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官能小説の記事 (47)

官能物語 2021/06/28 10:00

美少女のいる生活/8

 そうして、二人で手をつないで駅前まで歩くことしばし、貴久は、これが彼女の転入初日であるにも関わらず、いきなり翻弄されている自分を楽しく感じた。

「なにか面白いですか、貴久さん?」
「ん? そんな風に見えた?」
「はい」
「前を見て歩かないと危ないじゃないか」
「それは貴久さんに任せます。わたしは好きなところを見ていることにします」
「その流れで言えば、おれの顔が好きってことになるけど」
「否定はしません」
「しないんかい」

 駅前までに軒を連ねる店舗を見ていくと、

「この辺でアルバイト募集してないですかね」

 と美咲が言った。

「働くの?」
「そのつもりです。あと、家事は全般、わたしにやらせてくださいね」
「できるの?」
「父って家事をする人に見えます?」
「残念ながら見えない」
「それでも、わたしが小さいときは頑張ってくれていたんですけど、小学校の高学年くらいからは、わたしがするようになったんです」
「お父さんの負担を減らすためだな」
「単純にわたしの方が早くてうまいからです」
「悪いけど、おれはきみのお父さんほど、不器用じゃない。家事は何でもできる。美咲ちゃんの誕生日には、部屋を飾り付けて、テーブルをいい感じにセッティングして、手料理だって振る舞える」
「本当ですか!?」
「もちろん」
「楽しみです。でも、普段の家事は、わたしにやらせてください。お世話になるので」
「うーん……お世話って言っても、美咲ちゃん、大したお世話も要らないみたいだし、家事は半々にしよう」
「そんなことないです。わたし、ご迷惑かけますよ。かけまくりますよ!」
「とてもそうは思えないけど」
「だって、こうして押しかけてることが、そもそもご迷惑じゃないですか。貴久さん、付き合っている人いますよね。わたしなんかがいたら、大人のお付き合いに支障が出ませんか?」
「付き合っている人なんていないよ。そうして、これからもうできそうにないかな」
「そうですか……」
「何か楽しいかい?」
「えっ? ……わたし、そんな顔してました?」
「クラスメートの男子の心を確実に射抜く微笑みを浮かべてたぞ」
「ちゃんと前を見て歩いてください。二人で、前以外のとこを見てたら、危ないじゃないですか」
「了解」
「ところで、わたしにも付き合っている人がいないって言いましたっけ?」
「今聞いたよ」

 駅が見えてきた貴久は道をちょっと脇にそれて、裏通りに入ると、一軒の喫茶店へと美咲を導いた。レトロな雰囲気を持ったそこは、貴久の行きつけである。

「いらっしゃいませ」

 20代半ばほどの女性マスターは和服であって、それがまた店の雰囲気に合っていた。

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官能物語 2021/06/27 10:00

美少女のいる生活/7

 そろそろ昼食の時間だった。

「お腹空いてないか、美咲ちゃん?」
「ペコペコです」
「じゃあ、着いたばかりだけど、外に出て何か食べようか。ついでに、このあたりを案内するよ」
「ありがとうございます」

 貴久はボディバッグを背中に引っかけて、美咲とともに部屋を出た。貴久のマンションは、最寄り駅まで歩いて15分ほどのところにあって、駅前に行けば何でも揃っている。

「東京の人ってみんな歩くの速いですね」
 
 爽やかな春の空の下、歩道の上を歩きながら、美咲は感心したように言った。

「速く歩いたってたどり着けるところは髙が知れているのにな」

 貴久は自嘲気味に言った。

「でも、歩いてみないとどこまで行けるか分からないっていうこともありますよね」
「そう信じられるのが若さの特権だな」
「おじさんだって若いじゃないですか」
「『おじさん』って言っている時点で、若くないって思っているってことじゃないのか?」
「じゃあ、『貴久さん』って呼んでもいいですか?」
「えっ……うーん、これ、どんどん進行しない?」
「進行ってどういうことですか?」
「だからさ、『貴久さん』が、『貴久くん』になって、最終的に、『貴ちゃん』になるって具合だよ」
「『貴ちゃん』って、いいですね」
「美咲ちゃん」
「冗談です。じゃあ、進行しないようにしますから、とりあえず、『貴久さん』でいいですか?」
「とりあえずって何だよ」
「とりあえずはとりあえずですよ。ね、貴ちゃん」
「へい!」
「ふふっ」

 美咲は楽しそうに笑った。その微笑みを見ると、貴久は心に弾みを覚えた。遠い昔に忘れていた感覚である。それを思い出したわけだが、思い出した結果、親友がどうなったのかということを貴久は考えないわけにはいかなかった。しかも、相手はその親友の娘なのだから、よっぽどだった。

