tomarigi 2024/01/06 00:20

「極道の男、庄助受難の日々」

100DL記念のSSになります。
ネタバレを含みますので、ご視聴後の閲覧を推奨します。


《極道の男、庄助受難の日々》

「デキてるよね? お前ら」

 兄貴分である国枝聖がぽつりと言った。名指しされた当の二人は、デキているの意味がわからず、しばらく考えたのち。

「でき……? は!? デキてませんよ!」

 早坂庄助が先に質問の意味に気づき、顔を赤くして反論した。天気のいいうららかな午後を、事務所の掃除にあてている時だった。

「いや、だってさぁ。なんか二人とも距離がおかしいじゃん。近くない?」

 国枝はこちらを見もせずに、自分の爪にヤスリをかけている。彼の爪はいつも短くキレイに整えられているが、いわく女性を抱くときのマナーだそうだ。

「距離って、そんな……」

 別におかしくないでしょう、と言いかけた庄助の後頭部に何かが触れている。遠藤景虎の鼻が、庄助の金茶に脱色された髪の中にゆるく差し込まれている。どうやら髪の匂いを嗅いでいるようだ。

「んなーっ! やめんかい!」

 雑巾を持った手をブンブンと振って、くっついている景虎を退けた。こいつ、いつの間に。庄助は嗅がれていたであろう後頭部をおさえ、景虎を睨みつけた。

「庄助の匂いは、落ち着く」
「死ね!」

 庄助は、景虎の向こう脛に強めのローキックを決めたが、一切痛がる様子もなく、また悪びれる様子もなく、無表情で棚の拭き掃除をしている。

「まあまあ別に俺はいいと思うぜ。仕事に差し障りなければ、付き合おうがナニしようが。俺ら、こういういつ死ぬかわからん世界だし、女より男同士のが理解し合えることもあるでしょ」

 爪の先に息を吹きかけ、ようやっと国枝はじろりと庄助を見た。腰のあたりに絡みつく視線が品定めされているようで、庄助は少しむず痒いような心持ちになった。

「とにかくそんなんじゃないですって!」
「まあ何でもいいけど、事務所の掃除終わったら行ってもらうとこあるから早くしてよ」

 国枝は興味を失ったとばかりに外に目をやり、あくびをひとつした。窓から差し込む午後の光に、室内の埃がキラキラと舞っている。

 ほんま最悪! と、ぷりぷり怒る庄助のうしろ頭を見て、景虎はまたぞろその柔らかい髪に鼻を埋めたくなったが、嫌な顔をされるのでやめた。庄助は清掃用トングで半透明の袋に、カウンター内に散らばっているゴミをぽいぽいヤケクソみたいに詰め込んでいる。後ろに腕を引いたとき肘をぶつけた開きっぱなしの引き出しから、架空のゴルフ用品店に偽装したメンバーズカードがどばっとこぼれ落ちてきた。

「なんで俺らが潰れた箱ヘルの掃除なんかせなあかんねん」

 箱ヘル、つまり店舗型ヘルス。夜の世界も昨今とんと景気が悪く、景虎たちの所属する織原組の経営する店もポツポツと潰れたり、形を変えて維持費のかかりにくい無店舗型に切り替えたりしている。

 ここ、『わがままポニー』は、先週潰れたばかりの店舗型ヘルスで、今日は夕方からそこの引き上げと掃除を、先程国枝に命じられた。景虎は特になんの感情も抱かなかったが、庄助は「なんか汚い」だの「やりたくない」だの、国枝の前では何も言わないものの、車に乗ってからブツブツ文句をつけ始めた。それでも現地に来たらきっちりマスクまでつけて掃除をしている庄助を見て景虎は、庄助はえらいなと思った。

 二人で協力してあらかた大きなゴミ以外を袋に詰め終えると、四つある個室のうちの一つに入った。広いラブホテルの一室のようなそこは、奥に浴室、入り口近くに二人掛けのソファとテーブル、ベッドが置かれていた。

 ワインレッドを基調とした色合いでまとめられてはいるものの、電灯は薄暗くほんのりピンクがかっていて結果的に部屋全体が赤く、まったく落ち着かない心持ちになる。散らかった事務所のカウンターの内側と違い、ここは客が使用するからか、比較的綺麗に掃除されていた。

