Jackalope 2021/02/19 21:15

同人ゲーム製作者 はじめての確定申告①

最初に

私ことツノウサギがR18の同人ゲームを作り始めて3年以上が経過しましたが、昨年10月に発売したRPG『剣と首輪の奴○商』の販売本数が予想を遥かに上回ったため、はじめて確定申告をしないといけない事態になってしまいました。


最悪です。
確定申告とは言わば「ヒャッハーッ! こいつの収入からいくら税金を搾り取れるか確認してやるぜ!」という感じの、悪逆無道な国家的蛮行なのです(言い過ぎ)。


というわけでこの記事では、確定申告という敵を前にして悪戦苦闘した私の体験談をさらしていきたいと考えています。

あくまで覚え書きのようなものであり指南記事とかじゃありませんから、素人ゆえの間違い勘違いもあるかもしれません。

確定申告の入門記事など検索すればたくさん出てきますし、書店へ行けばこの時期は解説書が色々あるはずなので、参考にするならそういうのを読んでもらった方がいいです。
この記事は申告の流れをつかむための補足資料くらいのつもりで目を通していただければと思います。

「信じて申告したのに税務署からダメ出しされた!」とか言われても責任は取れませんのでね。


はじめて確定申告をすることに……

いまから約四ヶ月前の2020年(令和2年)10月に『剣と首輪の奴○商』を発売してすぐ、売上額の伸びを見て「あっ、これ、確定申告が必要になりそう」と気づきました。
うろ覚えながら「20万円以上の利益が出たら申告しなきゃならない」と、いつかどこかで読んだ記憶があったのです。

ただこの「20万円以上」という数字は「会社からお給料もらってる人が副業などで利益を得た場合」のものでした。


私はすでに会社を辞めており、フリーランス(実質無職)の状態で18禁ゲームを作るという暴挙を実行中の身だったので、この場合は「年間の所得-控除額」がプラスであれば確定申告をしなきゃならないのでした。

ちなみに控除というのは、税金がかからない分の金額のことです。
所得が100万円で30万円分の控除があれば、差額の70万円に税金がかかってくることになります。


私と同じような暴挙をやっている人であれば、だいたい48万円以上の年間利益(※注1)が出た時点で確定申告に備えた方がいいと思います。


税金を払う必要があるだけの利益が出てるのに、無視して申告してないと、数年後のある日ひょっこり税務署員がやってきて未払いの税+罰金(無申告加算税など)を請求してくる可能性も。

黙ってりゃバレないというのは軽率な考えで、例えばDLsiteやFANZAなどは「支払調書」という売上に関する書類を税務署に提出しています。
これに「○○という同人野郎はウチで○○万円稼いでますぜ」という余計な情報が記されているので、とぼけようとしてもダメなわけです。

あと税務署の人は儲けてそうなヤツのtwitterとかもチェックしてる場合があるらしいので、景気のいいツイートをしてる人は要注意かも。

 注1 合計所得2400万円以下のときの基礎控除額が48万円




白色と青色

さてそんなわけで確定申告をする羽目になったのですが、まったくもってチンプンカンプンです。

で、とりあえず書店でフリーランス向けの税金の解説書を一冊購入(漫画で入門、的な優しいヤツ)。
あとはネットで情報を集めてなんとかしようとなりました。

この無知な状態からまず理解しなければならなかったのが、白色申告青色申告の違いでした。
以下にざっくりまとめてみました。


・白色申告
 確定申告童貞が最初に通る道。
 こっちで申告すると特別控除がない。つまり税金が高くなる。
 青色と比べて簡単(必要となる帳簿は家計簿レベルでOK)。

・青色申告
 青色をやるには事前に届け出が必要なのでいきなりはできない。
 複式簿記とかいう面倒くさい帳簿をつけると特別控除が55万円。
 e-tax(オンラインでの申告)にすると、さらに特別控除が+10万円。
 節税するならこっち。


