勿忘草 2023/03/01 20:48

誕生月 特別プレゼント企画です♥️是非ご参加ください!

勿忘草です。

もう3月なんて早いですね!

初めての方よろしくお願いいたします。
特別プレゼント企画に是非ご参加ください!

3月は勿忘草の誕生月です!
なので特別企画を企画しました!

また応援頂きありがとうございます。
私は何度も何度も挫けそうでした。
応援の温かいお言葉がなければ継続出来なかったです。

そして小説に重大な誤字がありまして大変申し訳ありません。
また私の記事に失礼がありました事も謝罪致します。
あらためて深くお詫び申し上げます。

特別プレゼント企画にご挑戦ください!

ご正解された方に3000円をプレゼントします♥️

どなたでも参加できます!
企画詳細は説明をご確認ください。よろしくお願いいたします。


また勿忘草の誕生月なので想い出深い漫画作品をご紹介しています。

特別プレゼント企画


特別プレゼント企画にご挑戦ください!

ご正解された方に3000円をプレゼントします♥️

どなたでもご挑戦出来ます。
また先着順ではありませんのでお時間ある時にご回答ください。

3月7日(火曜日)が締め切りとなります。
締め切りまでにゆっくりお時間ある時にご挑戦ください。

またご正解でなくても、不正解とは言えないご回答を頂いたクリエイター様にはご活動応援500円のプレゼントをさせて頂きます。こちらは有料クリエイター登録されている方に限定となりますのでご理解ください。

正解はシンブルです。

今回は3回目なので本格的な推理小説となります。
少し文章量がありますが、この短編小説はミステリーが苦手な方にも読んで頂けるように意識して創作しています。

小説とミステリーが苦手な方も是非ご挑戦ください♥️

挑戦状へのご挑戦お待ちしています!

今回は名前の誤字があっても大丈夫です。
関係者紹介と図面を確認して頂きましたら正解する事が可能です。

重要な誤字があっても全体の概要から正解のご回答が可能です。ご安心ください。


勿忘草の小説を既読済みの親愛なる読者様へ

今回の短編『消えた封筒』は7月の出来事となります。
混乱がないように文芸部シリーズの時系列をご紹介します。

消えた封筒 7月

カフェ『ヴィオレ』の謎 8月 夏休み

チョコラテの謎 翌年の2月 バレンタインデー

今回の短編のみでも勿論作品として問題はありません。

消えた封筒

この小説に登場する小説やゲームは実在します。
それ以外はフィクションとなります。

………………………………………………

桜ヶ丘高校 事件関係者 

葵まこと あおいまこと
主人公 読書が好きな男子 1年2組 文芸部

本仮屋真由 もとかりやまゆ
読書が苦手な寡黙な少女  1年5組 文芸部

佐倉彩花 さくらあやか
ツインテールの美少女   1年3組 文芸部

千本木京香 せんぼぎきょうか
才色兼備の謎めいた少女  1年3組

相沢かなえ あいざわかなえ
物静かな眼鏡の少女    1年4組

荒木圭吾 あらきけいご
大人びた茶髪の男子    1年1組

武田祐介 たけだゆうすけ 
日焼けした短髪の男子   1年1組 野球部

鮎辻先生
1年3組の担任 学年生活指導担当の教師

愛川幸太郎 あいかわこうたろう
1年 野球部

平沢あずさ ひらさわあずさ
1年 軽音部

………………………………………………

事件現場図面


夏の雷鳴


(女生徒の靴下は紺色のハイソックスに限定して欲しい)

このリクエストが、学校の整備とどう関係あるのだろう?
僕以外は誰もいない教室で、アンケート用紙を見ながら考えた。

もっと意味がわからない要望もある。

(体操着をブルマにして欲しい)

こちらは女生徒とは書いていない。
ブルマとはなんの事だろう?
ワード検索してみたいが、スマートフォンは鞄の中だ。
両方とも無記名なので、切実な案件ではないだろう。

重要案件は氏名を記入するように、アンケート用紙にしっかり表記がある。


7月の夏休みも近い教室に、僕は独りでいた。
まとめているのは、学校の施設や整備に関してのクラス別のアンケートだった。

 この(いま)と言う瞬間は、二度とないかけがえのないものだ。本来なら、友人や恋人と大切な思い出をつくったり、将来の夢や目標に向かって、有意義な時間を過ごすべきなのだろう。

しかし僕には恋人どころか、友人すらいない。

 そして心から沸き起こる、成功への野望も、多くの人に認められたいと言う承認要求もなかった。この曖昧な、ありきたりの時に価値などあるのだろうか?