「……なあカゲってさ、風俗とか行かんの?」

 ベッドの引き出しに詰め込まれたタオル類を片付けながら庄助が言う。

「前はたまに。でも雰囲気があんまり好きじゃない」

 景虎は答えた。キャビネットの上の引き出しには、まだ未使用のシーツやら何やらがきちんと畳まれて整理されて入っている。それらを引き出し、全部ゴミ袋に入れるのは少しだけ胸が痛むような不思議な気持ちがした。

「それでもよ、女のほうがよくない?」
「女は柔らかくて気持ちいいけど、俺は庄助のほうが好きだ」 
「キッショ……」

 白い不織布のマスク越しに、庄助が露骨に変な顔をしたのがわかった。素直に気持ちを伝えても、あまり喜ばないのはなんなんだろう。そのくせ嫌がるわけでもないのに。と、景虎は庄助の態度を見て、たびたび不思議に思う。
 キャビネットの奥には、大小様々のプラスチック製の箱が押し込まれている。景虎はそれらを手に取ると、少しだけ考えてから言った。

「国枝さん、備品でほしいものは持って帰っていいって言ってたな」
「言うてたけど……何かええものでもあったか? ほしいエログッズでもあったんか?」
「そうだ」

 冗談で言ったのに、という顔をして、庄助は後退った。景虎の腕にはピンクローターやローション、恐ろしいイボイボのついたバイブレーター、よくわからない吸引器のようなものなど、様々な箱が抱え込まれている。庄助はそれらを自分に使っている景虎を想像して、心底ゾッとした。

「たっ……多分、どれも男用やないで!」
「そうなのか? やってみないとわからないな」
「あ! ほら……ウチ壁薄いし、あんまりモーターとかブォンブォン鳴らしたらお隣さんに迷惑やし……」
「モーター程度でうるさいなら庄助がキャンキャン喘ぐ声のほうがよっぽどうるさいだろ。それに両隣、インド人だし心広いから大丈夫だ」
「しれっと人種差別すな!」

 思わずツッコミを入れた庄助の手を取り、景虎はぐっと顔を近づけた。

「家で使うのが嫌なら、ここで試していくか?」
 
 熱く芯を持ち始めたペニスに、小さくて丸い卵型のローターをぴたりと押し付けられると、背筋がぞくりと粟立った。仕事中だというのにいつの間にか、まんまと欲情されて脱がされ、ベッドに押し倒された自分が情けなかった。

「……っ」

 パンツ越しとはいえ、固くてひんやりとした感触に息を呑む。反射的に閉じようとする膝頭を捕まえる景虎の眼の色は、反射したカラフルな室内灯の光と情欲で、ピンクに揺らめいていた。

「ん……!」

 景虎がそれを操作すると、ゆるい振動が庄助のペニスを襲った。ダイヤルで強弱を調整するタイプの、昔ながらのピンクローターだ。裏筋を伝わってくる小さな振動がもどかしく、庄助は切なげに短い眉を寄せた。

「ぅ、くっ……、ヘンなこと、やめろ……っ」

 胸の前で両手をきゅうっと握って頭を振った自分の仕草を、庄助はまるで女のようだと思った。嫌がる素振りとは裏腹に、これから景虎にされるであろう、様々ないやらしいことを予感して胸が高鳴っていた。いつの間にこんなに、おかしな身体になってしまったんだろう。

 最近ではアダルトビデオなどを観て一人でするときも、女の方に感情移入してしまっている。押さえつけられ、侵入され、甲高い声で鳴きわめく性。前は、違った。間違いなく以前は自分が挿入する方として観賞していて、穿たれる女を見て興奮していたはずなのに。

「あ、っあ……」

 空いた方の手で乳首を摘まれる。散々景虎によって開発されたそこに触れられると、すぐにくすぐったさより快感が勝って、身をよじってしまう。小指の先よりも全然小さい突起を、優しくこねられるだけで泣きたくなるほど感じた。

「濡れてる……わかるか庄助? ローター、ゆるく当ててるだけなのにパンツに染み、できてる」
「うっさい……ボケ……っ」

 精一杯の憎まれ口を、噛み締めた奥歯の隙間から絞り出す。どうしようもなく感じているのはバレているというのに、男としてのプライドをギリギリのところで保ちたい自分もいる。

「うン……っ」

 キスをされる。自分より幾分も身体の大きな景虎が、こちらに体重がかからないように配慮していることに少しイライラする。極力声を出さないように食いしばっていた歯をこじ開けられ、口腔内を好き放題に味わわれてしまう。
 
