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マッサージの記事 (51)

時 自若 2021/07/06 16:04

浜薔薇の耳掃除「第61話」

蘆根は自分の仕事の+になりそうなものならば、なんでも興味を持つタイプである。
(膝枕の耳かきか)
ある意味商売敵、だけどもみんな思ってる、浜薔薇はそこを目指さなくても全然良いのよ!
逆にそっちに行こうもんなら。
「どうしたの!具合が悪いのか、それともあれか?経営状態が、それなら相談してくれよ、知り合いの弁護士頼むから、ああ、もう何も言わなくてもいいよ!」
ってたぶん常連がそうなっちゃうの間違いないのである。
「そんなに俺がこういうのを気にするのは変なんだろうか」
(言えない、昔から先輩はそういうところがあったなんて)
仕事を追いかけて周囲を見ないことがあります。
そんなわけで蘆根ははて?という顔をしていた。
時間があれば、自分へのマッサージで練習する蘆根。
「先輩」
「どうした?」
「このマッサージミルクはどうですかね」
同じ商品でも、改良されるとテイストが変わるというか、やっぱり違うので、そういった違いがある場合は打ち合わせ。
「これはちょっと量減らすか」
「でもそうすると」
「そうなんだよな、マッサージしてすぐにそのまま何か触っても大丈夫ぐらいなのが一番いいんだがな」
「そうすると、自分にマッサージするのにも使えますし」
「やっぱりさ、今はみんな時間がないから、マッサージに使うクリームも、塗ってすぐにべたっとしない、さらっとするぐらいのが好まれると思う」
べたっとするタイプは、やはり最初にタオルを準備したり、マッサージをする部分の順番考えなきゃならないから、少々面倒くさいのである。
「座る場所にタオル敷かないといけないとかな、店ではいいけども、お客さんには勧めにくいというか、やっぱりお客さんが使いやすいものじゃないと」
これはサロン専用の商品ではなく、ドラックストアで売られているもので試しております。
「ブログのネタっていうのもなかなか難しいものだな」
「まあ、今すぐそううネタにならなくてもいいんじゃないでしょうかね、ブログは大変なんですよ」
前の店では毎日更新ぐらいの気持ちでやってくださいと言われて、そこが本当に大変だったのである。
「浜薔薇は確かにブログはありますけども、そういうノルマないですもんね」
「えっ?だって、毎日って何書くんだ?」
「それは、そうなんですけども」
「イツモの写真とか?それはもうやっているようなもんだし」
しかし蘆根が撮影すると、イツモは跳び跳ねてぶれぶれだったり、体の一部分しか写ってないのである。
「あれは先輩にしか撮れませんし」
他の人が撮影するとイツモがどういう猫かわかるのだが、蘆根が撮影しようとすると、興奮してなんだこれはみたいかのしか撮れないが。
「王子は今日も元気」
イツモを王子と崇める人たちからは、蘆根の写真は好評だった。
「でもブログとかでできるなら、好きなようにやっていいんだぜ」
「好きなことですか?」
「そうそう、前の店だと私服とか載せてたらしいじゃん」
店をやめたときに全部消去されましたが、ファンは多かったです。
「でも今はそういう気分じゃ、嫌いじゃなぃですけどもね、そうだな、学生さんとかのデートの服とか、考えるぐらいでとりあえずいいと思ってますよ」
「ああ、あれな」
初デート何を着ていけばいいですか?を予算かけずに解決するので。
「傑さん、お願いします」と頼まれることも多いのだが、一回だけしかそれにはこたえていない。
「あんまり僕がやるとね」
「ああ、それな」
だんだん彼女がオシャレな彼だと思ってくるので、オシャレが重荷になるという。
「いきなりそういうのやめると、確実に喧嘩になりますし、一回だけちょっと頑張りましたでいいと思いますよ、それこそ記念にっていうのかな、無理してやっても続きませんから」
「だよな、自分の好きなもの、それこそラーメン好きならラーメン一緒に食べに行ってくれる彼女を大事に、うん、そうだな、次もそういう子と付き合いたいなっていっても、そういうことはなかったりするんだよ」
だんだん言ってて悲しくなっていく。
「一緒にいるって大事だから、本当に!」
「なんだどうした、昔みたいになっているぞ」
「えっ、まさか、これが」
「そうよ、蘆根がうちに来たとき、こんな状態だったから、放っておけなくてな」
発作のように失恋の傷が痛む状態でした。
「まっ、相手に行かねえからそのままにしておいた」
「確かにそうですよね、これで元カノの方に叫びに行ってたら、止めに入りますけども」
「あの時、うちには心配してきた客ばっかりだったのよ、でもこいつがこんな調子だろ?」
えっ?タモツさんが心配できたんだけども、この人大丈夫なんですか?
タモツよりも蘆根を心配された。
「だからうちの常連は蘆根の元カノの話とか詳しいわけよ」
「あ~そうだったんですか」
不思議なものでたくさんその話をしたところ、あんなに言いたかったことが心から消えてしまったのだという。
「あれはあれで悲しかったな、俺はとんでもなく好きだったんだけどもさ、それがふっ!って蝋燭の炎が消えるように無くなってさ、あれって一体何なんだろうな」
「お前さんが大人になったってことだな」
今は美しい思い出、でも手を伸ばして掴めるなら…の誘惑はまだ起きている。

