LIMITED研究所 2022/01/06 17:35

スパイダーマン権利騒動から読み解く,「ノーウェイ・ホーム」がMCUからトムホへの「感謝状」になる理由


日本での公開が1月7日に迫るMCU版スパイダーマン最新作,「スパイダーマン No Way Home」.実写版スパイダーマンでは初となるマルチバースの設定が取り入れられた本作.私もとんでもなく楽しみです.

もう公開がこの記事を描いている時点で2日後に迫っているため,遅すぎる感じはするのですが,「 No Way Home」の内容について色々予想できることを描いてみたいと思います.

もちろん海外で見てきたとか,日本での試写会の先行上映を見てきたとかではないので,完全な妄想でしかないです.しかし,これまでのMCU版スパイダーマンのお話の傾向,そして最新作のマルチバースと言う設定から,

「この映画は大人の事情で消されかけた,MCU版スパイダーマンという世界を救ったトム・ホランドの,MCUによる疑似的な私小説であり,感謝状にならざるを得んでしょう」

というハナシに繋げていきたいと思います.


なお,予防線を貼らせてもらうようで,申し訳ありませんがこの記事の内容は,全て頭のおかしな筆者のただの妄想です.
しかも,アベンジャーズとかほぼ知りません.他のMCU作品も見てません.アイアンマンが死んだことくらいしか知りません.MCU版スパイダーマンが好きなだけの筆者の妄想が生んだ駄文に,貴重な時間を割いても構わない方のみ,ご覧いただきたいと思います.





MCU版スパイダーマンについて

書くまでもないことかと思いますが,概念整理をしておかないと後の説明に支障をきたすポイントのみ,かるーくだけ触れておきます.

知っている方には当たり前のことしか書いてないので,最後に書いてある赤太字だけ読んでもらって,次の章に進んでいただいても結構です.

ユニバース商法に初参戦した実写スパイダーマンシリーズ

これまで実写スパイダーマン映画と言えば,サム・ライミ版(2002~2007),マーク・ウェブ版(2012~2014)と2シリーズ作られてきたわけですが,今作は初めてMCU(マーベルシネマティックユニバース)と言う,複数のマーベルヒーロー映画が世界観を共有するフランチャイズの一部として作られたシリーズです.

ちなみにサム・ライミ版,マーク・ウェブ版はソニーが権利を保有しており,
MCU版は両社が合同で権利を保有して製作しています.

徹底して,「子供」として描かれるピーター・パーカー

高校生と言う設定なので当然ではありますが,前の2シリーズと比較しても明らかに主人公ピーター・パーカーは幼く描かれます.必ずと言っていいほど誰かの保護下に置かれ,「まだ子供なんだから」と敵味方関係なく周りの大人に,舐められ,そして窘められます.

サム・ライミ版,マーク・ウェブ版でももちろん精神的に幼い時代と言うのは描かれはしますし,常に発展途上なのがスパイダーマンというコンテンツの魅力ではあります.

しかし今作では特に「16歳~18歳という,大人なのか子供なのか,自他ともに扱いに困る時期の大人社会との確執」という部分が意図的にクローズアップされている作品であることは,ピーターを演じる童顔,高声俳優トム・ホランドのキャスティングからも明らかでしょう.

この経験の浅い子供としてのスパイダーマンと言う設定こそが,後述するメタ的な脚本構造に繋がってきます.

「大人社会の洗礼」として描かれるヴィランたち

これまで実写スパイダーマンシリーズでは登場してこなかった,ヴァルチャーとミステリオがメインヴィランとしてスパイダーマンの前に立ちはだかります.

ただの敵キャラクターとしてだけでなく,必ずと言っていいほどMCUの顔であるアイアンマン=トニー・スタークとの間に過去に因縁を持っている者として描かれ,両者ともトニーの社会的な権威による被害者です.

つまり「MCUという世界で強権を奮っていたトニー・スタークせいで,地獄を見てきた大人たちが,まだ世間知らずなクセに大人の世界に踏み込んで来るクソガキ,ピーター・パーカーに自分たちが見てきたのと同じ地獄を見せつけようと立ちはだかる」 という

実社会にも通用する,本当にえげつない寓話となっているのです.MCU版スパイダーマンはこれまでの2作とも,この「洗礼」の描写が本当に容赦なしに描かれますし,作中一番の見どころと言っても過言ではないです.


