【分かりやすくて実用的な理論!】ブレイク・スナイダー・ビート・シート

ブレイク・スナイダー・ビート・シートとは?

 ブレイク・スナイダー・ビート・シートについて紹介します。ブレイク・スナイダー・ビート・シートとは、その名の通りブレイク・スナイダー氏が提唱している理論で、物語を15のパートに分割しています。「起承転結」「三幕構成」の親戚のようなものと思ってもらえば分かりやすいかな、と。

 ブレイク・スナイダー・ビート・シートがどのようなものであるかを、僕の解釈をまじえて分かりやすく解説すると共に、より具体的に感覚をみなさんに掴んでいただくために、具体的な作例として「てんたくるす☆うぃっちは元女子校生!!」のプロットも載せていきます。もっともこの記事をご覧になられているみなさんが全員創作活動をされている方ばかりというわけではなく、同人エロゲーはプレイする専門という方もおられるかもしれないので、人によっては何にも参考にはならないかもしれませんが、その場合はすみません。

15のパートとは?

 以下の通りです。

【第一幕】
・オープニング・イメージ
・テーマの提示
・セットアップ
・きっかけ
・悩みのとき

【第二幕の前半】
・第一ターニング・ポイント
・サブプロット
・お楽しみ

【ミッドポイント】
・ミッドポイント

【第二幕の後半】
・迫りくる悪い奴ら
・すべてを失って
・心の暗闇

【第三幕】
・第二ターニング・ポイント
・フィナーレ
・ファイナル・イメージ

オープニング・イメージ

 物語はここから始まります。本書によれば、映画の第一印象を決めるものなのだそうです。本書はあくまでも映画の脚本術について解説した本ですが、小説や漫画やゲームのように、映画以外の媒体であっても応用は効くはずだと思います。

 【作例】物語の主人公である記憶喪失の少女・亜久浜花子が、見知らぬ場所で「ここはどこニュル? 私は誰ニュル? 」と独り言をつぶやき、困惑している場面です。

テーマの提示

 登場人物の内誰かが、物語の題材に深く関連した発言をします。一般的にテーマと呼ばれるものですね(厳密には題材とテーマは異なるものなのですが)。

 【作例】花子の友人の神崎由愛が、花子に対して「もし魔法の力で世界を変えることができるとしたら、どんな風に変えたい? 」と問いかける場面です。

セットアップ

 後に登場人物が問題を引き起こす原因がここで描写されます。主人公がどのように変化すべきなのかが示されます(つまり、間違いが正される前、成長する前の、もとの主人公の姿が描かれるのです)。

 【作例】王政を転覆させるために必死に政治活動を行う信徒たちの姿を見て、「ふふっ! 体制に抗おうとするなんて時間のムダニュル。そんなことをしても世の中は何も変わらないニュルのに……」と嘲笑する場面です。

きっかけ

 大げさな言い方をすれば、「セットアップ」で一度構築した「古い世界(テーゼ)」を完全に破壊し、その逆の世界(アンチテーゼ)を観客に見せるパートなのだそうです。分かりやすく言えば、平和だった日常生活が幕を閉じ、危険と波乱に満ちあふれた非日常の戦いが始まる、そのきっかけとなる出来事をかくということです。

 【作例】アジトにて共同生活を送っている者たちの内ひとりが、由愛を殺害したことが判明する場面です。大切な親友である由愛が死亡することにより、花子は心が引き裂かれそうになります。

悩みのとき

 「きっかけ」で問題や事件が発生したことによって主人公はそれを解決しなければならない立場になってしまいますが、ここですぐに行動に移すことはしません。本当にそのような行動をしてもよいのかどうか、時間をかけてじっくりと熟考することが主人公には必要なのです。そして、やはり「問題を解決するために行動する」という結論を出し、物語は「第一ターニング・ポイント」へと突入していきます。