「貴久さん、手をつないでもいいですか?」
「な、何だって?」
「手です。慣れない町の中で不安なので」
「その慣れない町をスマホを頼りに、駅からうちまで歩いてきたじゃないか」
「でも、今はスマホ使ってませんし。ダメですか?」

 美咲は、雨に濡れた子犬のような目をした。

「そんな目をしても、キミのお父さんを参らせることはできるかもしれないけど、おれには通用しないよ」
「父にはこんなことしません。貴久さんだからしてるんです」
「うっ……これも、エスカレートしないよな?」
「手をつなぐところから、腕を組んでみたいな?」
「そう」
「それはぜひエスカレートさせたいですね」
「へい!」
「それ、流行ってるんですか?」
「マイブームだな」
 
 貴久は、自分の手の中に彼女のきゃしゃな手が滑り込んでくるのを感じた。

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官能物語 2021/06/26 10:00

美少女のいる生活/6

 契約書を調べてみたところ、特に同居人を増やすことに関して条件はなかったが、同居人の基本プロフィールが分かる必要書類の提出を管理会社に出すことは求められていた。それを友人に伝えて用意してもらったのち、ほぼ物置と化している6畳の部屋を入居時と同じまっさらな状態にしてからできるだけ磨き上げ、さらには、自室にあるここ数年の間に溜まった色々とヤバめなブツを全部処分して、パソコン内にあるそっち系のデータも(特にロリコンものは念入りに)全て消去して、彼女の到着を待った。

「お世話になります、貴久おじさん!」

 4月1日、そよ吹く春風とともに現われた少女は、花なら少し咲きかけた頃といった趣である。空色のワンピースを身につけた彼女は、涼しげな目元に微笑を浮かべていた。荷物はあとから送ることになっているので、ほとんど身一つで来ており、小さめのハンドバッグを肩から提げているだけだった。

「ここまで迷わなかった?」

 貴久が彼女を迎えたのは、自室の玄関先である。最寄り駅まで迎えに行くことを申し出たのだが、

「スマホのナビを頼りにして歩いていってみますから、大丈夫です」

 と言われたので、部屋で待っていたということだった。

「はい、大丈夫でした!」

 元気よく言う彼女には、父親との確執の影など全く見えないが、あるいは一緒に暮らしているうちにおいおいそういうところも見えてくるのかもしれない。

「ようこそ。今日からここが君の暮らす部屋だ」

 貴久は、大仰に礼をすると、彼女を部屋の中に上げた。そうして、リビング、ダイニング、キッチン、トイレ、バス、自分の寝室などを簡単に案内したあとに、彼女の部屋へと行った。

「ここが美咲ちゃんの部屋だよ。夜、広すぎて寂しくなったら、いつでも、おれの部屋においで」

 言ってしまってから、貴久は、いきなりセクハラ的な発言をしてしまったと後悔したが、彼女は気にした様子も無く、

「そうさせてもらいます」

 と笑いながら応えた。そこで、彼女は、貴久に真向かうと、

「本当にありがとうございます、貴久おじさん」

 と綺麗に頭を下げた。貴久は、しばらく彼女の肩を過ぎる黒髪を上から見下ろす格好になった。その頭が上がって、

「わたしの我がままを受け入れてくださって、感謝します」

 と続けた。

「いや、ちょうど一人の生活にも飽き飽きしていたところだったんだ。美咲ちゃんが来てくれて、おれも助かるよ」
「わたし、きっとご迷惑かけますよ」
「おれだってかけるから、二人で暮していくってことはそういうことだろ」
「そうだとしたら、父に対して、わたしは一方的だったかもしれません」

 美咲は顔を曇らせた。「おいおい」どころか、いきなり父親との確執が見えた格好になったけれど、

「いいんだよ、あいつは。ていうか、おれが美咲ちゃんの立場だったら、もっとぶち切れてるよ。きみがお父さんに対して負い目に感じることは何も無い。きみが新生活を楽しむことができれば、それであいつは満足さ、きっと。おれの親友はそういうやつだ、多分」

 貴久がそう言ってやると、彼女は、もう一度頭を下げた。

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官能物語 2021/06/25 10:00

美少女のいる生活/5

 それからしばらく二人で飲みながら、入居日なり、生活費のことなり、細かなことをざっくりと決めた後に、

「じゃあ、そろそろおれは帰るよ、新幹線の時間がある。もっと細かいことはおいおい、電話かメールかチャットでもするよ」

 と言って、友人は席を立った。願いを受け入れてもらって嬉しいはずなのに、どこか恨めしそうな顔をした友人を送ると、貴久も帰路を取った。3月上旬の夜はもう十分に春めいている。ふんわりとした夜気が心地良く、見上げれば月が出ていた。

