八卦鏡 2022/08/15 00:00

都市伝説TRPG[シナリオ:黒虫・前編]

20面体ダイス
うららかな、昼下りの校舎の中庭。
白いベンチに座る、一人の女生徒の姿がある。
その女生徒の膝の上には、小さなお弁当箱がのっている。
どうやら、一人で昼食をとっているようだ。

女生徒「はぁ…」

その女生徒は、大きな溜息を吐くと、弁当箱にお箸を置いた。

秋里和香(あきざと・のどか)

光彩学園に在籍する、1年生の女生徒だ。
光彩学園は、この地域でも有名なお嬢様校だ。
和香は両親の強い意向により、この学園へと入学した。

和香「はぁ…」

和香はもう一度溜息を吐くと、ポケットから何かを取り出した。
それは、20面体ダイスと呼ばれるサイコロだった。
中学生の頃、よく一緒にゲームを遊んだ、親友がくれたものだ。
その親友は、無彩学園と呼ばれる、山奥にある学園に進学してしまった。
どうやら、学生寮に入ったらしく、中学卒業後は一度も会っていない。
何度も、メールで連絡を取ろうかと思った。
しかし、自分の学園生活の愚痴だらけになりそうで、思いとどまっている。
和香はその20面体ダイスを、晴れ渡る空にかざした。
それは、琥珀色のクリアダイスで、青空がノスタルジックに染まった。

和香「はぁ…」

親友と遊んだゲームの中でも、和香はTRPGが大好きだった。
人間同士の会話と、ルールブックのルールに従って遊ぶ、対話型のゲームだ。
この20面体ダイスも、TRPGを遊ぶ時に使っていたものだ。

和香「久し振りに、TRPG遊びたいな」

この学園に、ゲーム部のような娯楽の為の部活はない。
和香が入部したいと思うような、魅力を感じる部活もない。
部活の入部は義務ではないので、和香は帰宅部のままだ。

和香「そう言えば…」

和香はふと思い至るところがあった。

オンラインセッション
帰宅後、一人で夕食を済ませ、風呂に入って勉強部屋にこもった。
両親は仕事で世界を飛び回り、家にいる事はほとんどなかった。
和香の父親はピアニスト、母親はバイオリニストだった。
音楽一家に生まれたにもかかわらず、和香には音楽の才能はなかった。
その事で、両親から責められる事がないのは、唯一の救いだった。

和香「確か…オンラインセッション…だったかな」

和香は机の上のノートパソコンで、オンラインセッションを検索する。
すぐに、オンライセッションを解説するサイトが幾つもヒットする。
本来、TRPGは皆で集まって遊ぶものだった。
しかし、ネットの普及と技術の進歩により、オンラインでも遊ばれている。
和香は、オンラインセッションの解説サイトを、何度も熟読した。

都市伝説TRPG
オンラインセッションに必要なものは、既に揃っているのが分かった。
感染症の流行で、学園がオンライン授業を取り入れた事が大きかった。
遊ぶルールは、無料でルールが公開されている、都市伝説TRPGを選んだ。
都市伝説とは、現代の都市で広く口承される、根拠が曖昧な噂話の事だ。
このルールは、オンラインセッションに特化した、簡潔なものだった。
そして、このルールのジャンルはホラー。
ホラーが苦手な女性もいるが、和香は怪談話等は好きな方だった。

和香「小学生の頃、口裂け女の話が怖くて、夜中トイレに行けなかったな」

次に、オンラインセッションのプレイヤーを募集しているサイトを検索した。
そのサイトにアカウント登録をして、プレイヤー募集中のセッションを探す。
やりたいシステムは、都市伝説TRPGだ。

和香「これとか、条件に合うかも」

使用システム :都市伝説TRPG
セッション名 :黒虫
セッション種別:ボイス
人数     :1/3人(先着順)
GM      :ダオロス
プレイ時間  :3時間
開始日時   :〇月〇日(日)20:00
備考     :初心者歓迎!

