急々詔令
トワとセツナは飛行島に緊急の用事ということで訪れていた。わざわざ送迎の小型飛空挺まで寄越しての念入りっぷりである。
「飛行島に一体何があったのでしょうか……嫌な予感がします」
「キャトにゃんの使いでしょ。どうせろくな用事じゃないよ……」
心配するトワに対し、セツナは興味なさそうな顔をしていた。2人がこういう呼ばれ方をするのは、今回が初めてというわけではない。
「よく来たわね、2人とも。待ってたわ！」
飛空挺の発着場でキャトラが待ち受けていた。そしてそのまま宿屋に案内される。
「ま〜た宿屋で接待しろとかいう話じゃないよね、キャトにゃん」
「あら、アタシがそんなことばかり頼むと思った？」
「ですが前回……」
「安心しなさい、アンタ達の予想は当たりよ！」
「はぁー！？」
飛行島の宿屋では、女性冒険家が男性客を性的に接待するサービスを提供している。
「この忙しい時に、レギュラーの子が3人も休んじゃって……もう火の車なのよ〜。お願い、人助けだと思って！」
「どちらかというと猫助けでしょうか……」
「そんなのキャトにゃんの都合じゃん！無意味にコイン1.5倍キャンペーンとかやるから……」
飛行島の冒険家は、オファーをこなすと、通常のゴールド報酬に加えて、ギルドコインを支給される。そのギルドコインの使い道のひとつが接待サービスだった。必然的にキャンペーン後はその消費が激しくなる。
「いいじゃない、どうせ減るもんじゃないし」
「色々減るわ！」
「そうですよ……キャトラさんは猫だから分からないかもしれないですが、知らない殿方とえっちをするのって、凄く消耗するんです……」
「そうそう〜、ゴリゴリ削られていく感じがするよね〜」
「でも、こないだは終わったあと、アンタたち肌ツヤツヤしてたわ」
キャトラがニヤリと笑う。
「それに、こんなことを繰り返していたらお嫁に行けなくなってしまいます……」
「トワの家は厳しいからね！」
「大丈夫よ。貰い手が居なくなったら、あの人がアンタたち2人まとめて引き取ってくれるわ」
「なんであたしも入ってるのさ！それにアイツはもう居ないじゃん」
「それに、アイリスさんも居ますし……」
「ふふふ、必ず帰ってくるわ。それにアイリスはあの人とは結婚できないのよ。知らなかった？」
「そうなんですか？」
「そうなのよ。それが世界の理ってものなの。それはそうと、トワ。あんた結構評判なのよ。男たちに。話し方の腰が低いし、上品で気立てがいいし、胸が大きいし……」
「そうでしょうか……私はそんな……意識したことなくて……」
「あたしは？」
「セツナは、そうね……。胸は控えめだけど、元気で、わんぱくで、拳にキレがあって……」
「それ全然褒めてない！と、も、か、く！アタシは絶対御免だからね。もちろんトワも。」
「そうです……今回は遠慮させていただければ……」
踵を返そうとする2人に、キャトラはなおも食い下がる。
「ほら、冒険者の登録の時にサインしたでしょ、飛行島の緊急事態の時は真っ先に駆けつけるって。」
確かに冒険家にはいくつかの権利と義務がある。世界の危機の際して緊急で招集されるのは、その義務の一つだ。
「これのどこが緊急事態だー！」
セツナの怒声が空に響いた。
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