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大番長の記事 (10)

遠蛮亭 2023/08/31 19:43

23-08-31.お絵かき(くろてん、お狐様、ほか2次創作)

こんばんわです!

まず「お狐様」イラスト修正。↓がもとの絵です。

修正したのは線と髪の塗りだけですが、だいぶ変わったかと。辰馬くんの手を描き忘れましたが、必要ないといえばないかも。

次も修正というかリライト。もと絵は↓。

これ今年の5月の絵でした。3か月前にこの程度だったという事実に慄然とします。横向きはまだ全然描けないですね。

これは昨日描いてpixivさんにあげた、大番長の扇奈。

おなじくpixivさんにあげましたスト2春麗。

今日はお絵描きの他にゲーム制作も少しやりました。シロップ様の立ち絵表示プラグインを導入、立ち絵と顔グラを新規のものに差し替え、ついでにエネミーのバランスをとってテストプレイしたところ、35日設定でギリギリ精神修養√クリアできましたがダンジョンのほうは4階までで敗退だったので正規版の「神格値3以上がクリア条件」というのは果たせず。エネミーをすこし弱くするか、日数に余裕をもたせないとクリアできないですね、やっぱり。とはいえ1週間延ばすと長すぎる……38日くらいが妥当でしょうか。

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遠蛮亭 2023/07/28 10:49

23-07-28.お絵かき2枚(お狐様_源初音、きゃんバニ_スワティ&大番長_京堂扇奈)

おはようございます!

今日はお絵描き2つ。

まずこちら。「お狐様」で剣技が一定値を越えて、雫おねーちゃんから一本を取る初音。

こちらはゲーム制作関係ないですが、勿体ないのでここに。きゃんバニのスワティと大番長の扇奈です。

体調が悪いのに加えてこの熱気の中クーラーなしというのもあり、まだまだ調子が戻るとはいきそうにないですが、制作の方少しずつ進めております。今後ともよろしくお願いいたします。

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遠蛮亭 2023/06/27 06:42

23-06-27.くろてん再掲2幕3章6話+お絵かき(2次創作2枚)

おはようございます!

【黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫】

DLsite
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

FANZA
https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_277954/

よろしくお願いいたします!

昨日は夕方に病院から帰って、お絵描きと自分用のゲーム制作をやりました。シナリオはあんまり進まなかったのですが、お絵描きはいくつか。

まずぴあキャロ2の日野森あずさ。制服着てないと日野森っぽさがあんまりないですが。ボテ腹よく描きますけどもボテ腹というか出産が好きです。

こっちは大番長の京堂扇奈。日野森は初描きでしたが扇奈は結構しょっちゅう描きます。背景と髪色が同系色なのが失敗でした。

今日はたぶん「聖鍵」のシナリオをやります。先日1万2千文字だったので今日も同じくらい行ければ。

それでは、今日もくろてん再掲。よろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕3章6話.テルシオvs包囲殲滅

「さて。このあたりか。草原で適度な傾斜、そこらへんに自由な動きを阻害する岩場、そして風向き良し、と……」

 辰馬はそう言ってひとまず満足げに笑う。実際の戦争なら人を殺す、という罪悪感に自分がまず死にそうになるくらい心弱く脆い辰馬だが、今回の場合これはクズノハが作った隔離世結界……その応用……だ。なんの心置きなく、ここまで学習してきた成果を出せる。

「ふぁ、ふう……荷車の中、たいへんです……くらくらして……」

 瑞穗が汗だくでワゴンから這い出し、へろんとよろけて膝をつく。確かにワゴン《荷車》は人間を輸送するためのものではないから、乗り心地がよいとはお世辞にも言えない。たいそう寒がりで暑いのにはそれなりに耐性がある瑞穗だったが、ワゴンで蒸され、揺られてかなりへろへろになっている。そしてフラフラするたびにやたらとデカい柔らかいものがふるふると揺れてどうにも、こちらの集中を削ぐ。

 なので、辰馬は穣のほうに目をやった。

「うん……落ち着く」
「なんですか、失礼な。言っておきますがわたしは小さくないですから。神楽坂さんが異常に大きいだけです。勘違いのないように」
「あー、うん、そーだよなぁ……瑞穗って昔からあんななの?」
「わたしが知る限り、神楽坂家に迎えられた時点で○女としては破格でした。だから相模さまが幼児愛好趣味に目覚めたとか、いろいろ物議を醸《かも》したものです」
「はー……いろいろ大変だな。会ったことねーけど、相模さんも苦労してんな」
「大神官ですから、苦労は当然です。もちろん真の意味でその地位に相応しいのは、五十六さまのほうですが」
「あの色黒ジジイなー……どんな罪になるやら。つーか牢屋で死ぬんじゃねーかなと想いもするけど。食事とか断りそうな……」
「あのかたは泥水をすすってでも生きて捲土重来《けんどちょうらい》を期すかたです。簡単に死を選ぶ惰弱ではありません、新羅とは違います」
「あ、そう……まぁ、とにかく場は整った、と。あとは敵を誘い出すだけ。だが……」

・・・

「耿羿《こう・げい》には悪いが、そう簡単に出て行くわけにはいかないな。飛び道具の射程でこちらが劣ることに着目したのだろうが、それはこちらも織り込み済みだ。敢えて打ち合いにに応じることはない。耿羿がやられた2000、敗残兵の帰還を待っている時間はないとして、現状6000。大楯と長槍の4000を敵前に出して白兵を挑みつつ、残余の2000で敵陣に迂回突撃《うかいとつげき》をかける!」

