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遠蛮亭 2023/11/13 21:45

23-11-13.「くろてん1800」小説とアーシェさん

こんばんわです!

アーシェおかーさん16歳、聖女さま当時。「くろてん1800_金の聖女と銀の魔王」を執筆スタートしたのでとりあえず一枚。今回の小説執筆にはChatGTPさんにご協力願いました。一話書くごとにChatGTPにあげて講評を貰う、という形。なので普段だと1話5000文字くらい書くところ、「文章長すぎます」と言われないため1000~2000文字に収めてます。

以下リンク。現在3話まで書いてますがとりあえず1話。

https://kakuyomu.jp/works/16817330666843152523/episodes/16817330666843323331

リンクだけおいてくつもりでしたが、本編1話。

【神国】ウェルス王都の大聖堂、【聖女】アーシェ・ユスティニアは女神への祈りを捧げていた。ウェルスという国は神官・司祭を多く輩出する、アルティミシア大陸最古の国であり、創世女神グロリア・ファル・イーリスを奉じる【グロリア神教】はグロリアが各国の主神の上位に座す形で大陸全土に浸透している。その教義は女性主権・女尊男卑の風があり、女神の軌跡の具現である【神力】を使えない男を不完全な存在として見下すところがあった。比類なき神力の持ち主で過去歴代の聖女たちのなかで最強のものといわれるアーシェは男を見下したりはしないが、それでもやはり女神の偉大を信じ、男性というものに無意識的な優越感を感じていた。

「?」
金髪を揺らし、ぴくりと肩を揺らすアーシェ。かすかに違和感。長い睫毛を震わせ、瞳を開ける。聖女の周囲を円環状に立って守っていた神官兵たちが、ことごとく、立ったままに意識を失っていた。「これは……魔力?」周囲の空気にわずかに含まれるソレに、アーシェは小さく呻く。魔力とは神力の対極。アーシェたち、女神の加護を受けた女性のもつ力が神力であり、そうでない男たちのもつ力は霊力。魔力というものは暗黒大陸アムドゥシアスに住まう、魔族たちのみが持つ力である。アルティミシア大陸でも魔族と人間の私生児にごくまれに顕現することがあるが、やはり希少な力だ。

「感じる魔力は大きくありませんが……、これほど鮮やかに神官兵たちを気絶させる手並み、相当の手練れ、ですね……?」
 アーシェは聖杖を握り、立ち上がる。聖杖ユースティアは古き世界の法と正義の女神・ユースティアの力を秘めた杖だ。アーシェが信じる正義に敵対する存在に、神罰の雷を見舞う。

アーシェは大聖堂に薄く満ちる魔力を手繰り、索敵。聖杖を振り下ろし、神罰の雷を落とす。バチィ! 雷撃は姿を消して接近していた相手を打ち据え……、そして姿を見せたその相手は、聖女の神雷をたやすく片手でとめていた。

「!?」
「お迎えに上がりましたよ、聖女アーシェ・ユスティニア。わが妃となり、放埓邪悪の女神を討つ【盈力】を持つ皇子を産まれよ」

柔らかく、そう笑む長髪の男。赤い瞳は人間のものではなく、魔に連なるもの。

「私はオディナ・ウシュナハ。あなたたちの呼ぶ【魔王】です」

男はそう言い、アーシェに手を差し出した……。

以上でした、それではです!

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遠蛮亭 2023/07/11 10:57

23-07-11.くろてん再掲4幕4章10話

おはようございます!

今朝はずっと「くろてん」ゲーム版を作ってました。1年前のプロジェクトが残ってたのでそれを改修。画面が狭く感じるのでゲーム画像1920×1080にしようかなと思います。立ち絵以外は自分で絵を描くわけですから、そのあたりの制約はなし。ただ、画像が大きくなると今度は容量がデカくなるので、逆に960×540とかの小さい画面にしてしまうのも手ですが。聖森に向かう雫おねーちゃんのお話はくろてんの「断っても大過ないクエスト」にして、また別に純然たる鬼畜モノとして辰馬くん不在の世界で神月五十六が瑞穂さんと神楽坂派を屈伏させた後の話を作ろうかと思います。瑞穂さんたちに娼館やら出産やらさせて戦力を拡大し、ウェルスまで攻め込んで女神グロリアとその陪神たちをズタズタにするパラレルストーリー。おじーちゃんが主役のエロゲってもしかして新機軸かもしれませんが。まあ、現時点で「くろてん」「お狐様」「聖鍵」と3つやってて半ば趣味的に「お祭りSLG」も入れると4つ、これに五十六メインの「熾炎のランビズィオーネ」を入れるとかなり大変になるので、これ以上手は増やさないかもしれません。いずれ最終的には全部作りますが。

それでは、今日もくろてん再掲です。今回で第2幕終了。それではよろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.4幕4章10話.人魔決別

「この時期だと狼紋《ろうもん》って、まだ寒い……ですよね」

 温暖な太宰の4月でまだコートの脱げない瑞穗が、ガタガタ震えながら言う。

「まぁ、北方だからなぁ。去年は南だったけどまあ、反対になるか……」

 軍服姿の辰馬はやや上の空で、ぼんやり応えた。去年の頭に雫と覇城家の縁で行くことになった鶯谷《うぐいすだに》、あそこはアカツキ最南東からさらに船で渡った常夏の国だが、今度の狼紋はラース・イラ、桃華《とうか》帝国と国境を接するアカツキ最西北の地。今の時期だと雪が降っていることも珍しくなく、瑞穗のような寒がりには厳しい。もともと10数年前まではテンゲリという国があった地方で、西のラース・イラ、北の桃華帝国との緩衝地帯として役立っていたのだが、王子時代、ここでハジルという男に徹底的完敗を嘗めた永安帝は王位に就くや元帥以下四方の将軍を総動員して、テンゲリを滅ぼした。その最後に生き残った王子が現在のラース・イラ宰相ハジルであり、アカツキ宰相本田馨綋《ほんだ・きよつな》、もとヒノミヤの軍師磐座穣《いわくら・みのり》に匹敵する天才なわけだが、今回の件はラース・イラの侵攻とは関係ないらしい。

 狼紋の魔人、ねぇ。「魔神」じゃなく「魔人」と言ったって事は、魔族じゃなく人間か、おれとおなじ混ざり者か。それが国境警備の駐屯師団を消滅……壊滅、じゃないんだよな、これ。消滅させたって、尋常の魔族のレベルじゃねえ。ならやっぱ、混ざり者か……。

 魔族は純血より、混血の方が高い力を持つ。辰馬の父・狼牙《ろうが》も強○の末生まれた半魔《デモノハーフ》だし、辰馬の場合は魔族と人間、のほかにさらに神族の因子を保有する盈力使い。

 能力の質に置いて盈力は「創世神を殺せる」という特質をもつが、必ずしも魔族や半魔の魔力が盈力に劣るわけではない。辰馬の場合父が「魔王」オディナ・ウシュナハであったために強力な盈力を誇るが、それでも純血の黒妖精《デックアールヴ》、オリエに雫と二人で手も足も出なかった。

あのオリエってやつか……でも、なんか違う気がする。おれの「自在通」がオリエじゃない別のなんかを警戒しろって警告してる……。

「うぅっ、デブが暑がりとか迷信なんです! 太ってても寒いものは寒いんです!」
「……いや、そんな話してないし、瑞穗細いだろーが。その体型でデブとか言ったら大概の女から殺されるぞ?」
「でも……70㎏……辰馬さまより20㎏も重いんです……」
「そらまぁ、そこの……肉が? 局部的にちょっとだけ多いからな、しかたない」
「ほらぁ! 肉が多いって言ったじゃないですかぁ!」
「あーもう、静かにしろや! 今考え中!」

「瑞穗さん、これを」
「あ……湯たんぽ。ありがとうございます、磐座《いわくら》さん!」
「あなたにもしっかり働いて貰いますから。特にトキジクの別の可能性……海魔の主ユエガが使ったという『不確定な複数の未来の可能性を任意に確定させる』能力があれば、戦力としてあなたほど強力な存在はいなくなります」
「あれは……寿命が無限に等しい魔族の、それも魔力潤沢な魔王格だからできたこと、では……?」
「ヒノミヤから神具をいくつか、持ってきました。霊妙の勾玉が13個。外部燃料にはなるでしょう」
「いいん……ですか? 一個で姫巫女五人の祭儀で奉納する神力をまかなえる、非常に貴重なもののはず……」
「大丈夫です、今上《きんじょう》のアカツキ主神は新羅の肉便器ですから」
「磐座さん、いいかた……」 
「事実ですよ。言い方もなにもありません。事実をわかりやすく簡潔に。軍務の基本です」

