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2022年 10月の記事 (35)

遠蛮亭 2022/10/31 07:05

22-10-31.くろてん3幕3章5話.競馬賭博

おはようございます!

昨日は頑張るつもりでしたが……、体調を崩してまた夕方を待たずにダウンしてしまいました。一応、少しだけシナリオは進めましたが……これではいかんなぁと。まぁ、病気の症状はもう、発症してしまうと気力でどうこうなるものではないのでどうしようもないのですが。

というよりか、2章と3章は必要…というか需要…あるかな? という気もしています。この2章に広輪さまのイラストが登場する機会はほとんどない(瑞穂さん凌○シーンが何度か入るかな、とは思いますが)ので、ここは最小限のテキストでパッと飛ばしてもいいのかもしれませんが、ゲーム的にはやはり戦闘シーンも必要か、と。必要とされるのは絵だけなのか、ゲーム性か、というのが難しいところ。個人的にはゲーム性を頑張りたく思うのですが。

広輪さまの私用もお済になったようで、ここから改めて穣、美咲立ち絵とイベント絵を頑張っていただくとして。発売は予定から少し遅れることになるでしょうか。順調に行って3月中旬くらい? になるかと思います。

では、昨日のお絵描き。

瑞穂さん輪○シーン。ここでも何度か言ってますが遠蛮は「Venusblood」シリーズが大好きでして、だからタクティカル戦闘システムはそのシステムを模倣しているわけですが、Venusbloodシリーズでも-Abyss-のセレナが特に好き(と、言っても一番好きなのはHypnoのルセリですが。唯一無二の嫁ですが)。というわけでセレナのエロシーンの中でも一番お気に入りのシーンをモニター2で回想シーン流しながら、モニター1で「こんな感じか?」と模写する感じで描いたのがこれ。2章で寧々さんが神楽坂相模の身柄を迎え入れ、出陣を決めるシーンを入れた後挿入される瑞穂さんの現在の境遇シーンで使用。まあ、模写をゲームに使うのはまずいかもしれないですが、このイラストはあとで広輪さまの絵に差し替えなので問題はないはず。

差分。泣き顔。喜んでるみたいにも見えますが。

差分。驚き顔。

差分。フェラ。


以上です! それでは以下くろてん行きます。

………………
黒き翼の大天使.3幕3章5話.競馬勝負

 インガエウが剣を振う。

びゅお、と烈風の如き風切り音が鳴り響き、剣閃は眩いばかりの光を放つ。影が光に触れるように、英霊たちはあえなく霧散していった。

「すごい……ですね」
 晦日美咲が驚嘆する。彼女自身武技を修めているゆえに、インガエウの力がただ「遺産」たる王者の剣だけに依存するものではないことがはっきりと感じられる。弛まぬ努力と研鑽、それに裏打ちされた、積み上げられた実力。剣技だけで牢城雫に匹敵するレベル。そこに上乗せされる、男としては破格の、聖女に匹敵する神力。これで強くないはずがない。

「……新羅の方が強いですよ」
 磐座穣はそう言って鼻を鳴らした。ちょっと前までなら辰馬を引き合いに出すなんてこと自体しなかったのだろうが、さすがにお腹に自分と辰馬の命があるとなればそのあたり、柔らかくもなる。いまだに「新羅」呼ばわりではあるが。

 インガエウは「不滅ではあるまい」といったが、英霊たちは不死にして不滅。着られ刺され打たれ、殺されてもまたすぐに再生する。だが、勝利の剣イーヴァルディの斬撃による傷そのダメージは恐れ知らずの英霊たちをすら恐怖させ、震駭させた。傷口から流れ込む攻撃的な神力の脈動が、彼らの霊的肉体に根源的な痛みと衝撃を植え付けるのだ。人が生まれついて獅子を恐れるように、英霊たちはしだいにインガエウを恐れ、遠巻きに下がっていく。

「ふ、名にし負う英霊もこの程度……いや、俺が強すぎるのか」
 油断なく構え続け、臨戦状態は維持しつつも、インガエウは勝利を確信して傲りの言葉を口にする。その背後から突如、首もたげる朱鱗の巨竜! 魔竜の王・ニーズホッグに比べればやや小柄、それでもなお雲突く威容と威圧感を備えた姿は、やはり霊獣の長というべし。

 口腔の奥にきらめく、紅蓮の業火。それが放たれる。しかしインガエウは慌てず騒がず、剣閃ひとつで炎を断ち割り、消失させた。

「!?」
 瞠目した竜……小人(ドヴェルヴ)の英霊ファーヴニルが化身した姿……は、恐怖に胴震いして二歩、三歩と下がる。インガエウは気楽そのものの無造作さで前に進み出し、一太刀で強靱無比のはずの竜鱗を断ちその、巨木の幹よりなお太い首を切り落とす。圧倒的だった。対ローゲ戦では小鷹ヴェズルフォルニルの力でその能力を減衰されていいところがなかったが、新羅辰馬と張り合うだけのことはある。

首を落とされたファーヴニルは一度死に、すぐまた再生したが、すでにもう一度インガエウに突っかかるだけの気力は失せ果てていた。他の英霊たちも、インガエウの凄絶無比の実力に恐懼しきって周章狼狽、算を失い逃げ惑う。インガエウは剣を納刀し、金髪をふさり掻き上げてキメ顔を作って見せた。ホラガレス、シァルフィ、ホズの三人は主君の勇姿に感じ入って見とれるが、美咲と穣、とくに穣の反応は薄い。蛾眉艶転たる辰馬に比べればインガエウなど節操なしでかっこつけのジャガイモ王子だし、それ以前に辰馬に惚れている二人は、ここでインガエウになびくような尻軽でもない。

 にもかかわらず、
「どうだ、俺の実力、その一端は?」
「はあ……」
まっすぐ自分の前に早足でやってくる、傲岸不遜の金髪ナルシストに、穣は「はあ」と答えるしか出来ない。ほかになにを言えばいいのか、今この場を乗り切るにはインガエウの力が必要だったかも知れないが、正直に言うと敬して遠ざけたい。苦手というか、より積極的で正確な表現をするなら嫌いだった。なにぶんにも辰馬を馬鹿にするあたりが気に入らない……のは心の中でも認めたくないことなので、一般的な事柄にあてはめて横柄な態度が気に入らないと、穣は自分をごまかしてそう思う。

「あまり寄らないでくれますか? 吐き気がしますから。ええ、別に貴方が生理的にうけつけないわけじゃありません、おなかの子が暴れるから具合が悪くて」
「……そうか……、大丈夫か?」
「だから、寄らないで下さい! 気持ち悪い!」
 おなかに手を伸ばそうとするインガエウに、ぴしゃりと言う。神聖なところだ、自分と夫……夫とは認めていないが……に以外に触らせるなど言語道断だった。

「す、済まん……」
(まったく……下心丸出しの男はこれだから。新羅とは大違い……って、あいつはどうでもいいんですよ!)
怒り、苛立ち、ついで蕩け、そして真っ赤になってかぶりを振る。あまり激しく頭を振り乱したせいでフラッとなり、ブチ切れ運動音痴の穣は危うく転けかけるが、インガエウが手をさしのべようとする前に横から美咲が支えた。