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時 自若 2021/07/06 16:03

浜薔薇の耳掃除「第60話」

マッサージのお客さんが来るとわかっているならば、爪のチェックも忘れない。
(先輩は仕事に人生捧げているようなものだからな)
それこそ、それ以外は何もなくてもいいみたいなところがあった。
「じゃあ、僕はお先に失礼します」
「ああ、お疲れ」
この道を選んだことに悔いはないが…
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
お客は女性であった。
「おいおい、男に嫉妬されるんじゃないか?」
「まあ、別れたし」
彼女とは知己というか、元カノである。
「しょうがないんだけどもさ、うん」
何しろ彼女も蘆根と同類、自分の人生を何かに捧げてしまったというやつであった。
「店はどうした?」
「ああ、トラブル起きた」
「大丈夫かよ、それ」
そういってクロスを巻いた。
「大丈夫にするわ!」
この強気なところが彼女の魅力であり、蘆根が痺れたポイントである。
「…その割には疲れているんじゃないの?」
「わかる?ほれ、クリーム塗るから」
「はいはい」
首にクリームを塗る。
「首さ、触られるの怖い?」
「あ~そういえばそういう話もあったね」
「アホか!こっちは心配して、気にしないならいいけどもさ」
「蘆根は大丈夫ってわかるし」
「ああ、そうか」
彼女は昔、男性に暴力をふるわれたことがあった、そこから触れられるのはトラウマがある。
(マッサージとかストレス解消に行ってたのに、そっからしばらくっていうか、行けなくなるなんてさ、こいつが何をしたんだろうな)
「あれ?もしかして気を使わせてる?」
「そうだな、場合が場合だから」
「はっはっはっ」
平和、平穏が一番と思う蘆根の考え方は、おそらくこの元カノの影響がでかいと思われる。
(俺だったら腹立ってぶん殴るはあるのに)
仕返しは考えてないの、うん、それはやめて…

ムニッ
「あら、ちょっとお肉ついたんじゃないの?」
「お肉じゃなくて浮腫みだもん、やっぱり疲れていて、食べれなくて」
「おいおい」
「だからこうして気を許している人間にマッサージをしてもらいに来たのよ」
「へいへい、お嬢様、しっかりと綺麗にさせていただきますよ」
顔や首というのは、足をマッサージするのも違う、繊細な力加減が必要になる。
(相変わらず指の使い方、浮腫みとるの上手いわね)
骨の上を滑らせて、余計な力を入れずに浮腫みだけをとる。
「っていうか、自分でケアもちゃんとやってんだな」
「そりゃあね、お年頃ですもん」
「そうだな、いつまでも可愛くいてくれよ」
蘆根の口説き文句はさておいて、ここはマッサージや耳かきの話なので、少しばかり解説をすると、マッサージ類の効き目がよくなるように日頃から自分でケアをすることが大事なのである。
例えば蘆根の元カノのサキの場合は、多忙のために短時間でケアができるが、それを毎日の習慣のようにしなければならない、簡単なツボ押しやマッサージをしてから寝たりしてる。
非常に面倒くさく、ああもう!すぐに寝たい!と思っているタイプには向かないのだが、これが長く続ける性格であった。
蘆根も自分の体の維持にはそういったことを施しており、お客さんがいない時間であっても、自分の体と向き合い体調の向上に務めていた。
こういったことをしていると何が起こるかというと、だんだん年相応から離れた外観になっていくのである。
「やっぱり、家を継がない方が良かったんじゃないか?」
「それは思うけども、それ以外なかったから、火の車を建て直しても、また火の車にされるとは思わなかったから」
「灰も残らないじゃないか」
「やーね、灰が残るなら山菜の灰汁でもとるわよ」
「お前はそういうやつだもんな」
「そうそう、それぐらいやんないと釣り合いがとれないわ」
世界で一番幸せになれるぐらいじゃないとね。
昔、その言葉の続きを口にしていたのを蘆根は思いだした。
「最近、景気どうよ」
「気にする間もないわね」
「違いない」
ひたすら忙しくて、忙しくて、いつの間にか時間がここまで経過していたというタイプの二人である。
「それでも今の世の中便利なものがたくさんあるから、昔よりは大分楽」
「違いない」
学生時代よりはとても楽になりました。
「そのぶん、腕を磨く時間に使えるからな」
「わかる、わかる!本を読める時間が増えるとは思わなかったし、諦めていた講義も無料で聞けたときはサイコーになったわ」
「Enjoyしてるな」
「修羅場中だからかしら、なんかもうトラブル起こされて、心を折りに来るのがよく見えていると、ああ、もう!わかったわ、落ち込む必要全く無しになるわ」
ここら辺が蘆根の嫁になったら、それはそれは良かったのにと言われる由縁ではあった。
どんな時でも明るい。
(そういうのに救われるんだよな)
落ち込まないわけではない、ただ人と落ち込むポイントが違うのである。
だから何でもない時に落ち込み、逆にみんなが落ち込みそうな、絶望の時に光を掲げることができるタイプなのである。
「うわ、また腕をあげたんじゃない?」
「これで落ちたとか言われたら、俺は自棄を起こします」
「そうね、また来るわ」
「またのご来店をお待ちしてます」
自分のことを知っているからこそ、気合いが入るお客さんというのがいる。
蘆根にとって彼女は、自分の迷いを見透かされてしまうような客であり、また灯火の一つ。