 とりあえず湯たんぽは懐に入れつつ、うーん、という感じで瑞穗は首をひねる。辰馬が「そんじゃお前も後で抱くから!」と宣《のたま》ったあの日、穣《みのり》はどうしても、絶対に、他の娘と一緒にだけはいやだと主張して結局その晩、辰馬の寝室で二人時間を過ごしたのだが、実のところ何があったのか、なにもなかったのかはわからないままだ。穣は相変わらず辰馬のことを新羅と敵意むき出しで呼ぶし、そういう態度をおくびにも出さない。

 とはいえ、なんとなく視線が優しくなっているような気はするんです。サトリは安易に使っていいものではないから、使いませんが。

 そういう洞察力は、案外に瑞穗は鋭い。かつていみじくも穣自身が「瑞穗の才覚は自分より上」と言ってのけたとおりに、知識量はともかく本質的な頭脳でおそらく瑞穗は穣より二枚か三枚、上手である。本人にその意識はないが、かつてヒノミヤ事変でその片鱗は十分に発揮して見せた。まさかワゴンブルクで騎兵を無力化するとは思っていなかった穣だ。せいぜい辰馬がやったように、馬防柵を立てて火縄で斉射、という覇城菘《はじょう・すずな》の模倣だろうと思っていたから、あのときから穣の策は大枠では揺るがない(辰馬を連戦で限界まで消耗させ、最後に山南交喙《やまなみ・いすか》からホノアカの心臓を奪い取った穣自身が「万象自在」でさらに削って、空っぽになった状態まで削りきって五十六の前に突き出す、という方策)ものの多少の修正を余儀なくされた。その修正も対ワゴンブルク戦術を使いこなせる将官が存在せず、徐々に後手に回ることになったのだし。

 と、嫉視と羨望を込めて穣が見つめ返すと、瑞穗はまだ多少臆病なところがあるのか慌てて身を縮こまらせる。

 あれ、わたし、なにか粗相をしてしまいましたか……?

 こういう部分では、逆に瑞穗は鈍いのだった。

「そんな露骨に目をそらさないで下さい、瑞穗さん。大丈夫ですから」
「はあ……」

「んじゃ行きますか、辰馬サン!」
「そーですね。しかし……威力偵察任務に一兵もなしとは……」
「ま、今桃華《とうか》との戦争が佳境でゴザルからなぁ。その隙をラース・イラに突かれんためにも、西方の兵を動かせんのでゴザろ?」

「そういうことです。それと、あなたたちの上官は新羅ではなくわたしになりますので。命令系統は一本化されないと非常に不都合です」

 晦日に似たタイプだけど、あっちは融通きくからな……こっちはホントにガチガチ。まあ、褥《しとね》でもまったく経験者って感じ、なかったしなぁ。

 あまりにお堅すぎる穣に、辰馬はわずかに柳眉を欹《そばだ》てる。そして実のところそういう関係は結んだらしい。ちなみに同道者たりえる新羅邸一家のサティア・エル・ファリス、晦日美咲《つごもり・みさき》、北嶺院文《ほくれいいん・あや》の三人はそれぞれ祭神として祀られる仕事、公式の記録に載せられない諜報任務、そして昨年先んじて軍属となっている文は兵站部で各部署に回す補給物資の管理に忙しい。

「行きますよ。牢城先生、いつも一番騒々しいあなたがどうしました?」
「ん……いやー、これからあたしは剣だけじゃなくてさ、エーリカちゃんのぶんもたぁくんを護らなくちゃなんないんだなってね。ちょっとしみじみ……」
「そこは信じるから。しず姉ならやってくれるだろ? 今までずっと、それこそおれが赤ん坊のときから護ってくれて、間違いなんか一度もなかったんだ。これから先もあるはずない」

 本当に、欲しいときに欲しい言葉を、辰馬はナチュラルに女性陣に投げる。無意識の誑《たら》しに、雫は「うん、まっかせろ♪」と頬をほころばせた。


・・
・・・

「やあ、長い家出だったね」

 兄様……いや、ドワイト・アゼリア・ヴェスローディアはそう言って、感情のこもらない笑顔でわたしを迎えた。

 ふん、と思う。

 11才も年下の妹なんか簡単に懐柔して、このサークレットを奪えると思っているのだろうけど、そうはいかない。

 むしろわたしが、ドワイトを簡単にひねってやるのだ。そのための技量は、すでに身につけたはず。そもそもこの国を継ぐ資格が、この男にはない。古ウェルス王朝の傍流・ヴェスローディア王家。その正統を継ぐ人間は祖帝シーザリオン・リスティ・ザントライユの血を引く者、すなわちミドルネームに「リスティ」が含まれることが条件であって、この国の継承者はわたしが生まれた瞬間、父王が決めたのだ。それを先に生まれたと言うだけの理由で横取りしようなどと、どういう了見か。

「はい、エーリカも多少の苦労をして、反省しましたの。お許し下さるかしら、お兄様?」

 少しあざといくらいに目を潤ませて言ってみせる。「与しやすし」と思っているのが見え見えだ。分かりやすすぎ。たつまだってこんなに簡単じゃなかった。いや、たつまの前ではわたしが冷静じゃなかっただけか。

「兄妹で、というのは少々、問題だが。まあ多少の反発は抑えて見せよう。エーリカ、僕の妻になってくれるね?」

 吐き気がする。けどここは我慢。どうせ名目だけの結婚、ベッドどころか部屋を一緒にすることもない。

「喜んで、お請けします♡」

 それにしても……こいつテレビ見てないのね。もしわたしがグラドルやってたってバレてたらここまで簡単じゃなかった……いや? もしかしてこいつ、本気でアイドルのわたしに惚れてる……? まあ、それならそれで利用の仕方はあるわ。指一本、触れさせてはやらないけど。


・・
・・・

「はぁっ、は、はっ、はぁ……ッ!」

 新代魔王の五将星、その一角、デックアールヴのオリエは雪振りしきる森の中をかける。

 息が上がり、喉がカラカラに渇く。見せつけられた力の差は、久しく忘れていた痛みとともに恐怖を思い出させた。

「ッシ!」

 振り向きざま、「気配」を頼りに矢を放つ。秋雨の如き矢の雨はしかし、一切の手応えを返さない。

「新代魔王の腹心……そんなものか」

 馬鹿にするでもなく、驚きもなく、一切の感情のさざ波を見せない声。

 いつ……の間にこの距離に……バケモノが……!

 太腿のホルダーから分厚いグルカ・ナイフを抜く。これまた勘を頼りに……というかほぼ真後ろに気配があり、この距離とオリエの技量で外しようがない。

 にもかかわらず。

 外れた。

 次の瞬間、右肩と背中に衝撃。押し倒されて組み伏せられる。圧倒的な膂力と技巧で、オリエは制圧されていた。新羅辰馬と牢城雫、武技において天才と言っていい二人がまるで叶わなかった相手であるオリエが、この相手には完全な子供扱い。

「魔王の血……絶やす……それが、俺の宿業……」

「それ」……その男は、どこまでも感情を揺らがせずそう言うと、自分もクリス(世界一洗練された武器、とされる。意味はマレー語でズバリ短刀)を抜いた。

「させる……ものか……!!」

 オリエは内在する全魔力を、極限まで高める。かくなる上は自爆あるのみ。この男を殺せないまでも、どうにか傷ひとつでも残す!