「あまり、無理をしてはいけませんよ、磐座さん。一人の身体ではないのですから」
「無理をしてるつもりはないですが……はい」
 美咲にかかると穣も、剣呑な態度が取れない。それは晦日美咲という少女の無私無欲な献身性とか、嫌味のない性格とかに寄るところが大きいのだろう。穣は自分がひとと衝突しがちな人間であることを自覚しており、それゆえにヒノミヤでも神月五十六からの命令を受けて自分ですべてを裁量していた。ゆえに人に上から命令を下すことは出来るが友だちづきあいが出来ないある意味重度のコミュ障。瑞穂のように清楚すぎる相手も雫のように元気すぎる相手もエーリカみたいに強気すぎる相手もすべて苦手であるが、その点、美咲はいい意味で性格が無色透明、つきあいやすい。後世新羅辰馬の死後、彼女がヒノミヤにもどったあとも美咲とは親交を保ち、穣の孫娘である覇城すせりと美咲の孫娘、晦日緋咲が主従にして親友関係になったのも、もとをたどればここに起因する。

さておき。
穣は美咲に支えられ、インガエウからやや遅れてそのあとに続いた。玄室をいくつか抜ける中でまた別の英霊たちに襲われることもあったが、まずインガエウがすべて片付けるのでなにほどのこともなし。そしてやがて、ひときわ大きい礼拝堂のような広間に出る。

「あらあら。ここに生きた人の子がやってくるのはひさしぶり。ようこそ、我が宮殿へ」
 礼拝の祭壇奥で優美にたおやかに、おっとりとほほえむ栗毛の少女が、おそらく女神ロイア。露出の激しい服装というわけでもなく、いやらしい表情を浮かべるわけでもない、にもかかわらずこの女神は、凄まじくわけわからんくらいにねっとりとした色気をまとっていた。普通の男なら我を忘れて問答無用で強○に及びかねないレベルであり、下手をすれば女でもこの色香に惑わされて乱交してしまいそうな。さすがにインガエウも三人の従者もそこは並外れた自制心、自己を抑制するが、いかんせん精神を支配されている現状に変わりはない。

 穣にはよく似た力の使い手に心当たりがあった。ヒノミヤ姫巫女衆の一人、沼島寧々。彼女の力は目を合わせた相手を魅了するものであり、力の質としてはかなり近しい。もちろん全くの同一ではなく、視線など解さなくとも存在するというだけで周囲に淫蕩の気を撒き、またその力の威強も天地の開き、という差はあるが。

「なにをそんなに苦しそうにしているのですか、久しぶりのお客様? お話ししましょう? 今、外の世界はどのような?」
 無邪気に問う女神ロイアに、一切の罪の意識も見てとれない。彼女はもとより悪意をもって男を狂わせるのではなく、むしろ友愛の意を込めて力を振りまくので余計に厄介だ。

 男どもは自制で精いっぱい、ということで穣と美咲が進み出る。少女二人とても強烈な淫気にからめとられていないわけではないのだが、今にも下半身を暴発させてしまいそうな男どもに比べれば余裕があるというもの。

「女神さま、わたくしはアカツキ皇国の姫巫女、磐座穣と申します。いま、大陸は魔族の侵攻を受け、民は塗炭の苦しみ。このヴェスローディアも例外ならず、魔神ローゲに制圧され国は災禍の中にあります。ローゲの腹心たるヴェズルフォルニル、かの小鷹の「減衰」の力をどうにか封じる手立てをお示しいただきたく、こうして罷り越しました次第!」
「そうですか、魔神ローゲ……。わたしが出向きたいところですが、古い呪いでわたしはこの神殿から動けません。なのでヴェズルフォルニルの力を封じる方策を授けましょう……ただ……」
「ただ……?」
「ここに押し込められて長いもので少々、退屈していまして。少し遊び相手になっていただれればと……」
「わかりました。遊びの内容にもよりますが」
「はい♪ それでは……」
 ロイアが手を打ち鳴らすと、場が忽然と換わる。トラックがありパドックがあり、併設の厩舎には馬が群れ成す。ありていに言って競馬場。どこかウキウキしているロイアは「わたしは勝負の女神=賭け事の女神でもありまして。人々を賭けに勝たせてあげているうちに自分もハマってしまったんですよ……というわけで、競馬予想勝負です!」そう言って無邪気に笑う。

「そういうことなら、受けて立ちましょう」
 百戦錬磨の賭け事師の風格纏わせるロイアに、穣はごくごく平然と受けて立った。百戦百勝は無理だが、三戦して二勝取るくらいの策はある。まさか女神ともあろうものが神力でいかさまもするまいから、それなら穣はまず負ける気がなかった。

「わたしの馬はこの神馬たち♡ そちらにもほぼ同力量の馬を用意しました、それでは、競いましょう?」
「その前に、何度か走らせてみてよいでしょうか。馬それぞれの力量を確認したいので」
「いいですよ-。それでこそ公平というものです♪」

 馬はロイアと自分とに三頭ずつ。穣は美咲に騎手を頼み(万能の美咲は馬を御する技も心得ていた)、エインヘリヤルのひとりが騎手を務めるロイア側の馬と競わせてみる。それでだいたい、双方の速い馬、中庸の馬、遅い馬は分かった。

「では、これがオーダーです」
 といって提出した出走表に、インガエウなどは目を剥く。相手の一番速い馬にこちらの一番遅い馬を当てるのだから当然と言えば当然。しかしこの憤慨は兵法を知らぬもののそれだ。

 案の定で、第1走は穣がぶっちぎりで負けた。駑馬が麒麟に挑むようなもので、まるで勝負にならない。ロイアもほくほく顔で大喜びだったが。

 第2走。ロイアの中庸に、穣は最速を当てる。これなら穣と美咲が負けるはずもなく、危なげなく勝利。

 そして第3走。ロイアの鈍馬に対して穣が当てるのは中庸。このままでは敗北必至と焦ったロイアは騎手を替えてきた。より小柄で、手並み優れ、馬の力を引き出すに巧みな騎手。エインへリヤルの中でもっとも馬術に巧みな英霊が騎乗することで、駑馬も名馬と変わる。穣に打つ手はなく、あとは美咲に任せるほかなし。

コース半ばまでは互角だった両馬だが、やはり騎手の技量で底上げされたロイアの馬が徐々に穣側を引き離し、中盤一気に鞭をくれて引き離す。

頬をなぶる強風にあおられながら、美咲は馬のたてがみをなで、短めの言葉をいくつか紡いだ。彼女の「祝福」は馬にも力を齋らす。力を得た騎馬は一気に追い上げ、あと一歩で並ぶところに追いすがるが、なおエインヘリヤルの名騎手に及ばない。

ここで美咲は騎乗の姿勢を変える。それまでの、尻を鞍につけての前傾姿勢から、鐙に立って尻を浮かす。さらに前傾の度を傾けた。馬の負担は軽くなるが、もし落馬したらただでは済まない危険な姿勢。

その体勢で、鞭をくれるのではなく馬のたてがみを優しくなでる。これは「祝福」とは違う、ただ馬と心を通じ合わせようとする、美咲の至誠。馬も雄であれば、美女の愛撫に応えないわけがなく四肢に力を漲らせる。そして最後のコーナーを曲がり、直線で並んだ。残るは直線数百メートル。

「あと少し……頑張って! いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
 美咲が、彼女にしては珍しく声も限りに叫ぶ。両馬並んだ状態から、わずかに鼻差で穣-美咲の馬が抜けた。