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時 自若 2021/07/02 08:26

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時 自若 2021/07/02 08:23

浜薔薇の耳掃除「第59話」

「信用おけるところの見つけ方は、長いことその地域に根付いてなんかしているとか、そういうのでいいんじゃないですかね」
と波里はいう。
「信頼とか信用っていうのは思ったよりも大事なんだなって思います」
特殊な能力がないのが当たり前なので、そこをチェックする機関というのはあるものだよ。
なのでない人はそういう書類とか機関にいってください。
KCJの浜薔薇出張所が短期間で馴染んだのはそこもある。
「先にどういうのがベストなのか調べる、はやはり大事なことなので」
そういう人たちと話し合いながら決めてら、浜薔薇出張所を始めたりした。
本来ならばこれも手続きなどでかなり時間がかかるが、それはほら、波里の能力があるから、行程の短縮が行われ、そして彼が留守でもきちんと動くシステムを作りました。
「簡単チェックのシステムは作っているので、そこが機能している限りは安全かな」
なので問題というと、今のキャパを越えそうな場合、どこをどう直していかなければならないかである。
「懸賞の問題とかも応募者がそこまでいないというか」
懸念された状態らしい。
「問題の問題だな」
使えるリソースは最大でKCJというのを付け加えるか検討されています。
「紅茶でも飲みなよ」
珈琲党に紅茶を勧めるが、今日は落ち込んでいるところもあり、素直に受けとる。
ラベンダーで香り付けされた茶葉が湯で薫った。
もぞ
「イツモ様、危ないですよ、今そっちは」
そういってイツモは抱き上げられる。
「そういえばイツモ様って、そう変わらないよな」
ケットシーは毛が生え変わるたびに模様が変わるものも多い。
長生きするために他の猫と紛れるために、そうなっていったという説が濃厚なのだが、まだ実証されていない。
そしてこれがKCJの大事な仕事なのである。
「毎回変わるケットシーもいるから」
それをきちんと残しておかないといけない。
「黒だったり、白だったり、サビ猫だったりするから」
特に野生だったりすると把握に困難を極めるし、やはり野生というか、地域で暮らすケットシーはその毛変わりが起きやすいようである。