 戚凌雲《せき・りょううん》は今一人の参謀役、虎翻《こほん》に向けてそう言った。大楯を構えて敵の矢を防ぎ、長槍による刺突、あるいは投擲で敵を打破する戦術はいわゆるマケドニア・ファランクス。凌雲はその陣容を巧みに運用、槍を長柄のそれにし、密集の度を増しつつ攻防力を重厚なものとし、さらに烏銃……マスケット……は支給されていないので弩を集中させて強化火力とする。なのでこの戦法はファランクスというより、スペインのテルシオに近い……とはいえこの世界この時代、旧世界のマケドニアもスペインもほぼ人の記憶にないし、テルシオ的な陣形、とはいってもそれは凌雲が過去の名将から借用したのではなく、彼の独創による。

・・・

「そーだな。モード・アングレだけだと対策取られる可能性もあり、か。じゃ、予備兵を置いて前衛を左右両翼に展開、攻撃を加えつつ前進しつつで、上手いこと包囲……できればいいが」
「ちょ……それは!」

 さすがに瑞穗が顔色を変えた。服装のえろっちさとか気にしている場合ではなく、辰馬がぼそっと口にした戦法、それをあまりにもよく知るゆえに驚嘆、というか驚愕、というか、端倪《たんげい》した。旧世界においてハンニバル、あるいはハーリド・イブヌル・ワリードのただふたりだけが達成した兵法史上の最高峰、包囲殲滅。この世界に移ってからは新生ウェルス帝国の祖帝シーザリオン、その親友で腹心だったコルブロス将軍だけが成し遂げた先例を残すのみの、天才のみに許される高度な戦術。そもそも実戦の中で敵をじわじわ気づかれないよう翼で包囲し、そして前進、叩きつつ、敵が算を乱すタイミングを確実に見澄まして予備兵力の突撃を敢行するという同時進行をなすということがあまりにも難しく、困難を極める。だが新羅辰馬という少年は敵の凌雲がテルシオに到達したのと同様、完全な独創だけで包囲殲滅に到達した。瑞穗はそこに驚き瞠目し、穣と視線を交わしあい互いに頷く。これをやるからには、自分達は全力で辰馬の作戦を支援する必要がある。

 瑞穗と穣がとつぜん、大人しくなったのに対して、辰馬はやや不安げな表情になった。

「あれ……だめか、これ……?」
「いえ、ダメというか……もし成功すれば戦術史上の偉業です……まさか、独創で包囲殲滅にたどりつくなんて……」
「なんか、いかんのかな?」
「逆ですよ。癪ですが、あなたの才能、作戦能力は認めざるを得ません。ただし、作戦を立てただけでは画餅《がべい》。実際に兵を運用できて初めて成功です。……そこはまぁ、わたしと神楽坂さんに任せていただきますが」
「任せていーなら、頼むわ。おれは左右両翼の状況を見ながら中翼弓隊の指揮を執る。できればワゴンブルクを中翼の前に置いておきたいが、これは大丈夫か?」
「ワゴンブルク自体、そのルーツは農民が騎士に勝つための単純でわかりやすい戦闘法です。戦術史の中で洗練されて簡単なものではなくなりましたが、敵の騎兵を止める、その役割だけなら運用は簡単だと思います」
「ん。なら問題なし。さて、敵さんもそろそろかな……」

 草埃を上げて、近づいてくる敵兵。6000いるはずのそれがやや少ないこと、そして指揮官格の男が戚凌雲ではなく大兵、短髪、浅黒い肌のいかにも豪腕な武人……虎翻であるところから、まず辰馬は別働隊がこちらを衝く心づもりであることに気づく。となれば時間との闘い。こちらが敵の全面を殲滅するか、それともその前に側面からの一撃で粉砕されるか。

「ほんとなら向こうに仕掛けて欲しかったが、まあしゃーない……。弓兵、撃《て》ーっ!」

 辰馬の号令一下、中翼からの弓矢が一斉に放たれる。弓矢の威力というのはたいしたことがないと思われがちだが、実のところしっかり放物線を描き運動エネルギーを乗せた矢は鉄の盾をたやすく貫通する威力を誇る。ある意味、マスケットにも劣らない武器なのだ。……ただし、技能の熟練が必要なこと、引き絞り、狙いを定め、放つという性質上連射が難しいという欠点は、どうしてもあるが。

 よって、凌雲のテルシオも盾で被弾を避けるとはいえ、貫通してくるものまでは防げない。初撃でかなりのダメージを、辰馬は虎翻に与えた。しかし虎翻もさるもので、矢で受けるダメージはそれとして二射目が発せられる前に突進、間を詰めてくる。こうなると至近、弓矢という武器は使いづらい。

「ならやっぱ、あっちの策か。頼むぜー、瑞穗、磐座」

 右翼には瑞穗が、左翼には穣が、それぞれ指揮官として出張っていた。そもそもからして公正を期すためなのか最低限の人格しか付与されていない幻体兵士たちに高度な軍隊運用は不可能であり、瑞穗と穣がやる以外の選択肢はなかった。ここまでどんくささばかりが目立った二人の少女だが、その頭脳は二人ながらに天才。巧みに敵を誘引しつつ、円を描いてその中に敵兵を押し包んでいく。二人が優秀ゆえというのももちろんだが、虎翻という男は参謀役でありながらむしろ直情の武人肌であり、思慮に欠けるという点も大きい。

 そして、包囲が完成。ほぼ兵力を減らしていない辰馬の兵は予備兵2000を残して6000、凌雲の側は虎翻が4000、別働の凌雲が2000なので、包囲という形を取るまでもなく数では辰馬優位。この状態から全方位的に叩くのだから、虎翻としてはたまったものではない。さらにこれで終わりですら、ないのだ。