………………
「あなたがたの勝ちです。まさか彼の技量が凌がれるとはおもいませんでした、あなたは良い騎手です♡」
 ロイアは潔く負けを認めた。もともと競馬勝負がしたかっただけで、勝敗にこだわりはなかったのかもしれない。美咲の手を取って名騎手・晦日美咲をたたえ、ついでにサインまでさせる。気恥ずかしそうにする美咲の陰で可愛そうなのはエインヘリヤルの騎手で、絶対の自信を持っていながら敗北した彼は自信喪失して恐縮しきりだ。とはいえ劣る力量の馬であれだけ戦い、美咲には「祝福」まで使わせたのだから実質のところ、彼を敗者というものはいないだろう。問題は本人の心が納得するかどうかだが、こればかりはどうしようもない。

「それにしても。最速に最速を当てるのではなく、あえて一勝を諦めて二勝を取る、ですか。考えたものですね」
「ずっと昔の桃華帝国の軍師の兵法です。勝つべくして勝つ。特に目新しいやりようではないですよ」
「いえいえ、ご謙遜を。……さて、それではヴェズルフォルニルを封じる方法、でしたね。フギン!」
 ロイアが呼ぶと、一声いなないて一羽のフクロウが舞い降りた。すべての羽毛は白く、瞳はしずかで、老賢者を思わせる。フギンと呼ばれたそのフクロウはロイアの腕に止まり、そして穣の前に差し出されると挨拶するように恭しげに頭を垂れた。

「この子は呪詛を喰らう力を持っています……この力がもっと強力で完全であればこの地の封印を解かせてわたし自ら出るのですが……、おそらくヴェズルフォルニルの「減衰」程度は退けられるでしょう」
「十分です。ありがとうございます女神さま。いつかこの地の封印から、貴方が解き放たれますように」

 穣は礼を述べ、その場を辞する。これで数ヶ月に及ぶ彼女らの探索行は終わった。あとは帰還して、別路の新羅辰馬一行を待つのみ。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2022/10/30 07:01

22-10-30.くろてん3幕3章4話.新教と旧教+タクティカルコンバット正式導入!

おはようございます!

昨日はガッツリとゲーム制作をやりまして、こちらの更新が疎かになりました。ですが成果はありましたので、こちらを。

タクティカルコンバットシステム導入! これがタクティカルパッシブスキルの習得画面になります。右側に並んでいるスキル群の中から必要なものを選択するというやり方で、スキルの横にある数字がスキル習得に必要なタクティカルパッシブポイント。左下にあるポイント:450、枠数:7というのが使えるポイントの上限値ととれるスキル数ということになります。まあ、枠数7といっても実際のところ、弱スキル7つより強スキル3つ4つの方が強いと思うのでそんなに必要ないかもしれませんが。

ただ、問題が一つあり、敵のスキルはこちらで管理するのでそうなることはないのですが、プレイヤーが「新魔体躯95」と「堅守体躯50」とか、合算して100を超えるようなスキルの取り方をした場合、敵からのダメージを一切受けない、という状況が生まれてしまうのが……。まあ、タクティカル戦闘は10ターン経過したら問答無用で敗北になる仕様(条件分岐で敗北を免れる分岐にも出来ますが)なので、千日手にはならないかと思います。

そして昨日は各スキルの挙動を調べるのに時間を費やし、夕方からはくろてん5幕の12話を書いて書き上げたら疲れて寝たのでそれだけ。今日も引き続き頑張るとします。

では、今日もくろてんをアップさせていただきます。

………………

黒き翼の大天使.3幕3章4話.新教と旧教

 新羅辰馬は丘の上の草むらに伏せていた。
 背後には神楽坂瑞穂が、荷車を並べる。荷車には糧秣ではなく大量の重く硬い石が詰め込まれており、そのうえ外壁には闘艦が装備するようなラム(衝角)がとりつけてある。1台1台にそれぞれ血気盛んな山賊騎士がまたがっており、坂から逆落としに下るこれの突撃力が騎馬のそれをはるかに上回るのは想像に難くない。まがうかたなき突撃兵器であった。

「壮観。久しぶりのワゴンブルクだなー……」
 双眼鏡片手に携行食糧のビスケットをかじりつつ、辰馬は後ろに居並ぶ一騎当千たちに目を向ける。アカツキ内戦「ヒノミヤ事変」で対ヒノミヤ戦の決定力の一つになった運搬用荷車の軍事利用、その荷車を使った城塞戦術が「ワゴンブルク」だが、この戦術のルーツこそまさにこの国クーベルシュルトのヤン・ウィクリフ。そして今辰馬たちが救出しようとしているヤン・トクロノフはその思想的・軍事的高弟であるという。

「まだか……まだなのか!?」
 荷車戦車の上で、あまり気の長い方ではないらしいジャンヌがイライラと爪をかむ。「傭兵の国」といわれるだけにクーベルシュルト人というのは大柄で、腕っ節が強く、気が短いものが多い。グシアンといわれるグラーニュ地方出身者はとくに血気盛んなことで名高く、ジャンヌもまたそうだった。ジャンヌはそれほど大柄ではない(といっても164㎝の辰馬よりは大きい)ものの、やはり気は短く待ちの戦略は苦手らしい。

「もーすぐだよ。ちょっと待て」
「ちょっと、とはどれだけだ!? 先日まで人集めとはいえあんな遊び女のまねごとをして、今度はこんな所にコソコソ隠れてじっとしているばかり。今この瞬間にも王太子殿下とトクロノフさまは……!」
「だからってお前一人で突撃しても意味ねーだろーが。あんまし大声あげんな、せっかく隠れてんだから」
「……貴公は外つ国人だから私の焦慮が分からないのだ」
「あー、わからんな。そりゃ説明もされてねぇんだから、わかるわけない」
「この国は新教国でな」
「新教?」
「神父と聖女は女神グロリアさまの代理人で、その言葉はグロリアさまのお言葉に等しい、って考え方の宗派だよ……です」
 横で待機のラケシスが、注釈をはさんだ。つい学生時代のクセで気安い物言いになってしまったのを、恥じ入ってうつむく。
「あー、昔どーりの言葉遣いでいいから、フィー」
「そう……ですか?」
「あー、気にすんな。……んで、新教があるなら旧教もあるんだよな? 新教がそんなんなら、旧教はもっとクソな気がするが」
「……それじゃあ、失礼して昔どーりに……。旧教のほうが最近に成立した教理でね。神父も聖女もただ力のある人間に過ぎない、として、女神さまの尊さは不変だけれど人はすべからく平等、って考え方をするのが旧教なの」
「はあ。……旧教のほうが進歩的?」
「そーだよ。旧教の提唱者ヤン・ウィクリフさまは異端者として火あぶりにされちゃったけど、全ての人は平等だって思想、すごく素敵だと思う。だからこの旧教の光を絶やさないためにもウィクリフさまの後継者であるトクロノフさまを救出しないとだし、そのトクロノフさまを支持してる王太子がクーベルシュルト国王になれば世界宗教史に変革が齋らされることになるはず」
「そういうことだ。だからこの一挙、決してしくじるわけにいかん!」
「わかったからまー落ち着け。余計に落ち着け。しくじれないなら逸るな」
 辰馬のものいいは平素通りにぼーっとしているが、その声に有無を言わせぬ力を感じてジャンヌは口をつぐむ。位負け、といっていい。まるで王を前にしているような心地だった、のちにクーベルシュルト女王、さらにのち国が征服されると公爵夫人となったジャンヌはのちにそう述懐する。ヤン・ウィクリフとその高弟トクロノフの志を知るにつれ、トクロノフを殺すわけにはいかないという心が辰馬の中に強い熾火(おきび)を焚く。