・・
・・・

 閃光が爆ぜた。

「「今の……」」

 辰馬と雫がうなずき合う。間違いない。一度剣を交わした相手の霊質を間違えることなどない。この魔力の爆発は間違いなく、オリエのもの。

 イヤな予感がした。

 走り出す。雫もついてくる。いつの間にか辰馬の方が、わずかに雫より足が速い。

「こら! 小隊の規律を!」
「オレらも行くぞ!」
「応! あのバケモンと渡り合った、おれらの実力見せてやる!」
「見せるでゴザルよぉ~!」

 眉をつり上げて怒る穣と、それを放って駆け出す三バカ。三人の中で神月五十六を相手に戦力として役立ったという事実は、確かな自信になっていた。

 瑞穗と穣、どんくささ世界選手権トップクラスの二人が残され。

「へ。こっちもなかなか。あっちの色黒よりいーんじゃねぇの? とくにそっちの巨乳」「っひ!?」
「あなたたちは……クールマ・ガルパの人間ですか?」
「へぇ~、分かるんだ、金髪ちゃん。結構上手く偽装してるつもりなんだけど!」
「ま、いちいち話し合うのもめんどくせー、女なんてあえぎ声が聞こえりゃそれでいーんだよ」

 二人の男。アカツキの民に偽装しているが、術式解除してみれば明らかに肌色が褐色。ターバンを巻き、額にはクールマ・ガルパの主神アゥァタリではなく、旧き破壊神の信徒を意味する三本線。

 そして。

「鬱陶しいから、まずブッ潰れな!!」

 詠唱なしで、ほぼ魔王化した状態の辰馬の輪転聖王《ルドラ・チャクリン》に匹敵する大威力。瑞穗の障壁結界は間に合わず、咄嗟に聖杖を握って発動させた穣のそれは打ち砕かれる。二人仲良くふっとばされて、そのまま意識を失った。

「巨乳ちゃんは俺のな」
「んじゃ、おれは生意気そーな金髪か。ま、悪くはねーけどな、こーいうのも……」
「で、カルナはどーしてっかね……?」

・・・

 駆けつけたとき、男はまさにクリスをオリエの首元に突きつけているその瞬間だった。

「はーはー……間に合った……。そこまでにしとけや、そこの」
「? こいつは、魔王の眷属。生かしておく理由が、ない」
「殺す理由も特段ねぇだろーが! つまらんこと言ってるとしばくぞ、ばかたれ!」
「……よく、分からないが。決闘だというなら、受けて立つ」
「おー。それでいい」

 とはいえだ。
 最初から、勝ち目はなさそうに見える。神月五十六相手に真っ向で勝って相当にレベルを上げたとは言え、まだ辰馬の力は極限まで高められたとは言いがたく。そして相手の男は……信じがたいことに新羅牛雄《しらぎ・うしお》、辰馬の祖父、天壌無窮《てんじょうむきゅう》に達した人間とほぼ等しいほどの力を、隠すこともなく放出している。下手をすれば、牛雄より強い。そんな人間の存在を、辰馬はまったく思いもしなかったが、どうにも魔族や半魔ではなく、神を下ろしたわけでもないただの人間。

 それが突き詰めた究極が、ここにある。

「俺はカルナ。カルナ・イーシャナ」
「おれは新羅辰馬」

 名乗りあった。次の刹那。

 雫が間に入る時間すらなく。辰馬の腹に、クリスが刺さった。

「かふ……っ?」
「たぁくんっ!?」
「遅……すぎる。相手に、ならない……」
「たぁくん、ちょ、そんな……これって……」
「女は……戦利品。来い……」
「ちょ、やだ、やめれー! たぁくん、たぁくーん!!」

 たぁくん、あたしが、護らなきゃ、護らないと……なのに……!

「うるさい……女だ。黙れ」

 どふ、と殴打。効率などどうでもいいと言わんばかりの、圧倒的実力差から繰り出される無造作な一撃。雫ほどの腕前を持ってして、絶対的な暴力は防ぐことも躱すことも、せめて威力を逃がすことも出来ない。

 ドフ、ゴスッ、ガッ、ベキ!

「っ……、っ……! ……っく!」

 雫が呻く。悲鳴を上げないのはせめて辰馬を心配させないためか。そのさまをみて、辰馬の腹の中でどす黒いものが渦巻き、逆巻く。それは魔王が後天的に取得した人格、人間への否定感情。オリエを……同胞をあんな目に遭わせ、そして今大事な雫をモノのように扱い、連れ去ろうとする男……カルナに、辰馬が他人に対してほとんど今まで抱くことのなかった感情、則ち「憎悪」と「殺意」が湧いた。

「くそ……やめろや! ブチ殺すぞクソがアァッ!!」

 本気で人に対して、殺す、などと言ったのは生まれて初めて。それを待っていたかのように、空が割れる。

「ようこそ、魔皇子。アムドゥシアスは貴方を歓迎するわよ。そして、力を貸してあげる」
「姉貴……しず姉を助け……、あいつを、殺せ!」
「はいはい。任せなさい。ほら」

 空を割いて登場したクズノハは、これでどーよと燐火を放つ。しかしそれと知った男は右腕を薙いでクリスで焔を裂くと、それまでの無感情から一点、憎悪の感情をむき出しにする。

「その力! 魔王! 殺す! 殺すーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 跳躍。高い隙だらけの跳躍ではない。低く、地を滑るような跳躍からの斬撃を、幾たびも繰り返す。その一撃一撃が天壌無窮、「魔王殺し」の力なしで、魔王を殺しうる威力。それを受け、捌き、いなすクズノハも尋常ではないが、彼女はオリエと辰馬を庇いながらだ。どうにも不利。

 轟炎を放つ。

「ッ……!?」
「ひとまず、じゃあね……。でも……すぐに殺す!」

 一旦、間を開き。そして空間を裂くと、二人を連れてその場から消えた。

「ぬ……逃げ……たか……。まあ、いい……俺の……力、十二分に、通用する……」

 狼紋の魔人、カルナ・イーシャナはなお抵抗する牢城雫の顔面に拳の一撃、脳震盪を起こさせて意識を刈ると、ピンクのポニーテールを鷲づかみにして森の奥へ消えた……。

 翌日、全世界の空に、魔王クズノハの姿が映し出される。テレビとかそういうテクノロジーではなく、完璧なる魔術の技で、彼女はデモンストレーションして見せた。

………………

以上でした、それでは!

「ごきげんよう、人間のみなさん。わたしはクズノハ。魔王クズノハ。たったいまよりあなたたちに宣戦布告を申し込みます! 第二次魔神戦役、開幕よ!」

 腹心と、可愛い弟。その二つをいたく傷つけられて、新魔王クズノハはとうとう、完全に人類と決別した。

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遠蛮亭 2023/07/10 14:08

23-07-10.くろてん2幕4章9話+お絵かき(源初音)

おはようございます!

【黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫】
DLsite
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

FANZA
https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_277954/

以上よろしくお願いします!

で、さきほど描いた旧初音と新初音の対比。今朝大雨の寝不足でお絵描きも上手くいかなかったのですが、うまくいってないのはさておき。この二人、マイナーチェンジというか別キャラになってるなぁということで、妹とか従妹とかいうことにしてしまうのが良い気がしてきました。どちらかを消すのはもったいないなと。

それで、今日もくろてん再掲です。次話で2幕が終了。それではよろしくお願いいたします!
……………
黒き翼の大天使.2幕4章9話.時日は百代の過客

 そしてまた、時日は百代《はくたい》の過客《かかく》。

 あっという間に時間は過ぎて、新羅辰馬たちが蒼月館を卒業するその日が、いよいよやってきた。

 教室の端々で、別れを惜しむ言葉が交わされる。終の別れもあればすぐにまた再開することもあるだろうが、少なくともこの『蒼月館』という学舎《まなびや》の中で一緒に日常を過ごすことは、まずもって一生ない。

「ま、オレらは卒業後の進路、はっきりしてっからいーんすけどね」
「傭兵か……俺はまた副官事務なのかねぇ」
「拙者はきっと間《かん》として役に立って見せるでゴザルよ、忍者だけに!」

 三バカの言葉がやたら身に染みる。というか辰馬、卒業式始まる前の時点ですでに泣きそう。この少年の美点であり欠点でもある所として感受性の強すぎるところがあり、やたらと感激屋で怒りっぽく泣きやすく、笑うときは盛大に笑うし嘆くと極端な鬱になる。

「あれっ、たつま泣きそう? あ、やっぱアレか、アタシがいなくなるから寂しーんだ?」
「ぅ……ぐすっ……そら、さみしいっての! こんなん泣くだろ普通!」

 ニヤニヤと辰馬をからかったエーリカが、辰馬のマジすぎる返しにどん引きする。いつだって感情豊かな辰馬ではあったが、今日はいつにも増して調子がおかしい。

「よーし、席に着け。まだ式じゃないからなー、浮かれるなよお前らー」

 若手の現国教諭が入ってきて、ばんと机を叩く。

「うぅっ……みんなぁ~、いままであんがとなぁー……」
「新羅?」
「こんな混ざり物のおれと仲良くしてくれてなぁ、みんなほんとに……」
「おい新羅!」
「……、あぁ!?」

