ヒロイン工学研究所 2022/10/27 21:03

【AI活用】プロットを考えさせる

AIにプロットを考えさせる

今回は文章系AIの「AIのべりすと」にプロットを自動作成させる方法について自分が試したやり方を紹介したいと思います。

「AIのべりすと」に関する詳しい説明は省略しますが、簡単に言えば、こちらで入力した文章の続きを生成してくれるAIです。
「続きを考えてくれるAI」にプロットを出力させるには、その後にプロットの内容が続くような文章をフリとして入力する必要があります。

例えば、

私はAIに命令した。
「何か面白いストーリーを考えて」
するとAIは即座に一編の物語を出力してくれた。それは以下のようなプロットだった。

といったフリの文章を入力後、AIに続きを書いてもらえば、その内容は高確率で物語のプロットになります。

試みにこの条件で出力してみた結果(実際に一発目で出たもの)がこれです。

『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を書き上げたのは他ならぬクラスメートの一人・早乙女遥香である。しかし、彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。そこで恵は友人の助けを借りて早乙女に台本の執筆を依頼する。しかし早乙女は執筆を拒否し、代わりに彼女が思いついたアイデアを披露してみせる。その内容は――』


一瞬、何か面白そうな予感がするものが出力されていますが、致命的な問題が二つあります。それは、

・求めているジャンルの話が出力されるとは限らない
・一見面白そうに見えるが実際には整合性のない支離滅裂な話である

ということです。

ジャンルの決定に関してはフリの文章を工夫する(例えばホラーなら「ホラー作品のストーリーを考えて」とか「それは以下のようなホラー作品のプロットだった」のような文に変える)か、後述する「脚注」や「キャラクターブック」などの設定機能を使うことである程度範囲を限定することが可能ですが、整合性に関してはAIの限界にもかかわる問題なのでなかなか厄介です。


整合性と基本設定の問題

AIが出力したプロットをパッと見たとき、私は一瞬だけ「結構面白そう…」と思ったのですが、ちゃんと読んでみるとそれは支離滅裂な文章でした。

彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。

「人気者」、「性格がキツい」、「クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない」が当たり前のように詰め込まれた早乙女遥香というキャラが理解不能です。しかも、台本はすでに早乙女が「書き上げた」ことになっているのに、主人公の田所恵はあらためて早乙女に執筆の依頼をしています。わけがわかりません。
おそらく原因は登場キャラや状況の基本設定が未定のフワフワした状態でAIが適当に話を作っているせいです。こういうときのAIは一種の「口から出まかせ」の状態にあるわけですが、完全に丸投げした場合にはこうした現象は頻繁に起きます。

この問題への対策としては、「脚注」や「キャラクターブック」の活用する方法があげられます。
「脚注」と「キャラクターブック」についての詳しい説明は省きますが、簡単に言えば、「この作品はどんな作品であるか」とか「このキャラはどういうキャラであるか」といった基本設定をあらかじめAIに教えておく機能だと理解して下さい。
こうした縛りをAIに課すことによって、著しい脱線や不整合はある程度まで回避できます。特に二次創作などの場合はキャラクター情報をあらかじめ入力しておくことがキャラ崩壊を未然に防ぐためにも必須の作業になります。

…ただ、すでにお気付きの方も多いと思いますが、「プロットをAIに丸投げして考えてもらうためには基礎設定を事前にしっかり入力しておく必要がある」というのは本末転倒な話です。しかしこれは現状では避けがたい事実であり、AIの創造性が抱えるジレンマの一つです。

「0から1を生み出す」をどちらが担当するか

AIへの丸投げに限界がある以上は人間側の介入がどうしても必要になります。
一つの方法は前述の通りあらかじめこちらで筋道をつけてしまうという方法ですが、その場合は基本設定のアイデアがこちら側にすでにないといけません。つまり0から1を生み出すのを人間側でやって、1を膨らませるのをAIにやってもらう形になります。