「おれが絶対成功させちゃるわ。だから大人しくしとけ」
 この一言に、ジャンヌは気圧され顎を引いて引き下がる。

「辰馬さま、久しぶりに本気ですね……!」
「たぁくんかっこいー! やっぱりそーでないと!」
「まあ、いくらかっこよく決めてもこいつ、昨日まで女装してたんだけどね」
「やかましーわエーリカ! 好きで女装してるわけじゃねーだろぉが! つーかお前らがノリノリで女装させるくせに!」
「別に馬鹿にしちゃねーわよ。女装男子のくせに決めるときは決めるたつまかっこいーなって」
「そんな褒め言葉いらんわ! っと、来た……!」
「来たか! よし、とつげ……ぐぅ!?」
「だから待てやばかたれ。タイミングってもんがあるだろーが」
 荷車戦車に飛び乗ろうとするジャンヌの襟首を掴んで止め、辰馬は瑞穂に眼で合図する。瑞穂もコクリと頷き、おっとりした顔に凜々しい表情を加えた。

 坂の下から昇ってくる、食糧輸送者と120人の警護兵。今この場には荷車洗車8台と山賊騎士40人。死闘すればなんとか勝てないこともないが、辰馬も瑞穂も、そんな不確定なことはやっていられないしするつもりもない。

「辰馬さま、鼓1回です!」
「あいよ!」
 瑞穂の合図で、辰馬は携行の小さめな銅鑼をがぃんと鳴らす。音響魔術で拡声された音は周囲の空気を劈いて響き渡り、それに呼応して、坂の下、輸送車の背後に伏せた兵士たちが発つ。朝比奈大輔率いる民兵10人と、ジャンヌの腹心の若手騎士(最初、ジャンヌが気絶したときに事情を説明したあの若者)率いる10人、これが左右後方から、輸送者の後背を襲った!

「後ろからっつーても、あの兵力だと押し負けるよな……出水とシンタになんか渡してたけど、あれは?」
「あれの出番ですね! 銅鑼2回、お願いします!」

 ぐわん、ぐわ~ん!!
 朝比奈隊の中から、シンタと出水が飛び出す。仲間が苦戦の中をすり抜け、輸送車に貼り付いた。そして数分、煙が上がる。

「火事だ、火をつけられた!」
 世界の終わりとでも言うような悲痛な声で、誰かが叫ぶ。

クーベルシュルト国王シャルルはその短い治世において醜聞しか後世に残すことのなかった暴君である。それはこのあと彼を押し退けて即位することになるフィリップが自己の正当性の喧伝のためにことさら、シャルルをこき下ろして史書に書かせたと言うこともあるが、実際シャルルの人格が卑しく粗野であったことも確かであった。これまで、シャルルの命令通りにならない部下は手当たり次第粛正されている。食糧輸送車が焼かれて兵糧が届かなかったとなれば責任担当官はまず間違いなく処刑されることだろう。

となれば担当官が忠義立てして奮闘する理由はなく、彼はいっさんに逃げ出す。そしてリーダーが敵前逃亡の醜態をさらしたことで、警護兵たちにも動揺が走った。

「最後の銅鑼です! 全軍突撃!」
「っし! いくぞジャンヌ、思う存分だ!」
「ああ! 私に続け! クーベルシュルトのために!!」

 燃える金髪をなびかせ、ジャンヌは真っ先に突撃する。これまで兜に押し込めて隠していた長髪はそれ自体が仲間を鼓舞する旗印たりえる、という瑞穂のすすめで今回、存分に外に出してある。そして瑞穂の言葉通り、主君の美しき金髪に、配下の山賊騎士たちはいっそう奮い立ち、雄叫びを上げた。

坂上からから急落してくるラム付きワゴン8台と40人の武装騎士たち、警護兵たちは肝を潰す。これだけ状況と士気が完成していれば、3倍の兵力差など関係がない。まず重量と落下エネルギーの乗ったラムの一撃で前衛をぶち抜くや、地に降りたって剣を、斧を、ハルバード(斧槍)を振う山賊騎士たち。

それでも精強無比でなるクーベルシュルトの正規兵。警護兵たちはなお粘り強く戦い抜く。彼らにとって国にも国王にも義理はなかったが王国の民としての誇りと矜持が彼らを不退転にしており、また多くがグシアンで自らの力を誇示したがる血気の男ばかりであったこともあって簡単には降伏してくれない。魔術を使おうにも乱戦の中ではうっかり仲間を巻き込む可能性があり、大威力の辰馬たちの魔法はかえって使いどころがない。

「あーもう、どー見たももう完全にこっちの勝ちなんだから、さっさと降参しろや、ばかたれが!」
 乱刃のなか、辰馬は悪態をつく。勝利は確定だとして、このまま相手が降伏しないのでは否応なく殺さざるを得ない。そう考えただけで気分が悪くなり、目の前が赤黒く染まって胃酸のせり上がってくるのを感じる辰馬だった。

「……サティアさま、なんでもいいです、空に向けて一撃放って下さい! 目に見える大きい威力を!」
 瑞穂が隣に待機のサティアに声を飛ばす。サティアはよくわからないまま、空間から抜いた巨大な光剣を爆裂させた。天を食い破らんばかりの威力を見せたその一撃に、敵味方の殆どが呆然と恐怖して空を見上げる。辰馬と新羅一行にとって慣れきったことだが、神威の一撃というものはもともと信心深いこの大陸の民にとって魂を強烈に揺さぶるものだ。

「クーベルシュルトの民たちよ、投降なさい! これが女神の神威です!!」
 この言葉だけでは足りなかったかも知れないが、アトロファとラケシスを従えたサティアが空に浮いて光輪を背負ってみせると、クーベルシュルトの兵たちはついに得物を棄て、戦闘をやめる。

「……さて。輸送車、燃やしちまったのは拙かったな……」
「燃やしていませんよ、辰馬さま。あれは発煙筒、煙だけです。混乱させるために火事と見せかけましたが」
「あー……、さすが」
「光栄です。頭、なでてください♡」
「はいはい……にしても、女神て意外と、世間的に影響力強いのな」
「そうですね。わたしたちにとっては神力も神術も普通のものですが、世間一般的にはそうそう見ることの出来るものではありませんでした。そこに気づくのに、すこしかかってしまいましたが」
「乱戦に持ち込まずに、いきなり輪転聖王ぶちかませばよかったか……でも最前線にいないとわからんこともあるしなー、その辺は場合によりけりか……。ま、これであとはレーシを陥とすだけ、と」

 同じ頃。
 磐座穣は女神の宮殿セッスルームニルに到着していた。
 最近イラつくことが多くインガエウにかみつき続けていたら、なんだかインガエウの目つきがおかしい。どうにも、自分に生意気な口をきく相手というのが新鮮なのか、妊婦である穣に対しいらん好意を抱いてきているらしい。あなたにはラケシスさんがいるでしょうと言いたくなるし、本人曰く俺はエーリカ女王に愛と忠誠を捧げたのだと言うが。

 ともかく。

「ここは女神の聖域。許可なく足を踏み入れることまかり成らん」
 穣たちが神殿に足を踏み入れると、どこからか現れた屈強強靱にして剽悍、しかるに美貌の、武装した男たちが立ちはだかる。

「貴様らを斃せば、許可証代わりということになるか」
 穣の前に進み出て。
 インガエウが佩剣に手をかけた。

「このひとたちは英霊(エインヘリヤル)です、不死ですよ」
「不老であれ不死であれ、不滅ではあるまいよ。見ていろ穣!」
 穣の言葉にも耳を貸さず、エインヘリヤルたちのなかに突撃を敢行するインガエウ。ホラガレス、シァルフィ、ホズの三人もそれに続く。

「磐座さん、お疲れ様です……、お腹の調子は?」
「今のところは平気です。ありがとう、晦日さん……。あのひと、いいところを見せたいのかも知れませんが……。はっきり言って迷惑でしかないんですよね。わたしは……のものなんですから」
 エインヘリヤル相手に大暴れのインガエウを尻目に、美咲に答えてため息する穣。この期に及んでまだ「辰馬のもの」とは言わないし言えないのが、どうにも穣らしいと言えばらしかった。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2022/10/28 16:18

22-10-28「日輪宮の齋王」動画

こんにちわです!

