白澤が鬼灯をトイレに連れ込んでいるように見える。



(オイオイオイオイ、なんてところでナニをするんだよ?)



桃太郎が嫉妬の炎を燃やしながら写真をタップして拡大し、その様子をさらに隙間なく眺める。
写真は鬼灯の斜め前から撮った写真で、白澤の肩によりかかっているその顔色は紅く、欲情しているようにも見える。鬼灯は普段紙のように白い肌をしているから、顔色が変わるととても目立つ。
一方、半顔だけ写り込んでいる白澤の表情は笑顔で、どうやら周囲に愛想をふりまいているようだった。
鬼灯の異変はわかったが、白澤の心中はこの写真ではわからない。
他にこの写真に関連したものはないかと検索をかけたら、



「鬼灯様が体調を崩す!隣の男は誰?」



という物で、写真も添付されていたが二人の後ろ姿だけが映っていて、なんの情報も得られなかった。
二つの記事の投稿時間を見てみると、ほぼ一時間前だった。



(全く、どこでなにをしてるだあの人は・・・!)



最近雑誌やテレビで顔が売れ始めた鬼灯に近づくのだから、自分も注目されると理解できないのだろうか。
しかもこんな美形二人の写真、年頃で、その趣味のある女性が見れば垂涎ものの菓子だろう。



ホントに気を付けてほしい、鬼灯様のためにも。自分のためにも。
もし白澤が、鬼灯とセフレであると言う事を暴露してしまえば、この先鬼灯を奪いにくくなる。そのあたりわかっているのかこの野郎、と再び嫉妬の炎を燃やしていると、晴天の空から影が落ち、異変に気付いた桃太郎が天を見上げて腰を抜かした。



「はははは、白澤さん!」



「おーい、桃タローくーん」



白澤は人間ではなく、元の巨大で白い神獣の姿に戻っていた。白澤が本来の姿を晒すことは非常に珍しく、何事かと桃太郎は尻を叩きながら立ち上がる。
そして、白い神獣は桃太郎の目の前に降り立ち、身をかがめた。



「あっ!鬼灯さん!」



「どうも・・・」



白い神獣の背中には、力なく背中へ倒れ伏している鬼灯がいた。



「全くコイツ、治療が必要になっちゃってね、急遽連れてきたんだよ・・・あ、桃タローくん、悪いけどこれから今すぐ、亡者に生えるキノコ採って来てくれる?」



写真と変わらず紅い顔をして、心なしか婀娜っぽく見える妖艶な鬼灯と、突然遠くへ行かされる用事をたのまれた桃太郎は、すぐに二人がこれから閨をともにするのだと勘づいた。
勘づいたが、桃太郎は食い下がる。



「鬼灯さん、具合悪そうですね。俺も手伝いましょうか?」



「いや、いいよ。僕が一人で診るから・・・よっと、鬼灯だっこしてくれる?」



鬼灯を抱きしめられるのだという突然の褒美に、桃太郎は喜びを噛み締める間もなく実行した。白澤はすぐに人型に戻り、もたれかかっていた質量がなくなったせいで鬼灯の身体は宙に投げ出され、桃太郎は反射的にそれを受け止めた。



(うっ、重い・・・)



百八十五センチの長身に、鬼らしく体中に筋肉をまとった鬼灯の身体は、桃太郎に如何わしい妄想を抱かせる隙をあたえないほど、容赦なくのしかかった。
急な体勢で受け止めたためにバランスを崩しかけ、桃太郎はそのまましゃがんで鬼灯を地面の上に横たえる。



「・・・ありがとうございます」



と鬼灯に礼を言われ、桃太郎は一瞬舞い上がりかけたが、すぐに平静を保った。



「一体どうしたんですか?鬼灯さん、大分体調悪そうですよ?」



「んー、西洋の悪魔に悪い魔術をかけられてね・・・それをこれから神獣の力で解こうと思うんだ」



「俺も見てていいですか?」



桃太郎の意外な申し出に白澤は一瞬目を大きく開いたが、すぐに悪戯っぽい笑顔になって頷いた。



「いいよ、君も部屋に入っておいで」



そう言って白澤はぐったりとした様子の鬼灯を屋内へと連れ込んだ。


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