 酩酊状態から強○的にたたき起こされ、辰馬はいかにも不機嫌げに教諭を睨んだ。とにかく浮沈《ふちん》がはげしい。

「お前はなにを泣いているんだ」
「やかましーわ、ばかたれ! そんなこともわからんのかこのバカチンが!」

 珍しく「ばかたれ」に「バカチン」まで乗せて、現国教諭を面罵する。感涙に水を差されて、非常に不機嫌。

「男だったり女だったり、性別もはっきりせんようなお前みたいなヤツの考えがわかってたまるか!」
「だから、おれは男で間違いねーだろが! あれは……」

 あれは晦日の情報操作……と口にしかけて、危うく口をつぐむ。美咲が国の密偵であることは国家機密に次ぐ上級特秘事項。国軍の人間ですらほとんどその事実を知らないのだ。ただの諜報員ならともかく、美咲の仕事は監査官として各部署の管理と監視という、知られれば非常に疎まれる役目。ゆえに極秘というのが美咲を溺愛するパパこと宰相・本田馨紘《ほんだ・きよつな》の意向。

 そんなら最初っから密偵なんかにしなけりゃいーのになぁ……ま、手元に置きたかったとか、そーいうところか。でも危ない仕事をよくやらせる……。

「あれは? あれはなんだー、聖女さま」
「うっせぇ殺すぞ聖女ゆーな!」

「まあアレだな、やっぱ辰馬サンはこーでねぇと」
「ん。教師を殴り殺さんばかりの勢い。あれでこそ新羅さん」
「少しは情緒不安定、治した方がいいと思うでゴザルが……」

教師への敬意など微塵もない三バカは、そう言い合ってワハハと笑う。「殴り殺す」という言葉に新羅辰馬がもともととんでもない武闘派だったことを今更思い出した現国教諭は、瞬時に顔を蒼くした。

「すすすす、すいませんでしたァ! どうか、どうか命だけは!」
「取らんわばかたれ! なんで命の話になるかな……!」

 おれってそんなん怖い? と不本意顔になる辰馬だが、そりゃ過去にこなした数々の事件やら普段の気性やら、あと学生の間で流れている不穏な噂(辰馬が過去に何人殺したとか女を奴○娼婦にして働かせてるとかちょっと気晴らしで解放した盈力が山脈まとめて消し飛ばしたとかいう、わけのわからん、だがやろうと思えば実際簡単にできるので信憑性があってしまう噂)だとかの所為で、辰馬を恐れる向きは多い。最近聖女さま効果でそのあたりは緩和されていたのだが、思い出すと新羅辰馬は蒼月館の総番長みたいな存在だった、という認識になる。その総番長、さっきまで卒業の悲しみにグスグス言ってたわけだが。

「それより仕事しよーや、先生。通知書は?」
「あぁ、はい……。すんません、新羅さん!」
「それもういーから!」

 というわけで通知書が配られる。辰馬の席次は学年3位。上に神楽坂瑞穗と、さらに上には磐座穣がいるのだ、これはさすがに仕方ない。それにしてももとヒノミヤ勢の頭脳は異常と言うほかない。穣はもともと同学年とはいえ、瑞穗に関しては本来まだ2年生のはずなのにこれである。蒼月館が学府としてと劣悪なわけでは決してなく、官僚や政治家、軍人を多く輩出する名門。それでもヒノミヤで最高の学識を学んだ二人には遠く及ばないらしい。閉鎖社会ではあるが、ヒノミヤの頭脳というものへのこだわりはかほどに深かった。

 まあ、主席だったらスピーチせにゃならんし。こんくらいの順位がちょうどいい。

 太平楽にそう考えて、辰馬は通知書を仕舞う。人前に立つ状況はヒノミヤ事変での将軍役とか、聖女さまとしての活動でずいぶん増えたし、今後も、将官を目指すからには間違いなく増えていくわけだが、緊張するし疲れるし、苦手なもんは苦手であった。

‥‥…………

 そして卒業式。

「あたし今日で先生やめるー、そんじゃね~♪」

 重厚な講堂には不似合いなぐらい元気よく、ピンクのポニーテールを揺らし、壇上に上がって言い放ったのは牢城雫。学園の名物で人気者だった剣豪教師の、就任からわずか3年目にしての離職は学生、職員たちを震撼させた。それはもう、前日からじわじわと「わたし、卒業したらヴェスローディアに帰るから」と放言していたエーリカの発言をかき消すほどのインパクト。ヴェスローディアに帰ればともかく、アカツキ国内における人気で新人アイドル・エーリカは天才剣聖・雫と比べものにならない。

「たぁくんがこれから蒼月館やめちゃうじゃーん? そしたらやっぱ、あたしがお世話しなくちゃだと思うんだよー。だからみんなには悪いけど、雫ちゃんは今日で先生を辞めます、以上!」

「しず姉……おれのために、ほろり……」

 普段なら「鬱陶しいこと言ってんなよ、しず姉!」ぐらい言うはずなのだが、卒業式の雰囲気ゆえかまたぞろ泣き出す辰馬。まあ式が始まってほかにも、泣き出した学生は少なからずいるので辰馬だけ目立つと言うこともないが、それにしても情緒不安定。

‥‥‥………

 式後。

「そんじゃね、たつま。何年かしてアタシがヴェスローディア獲ったら……」
「いやまあ、その前におれはどーにかして出世するわ。お迎えされるにしても、対等じゃないといかんだろ?」

 エーリカの言葉に、辰馬はそう言って返す。エーリカの才覚なら本当に10年かけずにヴェスローディアを獲るかも知れない。そのとき自分がまだ一回の布衣《ほい》に過ぎない身では、辰馬自身困るというか、自分を許せたものではないのだ。だから誓う。10年以内になんらかの大功を立てて、王侯の位を取ると。

「ん。それでこそたつま。それじゃあ! まずは、ヴェスローディアの王宮でも素うどんを作らせるわ!」
「いや、素うどんてのは一番安物でな……他にわかめとか天ぷらとか月見とか……」
「いいのよ、アタシにとってあの素うどんが運命を決めたんだから! だから……、結婚したら一緒にうどんを啜る王と女王になりましょう!」
「まぁ、お前がそれでいーなら、な。それでは、のちのヴェスローディア女王、エーリカ・リスティ・ヴェスローディア王女、しばしのお別れです」

 辰馬はエーリカに跪き、その手の甲にキスをする。いつも冒険で着ている戦闘用ドレスはレンタル品なので、今はアイドルとは思えない芋ジャージ姿。手の甲も白手袋に包まれることなどなく、素手。もともと野山遊びが趣味で武術稽古が大好きだった、しかし剣の才はなく盾の護りという地味な才能しか開花しなかった姫君の手の甲は、その鍛錬の所為でやはりやや硬い。日々のケアは欠かしていないとはいえ、やはり「鍛錬は裏切らない」ために最低限のこぶや筋張りは仕方ない。辰馬はこれまで自分の窮地を幾度となく救ってくれた「盾の乙女」を、このとき今までで一番、美しいと思った。

「それじゃあ! 瑞穗に牢城センセ、みんなも!」
「すぐに怒る癖だけはどーにかしろよ。そんじゃーな」

‥‥……………

「行っちゃったね~」
「行っちゃいましたね。寂しくなります」

 雫と瑞穗が、相次いで言う。三バカはカラオケという新しい遊びに繰り出すらしい。一堂に会して歌う、という説明を聞いて辰馬はトラウマを刺激され、イヤイヤ無理無理、と丁重に断ったが。ともあれこうして新羅辰馬の、蒼月館での三年間は焉《お》わった。

‥‥‥………

「本日付で任官しました、新羅辰馬です、よろしく!」

 やや遅れ気味でアカツキ六部のうち兵部の将校用詰め所に駆け込んだ辰馬。

「おぉ、聖女さまだ!」
「聖女さま、女子はこっちじゃないです、隣!」

 だからー……いつまでこの誤解続くんだよ。

「いーんすよ。おれ、男ですから。どうせ今日、身体測定あるんでしょ? そこではっきりさせます」

 ということで、男子詰め所で……なんとなく視線が気になり端っこで隠れながら……着替えた辰馬だが、やはり新兵たちのほとんどは辰馬を男としてみていない。やたらキラキラした瞳で仰ぐようにみつめてくるのが、嬉しくもなんともなくイラッとくる。