KCJに寄付などをすると、金額や品物に応じて肉球勲章などがもらえたりします。
イツモ宛に届けられた品物をKCJに寄贈などをしたとでイツモも勲章もってますが、イツモに寄贈してくれる人たちにも賞状を出しています、もちろんイツモの写真つきで。
「王子!ありがとうございます!」
この人は生きる希望を失っていたとき、イツモに絡ま…いや、知り合いになった人である。
「この前を通るたびに、王子がひょこっと出てきて」
彼は生きようか、死のうかなんて思い悩みをイツモによって、生きように変わり。
「何て言えばいいのかな、今までの人間関係に使っていたものすべてが、どぶに捨てた方がマシかなって思ってて、それがなくなった自分って何が残るのかな?っていので悩んでました」
そこにイツモが入り込んだ。
「王国(KCJのことらしい)の人たちって、すごくないですか?」
きちんと納得できるまで、自分達の活動を話してくれる。
「公益ってよくわからなかったんですよね」
KCJの本部はわりと早くからチャリティーなどを手掛けてきた組織である。
「国とか法が変わると、やっぱりそれに応じて変化していかなきゃならないので」
海外でこういった組織はどういうことをしているのかなどもブログで紹介しているようです。
「英語だと、炊き出しはsoup Kitchenという名前がついていたりしますね」
畑も管理してそこから取れた野菜とかも使っているそうだ。
「日本だと、蕎麦とか蕪の話は面白いでしょうか」
「ああ、よく聞きますね」
「そうなんですか、その話是非!」
こうやって色んな知識やノウハウを溜めている。
「蘆根さん」
「どうしました、波里さん」
「蕎麦って、打ったことありますか?」
「もしかして、打ちたいんですか?」
「話を聞いていたら、手打ちでやってみたいなって」
「楽しいですよ」
「ですよね、聞いただけで楽しそうな、私にもできますかね!」
「商工会議所で蕎麦教室があっ…」
「それは私も参加できますか?」
「一般の人も来てますし、人数がいれば出張で、出前講座みたいな、なんていうの、地域貢献という形で来てもらえるんですが」
「浜薔薇には!」
「ここだと、蕎麦は…KCJの支部とかで、公共の調理室借りて」
「それは調理実習ですか!憧れの!」
「憧れ?」
(そういえば海外で育ったとか)
海外というか、異世界な。
子供の頃巻き込まれて、レスキューされてから特殊能力をギフトとしてもらってしまったタイプ。
「そうですね、大人の調理実習というやつですかね」
「ちょっとすいません」
そこですぐにどこかにチャットで連絡。
「はい、それでは話の続きを、蕎麦の他に何か作れますかね?」
「ピザとかはどうです」
「ピッツァ!」
そういって波里はぐるぐる生地を回す動きをして見せたが。
「あっ、それは教えないそうです、絶対にあらぬ方向に飛ばして落とす人が出るので」
波里は目を点にした。
悲しかったようだ。