 【作例】花子が、由愛を殺害した者に復讐したいと思う一方で、由愛を殺せるほど強い者なら自分も返り討ちに合う危険性があるかもしれないと考え、戦うことを躊躇してしまう場面です。戦うべきか、戦わずに手を引くべきか、花子は迷います。そうして、やっとの思いで花子が出した結論は、真犯人を見つけ出して復讐し、容赦なくその命を奪うというものでした。

第一ターニング・ポイント

 「悩みのとき」で「問題を解決するために行動する」と明確に結論を出し、勇ましく決断した主人公は、いよいよそれを実行に移すこととなります。ここで完全に問題が解決したら物語が終わってしまうので、この時点では問題は解決しませんし、主人公もそんなに成長しておらず相変わらず「セットアップ」の頃と同じように「間違った認識」を持っているままです。それどころか、問題が解決してもいないのに、「問題は解決した」と勝手に錯覚し、勘違いしている状態です。その勘違いが解けぬまま物語はいったん平和になり、比較的明るく温かく穏やかなパートである「サブプロット」へと入ります。

 【作例】花子は由愛を殺害した真犯人を突き止め、殺害することに成功します。真犯人は殺される直前に、由愛を殺害するように自分に指示を出した者がそもそも由愛自身であり、この殺人事件が自作自演の茶番であると語りますが、花子はその言葉を一切信じませんでした。真犯人に指示を出した黒幕がどこかにいるはずだと考えた花子は、これからも黒幕を探し続けようと決意します。

サブプロット

 波乱万丈で、苦しくて激しい戦いが繰り広げられる第一ターニング・ポイントとは打って変わって、サブプロットでは穏やかなストーリー展開となり、第一ターニング・ポイントの戦いで疲れ果てた主人公の心が癒されるひとときです。たいていの場合、ここでは主人公とメインヒロインのラブストーリーが描かれるそうです。

【作例】花子と、物語のメインヒロインであるリリアナ・クリエスターの交流が描かれます。リリアナと一緒に時間を過ごすことにより、大切な親友を失って傷ついた花子の心は少しずつ癒されていきます。

お楽しみ

 観客に対するお約束を果たす場なのだそうです。「お楽しみ」という言葉の通り、楽しい場面がきっと多いのでしょうね。

【作例】「てんたくるす☆うぃっちは元女子校生!!」は同人エロゲーなので、お楽しみ要素と言ったら当然セックスになるでしょうね。このパートは徹底的にエロシーンを入れまくります!(全年齢対象版だとこのシーンは全てカットですww)

ミッドポイント

 このミッドポイントを軸にして、シナリオの方向は180°逆の方向に転換していきます。この「ミッドポイント」における主人公の幸福度はちょうど「すべてを失って」のパートと正反対になり、この2つはペアのように対になる存在らしいです。ミッドポイントが見せかけだけの幸福ならすべてを失ってでは不幸になりますし、ミッドポイントが不幸ならすべてを失ってでは見せかけだけの幸福を得ることになります。「見せかけだけの偽りの幸福」ではない、真の幸福は物語の最後にならなければ訪れません。

【作例】死んだと思われていた神崎由愛は実は生きていたことが判明します。しかも、花子は、悲願であった由愛との再会を果たすことが出来ました。真犯人が口にしたことは全て間違いなく事実であり、真犯人によって由愛が殺害されたあの事件は、自作自演の茶番劇だったのです。

迫りくる悪い奴ら

 ミッドポイントでは、悪役は敗北し、一見主人公は何もかもうまくいっているかのように錯覚します。しかし、それはあくまでも表面的な幻想であるに過ぎず、実際には根本的には何も問題が解決していません。悪は滅んでなどいないし、主人公も学ぶべき大切なことを学べておらず成長もできていないままです。このパートにて悪役たちは態勢を立て直し、主人公をさらに激しく攻撃する準備を徹底的におこないます。一方、主人公の側にも問題が発生します。仲間との間に意見の食い違いが起こり、疑いや嫉妬などの原因によって結束力が弱まってしまいます。

