ウメ畑 2022/07/31 07:54

リクエスト作品 『原神』申鶴 

「これはどういうことだ?」

 囁くような声が、天井に吹き抜けの大きな穴を作る薄暗い洞窟の中に響いた。
 声の主は――女性だ。
 一目見てそうと分かる豊満な肉体は胸を隠す薄布一枚では隠し切れず、全身を包む黒のインナーのほぼ全部が丸見え。
 成人男性の手の平からでも零れ落ちそうな胸や、力を込めれば簡単に折れてしまいそうな華奢な腰、そして歩くたびに男の目を惑わせる胸に劣らぬ巨尻。
 それだけでなく、インナーで絞られた両足もまた美脚と呼ぶにふさわしいほど良い肉付きと細さである。
 膝まである銀色の長髪を三つ編みに纏めた女性――申鶴は囁くような……いや、眠そうとも言うべき声でそう言うと、周囲を見回した。
 どこか気の抜けた声だというのに、手に握る槍には適度な力が加えられ、隙が無い。
 自然体なのに全方位からのどのような攻撃にも対処してしまいそうな、そんな強者特有の威圧感と言うべきか――敵対する側からすれば身の毛がよだつ雰囲気が感じられ、彼女を囲む三人の男たちは誰もが息を呑んだ。

「おいおいおい!? なんだよ、子供一人攫うだけの簡単な依頼じゃなかったのか!?」
「そ、そのはずだったんだが……」

 すでに申鶴の周囲には五人の同じような服装をした男たちが倒れており、僅かに上下するその胸が生きていることを伝えている。
 けれど気絶しているのか、それとも申鶴の威圧感に呑まれて意志が戦う事を放棄したのか。
 三人は倒れたまま起き上がらない五人を心配する様子もなく、ただただ『一方的に』自分たちを打倒した銀髪長身の女を見ている事しかできなかった。
 身体の方が戦う事を拒絶し、手足が震え、今にも逃げ出してしまいそう――それをしないのは、男たち……宝盗団なりに仲間意識というものがあるからか。

「てめえ、何者だ!? 用心棒が居るだなんて聞いてないぞ!?」

 男の一人が震える声で、そう叫んだ。
 男たち――宝盗団と呼ばれる窃盗、盗掘を生業とする集団の一員だが、今回は金を積まれてとある貴族の子供を誘拐する依頼を受けていた。
 宝盗団とは遺跡の盗掘者であり、未知、未踏、もしくはすでに発見された遺跡から更なる金品を探し出すために活動する。
 それだけではないのだが、今回は子供一人を誘拐するだけでまとまった大金が手に入る――という理由から、本来は盗掘団としては受けない類の『誘拐』にまで手を出してしまった。
 けれど、それだって子供の安全は確保されていたし、いわゆる『狂言誘拐』……貴族の子供が攫われ、多額の身代金を工面できなかった貴族は璃月の七星にそのことを報告。
 身代金を肩代わりしてもらうが、その一部は貴族の懐へ……豪遊が過ぎ、貴族の面目すら保てなくなりつつある財政の補填に充てるための計画だった。
 親の目を離れて遊んでいた子供を誘拐する――計画に加担した宝盗団にとってはそれだけの簡単な仕事のはずなのに、と銀髪の女、申鶴を囲む男たちは改めて自分たちの運の無さに泣きたくなった。
 誘拐する際に危機を察した子供がその身軽さで逃げ回り、丁度その先に旅の途中である申鶴が歩いてきたという間の悪さ。
 子供は勝手知ったる今はもう探索が完了した、いつも友達とかくれんぼをしている魔物も住まないような古い遺跡へと逃げ込み、申鶴は八人の男たちが子供一人を追いかけるという異様な光景に興味を持って追いかけ……そして、事情を察した申鶴の槍によって宝盗団たちが打倒されたという話。
 なんとも間抜けで、間が悪く、そして滑稽な話だ。
 璃月に数多居る創作家たちでも作らないだろう、面白みのない勧善懲悪な顛末だが、それの関係者からすれば悪夢以外の何物でもない。
 なにせ――。

「少年、そこに隠れていろ」
「う、うん」

 遺跡に置かれた、すでに動力を失っている遺跡守衛と呼ばれる巨大な機械の陰に隠れている子供に申鶴が声を掛けた一瞬――五人の男をあっという間に打倒した女の視線が三人の宝盗団から逸れた。

