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DIESEL文庫 2022/12/09 22:04

アルテミスの涙

作品説明
トップ営業マン“石田向樹”は社内恋愛の末、“嶋村優里”と婚約を発表した。

だが、支店長にて同期の女上司“江沼恭子”は優里とビアンの関係で……


序章~アルテミスの涙を手に入れるまで


遅刻するわけではないのに男はフルスロットルでバイクを会社に走らせた。

本社から支店のテコ入れとして派遣されたトップ営業マン“石田向樹”は支店に隣接する1Kの独身寮を断り、自分で支店から離れた2DKを契約している。

通勤手当は十分支給されているが、彼の乗る高級外車も10年目になる。
燃費が悪くなるも13年目、6回目の車検に合わせて買い換える計画のため、125ccの燃費の良いスクーターを購入し、通勤していた。

普段も早出で会社に向かっているが、今日はオフで出勤日ではない。
業務上のトラブルが発生し、支店長の“江沼恭子”に呼び出されたのだ。


目の前には、気の強い同期にて上司の恭子がいる。
怒りに震え、眉間に皺を寄せているが、ちょいとそこらではお目にかかれない整った顔立ちにキャリアウーマンを思わせるショートヘアが良く映えた。

トラブルは石田が率いる飛び込み営業部の社員が起こした契約内容についてであった。

会社は大手通信会社からインターネットと固定電話回線の契約を委託されている。
この契約で得るインセンティブこそが、会社唯一の大きな収入源なのだ。

原因はよくあることである。
「このオプションを三ヶ月間はやめないでください」というものだ。

インターネットの契約をする際に、必要のないオプションに入ってもらわなければ、高額なインセンティブを得ることはできない仕組み(依頼元からの圧力)になっている。
なので、「三ヵ月後には必ず外してくださいね」と強く伝え、契約書にも赤ペンで何重にも線が引かれていた……はずなのだが、

<何ヶ月たっても月々のインターネット料金が高すぎる!>とクレームの電話がかかってきたのだ。

もちろん、この契約時のクレームを懸念しているため、大手通信会社は契約を他社に委任している。
「さすが、本社の仕事って感じねっ!」

支店長の怒声が響くが、悪いのは理解せずに外すのを忘れた客や依頼元のシステムである。
だが、サービス業とは立場上、悪人に仕立てあげられやすい職種なのだ。

石田と恭子は同期だが、恭子は社長の姪っ子だ。
彼女の仕事はオフィスの奥で美味しいカフェラテを嗜むこと……


※※※


「あの女……営業のイロハも知らねぇで……誰が稼いで会社を潤してやってると思ってんだ!」

オフ出勤となり、石田自身が苦情客に連絡し、事は簡単に収拾したが、時刻は定時を1時間越えていた。
その帰りに、同じ支店で働く石田の恋人“嶋村優里”の部屋に寄ってのひと言だった。

