一番大切な物
一番大切な物
ようやく一つのプロジェクトが片付いた。仕事納めまであと数日、というこの日に。一つの仕事を完成させたことに、感慨など今更沸いては来ない。次の大規模案件まで、細々とした仕事をするだけのこと。そして年末年始の休みがある。
幸いなことに、私の所属している会社は、何かと理由を付けて酒を飲みたがる奴は少数派だし、少数派の彼らは彼らだけで楽しむ事を知っている。やれ忘年会だ新年会だ納会だ、と、飲み会という名のハラスメントの応酬に巻き込まれることもない。
仕事は忙しいし、給料も決して良い方ではないだろう。だが、慣れた。理不尽な顧客の要望、無茶な営業の約束、曖昧な上司の指示、全部。
そう、慣れていた。安物のオフィスチェアにも、サービスであるだけ有り難いまずい珈琲にも、滅多に掃除されない喫煙室にも、いつも売り切ればかりの自販機にも。
思い切り伸びをすると、ぎぃ、と、椅子の背もたれが大げさな音を立てた。腰が痛い。肩も痛い。、ずっと酷使している指も痛い。年末は、まずは整体か、鍼か、その辺りから始めよう。後は帰省して、そして正月が明けたらまた所沢に戻ってくる。田舎に帰る夜行列車のチケットはきちんと抑えてある。正月は思い切り実家でだらけよう。日がな一日、こたつでミカンを食べていよう。
「ちょっと、煙草吸ってきます」
一応チーフに一言入れてから、私は珈琲の入った紙コップを手に、喫煙室に向かう。おう、お疲れ、と、チーフは人ごとを人ごとらしく扱ってくれた。
ああ、本当に疲れた……。
煙草を吸いながら、少しだけ感慨に耽る。全く、社会人というのは馬鹿らしい、正月休みがあって、その後は五月まで休みらしい休みがない。五月にドバッと休みがあったかと思うと、またお盆まで休みがない。お盆に休みがあって、そして年末まで。
煙を吸う。珈琲をすする。心の中の何かがほぐされる。
そういえば、今年は有給をほとんど消化していない。三月辺り、消化しないとまずいと上から言われるかも知れない。私には私の事情があって休みを取れなかったのだが、休みを取らないとまずい、という会社の建前も、一応分かる。まとめて休めるなら、久々に旅行にでも行こう。
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去年のクリスマスに「こいうクリスマスもアリでしょう」と書いた物です
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