 歩いてバス停に向かいながら、奇妙な成り行きになったものだと思った。親友の娘を預かるなどという事態は、予想だにしたことがない。しかも、たとえば、新婚夫婦で旅行がしたいから、その間だけ預かってほしいというならまだしも、そんなことでは全く無いのである。そもそもがどうしてこんなしょぼくれたおっさんと暮らしたいと言っているのかも分からなければ、いつまでそれが続くのかも分からないのだから、人生というのは時に驚くべき相貌を見せるものである。

 しかし、貴久はそれをどこかで面白がっている自分を見出していた。そもそも、友人の娘のことは嫌いではない。どころか、好きなタイプである。もちろん、それは自分と対しているときだけに見せている偽りの姿なのかもしれないけれど、好悪の評価というのは結局は外面的なものでしかないのだから、それでいいのだとも言える。

――あ、そう言えば、同居人ができるときっていうのは、何か特別な手続きが必要だったんだっけな。

 貴久の借りているマンションは、入居者の人数が決められているわけではないが、もしかしたら人数が増えるときには何かしらの手続きが必要かもしれない。契約時と契約の更新時に説明を受けた気がするけれど、覚えていなかった。契約書を確認してみなければならない。

――まあ、無理なら、どこか別の所を探してみてもいいか。

 貴久はお気楽なことを考えた。しかし、お気楽な考えにしては気に入った。それもいいかもしれなかった。今住んでいるところは便利だけれど、もう随分な年数を暮らしているので、新居を考えてみるのも面白い。今の家にある物を全部捨てて、新しい部屋で新しい生活というのも楽しいかもしれない。

――なんかわくわくしているな、おれ。

 一人娘を嫁に出す気分になって暗くなっている友人には悪いけれど、貴久は軽く興奮するのを覚えながらバスに乗った。そうして、今の部屋で同居できるのであれ、新居を探すのであれ、とりあえず、

――ヤバいDVDは処分しないとな。

 ということだけは確実に思うのだった。

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官能物語 2021/06/24 10:00

美少女のいる生活/4

 貴久は友人の顔を見た。どこからどう見ても、ただのおっさんの顔である。それは、そのまま自分にも当てはまることだった。

「その、お前が結婚する相手なんだけど、お前のどこを気に入ったんだろうな。冴えない中年おやじの。近頃、遺産でも相続したか?」
「してない。おれの妻になる女性を、結婚詐欺師扱いするな」
「で、美咲ちゃんを預かるっていう話だけど、いつまで預かればいいんだよ?」
「いいのか!?」

 友人はテーブル越しに身を乗り出すようにした

「あの子、色々我慢してきたんじゃないのか、これまで」
「そんなことはないだろ。何不自由なくさせてきたと思うけどな」
「親がそういうことを考えるということが、子どもに我慢をさせているっていうそのことなんだよ」
「なんで子どものいないお前に分かるんだよ」
「この前、雑誌に書いてあった」
「……それで?」
「だとしたら、たまの我がままを叶えてやるのは、周囲の大人の務めだろう。お前ができないなら、おれがやるさ」

 友人は、軽く頭を振るようにした。

「おれはいい友人を持ったよ」
「で、いつまで預かればいいんだ?」
「娘は、ずっといたいって言ってるけど」
「『ずっと』ね。まあ、やってみればいいさ。おっさんと暮らしたって、そうそう楽しくないってことに、そのうち気がつくだろ。……て言うか、お前も相当だよな」
「なにが?」
「だって、そうだろ。年頃の娘を、自分と同じ年のおっさんに預けるんだぞ。そんな親いるか?」
「いないだろうな。それにおれだって、お前みたいなスケベおやじに娘を預けたくないんだ」
「今さらっと何の脈絡も無い悪口言ったよね」
「でも、この状況じゃ、そうせざるを得ないだろ。それに、娘は昔から、一度言い出したら絶対に自分の気持ちを変えないんだ」

 貴久は、友人と話している間に、すっかりとぬるくなってしまった冷酒を一口飲んだ。友人の娘を預かるということについては、大した抵抗を感じなかった。金のトラブルではないかと心配していたところ、それよりは随分と軽い話だったということも、その「感じ」を助長している。

「でも、預かるのはいいけど、おれの部屋、広くないぞ。一部屋は使ってないから、美咲ちゃんの部屋にできるけど」
「そういうところは何も文句は言わないだろ。自分から望んで来たいって言ってるんだから」
「分かった。じゃあ、1年でも10年でも預かるよ」
「そうか……」

 友人は、ホッとしたように息をついた。そのあとに、声を暗くして、

「娘が結婚して家を出て行くときっていうのは、こういう気分になるのかな」

 としみじみと言った。気が早すぎだろと貴久は思ったが何も言わず、しばらく友人をひたらせてやっているうちに、もう一口冷酒を飲んだ。

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