「私……支店長がそんな人だなんて思えないわ」

優里の言葉に石田は憤怒の表情で振り向いた。

「俺より、あの女か?」

「そう言っているわけじゃないんだけど……」

恭子の支店の営業成績は関東圏内ではワースト1位である。
それもそのはず、社員一同でやる気がないのだ。

石田はその改善のために派遣されたが、多勢に無勢で、そのうえ恭子派の先輩社員も多く抱え、本領発揮が出来ないでいた。
恭子が態度を変えるのは石田だけなのだ。

それでも、派遣期間は今年度で終了である。
そして、優里という結婚を前提とした恋人に出会えたことだけでも、今回の派遣に意味があったと考えていい。

「気分が悪い……帰るわ……」

石田は来て早々、上着を羽織り、カバンを手に取った。

「えっ?」

立ち去ろうとする彼の裾を優里は掴んで食い止める。
その顔は恋する乙女のように頬を上気させていた。

「きょ、今日は安全日だから……生で最後までしてもいいんだよ」

石田はその言葉を背中に受け止め考えたが、如何せん石田も起伏が激しい男である。
最高のコンディションで彼女と夜を過ごしたかったが……

「だったら、オフ出勤で疲れてる男にかける言葉をもっと考えろよっ!」

石田はそう言い放って外に出て行ってしまう。

優里が借りたマンションの駐車場は契約者以外駐車は認められていない。
石田はバイクを駅前のパーキングまで歩いて取りに行かねばならない。

その道中の出来事だった。


「邪魔な奴がいる……違うか?」

道端に座り込んだ男がぬっと立ち上がり、石田の前に立ちふさがる。
フードを被り、白くこけた顔が印象的だった。

「……どうしてそう思う?」

石田は見透かされたので虚勢を張ったのではない。
自分は他人にパーフェクトな人間として見られたいという性格からでた言葉であった。

「そいつが死ねば……100点……否!貴公なら120点満点と言ったところか……」

「ウチの企業カウンセラーとして雇ってやりたいな……褒め言葉が的確すぎる」

「ふふふ……まぁコレがあれば、証拠を残さず悪人を24時間後に殺せる」

男は小さな小瓶をポケットから取り出した。

「アルテミスの涙……消したい奴に一滴飲ませばいいだけだ。
貴公にはおもしろそうな未来が見えるからタダで譲ろう」

香水の小瓶のようなデザイン。
思わず受け取り、男を見上げた。

「えっ!?」

男は忽然と消えていた。

「死神……?」

たが、確かに手にはアルテミスの涙が握られていた


会社に大損害を与えるあの女を殺す……

「支店長、今度の役員会議の件でご報告したいことがあるので、宜しいでしょうか?」

「何で、定時直前に言うかな~。 別にいいけど、手短にしてくれない」

会社のPCでネットサーフィンを楽しんでいたところを邪魔され、彼女は投げやりな態度でキーボードを叩きながら答えた。

「ここでは不味い話もありますので小会議室で話しましょう」

そう言われて、恭子は視線を石田に向けた。

「わかったわ」

恭子は仕方ないと、机に広げていたクーポン雑誌を閉じ、パソコンをロックした。

「明日はオフだから、早く帰りたいの。あなたに割ける時間は15分よ」と、言って席を立つ。


美味そうな身体をしているのに残念だよ。
その何十万かけてエステで磨いた自慢のスタイルも見納めか……

「では、僕も珈琲を淹れてから向かいます」

石田は途中、給湯室で珈琲を淹れた。
そこに昨日の死神からもらったアルテミスを垂らす。

目薬のような……何か涙のような雫がポツンっと落ちたのが印象的だった。

ああ……勿体無い……大事な子宮が……


小会議室で待っている恭子に珈琲を渡す。

「ありがとう……ねぇ?」

「ん?」

話しは恭子から切り出された。

「あの子とは毎晩やってるの?」

そう言って、恭子はひと口珈琲を飲んだ。
あの死神の言葉が本当なら24時間後に彼女は死ぬ。

「お互い次の日がオフなら」

石田は口角を上げ、自分の珈琲を口に含む。

「そう……だから、あの子とシフトが噛み合わない様してあげてるのよ」

「わかっていますよ。 だからこそ、やる日には『このアマぁ!』って、俺の剛直を渾身の力で突き上げ、あいつの一番深い奥底で熱い生命の源を思いっきりぶち撒けてやるんです」