「予備兵突撃! 一挙殲滅せよ!」

 敵が崩れた機を逃さず、辰馬が声を限りに咆哮する。包囲状態からの全包囲攻撃、そして予備兵投入による波状攻撃に、虎翻は完全に崩れた。凌雲であればこれとても凌いだのかも知れないが、虎翻では役者が足りない。以前「戦争における死傷率は存外に低く、完全な殲滅などない」と記述したが、この一戦で辰馬は敵の半数を超す2300人を打ち倒すというほとんどわけのわからない数字を上げた。これで敵が呻きながら死んでいくと精神衛生上、非常に悪いのだが、今回のこれは幻体。よってあとくされなく消滅してくれるのみなのでやりやすい。

「ひとまずこっちはこれで……として……ッ」

 気を緩めたつもりは毛頭ない。しかしやはり無意識的な弛緩があったことは否めず、そこにとんでもない勢いでの猛突撃が、辰馬の中翼本隊を襲う。突然の自然災害にも似た猛突に、辰馬ですら支えることが難しい。

・・・

 勝った!

 戚凌雲はそれを確信した。新羅辰馬がほぼ完璧な包囲殲滅をやってのけたのには驚いたが、まず虎翻がやられるのは織り込み済み。虎翻を倒して油断した辰馬、その一瞬を衝いて鎧袖一触《がいしゅういっしょく》とするつもりだった。

 のだが。

 どうにも、辰馬がしぶとい。瞬殺できない。辰馬は粘りに粘り、自身剣を取り奮闘する。今回使うのは家伝の銘刀・天桜ではなく普通の剣。一人二人を斬れば折れてしまうが、その都度、辰馬は敵の剣を奪って次の相手を斬り、さらに剣が折れては別の相手を斬って、修羅か羅刹のごとくに荒れ狂う。

「凄まじいな……網を!」

 投網が投擲され、辰馬を絡め取る。辰馬はどうにか抜けようと暴れるが、これはどうしようもない。そして凌雲の前に引き据えられた。

「卿も相当のものだったが、私のほうが一枚、上手だったようだ」
「そりゃ、どーだろ」

 投網を絡みつかせたままに、辰馬は神速の踏み込み……縮地法……で間を詰めると凌雲の首元に切っ先を突きつけた。

「三軍《さんぐん》も師《すい》を奪うべし、て言うんだよな? 逆転王手、この言葉だけは昔からよく知っててな。さ、どーする?」
「困ったな……私は呂将軍の威信にかけて、負けることを許されていないのだが……さすがにこの状況、こちらも打つ手がない。あの距離から一気に詰めてくる身体能力を侮っていたな」
「切っ先つきつけられてずいぶん冷静だなー。ま、実際殺すつもりもねーんだが……ま、ここは引き分けってことで」
「そうだな。本当の勝負は、わたしたちが正式な軍人になった後で」

 言い合って、辰馬と凌雲は固く握手を交わす。敵手ではあったが恨みのある相手ではない。むしろ人格の爽やかさに、互いが互いに対して好感を持った。のちに殺し合う運命だとしても、今、友誼を深めてはならない理由にはならない。

 ……と、そういうわけでアカツキaチームと桃華帝国チームの4回戦は両チームリーダーの話し合いにより、引き分けとなったのだが。

「おいおいふざけんなよ主公《しゅこう》! 俺はアンタの優勝に賭けてたんだぜ!?」
「知るかよばかたれ。主催者側がギャンブルとかやんな」
「あぁーあー……給料が、しばらくモヤシかー……」
「知ったことかよ。んで、姉貴もなんか言いたそうな」
「いえいえ、結構いい絵面だったわ~。美少年と美青年の友情。捗る!」
「魔王がヘンな妄想すんな! ブッ殺すぞ!」

 とまあ試合後、長船とクズノハからこんな言葉をいただいた。あと宰相から最優秀戦術賞としてトロフィーと盾と1万弊(10万円)を貰ったが、お金以外は実のところ、鬱陶しいだけなのでどうでもいい。金だけはもう、本の虫としてはいくらでも使うのであって困るものではないのだが。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/06/04 12:00

23-06-04.くろてん2幕1章3話+お絵かき(大番長_京堂扇奈)

おはようございます(もう昼)!

まずはDLsiteさん直リンク。

黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫 DLsite直リンク

で、昨夜から今朝は体調悪くして寝込んでました。その前に「くろてん~聖鍵を求めて」のゲーム制作をみっちりやったので神経疲労だと思うのですが。まあ、みっちりやったとはいってもステートを作って瑞穂さんぶんのスキルを作って、レベル10の瑞穂さんでHP5000攻撃75防御60魔力70魔防50敏捷75幸運100、2回攻撃、3回攻撃、ファイアブレス持ちのモンスター(キマイラ)に勝てるかどうか、というのをやってみるのが主でしたが。装備なしで普通に戦うとまず勝てないんですが、トキジク(3ターン時間停止)を使うとギリギリで勝てるという、ちょうどいいバランスになりました。トキジクは仲間がいるとあんまり使えないスキル(敵味方無差別に100%時間を止めるため、仲間も動けなくなるので)なんですが、個人戦だと超強力。でもキマイラってたぶん火属性モンスターなので瑞穂さんの攻撃スキルの多く(火属性。「火傷」付与)はダメージ半減にしておいたほうがいいかもしれないです。となるとさらに調整が必要ですね。

で、昨日一昨日のお絵描き。

大番長、京堂扇奈。なんで扇奈ばっかり3枚も描いたかというとpixivさんで描きなされ、と言ってくれる方が2人もいたからなんですが、まあ自分でも好きなキャラなのでそれはよし、なのでした。むしろ扇奈好きなかたがいてくれて嬉しいわけですが、どうも国内より海外の方に人気があるみたいです。