 こいつら全員しばいたろかな……。とはいえ、団体行動の和は大事、と。

 ひとまず気分転換に詰め所を出ると、隻眼緑髪の人影に出会う。

「よお、?《かいな》。あれからまた腕上げた? もう片腕がどうとかいうレベルじゃねーわ、それ」
「お前に一目で見抜かれるレベルでは、まだまだ。あの牢城雫さんにすら実力を量らせない、それくらいでなくてはな。ともあれ、合格おめでとう」
「あー、そっちもおめでとー」
「……お前も、相当にレベルを上げているな。前は一対一なら負けないと思っていたが、今は難しそうだ」
「まーな。それなりには……ところで、将校の序列って実のところどーなってんだっけ?」
「あ? 知らんのか。いや、兵科を志したのがつい最近なら、そういうこともあるか……それで次席とはな」
「?」
「いや、軽く説明しよう。まず今のお前は准尉。士官学校の士官候補生は特別の例外を除いてここから始まる」
「あれ、二等兵とか軍曹とかは?」
「それは下士官。スタートラインが違う。彼らは士官学校を出ていない」
「あー……それで」
「そしてまあ、少尉、中尉、大尉、准佐、少佐、中佐、大佐。その上に准将、少将、中将、大将、その上に元帥、さらにその上に大元帥……唯一無二の殿前都点検がいる。将官としてまず軍指揮官を目指すなら、とりあえず大佐だな。軍隊の総指揮権を得るのはここから。それまでは大佐以上の将たちに使われる使い走りに過ぎない」
「はー。了解。よくわかった、サンキュ」
「おう。お前も頑張れ。俺も、近衛として頑張る」

‥‥‥…………

 その後、身体測定でようやくに新羅辰馬女性疑惑は晴れ、代わりに新羅辰馬超巨根説、というのが浮上した。まずそれは構わないとして。辰馬を驚かせたのは「次席」つまり試験の成績が上から2番だったことではなくその上を獲った人物。

「本日付で大尉として任官しました、磐座穣です。みなさん、どうぞよろしく」

 今まで頑なに脱ぐことのなかった巫女服をアカツキの青地の軍服に着替え、穣は新人士官たちの前で堂々と挨拶のスピーチをぶつ。その堂に入りぶりはやはり、ヒノミヤという独立国を動かしていた自負がものをいっていた。

 しかも大尉。本来なら准尉任官が当然なのに、3階級も上を行っている。これが才能の差かと思うが、だからといって負けていられるものではない。王になるなら天才の穣だって追い越して乗り越えなければならない。

「磐座穣大尉、新羅辰馬准尉、こちらへ」

 そう辰馬たちをさし招いたのは、本田姫沙良。かつてのヒノミヤ事変で永安帝を守って戦死した元帥の娘であり、現元帥。才能はあるにしても間違いなく親の七光りと皇帝の人気取りで栄達した、まだ22才に過ぎない軍トップは、執務室に辰馬を通すとやや痛ましい顔で切り出した。

「貴方に最初の任務を与えます。狼紋《ろうもん》の魔人を、止めて下さい」

 それはまるで死んでこいと行っているように、辰馬には聞こえた。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/07/09 10:49

23-07-09.くろてん再掲2幕4章8話+お絵かき(ルクレツィア)

おはようございます!

引っ越し前の作業が時間を逼迫してきましたが、木曜まではまだ動けるかなというところ、まずは今朝のお絵描き。

雫おねーちゃんのやつ、ルクレツィアの敗北凌○。アールヴの森に向かうことになって最初、森の入り口付近で悪魔ザガンに襲撃され、勝てなかったらこうなる、のシーン。勝てば森が悪魔の巣窟になっていることに気づいて警戒、そしてルクレツィアは守ってくれた辰馬くんにほれほれ状態になって(それ以前の会話もあって)コールイベントでのセックス解禁となります。つまり辰馬くんは今回欠番ではなく、アクター1。

コールイベントでのエロは雫、フィーリア、ルクレツィア3人とも4シーンずつの予定。ほかは敗北凌○……の、予定ですがまだ頭の中で粘土をこねてる段階なのでわかりません。コールイベントの中身は具体的には「会話プラグイン」で好感度を上げて、そして「出産プラグイン」あるいは「娼館プラグイン」のどちらかを使ってエロイベント、になると思います。娼館・出産プラグインは基本的にキャラを呼び出してコモンイベントに飛ぶ、という挙動だけ(出産プラグインは出産というのが付帯しますが、出産させないことも可能)なので娼館でない使い方もできるというわけで。

それでは、今日もくろてん再掲、よろしくお願いいたします!
……………
黒き翼の大天使.2幕4章8話.盾姫帰郷

 士官学校合格。

 ということで。

「うーぁー……だらー……」

新羅辰馬は、自堕落になった。

 それまでの反動か疲れか、精神的にいろいろと(聖女がらみで)ストレスを課されての消耗か、士官になったから弛緩するという、洒落にもならない今の状態。見かねた雫が「えいっ♪」と自分のお尻を触らせても、「ん~……」と平気でその尻を揉み返す始末。こんなのは辰馬じゃあないと、新羅邸女性連は顔を見合わせた。

「これはどーにも重症だよー、あのたぁくんが、お尻触らせても悲鳴ひとつあげないって!」
「いえ……そこは普通、立場が逆ではないですか? まあ、辰馬さまの性格はだいたい、把握しましたし、照れ屋さんであられるのも理解ですが……」

 ソファでだらーと解けた氷菓のようになっている辰馬を目の前にして、少女たちは談合に耽る。雫の言葉に、やや呆れた返しをするのは美咲だった。

「あの子はあんなふーにみえてすこぶるまじめ、が取り柄だったんだけどねー……なんか、今のたぁくんにセクハラしても違うんだよなぁ~……」
「はは、セクハラって自覚あったんだ……。まあ、曲がりなりにも先生だもんね」
「え、と……。セクハラ、とはなんでしょう?」

 渇いた笑顔のエーリカに瑞穗が、たいそう失礼ながらと質問する。応えたのはエーリカではなく、三大公家北嶺院の娘で現在辰馬に先んじてすでに士官学校生の文。

「男の存在そのもの、と昔のわたしならそう言ったはずなんだけど……まあ……性的ないやがらせというか?」
「瑞穗の存在そのものみたいなモンよ。やたら男に媚びる肉袋ぶら下げて無防備に歩いて。特にシンタみたいのはアレ、まちがいなくあんた見てエロいこと考えてるから。少しは自重……つーかわたしに寄越しなさいよ少し!」

 エーリカが猛る。ここにいないシンタにいきなり風評被害だが、まずもって実際そんなところはあるので仕方ない。「まさかそんな、上杉さんが……」否定したくはありつつ瑞穗は少し怯えた顔になってその巨大すぎる肉塊を腕で抱えたが、それがまた肉を圧してむに、と変形させ、エーリカを逆撫でする。なまじ自分の身体に自信があるだけに、エーリカから瑞穗に対する身体コンプレックスは大きい。

 あー、いやだわ、このデカ乳天然エロおっぱい。わたしが帰国して女王になったら、わたしより胸が大きい女は死刑にしよう……。

 とか、いつもの芋ジャージ姿に包まれた自分の胸と、縦縞ニットに包まれた、その部分だけエーリカ自身の二倍近い超弩級のモノを見比べて心に決める。心の中のこととはいえ、死刑とか言うあたりかなり苛烈。

「まあ、みずほちゃんのおっぱいもエーリカちゃんのも、どーでもいいんだよ。二人ともあたしよりは断然おっきいんだし。今話してる内容はどーやってたぁくんをもとに戻すか、でしょー?」

 などと叫んで割って入る、トランジスタグラマーの雫。サイズはともかく、身長144㎝バスト85㎝という比率は相当に視覚的に大きいわけだが、やはり本人としては数字が欲しいらしく、珍しくやや憤然とした雰囲気。

「胸とか必要ですか?」

 貧乳世界代表、美咲がぼそりと言うと、三人娘は一斉に相手に向き直り、悄然《しょうぜん》。少なくとも身体ならともかく、傾国の美少女・晦日美咲には明らかに顔で負けている。さらには鍛えているだけに、雫に負けないほど身体の……その、具合もいいときているのだから、三人娘にとっては非常に強大なライバルだった。