このヴァルチャーとミステリオの立ち位置と役割こそが,本シリーズ最大のポイントであり,

「MCU版スパイダーマン=俳優業の現実と,新進気鋭の若手俳優への洗礼を描いた寓話なのでは?」

と言う後述の分析へと繋がっていきます.



「慣れの果て」として立ちはだかる先輩俳優たち

ここからが本題,と言いたいところなのですが,まだ前置きというか,映画をよく見る人にとっては当然のような章になってます.例のごとく,ご存知の方は次の章へお願いいたします.

この章では,ヴァルチャーとミステリオの脚本上の立ち位置,役割が明らかに彼らを演じる,マイケル・キートンとジェイク・ギレンホールのキャリアを踏襲したものとして描かれており,それがピーターを演じるトムホへの「俳優業の現実と洗礼」として機能してるんじゃね?

ってことについて分析していきます.

機械の翼に頼らなければ飛べなくなった男

ざっくりと1作目のヴィラン,ヴァルチャーの動向

「ホームカミング」作中に出てくるヴァルチャーこと,エイドリアン・トゥームスは物語序盤,本編の時制より8年前の時点では,がれき撤去・廃品業のようなことを営んでいる事業者として登場します.

アベンジャーズが宇宙人か何かと闘った(見てないので詳しくは分かりませんが)影響で壊れた街の撤去作業をトゥームスの業者が上請うこととなり,先行投資も行い,ビジネスチャンスかと思ったのも束の間,スタークが組織した「宇宙からの飛来物専門回収業者」により仕事を奪われ路頭に迷います.

ですが,スタークの宇宙専門業者に引き渡しそびれていた「宇宙人のテクノロジーが詰まった廃品」をくすねて,それを兵器に転用・販売するビジネスで成功.本編の時制である8年後,トゥームスは自分自身もその技術を利用して作った機械の翼を使い,スタークの会社の積み荷などを強奪する悪行に手を染めています.

かつての専売特許を奪われたマイケル・キートンとその後のキャリア

マイケル・キートンといえば言うまでもなく,初のバットマン実写映画化作品「バットマン(1989)」において主人公ブルース・ウェインを演じたことで有名.

しかし,その後キートンは,歳を重ねるごとに明らかにブルース・ウェインを演じていた時のような,ヒロイックな容姿とは真逆の悪人面へと変貌(個人的な主観ではありますが)します.

最近では,「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」にてマクドナルド創業者から会社を奪い取り,現在のマクドナルドの原型を作った悪徳経営者レイ・クロックを演じたり,「ロボコップ(2014)」にて主役のロボコップを都合よく利用しようとする,これまた悪徳経営者レイモンド・セラーズを演じたりと,悪役イメージを強く持っている人も多いのではないでしょうか.

もちろんその方がキャリアの幅が広がるでしょうし,ウェインのような甘いマスクが売りの役柄に囚われない活躍が出来るため,俳優としては好都合でしょう.

ですが見方によっては,俳優業においてのかつての立ち位置を追われたが為に,別のキャリアに舵を切り,時代と共に求められる役割に適応していかなければならなかった俳優

と見ることもできるのです.

そんな彼の転身をMCUに限らず,映画業界は見逃さなかったのでしょう.おそらく彼の俳優業史上最大の転機「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)(2014)」では,明らかにかつてバットマンを演じていたキートンを意識したキャスティングがなされていました.

ここまで書けばあえて言うまでも無いですが,
本作におけるヴァルチャーとは「かつてコウモリスーツを着てヒーローをやっていたのに,機械の翼を使わなければ空を飛べなくなってしまった悪役俳優」を具現化した登場人物であることが分かります.要はマイケル・キートンの分身として登場しているわけです.







自分を偽り続けなければ世渡りが出来なくなったカメレオン

ネタバレ全開で行きますが,2作目「ファーフロム・ホーム」ヴィランのミステリオ=クエンティン・ベックはVRを駆使して戦うヴィランです.現実の空間の中に意のままに虚構のヴィジョンを作り出し,物語中盤までは自分が本当にパワーを持ったヒーローであるかのように周りの人間を騙していました.さらにはいかにもMCU映画に登場しそうな,「マルチバースの世界からやってきた」と言う設定考証まで雇った脚本家にやらせて,その通りの異世界ヒーローを演じていました.

もうわかっていると思うので,具体的なことは省きますが
カメレオン俳優として名高いジェイク・ギレンホール本人の映し身として登場しているわけですね.