それではくろてん再掲、よろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕1章3話.異形の海魔

「あー、畜生が! ひとが手加減してやったら調子乗りやがって、あのクソガキ! 『ボクと雫さんの邪魔をしないでください』? うるせークソ、てめーは一体何様だっつーの!」

 ホテルのレストランバーで、辰馬は延々と管を巻く。本気ではなかったとは言え11才の子供にあっさり投げ飛ばされた屈辱は大きく、そしてなにより雫が自分でなくクソガキ……覇城瀬名《はじょう・せな》について行ったことがきわめて大きい。

「何様っつーたら覇城《はじょう》の当主様ですけどね。傍流三家の筆頭、そりゃ、俺ら平民ごとき眼中にもないんじゃないっスか?」
「なにが当主だよ、あのエロガキ……ま、しず姉にうっかり手ぇ出せないように、手
は打っといたが」

 投げられる瞬間、瀬名の腰を点穴しておいた。点穴……ツボの技術は基本的にうさんくさいというかまあ、嘘八百ではある。それが一番顕著なのは鼻下の急所・人中であり、あそこを強打されても人間、死んだりしない。強い痛みを感じるのは皮が薄く神経血流が集中しているからというだけで、実のところ剛弓で人中を射貫かれてなお戦い続けた将軍の例が何件もあるのだから、このツボというもの、うさんくさいのはもう間違いない。

 ほかの部位もほぼ間違いなく嘘。非力な人間が大男を制するという魔術的手際に関する幻想、というかあこがれに過ぎないわけだが。時間と血流、という二つのファクターを組み入れることで、このうさんくさい技術は実戦に使える技に生まれ変わる。腎につながる腰の一点、そこに血流がたまっている時を狙って打ち込むことで、一時的に腎虚の症状を起こさせることが可能となる。ほかにも現在身体のどこに血流が流れていて、その働きを賦活させる、あるいは停滞させるツボを弁えさえすれば、点穴法というのは実戦の技たりえるわけで、辰馬の一撃は覇城瀬名を一時的に腎虚《じんきょ》にしていた。

「クソガキ、勃起不全で笑われろ、バーカ」

 悪役っぽく酷薄に笑いつつ、ジンジャーエールを呷る辰馬。この国の成人期低年齢は14才であり、当然、酒を飲んでも問題ないのだが、辰馬はひどい下戸なので酒類一切呑まない。隣のシンタなんかは濁り酒をガンガン飲んで顔色一つ代えないが、その臭いだけで辰馬は酔いそうである。

「いかん……ちょっと風当たってくるわ……」
 少し怪しい足取りで、辰馬はカンターバーを出る。「あー、んじゃオレもー」とシンタが続き、部屋に荷物を置いてきた帰りらしい、水着にヨットパーカー姿の瑞穗と鉢合わせて三人で外に出た。

「お。瑞穗ねーさん、おっぱい、また大きくなった?」
「はぅ!? ……は、はい、お恥ずかしながら、ちょっとだけ……やはりヒノミヤに比べると食事が豪勢なものですから、その、食べ過ぎてしまいまして……」
「はー、服とか大変スよね、そんなデカいと」
「シンター、あんまりセクハラすんな。瑞穗は怒らんでもおれは怒るぞ?」
「褒め称えただけじゃねースか。辰馬サンて案外独占欲でスよねぇ?」
「うるせー黙ればかたれ。いらんこと言ってんな」

ぶらー、と出歩く辰馬の背を前に、瑞穂とシンタは顔を見合わせる。てっきり、風にあたるという名目で雫のところに向かうのだろうとばかり思っていたら、まったくそんな風もなく。といって割り切っているのかといえばこれも、「くそが!」とか「ちっ!」と短い悪態を絶やさないあたり割り切れていない。

「行けばいーじゃねースか、雫ちゃん先生んトコ。喜びますよ、あの人」
「やかましーわ。なんでおれがあんな裏切りモンの心配せにゃならねーんだよ、ボケ!」
「裏切りモンて……んなこと言ってるとマジで盗られますよー。あのガキの目、あれぁ無邪気な子供の目じゃなかったですもん」
「辰馬さま、意地を張ると一生後悔することになりますよ?」
「うぅ……ま、まぁアレだ。お前らがあんまし言うからな。おれはどーとも気にしてねぇけど、ちょっと見に行くか……」
「はい♪ それがいいと思います」

 と、踵《きびす》を返そうとした矢先。

 剣呑な気配が、周囲に満ちる。

 ぞぶ……ぐじゅしゅ、ぢゅぐ……、
 ぐしゅ、ぐずゅぶ、ぐぶ……。

 呼気なのか言葉なのか、判然としない音を立てつつ、沼沢地からぞぶぞぶと現れる、無数の異形。人の身体に蛸《タコ》が乗っているような姿をしたその化け物は、身の丈は3メートルを優に超す。そいつらは辰馬たち……正確には辰馬と瑞穗の姿を認めると、気色悪いほど猛然と襲いかかった。

「ぅぎゃあああぁっ!! こっちくんなキモい!!」

 辰馬は全力で叫びつつ、シンタの身体を異形たちに突き出す。

「ちょお!? 辰馬サン!? 人を盾にしないでくださいよ!」
「あれはマズいだろ、あのウネウネ触手……おれとか瑞穗があれに絡まれたらR指定入る……シンタ、頑張れ!」
「あーまあわからんでもないっスけど……そんじゃ、たまにいーとこ見せますか!」

 シンタは新あつらえのダガーを、両手に抜く。

 ……6匹、か。なんとかなるかねぇ……とりあえず、先手必勝!