「う、うおおおおっ!!」

 その隙を狙って、三人の中で一番体格が優れる木製のシャベルを持った男が申鶴に殴りかかった。
 その動きはお世辞にも洗練されているとはいえず、武器のシャベルも振り回すだけと言った方が正しいだろう。
 けれど申鶴も女性としては長身だが、男はその申鶴よりも頭一つ以上は身長が高く、横幅に至っては倍以上、腕の太さからかなりの腕力だと一目で分かる。
 どれだけ優れた武術家でも、これだけの体格差では正面から受け止めるなど不可能――そうとしか思えないのに。

「…………」

 申鶴は構えるどころかその豊満な四肢に力を込めた様子もなく槍を上段に持ち上げ、その柄で簡単に自分より体格に優れる男の一撃を受け止めてしまった。
 表情も変わらず、どこか眠そうともとれる緊張感のない美貌のままで、軽く槍を逸らせば男の方が勢いに任せてあらぬ方向へと転んでしまう。
 先ほどから、こうだった。
 何人もの男が、時には複数の男が一斉に襲い掛かっても、申鶴はその攻撃を涼しげに受け、その勢いを利用して男たちをぶつけ合い、自分の力を利用しないまま勝手に宝盗団を自滅させていく。
 そこには力量差といったものだけでなく、盗掘によって生計を立てるような人間では一生を掛けても辿り着けない才能の差とも言うべき『越えられない壁』が存在しているというのを思い知らされるに足る、無気力な攻防。

「まだやるのか?」

 申鶴の言葉は、残り二人となった宝盗団に向けられたものだ。
 力量差は明らか。
 男たちに勝ち目は無く、後はもう仲間を放って逃げるしかないという状況。
 実際、逃げ出しても申鶴は追わないだろう。
 彼女はただ、気紛れに、逃げていた少年を追っただけなのだから。
 どこか眠たげな――さらに言うなら、感情の起伏すら感じられない美貌には少年の安否を気遣うような気持ちも感じられず、ただただ目の前の問題に対処しているだけ。
 ……それを見抜けていたら、最初の一人が打倒された時点で宝盗団の男たちは逃げ出していただろう。
 申鶴の腰にある『神の目』――この世界を司る七神から与えられるソレの色は蒼白、氷である。
 彼女はまだ『神の目』の能力すら使っておらず、ただただ自力だけで六人もの大男を打倒したのだから。

「う、動くな!!」

 そうして、申鶴が残り二人となった宝盗団をどうするべきか悩んでいると、背後から声が聞こえた。
 申鶴は前に立つ二人の男を警戒しないまま、背後に視線を向ける。

「……む」

 そこには一度打倒したはずの男が意識を取り戻し、申鶴に気付かれないよう少年を拘束している姿があった。
 槍の柄で殴られた右頬が赤黒く変色してしまっている様子が痛々しいが、子供を誘拐しようなどという悪漢なら当然の報いだろう。
 申鶴ならもう一度打倒することも簡単だ――その腕の中に、少年が捕まっていなければ。

「う、う、動くんじゃねえぞ!!」

 声が震えてしまっているのは、申鶴の強さをその身で直に理解しているからだろう。
 男顔負けどころか、人間としてどうかと思えるほどの怪力。
 優れた槍術に、『神の目』だけが原因ではない氷のように怜悧な態度と反応。
 このような状況においても驚くどころか眉一つ動かさない様子は、人間というよりも人形と称した方が正しいかもしれない。
 ……そんな宝盗団の男たちが抱く申鶴への感想は、とても的を得たものだ。
 彼女には感情というものが無い。
 いや、正確にはとても薄いというべきか。
 彼女の美肢体を隠す白い布。
 その白い布とは別にある、赤い紐――男たちはただの装飾品と思っているが、この紐は璃月の仙人が編んだ特別な道具であり、申鶴はこの赤い紐によって感情を抑制している。
 そうしなければ、彼女は内にある破壊衝動のままに暴れてしまい、その怪力で多くのものを傷付けてしまう可能性があるからだ。
 それは自分自身も含まれ、人間離れ……仙人すら超えるほどの怪力は、自分の肉体すらいつか破壊してしまう。
 それを考慮し、感情を抑える赤い紐を常に身に着けている。
 その所為か、申鶴は常日頃から感情の起伏がほとんど無く、どこか人形のような行動で周囲の人を驚かせてしまう時もあるほどだ。