私は初の申告なので白色申告でした。
この先の話もあくまで白色申告のものになります。




白色申告の準備①

 申告をするに当たって、自分の収入と支出が分からなければどうにもなりません。
 でもズボラな私は帳簿などまったくつけていませんでした。

 そこでまず収入と支出の数字集めから開始しました。
 具体的には以下の通り。

・収入関連
 DLsiteやFANZAのサークルページから売上情報を取得。
 (ページ左のメニューから見られます) 


・支出関連
 経費になりそうな物の領収書やレシート集め。
 (ゲーム製作ソフトや有料ゲーム素材、交換用のSSDなど)
 月ごとの水道光熱費やプロバイダ料金の明細。


なお収入については私の場合、「これも含めるのか?」と疑問に思うものが二点あったので調べてみました。
 ①特別定額給付金の10万円
 ②投資信託で得た利益

結果から言うと、どちらも確定申告する必要がない収入でした。

①の定額給付金はコロナ禍における家計支援のために配られたものなので、非課税なのは当然と言えば当然でした。

②は正確には口座の種類によって変わってくるようです。投資信託に限らず株やFXでも、取引に使っているのが「特定口座(源泉徴収あり)」であれば確定申告は不要とのこと(※注2)。源泉徴収ありだと、利益が自分のもとに来る前の段階ですでに税金分が抜き取られているからだそうです。


支出の方はもらったレシートや領収書などを捨てずに取ってあれば問題ありませんが、ただAmazonやSTEAMなどネット経由で購入した物には紙の領収書がついて来ない場合がほとんどです。

そのためオンライン上で発行されたものを自分で印刷する必要がありました。
大手のネットショップであれば、だいたいオンライン領収書発行サービスのようなものがあると思います。

 注2 この口座の場合でも取引で損失が出ているときには、確定申告に含めることで節税になるようです




白色申告の準備②

収入と支出の生データが集まったら、今度はこれを帳簿に記載していかなければなりません。

白色申告の帳簿は簡単なものですが、それでも昔ながらの手書きでやるとなると大変。
そこで帳簿作成から確定申告まで一貫してサポートしてくれる会計ソフトの出番となります。

今回私が使ったのはド定番の「弥生」です。
会計とは縁の無かった私でも名前だけは知ってる有名どころです。

弥生と言っても色々ラインナップがありますが、無料で使えるクラウドサービスの「やよいの白色申告オンライン」にしました。
同じようなサービスでは「freee」や「マネーフォワード」などもあります。


アカウント登録して利用できるようにようになったら、会計ソフトに収入・支出を入力していきます

銀行やクレジットカード会社のオンラインサービスと同期して、通帳や明細の項目を簡単に取り込める機能などもあるのですが、私の場合はなぜかクレジットカードの方がうまく同期してくれなかったので、ほとんどキーボード入力になりました。

▼私が入力した実際の帳簿画面



収入の入力作業

◆売上入力の注意点①
収入の項目には「売上」としてゲームの売り上げ金額を入力していきます。

ただしこのとき「銀行口座に振り込まれた手取りの金額」を売上額として入力してはダメです

こちらのDLsiteの売上明細書を見てください(当サークルのものです)。

銀行への振込額が¥4148、源泉徴収額が¥472、そしてこの二つの合計金額が¥4620となっています。
この場合、帳簿に入力すべきなのは合計である¥4620です。


もしこの時「振込額=売上額」として入力してしまうと、税金を二重に取られてしまう恐れがあるそうです。

というのも「源泉徴収」というよく分からん項目の正体が、「銀行振込の前に国がざっくり目分量で奪っていった税金」だからです。

つまり銀行に振り込まれた時点ですでに税金が取られている状態なんです。
なのに「振込額=売上額」としてしまうと、まだ税金が取られていない状態の売上収入だと勘違いされてしまいます