恭子は怪訝そうな顔で体で表現する石田を睨んだ。

「あの子に男の味を覚えさせやがって!」

―-ピシャッ
恭子はカップ内の珈琲を石田にかける。

石田は動じることはなかった。
思ったより、量が少ない。

飲んだか……

「僕も貴女も30を越えた。男と女が一箇所にいたらSEXしかやることないだろうに」

「ふんっ、そうね」

恭子はウエストラインに手を這わせてからスカートを捲り上げた。
エレガントピンクのパンティーが露になり、ほわっと甘く温かい香を立ち上らせる。

「どう?」

「……まぁ悔しいが、同級生の女達では貴女が圧倒的に一番いい女だと認めざるを得んな」

「私は男に興味がなかったから、今の今まで男に身体を触らせたことがないわ」

「ほう……」

「女に恥をかかす気?」

恭子の言葉で石田は上着のボタンを外しはじめた。

「女に恥をかかせてはいけない……それが俺の掟だ」



次の日の夕方。

恭子と優里はオフ。
石田は仕事、前もって知らされる遅くまでの残業日であった。

「昨日、会社で石田君とやったわ」

そう恭子はヒトケのない公園で優里に呟いた。
公園は駅前だが、少しだけ通りからはずれている。

「え……何で向樹さんとっ!?」

優里は恭子につかみかかる。
石田と出会う前の優里は恭子とビアンの関係だったのだ。

田舎娘の優里は石田の話術で巧みに部屋に連れ込まれ、酒を飲まされた挙句に避妊無しでレ○プされ、大量の灼熱を何度も流し込まれた。
だが、石田は泣く優里を一晩中、頭を撫で、抱きしめ、ビアンにはわからない男の味を覚えさせたのだ。

「彼が私を小会議室に連れ込んでね……後ろを向けって……っ。
やめてって言ったのに…これでもかって言うくらい乱暴に突き上げられてしまったわ」

「そ、そんな……」

「ふふふ、今日、貴女が私をここに誘ったのは私との(肉体)関係を完全に終らせることと(彼に)絶対に口外しないでってことでしょう?
彼を本社なんかに帰さないわ! 貴女も寿退社なんてさせない、あいつと結婚して幸せな人生になんて絶対に許さないからっ!」

「は、話が違う!」

優里は石田と付き合い始めた頃、恭子に関係を断つよう申し出た。

だが、恭子は「彼をもっと空気の美味い地方に飛ばせる」と脅した経緯があったのだ。

優里は石田が本社に戻りたいことを知っている。
いやいやながらも恭子に優里は彼の出向が解けるまで抱かれたのだ。

「私、彼が会議室に来る前に室内カメラの電源を入れといたの……わかるわね?
彼を本社に報告して諭旨解雇にするわ。
でも、仕方のないことよ。彼は男だから裏切る……そして、私のスポーティーな引き締まる身体を見たら、誰だって嘗め回したくなるもの……」

恭子は肉薄する優里の目の前で指をチロチロと舐める動作を見せた。
それはフェラチオだ。

「ごちそうさま……。とっても濃厚で美味しかったわ、貴女の男の放った命の味……」


向樹さんの好きな裏筋舐め……

「そ、そんなのダメぇぇぇぇッ!!」



次の日の朝。
朝礼の時間になっても恭子は姿を表さない。


……死んだか?
石田は笑みを浮かべて優里の席に歩み寄った。

「優里、珈琲淹れてくれるかい?」

「……うん」


―-ガッ!!
突然、勢いよく扉が開く。

「茨成県警ですが失礼しますよ」

私服の警察が手帳をかざしながら、数人入ってくる。

「何だテメェら?」

石田が警察に詰め寄ると、警察は石田に目もくれず―-



「嶋村優里さん……昨日の夕方、江沼恭子さんと会っていましたね?」


「―-ッ!?」

石田は優里を見た。
ちょうど夕方5時ぐらいに恭子が死ぬ予定だ。

優里の表情は青白く引きつっていた。

「江沼恭子さんの遺体が早朝、駅前の公園で発見されました。
江沼さんの通話履歴、そして貴女ともみ合っている目撃証言がありました、署まで同行してもらえるね?」

「待っ―-」

石田が動いた瞬間、

「お話聞くだけですから!」

女性の警察にしっかりと止められる。


「……向樹さん……ゴメンね」

優里は石田に向かって嗚咽のような声を洩らすと、その目には大粒の涙が零れ落ちた。

「昨日……やっぱり、貴方の部屋に行けばよかった……」

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