今日はアレやらコレやらありまして朝の更新ができませんでしたが、そのぶんゲーム制作は捗りました。まあ、シナリオの方はあまり進んでなく、微調整だったりSEを入れてみたりの細々した部分がほとんどだったのですが……、まず、タクティカルコンバットがどうやら使えるんではないかな、という見通しが立ちました! これ使えなかったら数百万がふいになりますからね、背景が戦乱ものなので、やはり入れたいわけです。マップ描画やら設定があまりに多岐にわたるので今回SLGプラグインは使いませんが、戦闘、とくに道中戦で無事に使えたら導入。今日バグフィックスされたプラグインを受け取ったのでたぶん行けると思います。

で、「日輪宮の齋王」一章動画。

先日アップしたものとそれほど違いはありません。冒頭に神楽坂派の祢津加恋さん凌○シーンを入れて、各所のテキストを修正してエロシーンにSEをつけたくらいです。祢津さんとか那琴とか、イラスト絵師様にお願いしたくなりますがお金がないのでいかんともしがたし。

祢津さんのお当番シーン。このひと冒頭で犯されるためだけに用意したキャラですが、主人公・長船言継はこの人みたいな戦巫女を何人も喰ってきてる、というのを冒頭でわかっていただくための登場でした。

こっから主人公の男衆紹介。1番手、長船言継。人造人間に改造されて「呪装機人」という半ば人工的な魔力欠損症(神力・魔力の干渉を受けない)の身体。しかも魔術的干渉を受けないのに自分は魔術を使えるという反則。作中、もとアカツキの軍属であったことに対する言及があってそこから足を洗ったことをあまり言いたくなさげにしてますが、大した理由はないです。その当時上官の女将軍に逆レ○プされて女性不信になったというだけ。こいつの女性に対する残忍さというか汚い感情はそのあたりが根底にあります。ところでこいつみたいな悪党主人公ってちゃんと主人公としてユーザー様に認めていただけるかちょっと不安。

2番手、兼定玄斗。こいつは武道をやってる人間はよく突き当たるんですが、武道と暴力の垣根がわかんなくなったタイプです。人格出来上がっていればそこで道を見失わずに進みますが、こいつは見事に道を踏み外して蛮勇一直線を突き進み、弱者を踏みにじることに快楽を感じる暴行魔。というわけで暴力担当ですが、長船もかなり暴力野郎なので区別するのが難しかったりします。

3番手、長谷部一幸。直接的な暴力より言葉や態度の暴力で脅して相手を屈服させるのが好きな、こいつも大概歪んだ男。見た目は一番まともですが、現実にいたら一番タチが悪いタイプだと思います。こいつら三人とも、自分より立場が上だった相手をどうにかして叩きのめして凌○する、というのが趣味なのは共通ですが。ちなみに長船は備前長船、兼定玄斗は和泉守兼定、長谷部一幸は圧切長谷部と、三人とも日本刀の銘から名前を取っています。

今回は以上です、それでは!

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遠蛮亭 2022/10/27 07:25

22-10-27.くろてん3幕3章3話.姫巫女懐胎

おはようございます!

昨日はくろてん5幕の11話を書いて、そのあとゲーム「日輪宮の齋王」制作をやりました。それでまあ、序盤をちょこっと変更することに。長船言継が呪装機人への改造にいたった経緯をテキストで説明するより、機人化した長船が実際に戦巫女を相手に戦って勝つ…でもってエロイベント…というシーンを入れたほうがたぶんよかろうということで、なので立ち絵と、それを縮小したバトラーグラフィックを描きました。

これが生贄、祢津恋歌さん。先日顔グラだけ作ったキャラたちの一人ですが今回長船に負けてもらうべく描きなおし。ちょっと、前より顔がロリっぽくなりました。イベント1回こっきりの使い捨てキャラですけども。

こちらゲームで使用する立ち絵。表情差分はめんどくさかったので喜怒哀楽とこの怯え顔の5種類だけ。5種類も必要なかった気はしますが。

こちら戦闘画面で使うバトラー。考えてみりゃ瑞穂さんのボス戦と同じく、立ち絵を戦闘画面で表示すればよかった気もします。そうすればわざわざ下半身を描く必要もなかったんですが、まあせっかく描いたのだし。

では、今日もくろてん行きます。今回は磐座さんのおめでた。

‥‥‥…………
黒き翼の大天使.3幕3章3話.姫巫女懐胎

 ヴァレット山岳帯。このあたりは娯楽が少ない片田舎であり、それだけに口コミでの噂の伝播が早い。辰馬たちはまずここの教会を拠点にして活動を開始した。人を集め、奇跡を見せ、自分達を信奉する人間を増やす。そして彼らの中から志願兵を募り、軍隊として創り上げる。

「ひとまず1000人あれば、王都レーシを陥として見せます」
 神楽坂瑞穂はそう豪語する。彼女が断言するからにはそうなのだろうが、あと半月で1000人を募るのは存外に厳しい。とはいえ泣き言も言っていられないから、辰馬もおとなしく聖女っぽくふるまうのだが。
「聖女さま、傷が、昨日日曜大工で指を……」
「そんなもん、ツバでもつけとけよ……ってあた!? なにすんだおまえエーリカ!?」
「あははー、ごめんなさい、ちょっとこの子連れて行きますねー。……たつま、アンタやる気あんの?」
「なにが?」
「そんな横柄でやる気のない聖女がいるわけねーでしょーが! なにやってんの!?」
「だっておれ、治癒術とか使えん」
「じゃあ傷を撫でてあげるだけでもいいのよ! アンタがやるって言ったんだから、ちゃんとやりなさい!」
「やるっつったのはトクロノフ氏救出であって、こんなこと(女装)するのを承服したつもりはねーんだが……」
「い・い・か・ら、やれ!」
「……まあ、やるけども」
 と、戻りかけたところに瑞穂が駆けてくる。春さきとは言えまだ寒く、かんみそ(神衣)の上から野暮ったくセーターを着ていながらも揺れる乳房はその大きさ重さを微塵も隠せていない。だぷんだぷんと、揺れる姿は海原を暴れるレヴィアタンのごとし。エーリカはイラッと殺意にも似たうらやましさを感じるが、ひとまずそれは押し殺して。

「なによ、瑞穂。牛乳揺らしてみっともないわよ?」
 隠せていなかった。いかにも嫉妬っぽい言いざまで、高圧的に言う。

「は、はう……すみません、見苦しいものを……」
「エーリカ、ひがむな。瑞穂、用件は?」
「ぁ……はい。その、磐座さんの「見る目聞く耳」とわたしの「サトリ」で画像付きの遠距離通話システムを構築してみたんですが……磐座さんが辰馬さまを出せって……なんだか怒ってるんですけど、その割りに嬉しそうな……」
「……? まあ、あいつがよーわからんのはいつものことか。今つなげる?」
「はい。ちょっとまって下さいね、鏡、鏡……」
 セーターをめくってかんみその腰帯にはさんだ鏡を取り出す瑞穂。普段もっと過激な姿をしょっちゅう見ているわけだが、着衣をめくって下を見せるという姿になんかあかんものを感じた辰馬はさりげなくそっぽを向いた。