 うじょろうじょろと気色悪く触手をうねらせる異形たちに、シンタは猛然と突進。疾走しながら二本の刀身に霊力を乗せる。バチバチと爆ぜる紫、それは雷鳴。

「断ち切れ、雷吼閃・御雷《らいこうせん・みかずち》!」

 交錯。次の瞬間、シンタを夾む形で肉薄してきた二体の異形が腰斬されてずるりと崩れ落ちる。「ッハ、どーよ! オレもなかなか、腕上げたっしょ? 辰馬サン!?」

「おお。けどまー、油断すんな。そいつら死んでねーわ」
「へ……んごあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 切断面から再生してうじゅろうじゅろ、異形の触手はシンタを襲う。どうにも、辰馬は瑞穗を庇《かば》う形で立ちはだかるシンタが気に障るらしく、異形たちの攻勢は激しい。

「っの、クソが、舐めんなゲテモン!」

 出力を上げての雷刃。しかし、多少のダメージは与えられているようでも致命にはほど遠い。この異形たち、見てくれの醜悪さにもかかわらず、上位の魔族であるらしかった。

「……シンタ、下がれ。輪転聖王で消し飛ばす! 神《デーヴァ》にして魔《アスラ》の王、大暗黒《マハーカーラ》の主なる、破壊神にして自在天……ッ、ちぃ、神讃《しんさん》に割り込んで……こいつら、見た目よりずいぶん強い……!」
「わたしのトキジクで……」
「やめとけ、寿命削るだろーが。おれがなんとかする……」

神讃を奏す隙がない、神讃なしではおそらく倒せないし、やってみて失敗したら消耗だけが大きい。となると残る奥の手は一つ。

「我が名はノイシュ・ウシュナハ! 勇ましくも誇り高き、いと高き血統、銀の魔王の継嗣なり!」

 髪飾りの呪《まじな》い石を引きちぎりながら、一気に歌い上げる。
 
 ごぅ!! と。

 立ち上る金銀黒白、盈力《えいりょく》の奔流。背中に生える6対12枚の光の羽根。紅い瞳はいよいよ緋く血の様相を呈し、横溢《おういつ》する気は抜山蓋世《ばっさんがいせい》。天は喜び謳い、地は歓喜に震え、空気は畏怖にきしむ。宇宙そのものとつながった全能感が辰馬の心を満たし、しかしその情報量の膨大は辰馬の精神を揺らがせる。やたら喉が渇き、頭蓋と頭皮が剥がれるような痛み。息は荒くなり、四肢が痺れ心臓は早鐘を打つ。非現実感により足下もおぼつかない。絶大も絶大すぎる力に、あまり長い時間は保ちそうにない。

 ……けどまぁ、一瞬あれば十分。

 目に恚《いか》りを込めて、魔族たちを睥睨する。異形の魔族らの精神に働きかけ、王は誰であるかわからせる。魔族にとって魔王の存在は絶対。この交渉が失敗するはずがなかった……のだが。

 異形たちは辰馬の意に反し、抵抗を見せる。その態度から「貴様は王ではない」という主張が、強くうかがえた。戸惑う辰馬。異形はさらに数を増し、その身体に無数の触手が飛ぶ。

「っ!?」

 引きちぎり、あるいは盈力で消滅させるが、いかんせん相手と辰馬の覚悟の違い……辰馬は「殺さずに」ことを済ませようとしているのに対し、向こうは殺すつもりでかかってくる……が実力差を埋める。というより、この異形の集団を一個の存在として見た場合、それほど手加減できるほどに弱い相手ではなかった。

「この……タコのバケモン風情が、鬱陶しい!!」

 藻掻けど藻掻けど、引きちぎり消滅させるそばから新しい触手が、辰馬を襲い身動きを封じてくる。そしておぞましいことに、口腔へとグロテスクな触手の先端をねじ込もうとされる。「舐めろ」と要求されていることを知って、辰馬の中で怒りが爆発した。魔王への侮辱は絶対の死以外にあり得ない。猛り狂っていた辰馬はむしろ冷たく冷徹な、冷めて凍り付く瞳で異形たちを見渡し、

「魂魄皆燼《こんぱくかいじん》、一毫《いちごう》も残さず現世《うつしよ》から消えよ」

 目も眩むような白光と黒風。それが凪いだあと、辰馬の周囲には異形どころか四方数十メートルの空間がぼっかりと消えていた。瑞穗やシンタを巻き込まないよう無意識の歯止めがきいていなければ、この巨大な虚無はどこまでか続いたかわからない。改めて自分の力をうっかり使うわけにはいかないことを再認識した辰馬は、魔王の力を鎮めるととりあえず何事もなかったかのように埃を払い、立ち上がる。

「瑞穗、シンタ、無事かー?」
「は、はい……辰馬さまこそ、大丈夫ですか? 顔色が……」
「バケモン相手に殺しちまったからどーこーとか、考えるのいーかげんやめましょーや。神経壊しますよ、辰馬サン?」
「……そーはいってもなぁ。性分だし……」
「アンタ普段から肉も魚も食うでしょーが」
「あれは食うことで供養になってるからなー。バケモン殺してギャハハハハハーッてのとは違う」
「んーっとぉに、なんで辰馬サンはそう繊細っつーか、心がか弱いんスか。普段あんだけ図太いくせに」
「しらんわ。おれの性格は生まれつきだ。おれの責任みたいにゆーな」
「殺生戒に悩まされておいででしたら、わたしがご祈祷しましょうか? 少しは気休めになるかと……」
「あー、そーいうのはいらん。結局おれの問題だし。ひとに祈ってもらってどーこー変わらん」