もう一つの方法は逆にAIに0から1を考えてもらい、人間側が1を膨らませていくというアプローチです。例えばAIが出力したプロットアイデアを叩き台にして、どんどんそれを改変しながら新しいプロットを作っていくという方法があります。この場合はAIに作らせるというよりもAIをブレスト支援システムとして活用すると言った方が正しいかもしれません。

「面白いかも」という予感を育む

AIが出力したアイデアを叩き台にしてちゃんとしたプロットに成長させるために重要なのは、そのアイデアをパッと見たときに感じる「面白いかも」という予感です。AIが「0から1」を担当して生み出したアイデアに整合性がないのはある程度当然なので、ここでは整合性の有無は度外視して構いません。一方、パッと見たときに「面白いかも」と感じるアイデアの中には整合性は滅茶苦茶でも面白さの基本構造が備わっていることが多いです。アイデアの中に基本構造を発見出来たら、そこを基軸にしてこちらで再構成していきます。

今回のプロットアイデアをもう一度見てみましょう。

『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を書き上げたのは他ならぬクラスメートの一人・早乙女遥香である。しかし、彼女はクラスの人気者だが同時に性格がキツく、クラスの誰もが彼女の書いた台本をやりたがらない。そこで恵は友人の助けを借りて早乙女に台本の執筆を依頼する。しかし早乙女は執筆を拒否し、代わりに彼女が思いついたアイデアを披露してみせる。その内容は――』

直感的に浮かぶのは、凡人主人公が癖のあるキャラに振り回されたり課題と人間関係との間に板挟みになりながら奮闘する学園コメディです。この非常に大雑把な作品イメージの中に面白さの基本構造はすでに入っています。あとは骨子となるポイントを抽出して、それをもとに作り直していきます。

AIのアイデアの中から採用すべき重要なポイントは、

A.台本を完成させなくちゃいけない(目的)
B.それには早乙女さんの協力が不可欠(手段)
C.早乙女さんが劇の制作を主導するのは無理(葛藤)

といった点です。

ABに関しては議論の余地はなさそうですが、Cに関しては「なぜ無理なのか」に関して色々なパターンが考えられます。ここから先はAIのアイデアを積極的に改変していく作業になるので、適宜にこちらで基本設定を変えていきながら具体化のパターンを考えていきます。

【パターン1】
早乙女さんはクラスで嫌われている、もしくは現在クラスのあるグループとケンカ中であり、「早乙女が書いた台本ならやらない」と言い出す連中が現れることが予想される。

【パターン2】
早乙女さんは病弱で引っ込み思案であまり先頭に立ってみんなを引っ張っていくタイプではない。

【パターン3】
早乙女さんは文才もあり人気者なのだが、実は異常な趣味の持ち主であり、とてもじゃないがそのまま上演することなんて出来ないような台本を書く。

このようにある重要ポイントを具体化するときに異なるパターンを考えるだけで、基本構造は同じでも方向性が異なる作品像が浮かんできます。
では、それぞれのパターンに応じてプロットを再構成してみます。この作品は「課題と人間関係の間に板挟みになって奮闘する恵の滑稽さ」をテーマにしている作品なので、プロットを再構成するときは、各パターンの状況に応じて恵がどう苦境に立たされるかを考えて書きます。

【パターン1】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、クラスで台本を書ける人間は早乙女遥香ただ一人である。しかし、元来偏屈で性格がキツい彼女は現在クラスの主要グループとケンカ中。「早乙女が書いた台本で演技するなんて嫌だ」と彼らが言い出すのは目に見えている。実行委員として恵は何とか両者に譲歩を求めるが、その結果何と自分が両者の間を取り持って台本を書くことになってしまう。変人の早乙女とチャラいリア充勢の両方から無責任に投入されるアイデアを繋ぎ合わせる地獄の台本執筆が始まる。』