「なに照れてんのよ、かーわいい♡」
「うっせーわ、照れてねーし」
「はい、用意できました! この鏡を見ていて下さい」
「ん……」
 しばらく鏡を見ていると、磐座穣の姿が鏡面に映る。ぼんやり不明瞭な映像ではなく、くっきりはっきりした、テレビ以上に鮮明な映像。その映像の中で、穣はなぜだかいつも以上に憤慨していたが。

「新羅ですか!? 責任を……と……え?」
「あ?」
「ぷ……くく、あはは! あぁ、それがみんなが口を揃えて可愛いと言う、新羅の女装姿ですか……ぷっ……ふふ、可愛いじゃないですか、全然男に見えなくて……あははははっ!」
「……お前がそんなふーに笑ってるの初めて見たが、すげー腹ぁ立つな……怒っていいか?」
「はは、ははははっ……、怒りたいのはこっちですよ!」
 大笑いだった穣は突然、くわっとまなじりをつり上げ怒鳴る。

「ぅお!?」
「これってどーいうことですか、ケダモノ! ちゃんと責任は取ってくれるんでしょうね!?」
 主語なしでガンガン怒鳴りつけてくる穣、その鬼の形相と剣幕に、辰馬もたじたじとなる。とはいえ相手が何を言っているのか分からないと誤ることも出来ないので、どーいうことだと聞いてみた。

「ちょっと待て。なに言ってんのかわからん、順序立てて話せ」
「だから……アレですよ」
 問い返されると、穣は突然勢いを失いもごもごと口ごもる。

「アレ? なに?」
 重ねて聞くと、

「アレです……つまり……その、おめでた、というか……」
 目を伏せてぼそりと言った。

「おめでた……おめでた……!? おめっ、おおおおお、おめぇ!?」
「「おめえぇ!?」」
 穣の言葉に、辰馬のみならず瑞穂とエーリカも原語不明瞭になる。それくらい「おめでた」の一言がもたらした破壊力は凄まじい。

「そういうことです。ちゃんと責任は取るように。分かりましたか?」
「ぁ……お、おう。そりゃどーも……、おれの、子供かー……まさかこの年で……つーかやることやってりゃあ当然か……うーん… ! そーだ、姓名判断の本買わんと! 男の子かな、女の子かなー。ま、可愛いのは間違いないよな、お前の子なんだし。で、おれが父親……ふふっ、なんか嬉しいなぁ!」
 真っ赤になりつつも平静ぶる穣に、うれしさを隠しもせずはしゃぎまくる辰馬。まだ生まれてもいない我が子に対する異常なほどの子煩悩ぶりに、穣は意外性から毒気を抜かれる。

「……意外」
「ん?」
「てっきり『ガキなんかいらねーから堕ろせ』って言われるとばかり……子供なんか欲しがらないと……」
 普段の辰馬を見ていると我が儘気ままで自まま奔放のため、そういうふうに見られても仕方ない。だが本質的に新羅辰馬という少年は異常なほどに情愛の細やかな、依存するのもされるのも大好きなタイプの人間であって、それは辰馬と雫の関係を見れば分かるはずだが戦略戦術を見るに敏であるはずの穣は人間心理の機微にはやたらと疎かった。

「そんなわけねーだろーが。おれは身内大事にする男よ? あー……いまお腹どんな具合? 早く会いたいなぁ、無理すんなよー!」
「ちょ、待って。待って下さい、そんな態度を取られると調子が狂います! わたしとあなたはもっとギスギスした間柄でしょう!?」
「じゃあこれきっかけにして和解で! 姓はどっちにする? おれは新羅って名字気に入ってんだけど、磐座もいいよなー」
 またまた浮かれポンチ状態の辰馬の後頭部を、エーリカがはたく。

「ちょっと、たつま」
「んぁ?」
「なに浮かれてんのよアンタ。あたしも瑞穂も牢城センセもいるのに、穣だけってわけにいかないでしょ?」
「……あー……そうだった……いかんな、つい」
「いかんなじゃねーのよ馬鹿。瑞穂なんかショックですっかり呆けちゃってるでしょーが」
「……すまん。でもまあわかるだろ? 初子なんだよ」
「知るわけねーでしょ! あたしはまだ子供授かってねーわよ! 早く仕込め!」
 エーリカは魂の叫びを吼えた。穣に先を越された、という事実はこの若き女王のプライドをいたく傷つけ、競争心をあおり立てていた。

「え……いいの?」
「いいのもなにも……あたしはアンタの正妻なんだから! 側室に先超されたらそりゃあ悔しいわよ!」
「いつから正妻になったのかわからんが……そーか、エーリカって子供ほしいんか……」
「アンタも喜ぶしね! って恥ずかしいこと言わせんな!」
「新羅」
 今度はまた、鏡の中から穣。いつものような気の強い怒り顔ではなく、大人しくおしとやかな羞じらい顔で。

「お、あぁ?」
「わたしも頑張りますから、あなたも頑張って帰って下さいね……」
「うん……て、えぇ!? 磐座が、磐座がしおらしい!?」
「なんですかその言い方は! もう切ります、それじゃ!」
 なにかに叩きつけるような音がして、ぐにゃりと像が乱れた像は霧散した。それきり鏡はうんともすんとも言わなくなる。

「瑞穂―、大丈夫か?」
「はぅ!? あ、夢……? そうですよね、磐座さんがご懐妊……」
「あぁ、それ本当」
「はぅ……」
 目覚めた瑞穂は次の瞬間また失神した。

「さて。教会戻るか」
 瑞穂を拠点の安宿に寝かせて戻ろうとする辰馬の裾を、エーリカが摘まんで止める。振り払うのは簡単だが、さっきの話の流れからして無碍にしづらい。

「……するか?」
「ん……」

………………
 その晩、結局辰馬が教会に戻ることはなかった。

………………
 翌日。
宿から女装し直して出勤(?)した辰馬が見たのは、やたら繁盛する教会。行列なす人びとの奥で、ステンドグラスの下に座るジャンヌが手をかざすとけが人の傷は塞がり、病人は元気を取り戻す。つい数日前まで瑞穂やアトロファ、ラケシスが後ろでこっそり術を使ってごまかさなければならなかった新米聖女の力は、見事に花開いている。

「おはよー、なんか調子よさそうだな?」
「ああ、王太子殿下とクトロノフさま、そしてこの国を救うという思いがわたしの中でしっかり腑に落ちたからかな。力の使い方が自然と分かるようになった。あなたたちのお陰だ、ありがとう」
「ん。まぁ、お前の実力だよ。さて、そんじゃおれも手かざし頑張るかー!」