 瑞穗の言葉に、辰馬はひらひら手を振って答える。自分の問題を自分でどうこうできていないから苦しいのだろうに、新羅辰馬という少年は他力本願という考えがどうしても出来ない。「天は自ら助けるものを助く」を地で行く性格で、普段どれだけだらしなく振る舞っていても、根本的な部分で自分に対して厳格すぎるほど厳しい。

「で……アレってなんなんだ?」
「さぁ? 見た感じと違ってずいぶん、ランクの高い感じでしたねぇ。サティアとか竜の魔女とか、あのへんには及ばないにしても……サティアの傀儡のオッサンたちよりかは強かった……かな?」
「やっぱそんな感じか……中級か、上級魔族……なんでリゾート地にそんなモンが住み着いてるかって話だが……」
「聞き込みしますか。リゾート地っつーても町の一個ぐらいあるでしょーし」
「ん。そのへんは任せる。おれが出て行くとだいたい話にならんし」
「あー……うん。そーっスね……」

 シンタは曖昧な顔で頷いた。辰馬は「なんか相手が妙に浮き足立ってろくに話を聞いてくれない」といっているのだが、そんなもん辰馬が綺麗すぎるからに決まっている。本人は頑として認めたがらないが、御用商人、梁田篤のプロデュースで売り出されたヒノミヤ事変の将校たちのブロマイド、その売り上げの6割を辰馬の女装写真がたたき出しているという圧倒的人気は不動であり疑いようがない。相手にしてみれば国民的アイドルに突然話しかけられるようなもので、浮き足立つのは当然だった。


・・
・・・

 その頃。

「んぅ?」

 牢城雫ははたと目を覚ました。毎日いつでもすっきり快眠の自分にしては、やけに頭が重い。パーカーと水着を着ていたはずだが、なんだかすーすーして心許ない。

 てゆーか……ここ、何処だっけ?

 ぼんやりはしていても仮にも剣聖。ガラハド・ガラドリエル・ガラティーンを退けた腕前は伊達ではない。うす暗闇の中でもはっきりと知覚する、人の気配。年齢よりはやや長身、とはいえやはり11才相応の小柄な少年は、雫が目を覚ましたのを知ると驚いたように目を瞠る。いたずらを窘《たしな》められたときのような怒られる恐怖と、怒られる前に怒りを発して有耶無耶にしようという理不尽さの、綯《な》い交ぜになったような表情。

「もう……目覚められましたか……?」
「んー……? うん、ってあれ、あたし裸……? なんで……ふぁ、まだ眠いや……」

 覇城瀬名《はじょう・せな》の内心の動揺などいざ知らず、雫は平然とあっけらかんと言って、ほんのり寒気に軽く身じろぎする。相手が子供だと思ってまったくの無防備だが、もともとこの少年が「新羅辰馬および新羅家と牢城の父母」の保全を盾に自分を呼びつけたという事実を忘れるべきではない。瀬名ははじめこそ叱咤を恐れるように怯えた目をしていたが、やがて自分が強者の立場にいることを思い出すと不敵で酷薄《こくはく》な笑みを浮かべた。

「予定とは違いますが、まあ、いいでしょう。眠っている女を○すよりこちらのほうがいい」
「ふぇ?」

 邪悪に淫笑《わら》う瀬名。その貌は到底、幼児のそれではなく。女を嬲ることに長けた凌○者のそれ。雫をこの部屋に連れ込んだ際、飲ませたコーヒーには象でも眠らせる量の麻酔を混入してある。だからこそすぐに目覚めた雫に対して瀬名は驚愕したわけだが、そこまで。いくら牢城雫という少女が規格外であろうと、まともに動けるはずがなかった。

「安心しなさい、あなたはちゃあんと、ボクの正妻として迎えます。新羅家も牢城家も、安泰に暮らせるよう取りはからいます。だから……」

 薄汚い言葉を並べ立てる瀬名に、雫はひどくいやな気分になった。相手が子供だとか、遠縁の親戚だとか、言うことを聞かないと自分の家や辰馬も覇城家の権力で潰されるとか、そういう一切合切ふくめて「それがなに?」という気分になる。覇城家がアカツキ最大の貴族だろうがなんだろうが、知ったことではなかった。自分が操を捧げる相手は最初から決まっていて他の相手に明け渡すつもりなどないし、自分も辰馬も、権力などというものに潰されるようなものでは最初からない。

 だが、どうあがこうと動くのは首から上だけ。毅然と自分を睨み付ける雫をむしろ愉しむように薄く笑って、足を割り開いてのしかかってくる瀬名。

「新羅辰馬のことなど、すぐに忘れるようになりますよ、すぐに、ね」

 覇城瀬名は、可憐といってさえいい童顔にひどく悪魔的な淫笑を浮かべ、囁くと雫の乳房に手を伸ばした。

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遠蛮亭 2023/05/18 08:00

23-05-18.くろてんリライト再掲4章1話+お絵かき

おはようございます!

今朝は寝坊して出遅れました、昨日夜中にイラスト3枚描いたのが尾を引いたようです。昨日は「日輪宮」の修正もなかなか進まず。今日はこそ頑張るとします。

それで、昨日描いてpixivにアップしたイラスト。

まずこちら、京堂扇奈出産。

つぎ、スワティボテ腹。

で、これはpixivにあげてないんですが、瑞穂さん。頑張って超乳を描こうとするのですが世にある超乳絵に比べるとまだまだ爆乳のレベルでとどまっている感じ。どっかーんというのを描いてみたいものです。

それではくろてんリライト再掲、4章賢修院篇突入です。今回もよろしくお願いいたします!