「ふむ――人質というわけか」
「お、おう……わ、わ、分かってるじゃねえか」

 申鶴は人質を取られたというにはあまりにも落ち着いた声音でそう呟くと、氷のように冷たい視線を男に向ける。
 男はもう一度殴られたら本当に死んでしまうかもしれないという申鶴の怪力に恐怖しながら、それでも宝盗団としての自尊心のために逃げ出す事も出来ないのだろう。
 少年を拘束する腕だけでなく両脚まで情けなく震えながら、その首筋に質素な短刀を向けている。
 ……自分でも震えていると理解しているからか、刃は大きく離されているのが根っからの悪人に成りきれない宝盗団という性質か。

「う、動くなよ……おい!!」
「お、おう!!」

 少年を拘束する男が申鶴を挟んで反対側に立つ、残り二人となってしまった仲間に声を掛けた。
 それは暗に『この女をどうにかしろ』という意味が込められた声だったが、こんな怪力の女をどうしたらいいのか分からず、二人の男は十数秒ほど洞窟の暗がりの中で表情を変え……。

「よ、よし……」
「動くなよ……」

 意を決すると、恐る恐るといった様子で申鶴に近付いていく。

「さて、どうしたものか――私とその少年は、本当に無関係なのだが?」
「……お前、無関係な子供を助けに来たのか?」
「いや――気になって見に来ただけだ。そうしたら、お前らに襲われた」

 申鶴からすれば見ず知らずの他人――流石に大人が八人も束になって子供一人に寄って掛かって襲い掛かる光景を見て何も感じないわけではないが、感情の起伏がほとんどない申鶴の様子からは、まるで「子供の事などどうでもいい」といった雰囲気すら感じられる。
 申鶴に近付いた二人の宝盗団は本当に「何のために来たんだ?」と疑いながら、とにかく馬鹿力で危険な申鶴を拘束しようとした。

「くそ――この紐でいいか」

 が、申鶴を拘束しようとしたところで手持ちの道具に縄は無く、結局、彼女の肢体を際立たせる赤紐の装飾具を外すと、その紐で申鶴の両手を後ろ手に縛ることにする。

「ふう、ふう……この女、本当に見ず知らずの子供のために捕まったのか……?」
「いくら私でも、目の前で子供が死ぬというのは気分が良くないからな」
「お、おう……?」

 どこまで本気なのか分からない、感情の起伏の無い声が洞窟の中に響いた。
 申鶴は槍を取り上げられ、赤紐で両手を縛られたというのに少しも動揺しておらず、その声音は自分が捕らわれた状況すらどこか他人事のようにも聞こえてしまう。
 これには拘束した宝盗団たちの方が困惑し、これからどうするべきか、と残り三人になってしまった仲間内で視線を交わす。

「……ま、まあいい。とにかく、依頼は終了だ」
「そうだな。後は、依頼主から連絡が来るまでこの遺跡の奥に身を隠しておくだけだ」

 子供が行方不明になり、依頼主が用意していた脅迫文によってそれが宝盗団による誘拐だと判明。
 依頼主は璃月の七星にそのことを報告し、身代金の肩代わりを嘆願。
 実際にはその一部を宝盗団へと渡し、残りの金額を自分の利益とする――という筋書きだ。
 後はその肩代わりしてもらった身代金の受け渡しが終われば、宝盗団たちに子供を拘束する義理も無いし、貴族の男のその後がどうなろうが知った事でもない。
 その金を元に豪遊で浪費した金を補填するだけの稼ぎを生み出すのか、それともさらに豪遊して家を潰すのか……それはどうでもいい事だった。
 ただ。

「ほう。中はこうなっていたのか」
「この女……ど、どうします?」
「どう、ったって……」

 問題なのは申鶴だ。
 流石に計画の内情までを知ることは無いだろうが、この場に部外者が居るというのは問題だ。
 それに、仲間を打倒された事への怒りもあるけれど、しかしこの怪力女をどうにかできる自信など宝盗団たちには無かった。
 遺跡の奥へと進み、人気のない場所に木材で組んだ簡素な家の中、三人の男たちは申鶴の扱いに困ってため息を吐く。
 気絶している仲間たちは、気が付けばこの隠れ家に戻ってくるだろう。
 三人の宝盗団は少年一人と女一人を見張るだけで手いっぱいだった。