「あー……おしっこ……」

 ぼやー、と言いつつ、のろのろと立ち上がる辰馬。おじいちゃんのような足取りで、ふらふらとリビングを抜けてトイレへと消えていく。

「辰馬って気が抜けるとあんななのね……いや、前から「おれはホントは自堕落なんだ」って言ってたからてっきりいつもの悪人ぶりたがりかと」
「まあ、昔のたぁくんは多少、あーいうところあったかなー。でもあんなおじーちゃんにはなってなかったよ?」
「まあ最近いっぱい頑張ってましたし、辰馬さま。わたしや穣さんにひたすら兵学講義を聴いて、しっかり合格したんですし少しは休ませて……」
「て、言いながら一番我慢ができないのはあんたでしょーがえろ娘ぇ! 優等生ぶってんじゃねーわよ、アンタの部屋から毎晩あえぎ声、聞こえてんだから! 一人でするなら声を抑えなさい!」
「ぁ……ぅ……すみません……」
「まあ、そう言わないでくれますか? 彼女が後天的淫魔の質を身につけたのはヒノミヤの男衆による凌○が原因で、彼女が自ら望んでこうなったわけではないんです」
「そーねー。穣の大好きな五十六さまは穣より瑞穗が好きだったんだよねぇ~。あんなジジーにやられまくった瑞穗かわいそー。でもってヤリ捨てられた穣憐れ……。ま、今じゃあみのりんはたつまの方が好きになっちゃったし? 関係ないか?」

 ぴき。と。

「誰がみのりんですか! そしてわたしが誰を好きになったですって!? わたしは相手が誰だろうと、敵と見なせば容赦なく殺しますよ!」

 怒りにふるえ、神杖・万象自在《ケラウノス》を巫女服の袖からさっと取り出す穣。

「やってみなさいよこのエセ金髪! あんたが術を使う前にわたしの盾でその顔を凹ませてやるわ!」
「本当に……それ以上の侮辱は許しません!」

エーリカと穣、両者の間に殺気が流れる。穣も、さすがにいきなり万象自在の術式発動とはいかなかったが、かなり本気のブチ切れ寸前なのは火を見るより明らか。ストレスからか、エーリカがやたら攻撃的になっている。

 と、その両者の手から聖盾と、聖杖がそれぞれ消えた。

「神楽坂さん……トキジクを……?」
「……瑞穗!? あんた……!」

 二人の得物を手に、瑞穗は申し訳なさげに頭を下げる。

「申し訳ありません。ですが喧嘩はだめです、こういう状況、ストレスがたまるのもわかりますが、絶対に仲間内で喧嘩なんかしちゃダメです!」

 時間をわずかに止めた、その反動で荒く肩で息しながら、瑞穗はそう言って二人を諫める。三者の視線が交錯し、にらみ合いになり、普段なら真っ先に目を逸らす瑞穗が、今日は一歩も退かない。結局穣が折れ、エーリカもしぶしぶ矛を収めた。

「まあ、なんてゆーか? たつまがアレだってのが一番悪いのよ!」
「そうですね。それは同意です。仮にもヒノミヤと五十六さまを打破した男が、あのていたらくでは」

 今度は一転、意気投合したエーリカと穣は、口々に辰馬の悪口を語り合う。理想を追いすぎ、メンタル弱すぎ、口が悪い、他人に甘すぎ、自分に厳しすぎ、顔立ち可愛すぎ……言ってるうちに貶していたはずが褒めていることに気づき、二人はバツ悪げに視線を逸らした。

「まあ、新羅には多少、いいところもある、とは認めます。ええ。別にだからどうこうというのは、絶対に! ないですが」
「あーはいはい。そーいうツンデレ詐欺いいから。さっさと素直になっちゃいなさいよアンタ……」
「わたしは素直で正直です!」
「すごいなぁ……ホント筋金入りのツンデレ。これで天才とか……(笑」

‥‥‥‥………

「ふー……出すモン出してすっとしたし、寝るか……って」

トイレから戻ってきた辰馬が見たものは修羅の巷……というかキャットファイト。エーリカと穣が取っ組み合い、罵り合いつつ大げんか。さすがにエーリカも神術の使えない状態の穣に本気の殴打を加えるほど大人げなくはないが、それでもかなり一方的にイジメているのは変わりない。ヴェスローディアから流れてきて2年、エーリカがここまで不安定というか、怒りっぽい状態なのは初めてかも知れない。

「なにやってんだ-、おまえら」

 ぽー、と辰馬。なんとも事態の重さを把握していない感じの聞き方に、エーリカのボルテージはさらに上がる。

「一言、言っとくけど!」

 一旦ためて。

「アタシ、卒業したら国に帰るから!」

「は?」

 辰馬は大きな赤い瞳を点にし。

 瑞穗も驚きに手を口元にやる。美咲相手に話し込んでまたむやみと敗北感に落ち込んでいた雫も「へ!?」と大口を開け、美咲、穣、文もやはり愕然としたふうを隠せない。

「一応、貯めに貯めて100万弊、手元にあるしね! 一度国に帰って、女王になる! 伯父様とお兄様に喧嘩売って、勝ってやるわよ!」
「はあぁ!?」

 辰馬のぼんやりが消えた。完全に正気付き、だからこそエーリカが本気で言っていることに疑いをはさみえない。どうやらエーリカがナイーブになっている理由は、そこにあったらしい。

「女王になったらアタシが、たつまを王様にしてやるわ! まー安心なさい、伯父様も兄様も、今のアタシの政治力の敵じゃないから。二人を食み合わせてブッ殺して、そしてわたしはヴェスローディアを獲る! そしてたつまにあげるから、まあ数年間おとなしくして待ってなさい!」
「……っぁ、えぇ? ……えー……?」

 正気付きはしたが、理解の及ぶ話でもない。辰馬としてはエーリカがヴェスローディアの正統継承者資格を保有しているなんて事は知らなかったわけだが、いつもエーリカが貧乏くさい芋ジャージ姿だろうと仕事の水着姿だろうと冒険着の戦闘用ドレスだろうと着用している額飾り《サークレット》、あれがそもそも王位継承資格の証明であり、エーリカの伯父と兄が自己の正統を証明できずに内戦を泥沼化させている原因なのだった。

「ッハァ! 正直に言ったらすっきりー! まあそーいうわけだから皆さんおあいにくさま、たつまはアタシのものになります! だって皆、これより大きなプレゼント、用意できないもんねぇ~!」

 意気軒昂と、少女たちを見渡すエーリカ。めっちゃ強気で尊大なことをガンガン言ってるのに、やたらと寂しそうでもあり。それが分からないような皆でもないだけに一人としてエーリカに反駁《はんばく》することができなかった。

 ただ一人。

「いやいや、待て待て。それはおかしいし」

 当事者、新羅辰馬だけが口をはさむ。

「おれはここにいる全員を一人残らず幸せにしたいんだよ。なんのかんのでもう、みんなと関係もっちゃったわけだし……」
「わたしは違いますけど。勝手にひとまとめにしないでくれます!?」

 いかにも不愉快げに穣が言うが。

「あーもう、じゃ、あとでお前も抱くって事で!」
「な!?」
「つーわけだからな。どうもおれは自分で思ってたより欲深らしーんだわ。だからお前一人とか、誰か一人じゃ満足できんの。いくらヴェスローディアをくれるとか、王にしてやるとかいわれてもそれはおれの望む道と違う。なのでエーリカ、おまえの言葉は本当に嬉しいけど、お断りします」

 辰馬は不実な自分を認めた上で最低限誠実にそう語り、頭を下げる。

「それに、旦那様に国を差し出す程度、あたしなら今すぐ一瞬だけど?」

忽然と、中空に踊る水色髪の女神。露出度高めな白い衣にややきつめの目つき、そして黙っていてもビシビシとこちらの身を叩くように迸る神力は、紛れもなく純然たる女神のそれ。創世神グロリア・ファルの愛娘、サティア・エル・ファリス、久しぶりの出番。

「うぉわ!? サティア? 祭神の仕事は?」
「旦那様の声が聞こえましたので、少しの間幻体に任せて参りました。やはり数百万の民が一斉に主神をたたえる国、いいですね。凄い勢いで力が戻ってきますよ、ほら!」

 瞬時に空間を引き裂いて、サティアは光剣を引き抜く。その巨大さが、かつてとはまったく比較にならない。

「ばか、お前……ッ!」
「どうですか旦那様ぁ~?」

 どぅ! と炸裂。辰馬の障壁結界がかろうじてその威力を消し止めたものの、最盛期に迫るか凌駕する神力には恐怖と戦慄を覚える。まさか今更裏切るとも思えないが、女神の思考なんて読めるものでもない。

「というわけで。旦那様争奪戦というならあたしも。二人でアカツキの主神として君臨しましょう、旦那様?」
「するかよばかたれ! なんで争奪戦になるか! つーかおれはおれの力でちゃんと王になってみせるから、お前らこそ黙って待ってろって話!」

「……むぅ/旦那様がそう仰られるのなら……」

 王女と女神はそれぞれ納得した風だが、内心納得していない風。これは十年も二十年もかけてらんねぇなぁ、さっさと出世せんと……新羅辰馬は心の中に、そう嘆息した。

……………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/07/08 08:24

23-07-08.くろてん再掲2幕4章7話+お絵かき(フィーリア・牢城)

おはようございます!