 こうして、真なる力を開花させたジャンヌのもと人は続々集まり始める。ジャンヌの旧領の騎士たちも馳せ参じ、1週間を過ぎたあたりで兵力は2000を越えた。

「つーわけで、作戦だが」
「はい。レーシの城に運び込まれる食糧輸送車、それを奪います。その上で、精鋭をもって内側から撹乱」
「なんちゃらの木馬作戦か。ま、いつも通してる車に賊が入ってるとか思わんよな」
「はい。それに呼応して外から、正門を攻めると見せて東門、こちら湖に端一本を渡しただけの難攻不落ですが、凍らせてしまえば難攻不落ではなくなります。ここから攻めます」
「……ヒノミヤの時といい、よくぱぱっと出てくるよなぁ、そんなの」
「磐座さんに比べたら全然ですよ? この程度」
「瑞穂は自己評価低いだけだと思うんだよなぁ……ま、いーや。それで、布陣は?」
「この作戦、最前線に立つべきはクーベルシュルトの代表だと思います。なので花形の東門突撃隊にはジャンヌさんを。そのとなりに辰馬さまが湖を凍らせて下さい」
「了解」
「了解した」
「作戦の起点、輸送車強奪にはリーダーシップの強いエーリカさまと、騎士の皆様。これを奪っての潜入部隊には牢城先生、朝比奈さん、上杉さん、出水さん」
「はーい♪」
「了解です」
「問題ねーっッスよぉ!」
「承知したでゴザルよ!」
「そして正門の陽動。これにはわたしとサティアさま、そして農民兵の皆さん。今回も荷車を使います。もともとこれはヤン・ウィクリフさまの戦術ですし、その後継者ヤン・クトロノフさまに敬意を表するという意味も込めて」
「まあ、問題はないわね。旦那さまのためだし、やってあげる」
「はい。それでは、さっそく取りかかりましょう!」
「おう!」
 場の男女の声が、一斉に和した。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2022/10/26 09:56

22-10-26.くろてん3幕3章2話.金の聖女

おはようございます!

昨日はほとんど一日寝たきりでなんもできませんでした。ゲーム制作を頑張らないといけないんですが、なかなか思うようになりません。まあ、広輪さまも28日から私用を終えて作業開始の予定ですし、こちらも今日から頑張りましょう。

ゲーム制作と言えば定番の「エロスタータス」ですが、これがウチのシステムだと7項目しか表示できないのですよね。一定数値を越えたらゲームから退場になる「堕落値」と出産時に消費するコストになる「体力」、ほかには「容姿」「経験」「技巧」マゾ」を表示する予定ですが、各数値によって出産・娼館イベントでのテキストを変えていたら2月末に間に合わない気がしてきたので、エロステータスは半ばフレーバーになるかもしれません、というか面倒なのでエロステータス使わないかも。

さて、それでは本日のお絵描き。いつもなら前日の夜に描きますが、今日は朝になってから描きましたフィーリアママ。

以前描いたバージョンだとマントやら腰のヒラヒラやらあったんですが、弓を背負わせるとなるとマントはいらんか、ということでいったん外し。むしろ弓を外してマントを復活の方がいい感じかもしれません。というか右肩に矢筒描いたんですけども髪で隠れることになりなんかちょっと残念。まあ絵としては結構いい感じにできました。

では、今日もくろてん置かせていただきます。

………………
黒き翼の大天使.3幕3章2話.金の聖女

「ち、ち、っ……く……」
 右足が悪いとなると相手は執拗にそこを狙ってくる。単純に足払いや踏みつけを仕掛けてくるのではなく、目線で動きを誘導しての一撃、また足を撃つと見せてこちらが萎縮したところに上体への強打など、バリエーションに飛んだ攻撃はただの山賊騎士の技とは思えないほどに洗練されており、しかも道場剣法とは一線を画す実戦性を誇る。辰馬としてはやりにくいことこの上ない。というか苛烈な打ち込みを受け、いなし、捌くだけで足が軋み、痛みで脂汗が噴き出す。マナス(意)を集中させて痛みをある程度忘れさせているが、それでこの体たらくだ、敵の剣術が円と点の複合技法、自分本来の得意技であるということも、辰馬を焦慮させた。

 ……まさか西方に、こんなハイレベルな剣法があるなんて、な!

 武技と言えば東方、それは世界的常識であり、ウェルスの「聖女」候補にはわざわざ桃華帝国から武芸師範が護身の技を相伝するくらいであるが、それも先入観に過ぎず強者はやはり何処にでもいる。なんとなれば自分の全盛期を凌ぐほどの技量を使いこなす相手がここにいるのだから、それは認めざるを得ない。

 苦戦する辰馬をカバーに瑞穂や雫、三バカたちが馳せ参じようとするも、それを展開した山賊騎士たちが阻む。これが一騎当千、すでに相当の修羅場をくぐってきた瑞穂たちを、簡単には通さない。

「ちぃ! こいつら、速い……!」
「デブオタ、動き止めろ! このままじゃ狙えねーし!」
「わかってるでゴザル! 指図すんじゃねーでゴザルよ赤ザル!」
 大輔の拳に耐える屈強、シンタのダガーを躱す速力、そして前衛をかわしてまず後衛の出水を狙う戦略性を備える、個ではなく集団。一対一で後れを取ることはないが、なかなかに相手しがたい。同じように、雫と瑞穂、サティアの三人も術者二人を庇わせて雫の負担を増やさせ、さらに多人数の手数で押し込むことで彼女ら本来の戦力を封殺してくる。

 辰馬を救いに残るはエーリカ一人。この状況を独占できることに、エーリカはむしろ欣喜して聖盾を構え騎士と辰馬の間に割って入る。

 ぎぅん! と鈍い金属音を立て、細剣と盾が激突、火花を散らした。

「うりゃっ! どーよたつま! やっぱりあたしが必要でしょ!? ほらほら、あたしって役に立つ!」
「おお、あんがとさん、エーリカ!」
 辰馬はぐ、と踏ん張り、かかとから全身に駆け抜ける激痛をこらえながら放たれた矢のごとく踏み込む。天桜の切っ先で目打ちの幻惑、相手が一瞬、目を閉ざした瞬間に懐に踏み込み、下から打ち上げるような体当たり!

「く……!?」
 甲冑を徹して突き抜けるダメージに、苦悶する騎士。その腕をとり、身体を制圧、崩しをかけて、ドン、と踏み込んでの掌打、そこからさらに踏み込み、肘打ち! 「かは……っ!?」必殺の肘は鉄板の上から鎧の鉄板を拉げさせる。その威力をもらって、騎士はさすがに呻いた。

 なお辰馬は止まらない。掌打、肘打ちときて、仕上げの一撃、この距離で繰り出されるならそれは靠法。肩から背中を使い、叩き込む衝撃は数十トン、岩壁も穿つ! 腕をとられた時点で身体制御を支配されている騎士は受けも避けもできない、わずかに身体を反らして衝撃を逃がすのがせいぜいであり、ほぼ完璧な形で辰馬の靠撃を喰らって騎士は吹っ飛んだ。

「勝負ありです! これ以上の戦いは無益、私ヴェスローディア女王、エーリカ・リスティ・ヴェスローディアの名において双方、剣を引きなさい!」
 すかさずエーリカが宣言し、ふらつく辰馬に肩を貸す。優勢にあった山賊騎士たちだが首領の敗北に目を瞠り、信じられないとばかりかぶりを振るも、現実を知ると渋々、といった顔で剣を置いた。