使用システム :このセッションで使用されるシステム
セッション名 :基本的にシナリオのタイトル
セッション種別:テキストかボイスのどちらでプレイするか
テキスト   :チャットに文章を打ち込みながら進行する
ボイス    :ボイスチャットを使い、音声により進行する
人数     :募集しているプレイヤーの人数
1/3     :既に1人のプレイヤーが、参加確定している状態
先着順    :応募が3人に達したら募集終了
GM      :ゲームマスターの略称
GM      :このセッションの、進行役を務める人物
ダオロス   :名前をクリックすると、今までのGMの経歴が表示される
GMの経歴   :多数のセッションをこなしている、ベテランのようだ
プレイ時間  :このセッションで予測される必要時間
開始日時   :このセッションが開始される日時
備考     :その他の注意事項
初心者限定  :初心者のみを募集

和香は学生で、日曜日の夜からなのが都合がいい。
備考には、初心者限定と書いてあるのも安心感がある。

和香「先着順みたいだから、すぐに応募しよう!」

和香は、このセッションのプレイヤー募集に応募した。

ハンドアウト
和香のアカウントのメッセージボックスに、GMからメッセージが来た。
和香がプレイヤーに決定した事と、ハンドアウトだった。
ハンドアウトは、シナリオを潤滑に進める為のものだ。
また、キャラクター作成の負担を軽減する意味もある。
ハンドアウトには、GMが指定した設定が書かれてある。

和香「じゃあ、さっそくキャラクターを作っちゃおう!」

和香は期待と不安が混ざった不思議な感情で、キャラクターの作成を始めた。
まずは、GMのキャラクターのハンドアウトを確認する。

あなたのキャラクターは、宅配便の配達員である。

ハンドアウトに指定されていた設定は、これだけだった。
和香は都市伝説TRPGのルールサイトを見ながら、キャラクターを作成した。

セッションルーム
セッション当日、GMが指定した部屋に、プレイヤーが集まった。
オンラインセッションツールのサイトに作られた、専用の部屋だ。
和香が予測していなかったのは、見学者がいる事だ。
見学者は、セッションには参加しない、観客のような存在だ。
このセッションの見学者は、860人。
後で知ったのだが、このGMのセッションは、かなり人気があるらしい。
和香がプレイヤーとして参加できたのは、初心者限定だったからだろう。

GM「では、本日のセッションを始めたいと思います」
GM「私は本日GMを務めます、ダオロスと申します」
GM「主に都市伝説TRPGのGMを、やっております」
GM「では、プレイヤー自己紹介を願いします」
GM「まずは、あきりんさん」

あきりん「はい、あきりんと申します」
あきりん「オンラインセッションは、今回が初めての初心者です」
あきりん「TRPG自体は、何度かプレイした事があります」
あきりん「本日は、よろしくお願いします」

GM「よろしくお願いします」
GM「分からない事があったら、遠慮なくGMに聞いてください」

あきりん「はい」

GM「次は、アプリーナさん」

アプリーナ「はい!」
アプリーナ「フルーツランド所属のヴァーチャルストリーマー!」
アプリーナ「アプリーナでーす!」
アプリーナ「オンラインセッションは、何度か経験がありまーす!」
アプリーナ「でも、ほとんどTRPGは初心者レベルでーす!」
アプリーナ「よろしくでーす!」

GM「よろしくお願いします」
GM「オリジナルジュース配信、毎回楽しく視聴させていただいてます」

アプリーナ「本当ですか!」
アプリーナ「チャネル登録、高評価、よろしくでーす!」

GM「次は、チンアナゴさん」

チンアナゴ「はい、チンアナゴと申します」
チンアナゴ「オンラインセッションは、今回が2回目です」
チンアナゴ「実は、前回もGMはダオロスさんでした」
チンアナゴ「まだまだ、初心者ですが、よろしくお願いします」

GM「前回のセッションも参加していただき、ありがとうございます」
GM「では、今回のセッションのキャラクター紹介に移ります」

GM「まず、あきりんさんのキャラクターから、お願いします」

あきりん「車田倉子です」
あきりん「宅配便の配達員をやっています」
あきりん「体力には自信があります!」

GM「はい、次はアプリーナさんのキャラクター、お願いします」

アプリーナ「夢実さくやでーす!」
アプリーナ「アイドルを夢見て頑張る、ピザ屋の配達員でーす!」
アプリーナ「歌って踊れまーすwww」

GM「はい、最後はチンアナゴさんのキャラクター、お願いします」

チンアナゴ「柴園友恵です」
チンアナゴ「ケアマネージャーです」
チンアナゴ「民生委員もやってます」

GM「以上が、今回のセッションのキャラクター達です」
GM「では、さっそくシナリオを始めたいと思います」

あきりん「よろしくお願いします!」

アプリーナ「よろしくでーす!」

チンアナゴ「よろしくお願いします!」

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