確定申告とは「これから税金を絞り取るための確認作業」なわけですから、そこに記入すべきは「税金が取られる前の金額」なんですね。


以上を踏まえてきちんと売上を記入すれば、源泉徴収で持っていかれた税金の一部が返ってくるかもしれません。

なんせ源泉徴収は「取り合えず」といった感じでざっくり持っていかれる税金なので、必要以上に取られちゃってる場合も多々あるみたいなんです。
だから申告すれば、その分が戻ってくる。

実際、私も会計ソフトで算出した通りの結果になれば10万円以上が戻ってくる公算です。

※追記 2023年10月以降、FANZAの「支払通知書」から源泉徴収額の項目が無くなってしまいました。けれど源泉徴収されていないわけではありません。コンテンツ配信料-支払金額合計=源泉徴収額、となります。ちなみにこれはインボイス対象外の場合。インボイス対象の場合どう表示されるのかは不明です)


◆売上入力の注意点②
あともう一つ気をつけたいのが「帳簿に記入する売上をいつの時点のものにするか」ということ。
何を言ってるのか分からないと思うので、順を追って説明します。

上記の例に出したDLsiteの売上明細ですが、「2020年01月売上合計明細書」と件名が書いてありますね。
でも右上の日付は「2020年02月20日」です。これは明細書の発行日であり、売上金が私の銀行口座に振り込まれた日付でもあります。

ではコレ、「1月の収入」として記入すべきなのか、それとも「2月の収入」にするのが正解なのか?

私は最初、「手元にお金が入ってきたのが2月なんだから当然2月の収入だろう」と思っていました。
でも明細書には「1月売上」とあるのでだんだん混乱してきて、調べてみることに。


するとその結果は…………どっちでもOK!(ただし白色申告に限る)


なんでも、会計の世界には「発生主義」「現金主義」という考え方があるんだとか。
大体、次のような感じみたいです。

 ・発生主義
  お金が手元に来る前でも、売上額が確定していればその時点で収入として
  計上するという考え方。
  上記の例でいえば「1月の収入」にするのが正解。

 ・現金主義
  実際にお金が支払われた時点で、収入として計上するという考え方。
  上記の例でいえば「2月の収入」にするのが正解。

ただ帳簿付けの際は、原則的に「発生主義」を採るらしいです。
あとこれが青色申告の場合だと現金主義での記入はダメで、発生主義での売上計上になるとのこと。

また白色申告で「現金主義」を採った場合でも、年末の年をまたぐような売上部分は発生主義で処理しなくちゃダメみたいです。
(例:今年12月の売上分が翌年1月に銀行振込なら、12月の収入として計上)

白色申告で現金主義が認められているのは、帳簿付けに不慣れな人への救済措置みたいなものなんでしょうかね。

私の場合は次回から青色申告にしてみようと考えているので、今回の白色も慣れるために「発生主義」で記入することにしました。


ここでついでにFANZAの明細書も見てみましょう。


基本的にはDLsiteのものと同じですが、一番上の件名を見てください。
「2020年2月分の支払明細」とあります。
そしてその横には「集計期間:2020年1月1日~2020年1月31日」とあります。

集計期間が1月なので、これも発生主義で言えば「1月の収入」ですね。
……お分かりいただけたでしょうか?

 ・DLsiteの明細の件名 → 「2020年1月売上合計明細書」
 ・FANZAの明細の件名 → 「2020年2月分の支払い明細」

同じ期間の明細書なのに、件名の月が違う!?