………………
「で、あんたらなんなんだよ、一体?」
「我らは王太子とトクロノフどのをお救いせんと願うもの」
「………………?」
 騎士の一人……ヘルメットを外すと、まだずいぶんと若い20代そこそこの騎士だった。おそらくは叙任されて間もないのだろう……の言葉に、辰馬は首を捻った。
「トクロノフ……って誰?」
「あれ、たつま知らない? 歴史好きなのに」
「知らん。現代史とか今の政治には興味ねーんだわ、おれ。あくまで『おはなし』の歴史物語が好きなんでな……つーことは、政治家か」
「んー、ちょっと違う? まあ、政治顧問みたいなこともしてたけど、実際は神学者。フス・ウィクリフの後継者って言われる人で……」
「フス!?」
「うわ、びっくり。なによたつま、フスのファン?」
「ファンっつーかどうかはまだわからんが。軍略家のフスか。ってことはそのトクロノフさんも軍人?」
「違うわよ。だから神学者だって」
「いや、トクロノフどのは軍略家でもあるのです、女王陛下。フスさまも」
「へ?」
「ほら! やっぱあのヤン・ウィクリフじゃんよ!」
「なに鬼の首とったみたいなドヤ顔してんのよ、殴るわよ? ……まあそのヤン・トクロノフさんだけど、クーベルシュルト王太子フィリップ殿下の政治顧問でね。でもウェルス神教会の権威を否定して破門になっちゃって、それでも懲りずに教会と女神崇拝を否定してたらフィリップ殿下の従兄のシャルル殿下が即位して、このひとがガチガチの女神崇拝者だったせいで投獄されたの」
「はあ……いまどき女神の無謬とか信じてる連中いるのな……女神って実際こんなんだぞ?」
 辰馬は解しかねるという顔でサティアを見遣った。
「?」
 サティアは辰馬に視線を向けられて、とりあえずにっこり笑う。その頭空っぽっぽい笑顔に辰馬はうーん、やっぱり女神ってただのアホなんだけどな、と自分と世間の女神論の温度差に懊悩した。

「……そのへんは分かったとして。なんでそのご立派な人をお救いしたいあんたらが山賊やってんだよ?」
「それは……」
「偽王派は王太子殿下を捕え、トクロノフどのとともに処刑すると通達した。それを止めたければ2千万ディレントンの身代金を払えと」
 そう答えたのはさっきまで失神していた美形騎士。白目を剥いて涎まき散らしてブザマに失神していた事実は都合良く無視して、騎士はシリアスな顔と声音でそう言った。
「2千万……、?……、すまんエーリカ、アカツキの単位で」
「だいたい760億弊ってとこ」
「はー……はー……、はあぁ!? そんなもん、ほとんど国家予算やんか!?」
「まあ、王子とその腹心だからねー。仕方ない額ではあるか。それで、山賊稼業で成果は?」
「100万ディレントンといったところです……」
「桁が違うな」
「ああ。どうしようもない。この上は王城に突撃して殿下とトクロノフ殿をお救いするしか……」
「………………」
「ちょっと、たつま?」
「………………ん?」
「アンタまた余計なこと考えてない? あたしたちは賢者クロートに会いに行く途中であって、クーベルシュルトのお家騒動に介入してる余裕はないのよ? そうでしょ、アトロファ?」
 一刻も早くヴェスローディアを解放したいエーリカは賛同者を求めてアトロファに問いかけるが、以外にもアトロファはおっとりした顔にたおやかなほほえみを浮かべたまま首を左右に振る。

「そうですが、まあ。お師匠さまは逃げるものではなし? 今上の勇者さまがどんな決断をしてどんな行動を取るのか、それを見極めさせていただくのもよいかと」
「たつまくん、王太子さまとトクロノフさまを助けてあげませんか? 王太子を王位につけてさしあげれば、このさき第2次魔神戦役における友好国を広げることにも繋がります」
 アトロファの横から、ラケシスが言った。蒼月館時代人代わりしたように攻撃魔法をぶっ放すようにはなったが、やはり彼女の本質は分け隔てなく優しい。本来ならシャルル王党派を指示するべきウェルス神教の聖女でありながら、ラケシスは苦境の王太子と神学者を救おうとしている。

「あー、フィーはいいこと言った。そうだよなぁ、ここは助けるべきだって。これは別にトクロノフ氏に会ってみたいとか、そういうわけじゃなくてな」
「いやアンタ会いたいだけでしょ。兵法のてほどき受けたいだけでしょ」
「違うって。人道的にな、困ってる人は助けるべきだろーが」
「アンタねぇ、世の中はそんなきれい事で動かないの! そもそも兵力もナシでどーやってクーベルシュルト王党派と戦うの? いっとくけど、クーベルシュルトの正規兵ともなるとこの騎士たちよりさらに強いわよ? あんたが本気になれば国の一つや二つ滅ぼすのは簡単なんだろーけど、どうせ絶対殺したくないっていうんでしょ?」

「あの……いいでしょうか?」
 おずおずと、瑞穂が挙手。

「クーベルシュルトの民は一人残らず戦士である、この認識は間違いないでしょうか?」
「……ああ、それは間違いない。我らは武器を玩具にして育ち、外寇あれば軍民一体となって戦う。他国に比べて戦意と戦力は高いだろうな」
「なら、民衆の方々を巻き込みましょう」
「……?」

………………
「だからさぁ! なんでまたこのカッコなんだよ!? なんかこれ、前よりスカート短くねぇか!?」
 新羅辰馬、久しぶりの女装。衣装は以前アカツキで着用したアイドル衣装を、サティアが神力でクーベルシュルトの村娘風に変質させた。いつもの横束ね髪はほどいてわずかにウエーブした銀髪は質素な両お下げにし、勾玉は腕輪にして左手首に巻く。女性陣が精魂込めて(=面白がって)メイクを施し、まさに鄙にもまれな、艶転なる蛾眉の美少女ぶりである。

「ダメですよ、辰馬さま。今の貴方は『神託を聞いた聖女さま』なんですから、もっとおしとやかに、かわいく!」
「お前……! つーか、こっちの人間の信仰とか全然分からんぞ、おれ。そんなんでいけるんかよ?」
「確かに……この国の事情を知らないのは致命的かも知れません……」
「つーか辰馬サン、自分が女装でイケるってことにはもうなんの疑いもないッスよね?」
「やかましーわボケ! つまらんこと言ってたら殺すぞ、ばかたれ!」
「そういうことなら、私……わたしが聖女役をやろう」
「頭領、いいんですか!?」
「このまま男の真似をしても王太子とトクロノフさまは救えない。ならば女に戻るさ」
 騎士はそう言って、鎧を脱ぐ。ズボンとチュニック姿になると華奢で柔らかい身体の線があらわになり、小さいが間違えようもない双丘は彼女がまぎれもなく女であることを象徴する。

「ジャン・ド・バプテストあらためジャンヌだ。よろしく頼む」
「………………」
 辰馬はわずかに目を眇め、ジャンヌを凝視。彼女の中にある「本質」を透視する。微弱ではあるが、この感覚は……。

「いまこの国の聖女ってどーなってる?」
「え? そこまではちょっと……ウチの国じゃないし……」
「こいつって聖女だろ、この力。いや、まだ弱いけど。間違いない」
「わたしが……聖女?」
「うん。よし、ジャンヌを化粧してやれ! よしよし、これでおれが女装する必要は……」
「金髪と銀髪の姉妹聖女、って触れ込みは惹きつけるものがありますね!」
 衣装を脱ぎたがる辰馬を、瑞穂が制して否応なしにやめさせた。いやだいやだと強○魔に組み敷かれた乙女のように泣きわめく辰馬を尻目に、新たな聖女ジャンヌは呆然とした雰囲気で、まだ信じられないというふうに呟く。

「わたしが……聖女……」

………………

以上でした、それでは!

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