 潤む粘膜を余すことなく舐める景虎の、髪や頬の香りが鼻呼吸のたびに身体に入ってきて、クラクラする。押し付けられているローターが敏感なところを擦るたびに、情けない声と息が漏れた。

「っあ、も……はやく……こんなとこでこんなことしてるのがバレたら……っぁ、殺される……! やるならさっさと、突っ込めってぇ……!」

 訴える声に否応なく甘さが乗る。仕事中にいやらしいことをしているという背徳感と、万が一国枝にバレたらどうなるかわからないという恐怖は確かにあるものの、身体がどうにも熱く疼く。俺はそんなに景虎とセックスがしたいのだろうか、なんでだろう。庄助はどろどろに溶け始めている頭の中で考えたが、答えは出なかった。

「そんなにはやく欲しいのか?」
「ちが……っ、仕事が、残ってるやろ……」
「半日じゃ全部片付かんだろうから、今日は事務所に帰らなくていいって国枝さんが」
「せやからってお前……」
「シチュエーションが違うと新鮮だ。俄然、燃える」

 言うが早いか景虎は、庄助のボクサーパンツを剥ぎ取ると、股間に顔を埋めた。

「ゎ、アホ……っ! やめ……! シャワー浴びてないのにっ」

 ローターでゆるく苛められ続けた陰茎が、景虎の口腔内の熱さに歓喜するように硬さを持った。皮の隙間に舌を入れられ、ぐるりとほじくるように舐め回されると腰が震えた。

「あ、や……っ、あかんて、カゲ……っ! 今、めっちゃそこ……っ!」

 敏感になっている。すぐにでも絶頂してしまいそうで、庄助は背を反らせて喘いだ。

「こっちにも使ってみような」

 震える陰茎から唇を離すと、景虎はローションを指に取り、庄助の肛門に塗り拡げはじめた。粘性の液体が空気を含んで、くぷんといやらしい音をたてる。身をよじる庄助の足首を掴み、ぐいっとローターをそのまま押し込んでしまった。

「あ……!?」

 卵型のそれが胎内に埋まってしまうと、細いコードとリモコン部分だけが尻尾のように残された。庄助は自分の尻から生えるコードを見て、信じられないといった顔をして景虎に目をやった。細い尻尾の生えたアナルを観察している。

「カゲ……っ! いやや、これ……イヤやぁっ」
「なんでだ。俺は、やらしくていいと思う。ほら、こうやったら……」

 景虎はゆっくりとコードを引っ張って、小さなローターを尻の穴から半分ほどはみ出させた。ピンク色が尻の穴の肉をまとって顔を出す。内部の粘膜がローションでぬらぬらと光っている様が、グロテスクではあるが婬靡でもあった。

「き……っあぐ……」
「半分出てる、エロい尻肉で卵産んでるみたいだ」
「おまっ……いいかげんにせえ……っ、ふ、く、ああ゛っ!?」

 景虎がスイッチを入れると、モーター音とともにそれは胎内に吸い込まれるように戻っていった。咄嗟に尻を食い締めてしまって、前立腺にダイレクトに伝わる振動に、庄助の視界はチカチカと火花を散らせた。

「は……カ……っ」

 ペニスの先端から透明な液が伝う。後から後から湧き出てくるそれを押し戻すように、景虎は舌で鈴口を愛撫した。

「キっ、ひ……や、あ゛……っ! 待っ……ゥ、ゔンっ!」

 声にならなかった。振動を強くされると、体の奥でモーターがじんじんと唸り、中に入っているそれを強く意識させられた。景虎の髪を掴んで口を離させようとしたが、先端を吸われ裏筋を舌で愛撫され、なにより前立腺を掻きむしるように蠢くローターに意識がいってしまい、庄助は上手く動けなかった。

「ぁ、あ……もうっ、も……でそ、やめろっ……! イク、イぐぅっ……!」

 尿道から精液がせり上がってきて、我慢しようとしても無理だった。頭を振りたくり涙を散らして、庄助は景虎の口の中にあえなく吐精した。

「はあっ……は……っ……」

 景虎は口の中に広がる精液を、まるで何事もなかったかのように飲み干してしまうと、絶頂の脱力感で腰砕けになっている庄助の身体を反転させ、腰を持ち上げた。びくん! と庄助の背中がオモチャのように跳ねた。