【パターン2】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本はクラスメートの早乙女遥香が担当することになった。しかし、文才はあるが気弱で病弱な早乙女がみんなに指示を出してクラスを引っ張っていくのは難しい。そこで早乙女は実行委員である恵に「自分はゴーストライターとして裏で働くので表向きは恵が仕切ってほしい」と懇願する。成り行きで台本を担当することになった恵だが、事情を知らない周囲から「天才脚本家」と褒められるうちにどんどん調子に乗ってしまう。しかし、執筆の心労が重なり台本が完成する前に早乙女がダウン。散々調子に乗ってしまった手前今さらカミングアウトできない恵は、うわ言のように断片的なことしか言えない早乙女からヒントをもらいながら自力で台本を完成させようと奮闘する。』

【パターン3】
『主人公・田所恵の通う高校で、文化祭が行われる。恵はクラスで演劇をやることになったが、その台本を担当することになったのは恵の親友・早乙女遥香だった。しかし、恵は不安を抱えていた。心優しい美少女で文才もある早乙女は誰からも慕われる人気者だったが、親友である恵は彼女のもう一つの顔も知っていた。ある日、執筆中の台本をのぞき見た恵は戦慄する。不安は的中した。作中には男性キャラが服を脱ぐシーンや男性同士が触れ合うシーンが満載なのだ。実行委員権限を行使した恵の怒涛の検閲作業が始まる。』

…以上のような具合で、AIのプロットアイデアをもとに三種類のプロットが速成されました。
作業手順をまとめると以下のようになります。

1. AIにプロットを出力させる
2. 「面白いかも」と思えるプロットアイデアが出るまで1を繰り返す
3. 「面白いかも」と思えるプロットの基本構造と重要ポイントを抽出する
4. 具体化するときに複数のパターンが考えられるポイントを選び、パターンを列挙する
5. 4で列挙されたパターンごとにプロットを再構成する

この方法の利点は、具体化するときに可能なパターン数が多ければ多いほど派生するプロットアイデアは増えていくので、同一の基本構造の中でバリエーションを一気に複数用意できるということです。得られた複数の案を知人に見せたりSNS上でアンケートを実施したりして、反響を見てから制作を進めるのも良いと思います。

一方難点としては、

・「面白いかも」と思えるプロットをAIがなかなか出してくれないことがある
・原石を磨く作業は結局自分でやらなければならない

ということがあげられます。

結論

「AIにプロットを考えさせる」という今回の実験でわかったのは、「完全に丸投げして考えさせるのは非現実的」ということでした。結局人間側からの関与が必要で、基本設定をあらかじめ作っておく(0から1を生み出す)か、AIのアイデアをもとに複数の具体化案を再構成する(1を膨らませる)かのどちらかをこちらがやらなければならないようです。
どちらが効率的なアプローチになるかはその人の性格にもよりますが、どちらの場合もAIの出力が不安定でとりとめのないないものになる可能性はあるので、「脚注」や「キャラクターブック」などで縛りをかける作業は適宜必要になってきます。

はっきり言ってしまうと、この方法は自力で面白いプロットを考えられる人にとってはあまり意味がないでしょうし、AIへの丸投げが不可能である以上、自力でプロットを考える力がまったくない人にも向きません。両者の中間ぐらいに位置する人で、一連の作業を一種の遊びとして楽しめる人にはおすすめできるかもしれません。

しかし、効率性とは別のところでAIの活用には利点があります。それは「自分の発想に囚われない」という点です。自分以外が考えたアイデアを広範に採用することで、自分一人で考えた場合についつい陥りがちなお決まりの展開や、あるポイントにこだわり過ぎるせいで自縄自縛になって発想が広がらないといった事態が解消されます。この効果は特にAIに0から1を生み出すことを担当させてブレスト用に使う方法において期待できます。


今回の実験報告と考察は以上です。
もし機会があれば、ジャンルを指定した二次創作のプロット生成の方法やプロットアイデアをAIに考えさせる別の方法(プロット案をまとめて出力させないでQ&A形式を利用してアイデアを小出しに提出させる方法)についても考えてみたいと思います。

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索