多分これは、DLsiteの方が「売上明細」であるのに対して、FANZAの方が「支払明細」であることが原因なのでしょう。

このことに気付かず両方とも「件名に1月とあれば1月の収入! 2月とあれば2月の収入!」とやってしまうと、DLsiteが発生主義で計上しているのに、FANZAは現金主義で計上することになってしまいます。

※追記 2023年10月以降、FANZAの「支払情報の確認」ページでも10月分の売上に対しては「10月分の支払い通知書」というように同月での表示がされるようになり分かりやすくなった)

こんな風にチャンポンな帳簿付けをしたら、税務署からツッコミが入る……かどうかは分かりませんが、あまりよろしくないのは確かでしょう。
複数の販売サイトを利用している同人クリエイターの方は、注意しといた方がいいと思います。


支出の入力作業

支出は自分の仕事に関係のある出費を入力します。
まったく関係のないものを支出として記入するのは当然ダメです。

逆に言えば仕事に関係があると説明できればゲームや漫画だって経費として認められるかも。


「オレはエロゲー製作者だから、参考資料である退魔忍シリーズや月刊LOの購入代金は経費だぜ(キリッ)」

……みたいなことを税務署員相手に主張できる勇気があるなら、意外と通るかもしれませんね。
まあ私はやりませんけど。

でもRPGツクールの購入代金なんかは経費として入力しました。
これでゲームを作って販売しているのだから、自信をもって必要経費と言えます。


◆科目について
経費を入力するときには、金額や日付の他に「科目」(勘定科目)という項目があります。
これはどういう種類の経費かを大雑把に分類するための項目で、「やよいの白色申告」の場合は、プルダウンメニューから科目を選べるようになっています。

この科目っていうやつ、どれを選択すればいいのか案外迷います。
(※収入にも科目はあるけど種類が少なくて、私は「売上」一択でした)


水道代は「水道光熱費」、文具はたぶん「消耗品費」でいいのだろうと察しがつきますが、じゃあ「PCソフトは?」「交換用のSSDは?」となると、全然わかりません。

ただ会計ソフトの入力画面から記入例を見られるようになっていて、そこに色々なパターンがあるのに気づいたので、参考にして入力することにしました。
すると水道光熱費や通信費を除いて、ほとんどが「消耗品費」になってしまいました。

PCソフトもPCパーツも消耗品費です(ただし10万円未満のもの)。
Live2Dの参考書は「新聞図書費」にしましたけど。


ちなみにこの科目欄は、自分で「○○費」というように独自設定しちゃっても構わないらしいのですが、私は適切に名前をつけられる自信が無かったのでプルダウンの一覧から選べるものだけを使いました。


◆水道光熱費と通信費について
お店で買えるようなものは、品物を受け取ると同時に支払い(経費)が生じます。
でも毎月の電気・ガス・水道代やプロバイダ料金なんかは、だいたい利用した月の翌月に料金の支払いとなります。

「となると……あれ? これも「発生主義」の考え方に従って、使用料金を支払った月じゃなく、利用した月で経費計上しなきゃダメなのか?」

そう疑問が湧いたので、またまた調べてみると――。

「一応原則はそうだけど、料金を支払った月で経費計上(現金主義)しちゃって大丈夫」

なんだそうです(ただし使用料金が高額になる大きな会社や工場はダメらしい)。

なので私はこれらの支出を、実際に銀行から引き落としされた日付で計上していきました。


◆家事按分について
上記の水道光熱費やプロバイダ料金、あと家賃なんかは、仕事用の事務所や店舗がない自宅作業者でも経費として認められます

ただ100%認められるわけじゃなくて、仕事で使ってる分の割合だけ経費として申告できるんだとか。
これを「家事按分」と言うそうです。


でも仕事で使ってる分だけと言われても、電気代や水道代の何%が仕事用のものかなんて計算して正確に出すのは無理です。

なので私のケースでは、「平均して一日8時間以上は作業してるから、三分の一くらい……キリよく30%にしておくか」という風に決めました。

もっともこれが正解かはわかりません。
あとで割合が多すぎると税務署から言われちゃう可能性もありますが、そのときは修正指示に従って直せばいいことです。


なお会計ソフトでは、支出として帳簿に入力する時点では100%の料金を打ち込みました。
家事按分の割合は後から別に入力して自動で補正する形になります。



さてこれで、ひとまず帳簿ができました。

次にこの帳簿を元にして確定申告に必要な書類を作っていくのですが、長くなってきたので続きは次回記事で
  

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