雫おねーちゃんのやつでフィーリアママの敗北凌○。仇のデックアールヴに挑んで返り討ち、それで凌○というシーン。フィーリアママはよっぽど強いはずなのでデータ的にはともかくお話し的に負けさせるのが難しいのですが、まあ、デックアールヴというのは卑怯卑劣なやり口を好むので大丈夫。まだ背景がなかったり表情差分作ってなかったりで未完成なのですが、とりあえず今朝の1枚でした。

ほか昨日は夕方に倒れたので進捗はなし。それでは今日もくろてん再掲、よろしくお願いいたします!

……………
黒き翼の大天使.2幕4章7話.青雲の未来

 それから、とくに魔族の襲来などということもなく時日《じじつ》は過ぎ。

 辰馬は瑞穗と穣《みのり》から兵学を学び、そして長船言継《おさふね・ときつぐ》が戦地から帰っているときはこの男から、実戦における卑怯卑劣で効率的な敵の殲滅法を伝授された。

 今日は京城柱天の兵舎にある、士官用の個室。兵卒が雑魚寝するタコ部屋とは違って、作りも調度もしっかりしている。ただし利用者の性格を繁栄して酒瓶があちこち転がっているし、そこらには利殖用の不正帳簿とおぼしき文書があっけらかんと散らばっているが、まあ辰馬も雫が……最近は美咲のほうか……が整頓してくれなかったら似たようなものなので、気にはならない。

 桃華《とうか》帝国虔《けん》王朝、その名将、征南将軍・呂燦《りょ・さん》の軍と交戦し敗北して帰ったという長船だが、会ってみると怪我一つしていないしやたら機嫌がいい。

「まず、敵の斥候兵を捕えたら半殺しにして轅門《えんもん》に晒すわけです。女で美人だったらその前に犯しても……あー、失礼……で、敵がこれを助けに来るでしょーが。血気に逸って。そこを烏銃《マスケット》、つーか最近はライフル銃ってモンに主流がかわりつつありますが……で一斉射撃ですよ。これがもう笑えるぐらいに当たる当たる。仲間一人くらい見捨てりゃいーのにねぇ、それが出来ないからあいつら、あそこで壊滅ですよ。ハッハ」

 いわゆる『釣り餌』戦法だが、それを聞かされた辰馬は相変わらず、暗澹とした気分になる。なるが、聞かせろと自分から言った以上聞いたことはしっかり覚えなくては意味がない。自分で選んだ道から、途中で降りるという行動は新羅辰馬の辞書にないのだ。

「ですがまあ、その先に出てきた部隊の精強には舌を巻きましたねぇ。なんか青白っぽい外套《マント》で統一された一団だったんですが、先遣隊を撃滅して油断したこっちが今度は逆にやられかけましたわ。いや、俺はそうなる前に幻影使ってさっさと逃げましたがね」
「お前……将官なら部下に責任もてよ。見捨てて自分だけ逃げ帰るとか……」
「アホですか、兵士なんざいくらでも換えが利きますがね、優秀な将軍はそう簡単には見つからんのですよ。……大将が安易に玉砕なんか選んだら国が滅ぶのです、少々、話しますか」
「いや、今まさに話してる最中……」
「いいから聞きなさい。昔あるところに一人の大将がおりました。この大将は剣術抜群、馬術も免許皆伝、そして日々水泳と鷹狩りで健康に気を遣う剛毅の君でありましたが……」
「うん」

 歴史話自体は好きな分野である。辰馬はやや前のめりになって拝聴の姿勢を取る。

「この大将がある敗戦の時、橋の前に出るわけです。近くには馬と、配下たち。さて、どうしたと思います?」
「お前の話だからなぁ……部下を見捨てて馬で橋渡った、とか? ついでに橋を落とすとか?」
「……はぁ~、わかってねぇ、わかってねぇなぁ、新羅公……。理解が乏しすぎますよアンタ……」
「そんなこたぁわかっとるわ! だから今頑張ってんだろーが」
「いや、今のは失言、本質的な気質の話ですな。その発想しか出来ないようでは、今後将帥としては二流で終わります。正解は『配下の腰にしがみついて馬に乗った』ですよ」
「? は? ぇ……? その大将は馬術の免許皆伝、だよな? なんで部下にしがみつく必要が……?」
「配下たちは皆笑います。しかし橋を渡り終えた大将は言うわけです『ワシがこれだけ慎重じゃから、お前たちは安心してこの国の民たり得るのだ』と」
「ぁ……あー、なるほど。そういう話か」
「そういう話です。この大将の名前は暁不比等《あかつき・ふひと》、つまりまあ、東西戦争において貴方のご先祖、伽耶聖《かや・ひじり》を倒し、当時の西帝、凌河帝《りょうがてい》を滅ぼして現在のアカツキ王朝を開闢《かいびゃく》させた燕熙帝《えんきてい》その人ですが。将君たるはそれほどに身を重んじなくてはならぬ、兵卒と命の重さがおなじなどと思ってはならんのです。国家のためにね……という理由付けで、俺は逃げてきたワケですが」

 まじめに語ったかと思うと、いつもの不良中年の顔でガハハと笑う。若白髪に白面、三白眼で目つきこそ悪いもののなかなか、いい男なのだが、どうにも野趣がありすぎて辰馬としては対処に困る。敵ならたたきのめせばいいのだが、この男は辰馬に好意的……というか現時点で明確に辰馬の目標を理解・把握し、それを達成させようと、そしてその暁には自分は皇帝の師父……尚父《しょうほ》となることを狙っているから、心強いというかタチ悪いというか。

 最低、瑞穗にヘンな目向けなきゃ我慢も出来るが……。

 こちらもやや眇《すがめ》になって、胡乱《うろん》げに長船を見遣る。適当に剃っただけの顎先には無精髭が残り、いーよなー、ヒゲ……とか思っていると長船は「なんすか、照れますなぁ」などと言ってくる。キモい。

 この中年が15年後、赤竜帝・新羅辰馬の将として豪腕を振るうことになるとは、辰馬は思ってもいない。長船にはそのビジョンはあるものの、彼とてわずか15年で達成とは思っていなかっただろう。その数年前、辰馬がアカツキ本国の危険分子と認定されて後方部隊と断絶、一部隊の孤軍で孤立させられた人生最大のピンチにおいて、「ヴェスローディアを頼れ」と言い置いてアカツキに戻った神楽坂瑞穗と交渉、瑞穗の身体を堪能するという代償と引き替えにアカツキ内部を擾乱し、同時に援軍を出した。瑞穗という女性を寝取られる形になった辰馬だがそれはヴェスローディア王国を差し出して辰馬に与えたエーリカ・リスティ・ヴェスローディアと並ぶまさしく蓋世の大功であり、それでもなお怒りにまかせて長船を処断しようとしたがそれは瑞穗に「功臣を斬れば天下の信を失います」と言われて諦めるほかなかった。後世、神楽坂瑞穗の皇后冊立がやたらに遅れ、ほぼ同時期に子を産んだエーリカが先んじて冊立された理由の一つはこのときの不貞にある。そしてもしかしたら辰馬ともっとも絆深かった雫は、子を成せなかったゆえに皇后となれなかった。