その場その場で求められる何かを都合よく演じ,言い方が悪いですが,画面の向こうにいる視聴者を騙すことによって生業が経っている変幻自在の俳優ジェイク・ギレンホール.その専売特許を踏襲したヴィランとして描かれているのは疑いようがないでしょう.







反面教師のヴィランたちに相対したときに見える,トムホへの洗礼

「先輩俳優たちからのトムホへの洗礼」としつこく先述していますが,では各々の「洗礼」に込められたメッセージとはいったい何だったのか.これは劇中のセリフを追ってもらえれば見えてくるとみえてきます.それはズバリ

「俳優って,大変だよ?それでもやっていける?」

と言うメッセージに尽きるでしょう.これをそれぞれの俳優が個別のアプローチでトムホに語り掛けているわけです.


キートン「トムホよ,『ヒーロー俳優』で味を占めると後が怖いぞ」

「ホームカミング」でのキーワードとなるセリフと言えば,スタークがピーターに言った
「スーツが無ければヒーローやれないようじゃ,真のヒーローとは言えない」
みたいなセリフでしたね(うろ覚え).

さらにキートン演じるトゥームスからも終盤ピーターに投げかけられます.
「スタークはなんでアイアンマンになれたと思う?,金と権力を持ってるからだ.そんなやつらは下々の俺たちなんて気にもかけない.奴らのために道を開いてあげても使い捨てられるだけだ」

これらのセリフ,キートンという俳優の文脈から考えるに作品のテーマは

「たとえ今,この瞬間,スパイダーマンのようなヒロイックな役柄を,若さに頼ってヒーロー映画以外でも射止めていたとしても,成れの果てはキートンと同じだ.手を変え,品を変えやっていかなければ,映画業界という強権にいずれは使い捨てられるだけだ」
と言えるのではないでしょうか.

スーツを着なくてもヒーローでいられる時代を謳歌するトム・ホランド
vs 機械に頼らなければ空を飛べなくなった悪役俳優マーケル・キートン.


今を時めくスパイダーマンことトム・ホランドですが,時が経てば,劇中トゥームスのように他の世渡りを考える必要も出てくるのかもしれません.ヒーローというスーツを脱いだ時,いつまで画面の中でヒーローでい続けられるのか.その時代を迎えた時こそ俳優の真価が試されるということなのでしょう.





ギレンホール「トムホよ,自分を偽って生きていく覚悟はあるか?」

2作目「ファー・フロム・ホーム」は作品全体に「嘘と真実(本質,信じる等も)」というテーマが盛り込まれていました.

物語終盤,ミステリオの幻影が,真実を見抜く力,Peter Tingle(原作でいうところのスパイダーセンス)によって打ち破られ,ピーターに「なぜこんなこと(VRで作り出した幻影による自作自演のヒーローごっこ)をしたんだ」と質問されると,今わの際にミステリオはこう答えます.

「いずれ分かる,人々は信じることを求めてる,今の時代,何だって信じる」

つまり,「人々が信じられる何かを生み出すためなら,嘘の真実を作り出すことさえもいとわない,それが俳優(映画)ってもんなんだよ」と言っているわけです.

もちろんこのセリフには,CG映画全盛のこの時代の映画業,もっと踏み込めばその代表格ともいえるMCU映画を自ら皮肉る自己批評という意味合いもあるでしょう.

ですがやっぱり私自身としてはトム・ホランド本人に語りかけているように見えてゾッとしますね.「いずれ分かる」ですからね,キートンと同じように「俺はお前の成れの果てなんだよ」と呪いの言葉をかけて死んでいったように見えてなりません.

クエンティン・ベックのラスボスとしての恰好がミステリオとしてではなく,映画の撮影で使う,モーションアクタースーツだったのも,何にでもなれるギレンホール自身の言葉であるというニュアンスが強調されているようで何とも皮肉です.




本題,「ノー・ウェイ・ホーム」は俳優としてのキャリアの危機を描いた話になるのでは?

しつこいようですがここから先の内容は,マジでただの筆者の妄想です.今までの章はなんだかんだ言って劇中の状況証拠や,俳優の特色などに根差した分析と言えるものでしたが,ここから先は根拠も何もあったもんじゃないので閲覧注意でお願いします.