「お姉ちゃん……」
「どうした?」
「ごめんね、僕が捕まっちゃったから……」

 少年は複数の宝盗団相手に一歩も引かなかった……というよりも、一方的に打倒していた強い年上の女性が簡単に捕まってしまった原因が自分にあると理解し、それを気にしているようだった。
 申鶴はそんな少年の瞳をじっと見返すと、小さく頷く。

「気にするな。私の未熟が招いた結果だ」

 とても拘束され、これから何をされるか分からない状況にある女性の言葉とは思えない落ち着いた声音で、申鶴が呟く。
 槍は奪われ、両手は仙人が編んだ赤紐で結ばれている。

(これがただの荒縄なら簡単に引き千切れるのだが)

 なんとも恐ろしい話だが、申鶴の腕力は小高い丘ほどもある巨大な宝石の原石すら持ち上げる出来るほどだ。
 もはや人間としての規格から外れた怪力の前には荒縄の拘束など細糸に縛られたのと同義でしかなく、先ほどの戦いでは宝盗団の男たちを殴り殺さないようにする方がむしろ難しかったと思うほど。
しかし申鶴を縛っている赤紐だけは別である。
 仙人の力で編まれた赤紐は荒縄など比較にならないほど強靭で、申鶴の怪力をもってしても引き千切れない。

(……腹が減ったな)

 申鶴はそんな事を思うと、木材で編まれた天井を見る。
 実際、申鶴がこの近辺を歩いていたのは仙人の食べ物である清心という植物を探すためだった。
 小さな白い花を咲かせる清心は確かに食べれば草の味しかしないものだが、仙人として修業する申鶴にとっては主食である。
 それを食べたくてあるいていた所で誘拐の現場に遭遇してしまった……のだが、そんな事は表情に出さず、申鶴は他人から見れば「ぼー……」っとした様子で動かなくなってしまう。

「こ、この女……っ。こんな状況だってのに、余裕じゃねえか……」
「まあでも、これ以上はなにもしたくないですよ……」

 申鶴の暴れっぷりを知る宝盗団たちはそんな余裕の態度を崩さない申鶴に怒りを抱いたり、関わり合いたくないと怯えたりと態度は三者三様だ。
 なにせ、自分たちが八人掛かりで襲っても手も足も出ず、一方的に打倒された。
 子供を人質に取らなかったら全滅していただろうし、むしろよく子供を人質にしたくらいで止まってくれたと思うくらいである。
 なにせ、申鶴にとって少年は赤の他人のようだし、申鶴ほどの武術があれば恐怖に手を震えさせる宝盗団から子供一人を助け出すなど簡単だっただろうから。

「はあ……とにかく、後は連絡を待つだけか」
「っすね」
「…………」

 そう考えながら、申鶴が何か不穏な事をしないかと見張る三人。
 ……その視線が彼女の肢体。
 全身を包み込む黒のインナーで強調された豊満な美肢体に向くのは、当然のことだった。
 簡素な建物の壁に背を預けながら両膝を合わせて座っているだけでも絵になる美貌。
 十人に聞けば十人が美人と答えるだろう整った容姿に、均整のとれた肢体。
 出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込む。
 言葉にすればなんとも陳腐だが、申鶴の美肢体はその陳腐な表現が人間離れした域で構成されているのだ。
 男たちの手から溢れそうな胸、力を込めれば折れてしまいそうな腰、床と自重に挟まれて卑猥につぶれる尻。
 それらを包み込む黒のインナーと、インナーを飾る小さな白い布。

「……ごく……」

 時間にして、十数分か。
 戦闘の興奮が引くと、男の一人が生唾を飲み込んだ。
 申鶴は三人の男たちから向けられる視線の糸を理解できないまま子供を落ち着かせるために身を寄せ合い、ぼーっと天井を見ているだけ。
 拘束されている緊張感がまるでない、自然体にしか思えない態度。
 そこに『危険』と思える雰囲気は少しも無く――別の男も生唾を飲み込んだ。

「な、なあ……?」
「なんだ?」
「お前、この状況が怖くないのか?」

 三人のうちの一人が申鶴に質問すると、彼女は質問の糸がよく分からないという風に首を傾げた。
 その際に美しい銀色の髪が揺れ、僅かに目元を隠す。
 そんな些細な所作すら美しさが感じられ、同時に、宝盗団として長く活動し、女性との触れ合いが極端に少なかった男たちは自分の呼吸が荒くなるのを自覚する。
 当然だろう。
 今はもう拘束し、抵抗できないようにしている絶世の美女が目の前に居るのだ。
 しかも服装は、豊満な肢体を際立たせる黒のインナーが一枚だけ。後は布切れとほとんど変わらない白布がほんの少しあるばかり。
 そんな美肢体を見せつけられて興奮しない男の方が少ないのではないだろうか。