……………

くろてんリライト.4章1話

 奇しくも、というか。
 神楽坂瑞穂とフミハウは隣席で編入試験を受けることになった。

 それで午前中の試験を終えて、昼休み。

「………………」
 隣席から無言の圧。むすっとした表情で女子には大きすぎるサイズの弁当箱をつつくフミハウのじっとりした視線が、瑞穂にのしかかる。なにを聞きたがっているのかはだいたいわかるのだが。

「な、なんでしょう……?」
「あなた……あいつと……、新羅と、どういう?」
 つい、聞き返すとやはり案の定の質問。ここで瑞穂の中に少しだけ意地悪な気持ちというか、ライバルを牽制しておきたい気分が湧いた。

「……ご主人様と奴○の関係ですが、なにか?」
「……ッ!? どれ……ぃ!!」
 しれっという瑞穂に、フミハウは口を押さえて息をのむ。瑞穂は心の中でひそかに勝ち誇り、あなたの出る幕はありません、とこっそり巨きな胸をそらす。

が。

フミハウのその先の反応は瑞穂の予想に反する。

「女の子を、無理矢理奴○に……。新羅、やっぱり許せない……」
「……ぇ?」
「神楽坂さん……みずほ、わたしが守る。安心して、もう、泣かないでいい……」
「は?」
 フミハウはなにやら情熱的な使命感に燃える瞳になり、瑞穂の手を取るとがっしり握る。氷の歌姫の掌はひんやり冷たく、寒がりの瑞穂は少し「はうぅ・・…」と思ったが邪険に払いのけることもできない。

……フミハウはこうして、神楽坂瑞穂の庇護者として名乗りを上げたわけだがそのころ。

「あー、午前中授業ばんざーい」
「まったくっスねー。どっか遊びに行きます?」
「授業がないならその分鍛錬しないとならんぞ、赤ザル」
「拙者は執筆活動があるのでゴザルよ、失敬」
 新羅辰馬と3バカは先週までの緊張状態を抜けてだらーっと一様に気の抜けた顔だった。とくに辰馬とシンタのだらけようといったらない。

「新羅さん……、新羅さんが範を示してくれないとそいつがまただらけるでしょうが」
「いやそーいわれてもな……、おれ疲れてんだよ、正直。先週は慣れない力使ったからさー」
「あー、盈力、でしたっけ? お疲れっス。そーいやこの辺、ペクドナルドのチェーン店ができたらしーっすよ? はんばーがーっての食わせてくれるらしーっス」
「はんばーがー……なにそれ?」
「えーとっスね。パンでハンバーグ挟んだ……まあ簡単に言うとサンドイッチなんスけど」
「なんだよ。サンドイッチなら学食で食うわ」
「いや、それが最近学生の間でブームになるくらいうまいって評判で」
「また赤ザルの知ったかぶりか。新羅さん、そんなのはいいから鍛錬行きましょう。レベル上げです」
「んー……今日はそのはんばーがーってやつ行ってみるか。マズくても話のタネくらいにはなるだろ。瑞穂拾って、あとはスタジオに寄ってエーリカも誘うか……。一応聞くけど、林崎もくるかー?」
 今日も不登校のエーリカの席に目をやりつつ、辰馬はよっこら、と立ち上がる。

「うっさいわね、他の女子がいる前でアタシとアンタが仲良しみたいな態度取らないでよ! ……あとで合流するわ、場所は?」
「相変わらず、めんどくせーなぁ……」
 明芳館を倒したことですこしは学園内における男子の地位は向上したかに思えたが、そういうこともないらしい。最終的に決めたのは新羅辰馬ではなく北嶺院文である、という喧伝もあり、蒼月館の中における男子の扱いは依然として低いままだった。

 ともあれ立ち上がってみると、なにやら窓の外にぴこぴこ動くものを見つける。

「なんだ……? 動物、ネコかなんかか?」
 それにしては大きい。辰馬はガラッと窓を開けて、外に飛び降りる。物陰が俊敏に逃げ去る。辰馬はそれを追う。

「辰馬サン、ペクドナルドは?」
「あとで追いつく。番地は?」
「えーと……○○-××-△△!」
「わかった了解! 瑞穂たち誘って先に行ってくれ!」
 辰馬は言い置くと、物陰を追う。あらためて逃げる背中を見れば相手が人間サイズの大きさを持っていることが分かった。金髪に、水色のサマーセーター、紫のスカート。

「あれって賢修院の制服か? 何しに……」
 と、思っている間にものすごいスピードで引き離しにかかる人影。辰馬も100メートルを9秒切る短距離速力の持ち主だが、向こうはそれを長距離でやってくる。とんでもない身体能力とスタミナだった。

「これは……ダメか、さすがに追いつけん……」
 しばらく追ったが両者の距離は縮まるどころか広がるばかり、辰馬はやむなく戻って件のハンバーガー屋に向かう。

……
…………
………………
「………………」
「……う?」
 店内に入るなり、凍てつくような視線に射すくめられた。

 瑞穂の隣にフミハウがいる。
「あはは、お友達になりました……」
「そら、いーんだけど……なんでにらまれてんの、おれ?」
「………………」
 本人に聞いてみるも、フミハウは辰馬をにらむばかりで口も開かない。なにやらむすっとした顔で、黙々とポテトをかじる。

「んー……なんか嫌われてんのか……まあいーけど」
「いえ、嫌っているわけではないと思うんですけど……、フミちゃん、このままだと誤解されますよ?」
「ん……新羅……」
「はい?」
 弟か妹が欲しかったタイプの辰馬は年下には甘い。穏やかに続きを促す。フミハウはじっ、と辰馬をにらみつけ、睨む視線がだんだんふにゃふにゃと蕩け、危うくぽやーんと呆けてしまいそうになるのを必死でこらえるとなんだか混乱した表情になる。これ以上は危険だ、と判断したフミハウはバッと顔をそむけた。