【作例】反体制派の宗教組織である「スレード教団」には、「カーティス派」と「フランド派」という二大派閥が存在します。フランド派は穏健な派閥であり特に危険な勢力ではありません。その一方で、カーティス派は過激な派閥であり、民の大量虐殺を計画し、違法な人体実験やカニバリズムにも傾倒している、極めて危険な勢力です。花子とその仲間たちは、カーティス派の恐るべき企みをついに知ることとなります。また、頼もしい味方になってくれるはずだと信じていた由愛は、花子のことを裏切って敵になり、カーティス派に加勢することとなってしまいます。親友が自分を裏切ったことに対し、花子は大きなショックを受けてしまいます。

すべてを失って

 大きな苦難と試練が、主人公を襲います。このときの主人公の心は失意のどん底に叩き落され、希望も失われます。またさらに、主人公の仲間や身内の中から、死人が出てしまいます。

【作例】花子とその仲間は、みなの共通の敵たる「カーティス派」を討伐するために、「フランド派」や「死霊術師会議」、「人類救済戦線」などさまざまな勢力と協力関係を結びます。その名も「同盟軍」です。かつて敵同士だった者たちも、こうなってはいよいよ、過去の憎しみや遺恨を一時的に水に流し、手を取り合うしかありません。

 しかし、光属性魔法を操るカーティス派はあまりにも強く、同盟軍の力をもってしてもそう簡単に勝てる敵ではありません。カーティス派にも死者は出ましたが、それ以上に同盟軍からは多数の死者が出ました。花子の仲間たちの中からも死者が出てしまい、花子は悲しみと絶望に打ちひしがれます。

心の暗闇

 夜明け前の闇のような、暗く静かなパートです。「すべてを失って」で大切な者の死を経験した主人公には、物事を深く考える時間が必要なようです。

【作例】同盟軍は多数の死者を出しながらも、カーティス派を討伐し、カーティス派による恐るべき大量虐殺の計画をついに阻止することに成功します。しかし、本質的な問題がいまだ解決していないということが、花子の心をモヤモヤさせます。趣味がガーデニングとお菓子作りで、ベジタリアンで、虫けら一匹殺すことも躊躇する老人のカーティスが、何故大量虐殺に賛成したのか、花子は不思議に思いました。花子には、物事を深く考える時間が必要でした。 

第二ターニング・ポイント

 ついに主人公は解決策を見つけます。悪役と主人公の全面対決である、「フィナーレ」に向けてますます物語は盛り上がっていきます。

【作例】紆余曲折を得て、一連の出来事の真の黒幕が実は神崎由愛であったことを知ります。あの厄介で強大な敵のように思えたカーティス派ですら、由愛に比べれば小さな脅威であるにすぎなかったのです。本当に必要なことは、真の黒幕たる由愛を倒すことなのだと、初めてこのとき気が付きます。花子と由愛の壮絶な戦いがいよいよ幕を開けます。

フィナーレ

 教訓を学んで成長した主人公は、間違った認識ではなく正しい認識を持つようになります。また、悪役は倒れ、主人公が勝利します。

【作例】ネタバレ防止のため非公開

ファイナル・イメージ

 オープニング・イメージとは全く異なった光景が描かれます。このパートが物語のラストシーンとなります。

【作例】花子は世界の物理法則をまるごと書き換え、時間や空間や次元さえも操作する、全知全能にも近い圧倒的な力を手に入れます。しかし、魔力の残量にも限界が来ているので、この力を使って世界を変えるチャンスはたったの一度きりです。果たして、花子は魔法を使って世界をどのように改変するのでしょうか? 物語の驚くべき結末は、本編を読んでからのお楽しみです。

「世界を変えるニュル! 」

余談

 「主人公は最後は勝って幸せになる」というのがよくある定番のシナリオとはいえ、主人公が世界改変の力を手に入れて、物理法則をまるごと書き換えられるようになるというのはさすがにやりすぎ感がありますね……それまでの途中過程で不遇だったりめちゃくちゃ苦労したりしてるから、まあ、いっか……ww


出典

SAVE THE CATの法則(2010,株式会社フィルムアート社)
著 ブレイク・スナイダー
訳 菊池淳子

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