予告で開示されてる情報

前作の最後でミステリオの策略により,スパイダーマンであることを世界にばらされてしまったピーター.何とかせねばと考えた彼はDr.ストレンジ(魔法を使うキャラクターらしい)に頼り,世界中の人々から自分がスパイダーマンであるという記憶を消して欲しいと依頼.
呪文を使うもストレンジがミスってマルチバースの扉が開き,他の実写版スパイダーマンユニバースからお馴染みのヴィランたちが集結.彼らの存在がこのユニバース(MCU)を危うくする」らしい.


実際にあった「魔法」使うアイツらのせいで,世界が消えかけた事件(2019)

「魔法使いのせいでユニバースが消える?,魔法?,ディズニー?」
「SONYのキャラの存在がMCUを危うくする?」

ありましたねそんな事件が2019年に,SONYとMCUとの間で起きたスパイダーマンの映像化権を巡るトラブル

この問題,詳細を書くとすごく複雑なので各々で調べていただきたいのですが,スパイダーマンがMCUに参加する作品は,ソニー とマーベルの親会社ディズニー の共同で作られている作品です.ネット情報になりますが

2018年までの時点では
MCUのスパイダーマンは製作費をソニーが負担
興行収入はディズニーが5%残り95%はソニー
グッズの収入はディズニー

という利益配分でディズニーとソニーはMCUスパイダーマンを作っていたのですが

2019年に入りディズニーが契約内容の変更を要求
興行収入を両社で折半
同時進行で動いている「ヴェノム」も折半
その他は変更なし

という内容の契約の変更をソニー側に要求したことで両者は決裂,一時スパイダーマンがMCUを抜けるのではないかという騒動に発展したわけです.

現在は新しい契約内容で合意して,無事シリーズが継続しているのですが,この両者の復縁のきっかけがトム・ホランドによる説得 だったらしいのです.

両者の交渉が決裂していた時期に,トム・ホランドはディズニーのCEOボブ・アイガーとソニーのトム・ロスマン双方に直接連絡を入れ,複数回にわたり説得し,無事両者は再交渉,スパイダーマンのMCU残留を勝ち取ったわけです.


この映像化権問題におけるトム・ホランドの活躍から,「スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム」は

魔法を使う輩のやらかしでもたらされた,MCU版スパイダーマンの世界消滅の危機.それを自らの手で救って見せたトム・ホランドの活躍を称えるお話になるのではないかと考えられます.

つまり今作「ノー・ウェイ・ホーム」で描かれる洗礼とは今までのように特定の先輩俳優からではなく,映画業界を取り巻く大人の事情からの洗礼であると考えることはできないでしょうか.

これを念頭に置いた上で予告を見てみると,その中に出てきた様々な意味深な描写も以下の解釈できる気がします.



「君は二つの人生を同時に歩み始めている」「どちらか一つを選ばなければ」

予告の中に 「君は二つの人生を同時に歩み始めている」「どちらか一つを選ばなければ大変なことになる」 というセリフと同時にピーターがスパイダーマンスーツから弾きだされる描写があるのですが,

これはMCU版スパイダーマンの世界が崩壊しかけたことにより,スパイダーマンであることを辞めて,ただの俳優トム・ホランドに戻るか,解決策を見つけスパイダーマンであり続けるか選択を迫られた彼の状況を暗示しているようにも見えます.



「彼らの存在がこのユニバースを危うくする」

ソニー製スパイダーマンユニバースからやってきたキャラクターたちと対立しなければ,自分のユニバースを維持できないトム・ホランドの状況,そしてストレンジの制止を振り切り,なんとか彼らの存続を望んでいると思しきピーターの描写.両社が再び手を取り合って作品を作っていくことを望んでいたトム・ホランド意思をくみ取っている描写とも取れます.





画面の外でもスパイダーマンであり続け,「世界」を救ったトム・ホランドの私小説

この解釈で考えるとやはり,先輩俳優こと歴代のヴィランたちのメッセージがリフレインされてしまいます.

ヴァルチャーこと,キートンの 「マスクを脱いだ後もヒーローをやっていられるかな」 という警鐘
ミステリオこと,ギレンホールの 「ヒーローを続けるためには,自分を偽り続ける必要がある」 という呪いの言葉

ですが,スーツが無くても,画面の外でも,嘘偽りなく,スパイダーマンであり続け,彼の俳優キャリア最大の危機を乗り超えて「世界」を救ったトム・ホランドであれば,そんな彼らからの洗礼さえも跳ね除けて,次世代を担う,映画俳優として渡り歩いてくれると信じてみたいものです.