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時 自若 2021/07/02 08:21

浜薔薇の耳掃除「第58話」

蘆根宇迦は浜薔薇からちょっと遠いところが故郷である。
地元に残って、そこで就職してという選択肢を選んでいたら、今ごろはおそらく家族をもって、独立してなどもあっただろう。
しかし彼はそれを選ばなかった。
その学校の教師の、知己という関係で呼ばれた特別講師がやってきて、その講師が、「あ~そうだね、君がいいかな」そこで蘆根の同級生が選ばれて、みんなの前で髪を切られ、衣装も合わせられて、格好よく変わった姿を見て、この仕事すげぇなと憧れてしまったのである。
「たったさ、あの時間でさ、人生って変わるもんなんだぜ、それ見たら、やっぱり自分もそうなるしかないんじゃないかって思ったんだわ」
その時の同級生はそこから変わった。
「まずな、痩せた、そのままおしゃれになったら、彼女できたんだ、今はその子とは違う相手と結婚しているけども、全くそういうのに興味がない人間が、身なりの力っていうのかな、そういうのを大事にするのはすごいなって思ったな」
「浜薔薇でもスタイリングは行ってますが、あまり頼む人はいませんね、まあ、僕は楽ですけども」
ダブルライセンスでスタイリストもやるのが傑なのだが、浜薔薇に来てからはカットと受付がメインになっていた。
「楽というか、勉強できる時間があるのがありがたいかな」
前の店では食らいついていくしかない時期があって、ここまで覚えることになったが正解なのだが、一回時間ができると、やはりそれもまた自分なので活かす方向へという、前向きな考えを持てるようになった。
「デートなんで何着ていけばいいですかねの相談はよく来るよな」
「来ますね、それもまたスタイリング、まあ、アドバイスですけどもね」
「まあ、服とかちゃんと揃えるタイプのアドバイスではないし」
「安くても使えるものは多いというか、間違いなく、安くても使えるものを知っておいた方が今の時代はいいと思います」
浜薔薇の待合室にはそういう雑誌も置かれています。
「本当にですね、雑誌の特集じゃなくて一冊で出してほしい、デートに何を着ていけばいいのかはじめて男子編で、値段かからないタイプの揃えかたのやつ」
「まあ、な、学生時代は金ないからな」
「手先が器用ならいいんですけどもね」
「そうじゃない方が多いだろう」
「それならやっぱり目安かな、こういうのみたいなのはちゃんとあった方がいいのかなって、そこで失敗するともったいない」
なおこの二人はそこそこモテます、彼女がいたりいなかったりみたいな奴らです。
「まあ、独立したときに結婚っていうパターンは多いからな」
「そうじゃないですし、僕の場合特に」
前の店が原因でこの仕事どころか、せっかく身に付いた腕も捨てようとしたぐらいです。
「あの頃は燃え尽きてましたね、正直」
最近ようやく落ち着いて、大変な時期を見つめ直せているかもしれない。
「自分のやりたいことなんなのか、わからないまま選んじゃうと失敗しますね」
「そりゃあな、だって、本当にしたいことじゃたぶんないだろ?っていうことは、それ以外のことをしているってことだろうし」
「先輩は?」
「俺はあれよ、優れた人たちから刺激を受けたいっていうのは、今も昔も変わらないね、ただ学生時代はまさかこの店の跡を継ぐとは思わなかったな、ホテルにいるか、それとも自分の店を持つかぐらいか」
「ここはお客さん達もいい方が多いですし」
「そうだな、そういう意味では好きにさせてもらって悪いぐらいだ」
マッサージを好きなようにして、体の疲れという疲れを、このままぐっすり寝たら取れるところまでやってやったぜ!の仕事をしたので、蘆根の満足度はとても高い。
「やっぱり俺のモチベーションはそこ、匠の腕一つで、あっと驚かせる、驚いてもらう」
「魔法でもかけられているみたいな目で見ますよね」
「そういう時うれしいんだよ、ああ、いい方に変わったんだなと、世の中大変だろ、今はまだ混迷の中にあり、ただちょっとでもなんとかはしたい、それが何かを変えるきっかけにもなったり、またいい方向に進んだり」
宇迦はロマンチストね…
(うっせ、それは知っててやってんだよ)
こういうときに元カノの言葉を思い出す。
「どうしました?」
「いや、ちょっとな、まあ、こういうやり方をよく思っていない人はいるからな」
「ああ、言われてましたね」
「なんで勉強に行くんだとかね」
東に即オチの耳かきがあらば休みの日に訪ね、西に過労の人たちから絶大な支持を得るマッサージがあれば有給とってお願いしますという。
「あんまり勉強する感じの、というか勉強の大切さを知らないところにもいたからな、あそこで俺がこういうことしていたら、向こうはあんまり面白くはないんじゃないかな、でもさ食っていくなら、お客さんがつかないとダメだし、同業者になる前にそういうのって行かないとさ、同業者になってからだともっと教えてもらえなくなるから、学生時代に行ってたんだよな」
それこそ蘆根の情熱を理解してくれる教師がいたから、最初に紹介された腕のいい人たちから始まって。
「腕のいい人たちは他の腕のいい人たちも知っているわけじゃん?わざわざ電話をいれてくれて、この人は勉強熱心なので一度見学させてくれないかって」
そしてあちこち行くうちに、わざわざここまできたと、泊まっていきなさいや、これ使いなさいとお小遣いや旅費までもらえるようになり。
それこそ浜薔薇を継ぐのでと、今まで見学したところに連絡したら。
「開店祝いが大女優の舞台公演ぐらい花がずらっと並んだな」
それだけ蘆根は同業者からも歓迎されたのである。
おそらく普通に自分の店を持つよりも歓迎されたパターンではないかと推測されるので、そういう意味でも唯一無二の変わり者である。
「イツモのお父さんもそれを見抜いてたんでしょうかね」
「それはわかんねえな」
「蘆根は知らねえが、イツモの父猫は男にはあんまり懐かねえ猫だったから、見込まれたでいいと思うよ」
人間の男性にはあまり愛想がよろしくなく。
「だいたい近所の奴には距離を置いてたな」
「俺が写真撮影しようとすると、近すぎて写らないぐらいでしたよ、ああ、でもそれはイツモも一緒か」
イツモとイツモの父は、写真を撮影しようとすると、なんだなんだと入ってくるが、跳び跳ねたりするので、だいたい体の一部しか写ってないものが撮れる。
「耳だけとか、尻尾だけとか、俺が撮ると近すぎたりして顔が撮れなかったりするんですよ」
なおイツモ母はスマホを構えると、視界から消える猫である。
「それまでは普通なの、普通で、あっ、写真いけるかもって準備して、スマホを向けるといないんですよ」
それこそ、スマホをサッ!のタイミングでスッ!と視界から消える。
ガサガサ
本人か、それとも両親の話をしせいか、イツモがすぐそばを通ったようで、庭先の草木が揺れる音がした。

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