「ア、なか、中でまだ……っ!」

 庄助の尻の中からうっすらと振動音が聞こえた。リモコンとコードはベッドに垂れて、丸い先端を咥え込んだアナルがぴくぴくと収縮している。背中に手を添えられて、庄助は情けない犬のような声を洩らした。ローターを引き抜くことはせずそのまま、景虎は自身を庄助の胎内に埋めていった。

「〜〜〜っ!? やぁあっ……! ナカ、あかんて、おっお……ひぐっ!」

 ローターの振動が亀頭に伝わる。こじ開けるように押し進むたびぎゅうっと何度も締め付けてくる括約筋が気持ちよくて、景虎は短く息を吐いた。

「あ゛ァ、やっ、抜いて、頼む……頼むがらぁっ……!」

 ゴリゴリと中をペニスとローターの両方に捏ねられて苦しいのだろうか。四つん這いになったまま、庄助は懇願した。腰の窪まりに汗が溜まっている。景虎は構わず、激しめにピストンを開始した。

「お゛……っ、お……あっ……お゛……」

 遠慮なく揺すぶられ、庄助は目を剥いた。血の通わない機械が奥の方まで入ってきて、それも恐ろしかったが、願いを聞き入れてくれない景虎のテンションが何より恐ろしかった。

「はん……っ、あ゛っん、ひゃめ……んぉ……っ! そこ、ゴリゴリすんな、ぃぎっ……!」

 射精したばかりでまだ復活していないペニスを、前立腺への刺激によって無理矢理勃起させられるのが辛かった。中で無遠慮に振動するモーターと、出し入れされる景虎の太いペニスの感覚、そのどちらがどちらなのか庄助にはもうわからなく、ひたすら組み伏され交尾を受け入れる雌犬のように喚いた。

「庄助、すごい……締まる……っ」

 景虎は腰を打ち付けては、尻たぶを開き庄助の肛門とそこに出入りする自身のペニスを見るのが気に入っているようだ。庄助も最初の頃こそ、恥ずかしいからやめろと言っていたが、今はそこに景虎の視線を感じると「また見られてる」と、腰の奥がきゅんとするようになってしまった。

「んう゛っ……も……っ、ぁ゛、っは、あだま、ぐちゃぐちゃに、なるぅ……っ! また、またイク……っ!」

 尻の上からローションをぶち撒けるように追加され、結合部をぶちゅぶちゅといやらしい音をたてながら泡立てるように突かれる。こうなってくると、もはや蹂躙されるのがものすごく気持ちよくなってきて、庄助は我を忘れてしまう。すっかり熱を取り戻したペニスから、また精液が迸る。

 景虎はぶるっと身体を一つ大きく震わせるとペニスを尻から抜き、庄助の尻に精を吐き出した。大きな息を吐くとマーキングのように、庄助の柔らかな尻に先端の液を塗りたくった。アナルからはみ出たコードからはローションが伝い、ベッドシーツをドロドロに汚している。まだスイッチを切っていないそれは振動を続け、痙攣する庄助の中を苛み続けていた。

「ローターは初めてのラブグッズにいいって書いてたからな。次は何がいい?」
「絶対嫌や」
「この細めのバイブとかどうだろうか。アタッチメントを切り替えれば乳首も……」
「死ね!」

 庄助は捻りを効かせたデンプシーロールを景虎の腹に打ち込んだが、一切顔色を変えることなくスマホのアダルト通販サイトを見ている。

 庄助はすっかり忘れていたが、景虎は一度ハマるとしつこい男なのだった。その後、無事に掃除を終えた箱ヘルから持ち帰った様々な道具の数々で庄助を散々泣かせた挙げ句、それだけでは飽き足らず新しいグッズを暇があれば探している。

 この前、腹いせにアダルトグッズを処分するためにゴミ捨て場に向かった庄助は、偶然右隣のインド人と顔を合わせてしまった。「いつも元気ダネ、オニイサン!」と言われて、顔から火が出るかと思った。

「お? 二人共はやいな、おはよう」

 事務所のドアを開けて、国枝が入ってきた。庄助と景虎はおはようございます! と勢いよく頭を下げた。

 国枝は自分の椅子にどっかりと座るなり、

「今日は潰れたSMクラブの引き上げがあるんだけど、二人で行ってくれるぅ?」

 と、ニヤニヤ顔をこっちに向けた。行きます、と即答しようとする景虎の口を慌てて塞いで庄助は、絶対この人おもろがってるやろ……と思った。

 受難は続きそうである。

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