 長船もまさか棚ぼたでまた、瑞穗を存分に泣かせられる日が来るとは思ってもいなかっただろうが、ともあれそれは10数年後。今の時点でどうもこうもないし、状況が状況でなければ辰馬は絶対に瑞穗を……雫でもエーリカでもほかの誰でも……他人に差し出したりしない。そもそも彼女らを護りたいが為に今をやっているはずが、将来背負うものが大きくなりすぎると瑞穗ひとりを護ることも、雫を妻に娶ることも出来なくなるのだから、皮肉ではあった。

「さて、今日の所はこんくらいで。桃華の追撫《ついぶ》を率いてた女がなかなか、いいもんでね。じっくり泣かせてやろうかと」
「お前その女とみれば穢す癖、どーにかしろよ。ホントキモいからな、エロ中年」
「ハハッ、そんくらいの言葉で今更どうこう変えられませんぜ!」

 さて、そんじゃ帰るか……。

「あんた」
「……?」

 やれやれと部屋を退出すると、待っていたかのように声をかけられる。女の声。勇ましい感じの、やや女性としては大柄。グラマラスで乳房は豊か……といっても瑞穗やエーリカのサイズを見慣れていると判断基準がおかしくなってくるが、とにかく肉感的かつ筋肉質な、「姐さん」タイプの女性だった。辰馬も一時期将軍(一時的に、最下級の偏将だが)だったから分かる。腕章の色が黒は大元帥で国家に唯一無二、青なら元帥、赤は将軍、白は士官で黄色は兵卒。判断するに、この女性はまだ兵卒らしい。

「なんすか?」
「あんた、最近有名な「聖女さま」よね?」

 あー、ここでそれ言うかよ、うあー……。

「まさかあの方もこんな子にまで手を出すなんて……まあ、あの方の魅力なら仕方ないのかもしれないけど……」
「?」

 なんかよくわからんことを、ぶつぶつ言う。と、思うや。キッと睨み付けてきた。

「この売女《ばいた》!」

 言うや同時に平手打ち。当然、一般兵の平手など辰馬にとってはスローモーションでしかなく、軽く手首を掴んで制圧するが……売女……あ? あぁ!?

「あんた、おれがあのアホの女だとかおもってんのか?」
「違うとは言わせないわよ、泥棒猫! その顔でなんて言ってあのひとに取り入ったか、言ってみなさいよおぉッ!」

 騒ぐ女性兵士、そして集まる一般兵たち。そして聖女の姿に場が湧くのなんの。

「あのさー、誤解だし。つーかおれ、男だから」
「男ってことにして育てられた女なんでしょ、情報誌にでっかく書いてあったわよ!」
「いや、あれは晦日《つごもり》がな……」
「うっさい、いいから離せ、このメ○ガキ!!」
「口悪いなー……なんか、女相手でもさすがに殴りたくなる……」
「あぁ、殴りなさいよ、軍属相手に手を上げたら、司直が黙ってないからね!」
「く……口だけじゃなく汚ぇ……えーと、今の時間帯だと、このへんか……」

 端から見えないよう、とす、と点穴。神経の叢《そう》、その血流が集中している部位に、やや強めの当て身。

「ぁ……か……?」

 正式な手順での点穴に、白目を剥いてくずおれる女性兵士。今度こそやれやれの辰馬だったが、受難はむしろここからである。なにせむくつけき、そしてウブでピュアな兵士数百人が、『聖女・新羅辰馬ちゃん』の降臨にわき上がり野太い嬌声を上げる。貞操の危機は問題なさそうだが、また辰馬の精神がごりごりと削り取られそうな予感。

「あー、あれ……今日はダメなんだなー、あのー、今日はお仕事じゃない日だからぁ、皆とはあそべないーんだぁ、ごめんね?」
「「「はははは、はいっ???」」」

道を空ける兵士たち。

 よし、これでなんとかなった!

 一瞬だけプライドを捨てた自分からは目を背け、辰馬は新羅邸へと足を向ける。その途中もあちらこちらで目撃され、声をかけられ。その都度ぶりっこアイドル美少女ムーブを強要されてなんかもう、本当に疲れる辰馬だった。


・・
・・・

 そしていよいよ10月。蓮純から「是非聖女として出て欲しい仕事が……」とか頭を下げて嘆願されるも「うるせー!」と拒否。10月3日、新羅辰馬はいよいよ士官学校受験当日を迎える。

「そんじゃ、行ってくる」
「ほーい/行ってらっしゃいませ!/ま、頑張って」

 雫、瑞穗、エーリカに見送られ家を出る辰馬。今日の弁当は今日ばかりはと三人が美咲を押し退けて作った特別製だ。もう最初から味は期待してないが、自分のために頑張ってくれたのが嬉しくはある。

・・・

「へぇ……」

 会場……と言っても通い慣れた京城の広間だが……につくと妙に感心したような声で、男が声をかけてきた。今の辰馬はベレー帽を目深に被ってサングラスをかけ、体付きもわからないようにダボダボな服にしているから「聖女さま」とは思われないはずだが、まさかこれでも気づかれるか? そう思うとまず相手の右腕、肩から先が存在しないのに気づいた。ついでに、顔半分を覆い隠す前髪。

「あれ、お前、厷《かいな》?」
「あぁ……よく俺の名前なんか覚えていたな。ヒノミヤ事変、ただガラハド卿に腕を切りおとされて終わっただけの俺だが」
「いや、覚えてるって。その鬱陶しい前髪とか、忘れんだろ」
「……。お前は時々、ナチュラルにイラッとさせるな」
「そーかな、済まん」
「いや、それはいい……として、お前もこの道を選んだか……」
「まーいろいろあって。……? ところでお前、一個上じゃなかったっけ?」
「ダブりだ、悪いか」
「いや、悪かないけど。でもって将校志願なんか? そんな雰囲気じゃないっつーたら失礼か……」
「いや、それは構わん。実際俺が狙うのは将校ではなく、近衛《このえ》だからな。将軍ではなく、将軍や宰相を護る盾になる……と、いうのも実のところ、金のためだが」
「あれ、貧乏?」
「あぁ。もともと特待だったが、片腕になってそれが取り消されてな。必死に鍛え直してそこそこ持ち直しはしたものの、自分でも以前ほどの腕はないと痛感しているし、仕方がない」
「ふーん……勁風館《けいふうかん》の教師どもは見る目がねーな。お前、あの戦いで確か、将校首を9つ、上げてるはず。これは古今の戦役に見ても……それを申上《しんじょう》しなかったおれのミスか、すまん」
「いや、構わん。特待のままだったら、鍛え直す根性も湧かなかったかもしれんしな」
「なら、いーけど……んじゃ、とりあえず兵科としては別か」
「おう。まあ、あの戦役を価値に導いた実質的功労者を、まさかアカツキという国が捨てることはないだろうよ、安心していけ」
「おう。そっちもな。おれが将軍になったら近衛になってもらうわ」

・・・

 それから一月。

「合格通知、届きました!」

 ポストを開けた瑞穗が、声も限りに叫ぶ。新羅邸全体から、祝福の声が一斉に上がった。

「やったっスね、辰馬サン! これで将来は将軍さまだぁ!」
「ばーか。新羅さんの目標はそんなもんじゃねえ。王様だろうが」
「ま、この国に王様、というのはまあ、皇籍以外いないわけでゴザルが……」
「あれ、たしか辰馬サン皇籍じゃん? だってゆかちゃんと……いや、現王家の直系じゃねーと無理か。今の王室の並びからして、覇城家だって王にはなれてないんだもんな」
「たぶん、そーでゴザル。今の家格に加えてよっぽど高い功績……魔王殺しとか……を上げれば、国も無視できなくなるのでゴザろうが……実のところあの狼牙さんですら商工会役員なんかでゴザルからなぁ……」
「親父はなんか、爵位とかいらんて断ったらしい。だから一応、そういう話は来るみたい」
「はーん、じゃ、カノーセーとしてはありって事でスか!?」
「そーいうこった! 来年からはとりあえず、傭兵として雇うから。ひきつづきついてこいやお前らぁ!」
「「「おおーっ!!」」」

 威勢良く上がる咆哮。

 彼らはまだ知らない。後世自分達が反逆者の汚名を着せられ、しかるのち現行皇家を放伐《ほうばつ》して新たな国を建てること、その元勲となることを。この当時彼らはまだ若く幼く、ただただ無邪気に自分達のリーダーが達成したささやかな成功をたたえるのみであり。青雲の未来、その染みひとつない美しさを疑うことがなかった。

……………

以上でした、それでは!

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