「恐れる必要など無いだろう? お前たちでは、我を倒せない」
「……へえ」

 それは申鶴の本心だった。
 人間離れした怪力だけでなく、申鶴はその耐久力も人外だ。
 先ほどの戦いで何度か受け止めた際に感じた宝盗団たちの腕力なら、一晩中殴られ続けたとしても耐えられる自信がある。
 刃物さえ使われなければ、申鶴にとって男たちは脅威とは成りえないのだ……。
 けれどそれは自信からの言葉ではなく、ただただ事実を口にしただけ。
 やはり感情の抑揚が感じられない声音は平坦なもので、けれど逆に、それが「この女は自分たちを見下している」のだと男たちにいらぬ感情を抱かせてしまう。

「ちっ、てめえが少し強いからって、あまり調子に乗るなよ?」
「こっちには人質が居るんだからな?」

 先ほどまで怯えていたとは思えない強気は、やはり申鶴が赤紐で拘束されて抵抗できないと分かっているからか。
 赤紐の効果までは知らずとも、それで女が抵抗できない、そして子供見捨てる事をしない心の持ち主だと理解すると宝盗団たちはそれを最大限に利用することにした。
 申鶴の胸に抱かれて落ち付いていた少年を奪い取ると、三人の中で一番下っ端だと思われる一人がその首にナイフを押し当てる。

「これから、絶対に抵抗するんじゃないぞ?」
「……? 最初から抵抗するつもりなど無い。我とその子を放し、すべてを忘れて野に帰れ」
「…………そうもいかねえんだよ、俺たちも仕事だ」
「お姉ちゃん!!」

 少年がナイフの冷たさに怯え、震える声で申鶴を呼んだ。
 彼女はその声に顔を向けると、安心させるために微笑むでもなく、ただただ無表情のまま頷く。

「大丈夫だ。この者たちはお前を捕まえようとしていた。殺されることは無いだろう」
「……よく見てるな、だが」

 申鶴の言葉にリーダー格の男は呻くような声を出すと、少年を捕まえる男に視線で指示。
 すると、男はそのナイフの刃を子供の柔らかな頬に押し当てた。

「殺しはしないが、傷付けることは出来るんだぜ?」
「そうか」

 ……が、感情を抑制されている申鶴は、その脅しにも動揺しない。
 動揺するための感情が、腕を縛る赤紐で抑制されているのだから当然だ。
 それどころか。

「私に何かしようとしているのだろう? 子供を脅すなどせず、さっさとすればいいではないか……」

 まるで男たちの目的を知っているかのような言葉を向け、先を促してしまうほど。
 別に、申鶴にこのような状況から何をされるのか……という知識があるわけではない。
 感情の抑制と共に人形のような態度となった事、そして敗者に向けられる欲情――それらがすべて、彼女の場合は『戦い』に偏ってしまっているのだ。
 だから、申鶴は拘束された自分が殴る蹴ると言った暴力にさらされると思っても、それ以外の知識はほとんどない――まるで子供のようなもの。
 そして男たちは、これだけ豊満な肢体の持ち主が『自分を早く襲え』と言わんばかりの態度に面食らい、こちらの方が気圧されてしまう……が。

「よ、よし」

 一人が子供を拘束したまま、二人の男が申鶴へとにじり寄る。
 申鶴は抵抗しない。
 壁に背を預け、両脚を合わせて座ったまま、こんな状況でも感情の起伏が少しも感じられない瞳で二人の男へ交互に視線を向ける。
 その人形のような美貌がこれからどう歪むのか――男たちは雄の欲望のまま、手が届く位置にまで申鶴へ近付いた。

「お、おい! そのガキから絶対に手を放すんじゃねえぞ」
「もちろんだ!!」

 もし子供を逃がし、運悪く腕の紐が千切れてしまったらどうなるか――それこそ、首を捩じ切られてもおかしくない怪力に怯えながら、男二人が黒のインナーで強調され、白い薄布を乗せた豊満な胸に手を伸ばした。

「お、おお……女の胸だ」
「すげえ……こんな柔らかい胸、初めてだ……」

 男たちの汗と泥で汚れた手が申鶴の豊かな乳房を鷲掴みにする。
 その拍子に男たちの口からは思い思いの感想が漏れたが、しかし申鶴はソレに嫌悪感すら覚えることなく、今までと変わらない冷めた視線を向けるだけだった。