「こっち、見ないで!」
「お……おぅ……」
 そこはかとなく傷つく辰馬だが、実際フミハウの自傷自爆っぷりといったら辰馬の比ではない。なんでこうなるのかと自問してみれば、フミハウはこれまでの人生で異性と積極的にかかわるということがまったくなかった。

「なんか、よーわからんが。編入試験はどーよ?」
「それはもう、大丈夫です。ね、フミちゃん?」
「……当然」
「そか。ならよかった。で、これがはんばーがー? どーやって食うのこれ?」
「こーやって、手づかみっス。はぐっと」
「けっこー大胆な食いモンだな……」
「人前で大きく口を開けるの、すこし恥ずかしいですね……」
 シンタが食って見せるのに、辰馬と瑞穂があいついでネガティブな見解を示す。しかし一口食ってみると表情が変わった。

「あー! これうめーわ! あー! うん、うん」
「ほんと……いままでヒノミヤでは玄食(和食)ばかりでしたけど、こういうのも……」
「みずほ、本当においしいの?」
「うん、フミちゃんも食べてみて?」
「ん……」
 フミハウはハムスターか何かのように小さくもふっとかじりつく。クール少女のかわいいしぐさに、周囲の男どもが癒され、かついやらしさを喚起された。

「フミハウちゃん、ジュース飲む?」
「フミハウ女史、お手拭きでゴザル!」
「フミハウさん、指にソースが……!」
 馬鹿どもが下心満載で取り巻き化するのを、辰馬がチョップ。ついでに出水にはシエルが空気のヘッドホンをかぶせて、大音響地獄の刑をくらわせた。

「お前らそーいうの情けないからな。フミハウも怯えてるだろーが」
「またそーやって辰馬サンは、さりげなくポイント稼ぐんだもんなー……」
「稼いでねーわ。なにひがんだこと言ってんだ」
「だってフミハウちゃんの目が……」
「目?」
 シンタに指摘されて、フミハウの顔を覗き込む辰馬。一瞬ぼやーとなってしまっていたフミハウは真っ赤になり、朝に続けて今日2回目の平手を辰馬の頬に見舞う。

 が、そうなんども叩かせるほど辰馬もトロくさくはないわけで。

 ぱし、と止めた。

「あのさ、朝も今もなんよ、おまえ?」
「~~~っ!!」
「……せめてなんかゆってくれ。実際嫌われてんのかなんなのかもわからん」
「ご主人さま、フミちゃんはですね……」
「みずほ! 勝手なこと言わないで!」
「でも……誤解されちゃいますよ? お弁当だって、あれ本当は……」
「おまたせー! ハンバーガーなつかしいわね! ヴェスローディアでよく食べたわ。あ、店員さん、アタシフランクフルトとコーラ! ポテトはLで!」
「おー、エーリカ。ふらんくふるとって? はんばーがーの一種か?」
「んふふー、たつまにいいモン見せてあげる。まあこれをね」
 遅れて登場のエーリカは慣れた様子で注文すると、フランクフルトをぱくりと咥える。そして先っぽだけ咥え込むと、れちょぺちょと舐め始めた。

「んふふー、ろぉよ?」
「……?」
 口淫に見立ててフランクフルトをしゃぶるエーリカだが、その経験にかける辰馬にはピンとこない。なにやってんの? というしかなく、そして店員のおねーさんがエーリカの後頭部をトレイで一撃。

「お客様、公序良俗に反する行為は容認できかねます♡」
「あぁ! ごめんごめんごめんなさい!」
「なにがしたかったのお前?」
「ぅ……なんでもねーわよ……」
 というわけで辰馬にはまったく効果がなかった疑似フェラ攻撃だが。ヒノミヤでさんざんやらされた瑞穂は当然、この行為がなにを意味するか知っているわけで頬を赤らめうつむき、三バカは健全男子としての当然な知識からエーリカの狙った効果をばっちり惹起されて下腹を抑える。辰馬がこういう行為を知らないのは雫から情報統制を敷かれているためで、雫がやることなすこと以外のことを知らないのだった。なのに童貞ではないという不自然さ。

「この子があの雪の……へぇ~」
 ぺたぺた。エーリカが言えば
「明芳館の学生会ってとんでもねーわね。うちの学生会で氷使いって言ったら繭だけど、スケールが全然違うわ」
 夕姫もそういってぺたぺた。
「あの……さっきからぺたぺたって……なに……」
 戸惑うフミハウ。顔やら手やら、うらやましげにぺたぺた触られるとそりゃあ当惑もする。アカツキ北方、桃華帝国との国境にほど近い朔方鎮のある狼紋地方、コタンヌ族の生まれであるフミハウは雪深い地方の生まれだけに肌が白い。このあたりエーリカはもっと北のヴェスローディア生まれなのだが、フミハウの「透けるような」儚げな肌には及ばないところがある。

 そうしてにぎやかに。先勝祝賀会だったり編入試験終わっておめでとうパーティーだったりする時間は過ぎた。

……
…………
………………
「戻ったの、初音」
「うん。伊織」
「それで、明芳館を破った蒼月館、実際どんなものかしら……」
 薄暗く紗幕をかけてある部屋で。二人の少女が向かい合う。二人ともにまとうのは水色のサマーセーターと、紫のスカート。悠然と妖艶たる黒髪長身の少女は、小心翼々と身を縮める金髪獣耳の少女に問うた。
 部屋の奥には禍々しい雰囲気の木像。その瞳が怪しく光ったように見えた。

………………

以上でした、それでは!

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