「……何をしているのだ?」

 それから数分。
 痛みを与えられると思っていた申鶴は、胸を揉むだけで何もしない男たちにそう質問した。

「へへ……どうだ、気持ちいいだろう?」
「???」

 リーダー格の男がそう言うと黒のインナーが歪んで皺を浮かべるほど強く乱暴に申鶴の胸を揉んだが、やはり申鶴はその程度では痛みを感じないし、そこから何をしたいのかという男たちの糸も理解できない。
 冷めた視線のまま首を傾げ、ただただ子供のように胸を揉む男たちを眺めるだけだ。

「だから、いったい何をしているのだ?」
「う、ぅ……」

 その雰囲気に呑まれ、一緒に胸を揉んでいた部下の方が先に心が折れそうになってしまう。
 女性を乱暴する――胸を揉んでいるだけだが、普通の女ならそれだけでも嫌悪感を覚えるなり、気弱な女なら泣き出したりもする。
 けれど申鶴は、それらの反応を示すどころか少しも表情を変えないまま胸を乱暴に揉む男たちを眺めるだけ……これでは、胸を揉んでいる自分の方が馬鹿で滑稽な存在だと思われているのも同じだ。

「ちっ、お高く留まりやがって……調子に乗っていられるのも今の内だ」
「ふむ。別に、そのようなつもりは無いのだがな……」

 申鶴の本心からの言葉は、しかし男たちにとっては言葉通り『お高く留まっている』ようにしか感じないものだった。
 今度は先ほどよりもゆっくりと、優しく、胸を揉むのではなく胸全体を摩るような動きへ変化。
 痛みではなく優しさで申鶴の豊満な乳房を愛撫すれば、男たちの片手ではつかめないほど豊満な胸が黒インナーの下で砂糖菓子のような柔らかさで揺れ、けれど手を放しただけで元の形へと戻ってしまう。
 柔らかさと弾力、そのどちらもが理想的な範囲で整えられた美巨乳は男の雄の部分を刺激するには十分で、更に十数分、男たちは申鶴の胸に集中する。
 胸全体を撫でるように動いたかと思えば、左右非対称に優しさと乱暴さで刺激を変え、更に普段は意識しないだろう下乳や胸の谷間、脇側の側面などを重点的に。
 そのたびに卑猥に歪んで形を変える乳房の変化を楽しみながら刺激を続ければ、ほんの僅かにだが、黒インナーの上からでも分かるほど乳首が勃起し始めた。

「お、乳首が立ってきたぞ」
「こっちもだ! へへ、すました顔をしてるくせに、身体はちゃんと感じてるじゃねえか!」

 リーダー格の男が指摘すると、一緒に胸を揉んでいた男が饒舌に状況を説明する。
 ……が。

「そうか」

 申鶴はそれでも感情の起伏を感じさせない声で呟くと、二十分近くも胸を揉み続けた男たちに冷めた視線を向けるだけ。
 その声音は本当に性感といったものを感じていないようにしか聞こえず、むしろ聞く者の心を折りそうなもの。
 けれど。

「へ……その澄まし顔がどこまで続くか、楽しみだな」
「お、お姉ちゃん大丈夫……?」
「ああ、問題無い。……お前たちが何をしたいのかなんとなく理解できたが、おそらく無駄だぞ」

 男たちの様子に不穏な気配を感じたのか少年が申鶴を心配したが、返したのは何も無かったかのような平坦な声。
 それに。

「そんなものでは、私は何も感じない」
(師匠が私に施した赤紐があるからな)

 申鶴の感情――殺戮衝動を抑えるための赤紐。
 それによって感情を抑制されている申鶴には、性的な快感というのも無意味だ。
 仙人としての修行のために長く人間から遠ざかっていた事もあり、こういった営みへの知識不足もあるが……けれど、無知というわけではない。
 男たちが自分に何を求めているのか理解すると、申鶴はため息を吐いた。

「さて、それはどうかな?」

 もう少しで舌が届きそうな位置まで顔を近付けながら、リーダー格の男が申鶴に囁きかけた。
 申鶴は嫌悪も恐怖も怒りも無い、ただただ無感情な瞳を男に向ける。
 ――それを抵抗の意思と感じ取ったのだろう。

 男たちの執拗な乳愛撫が、始まった。

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