そう思うと言い様のない罪悪感が、僕の胸を締め付ける。

 しかし価値など、社会や他者が判断する相対的な物でなく、主体的な物ではないだろうか。そもそもこの息苦しい世界に、価値などあるのだろうか?

いずれにしても、不本意だけど、いまはやるべきが事がある。
整備委員として、引き受けた責任は果たさないといけない。

「いい加減にしてよ!私は知らないから!」

「あなたこそいい加減に白状しなさい!」

「馬鹿なんじゃない?本当に怒るわよ!」

隣のクラスから、女の子同士の怒鳴り声が聞こえる。
隣のクラスは1年3組だ。
あの大声の片方は、同じ文芸部の佐倉彩花の声だろう。

窓の外では、土砂降りの雨が降っている。
大きな雨音の中でも聞こえる大声だ。
僕はまとめ終わったアンケート用紙を、クラス指定の封筒に入れる。
教室の時計を確認すると16時30分を少し過ぎていた。

「私は席を立ってもいないし!何度言ったらわかるの?馬鹿なの?」

犯罪よ!嫌がらせにしても酷すぎるわ!

私が服を脱いで、裸になれば信じるわけ?!

犯罪と聞いては放って置けない。
さらに服を脱いで、裸になるならなおさらだ。

アンケート用紙をまとめた緑色の封筒を確認する。
そしてその封筒を鞄にいれると、僕は隣のクラスに向かった。
面倒な事には関わりたくないけど。


隣のクラスでは、2人の女生徒が激しく言い争いをしていた。

「いい加減にして!私はもう帰るから!」
 佐倉彩花がツインテールを揺らして、僕のいる扉に向かって来る。

「どうしたんだ?」
 僕は明らかに不機嫌な佐倉に声をかけた。

「あんた邪魔!そこどいてよ!」
 佐倉が僕を押し退けるようにそう言った。

「あなた名前は知らないけど。その犯罪者を逃がさないで!」
 ボブヘアの美しい女生徒がそう言った。確か学校で有名な千本木さんだ。

「どういう事なのかな?千本木さんだよね」
 僕は美しい少女に声をかける。



「どなた?あなたと話した記憶はないけど。どうして私を知っているのかしら?」
 千本木さんは、美しい人形のような顔を僕に傾けた。

「千本木さんは有名だから。学期末テストも一番だったよね。僕は隣のクラスの葵だよ。何か困り事かな?」
 千本木さんは、美しい容姿で学校で有名な美少女だ。さらに学年で一番成績が良いのだから、学校で千本木さんを知らない生徒はいないだろう。

「佐倉さんが、大切なアンケートの封筒を盗んだのよ」
 千本木さんが、佐倉の腕を掴んでそう言った。

「手を話してよ!そんな封筒を盗んでなんになるの?」
 佐倉が、千本木さんの腕を振り払い言い返す。

教室の中は全て確認したわ。あんな目立つ緑色の封筒が見つからないのはおかしいでしょ
 千本木さんは教室を見回しながら言う。

「私の鞄の中も見せたでしょ?!後は服でも脱げばいいわけ?」
 佐倉はスカートをめくるように片足を持ち上げた。

僕は佐倉の紺色のハイソックスの白い太股に、ついつい視線を向けてしまう。
夏だと言うのに肌は白く美しい。
ただでさえ短いスカートの綺麗な白い脚は、余りにも刺激が強すぎる。


「お……落ち着け…佐倉!何か出来る事があれば手伝うから」
 僕は慌てて白い太股から視線をそらして、佐倉を止める。

「あかいくん?悪いけど、これから佐倉さんが制服を全部脱ぐから。教室を出て行ってくれるかしら」
 千本木さんは、とんでもない事を当然のように言った。

「あ……アンケート用紙を入れた緑色の封筒だよね?夏服の制服に隠すのは、無理があると思うけど。それと僕はあかいでなくて、葵だよ」
 まさか本当に佐倉が、制服を全部脱ぐとは思えないけど。

もし服を脱ぐなら、第三者の証人として立ち会うべきではないだろうか?これは千本木さんに負けず劣らず、有名な美少女である佐倉の裸が見たいわけでは決してない。

「なに?あんたも私の裸を見たいの?」
 佐倉が僕の心を見透かしたように、真っ直ぐ瞳を見つめて来る。

「ち……違うよ!ふ…封筒が見つかればいいんだよね」
 僕は慌てて否定した。

「そうね。確かに私も夏服の制服に封筒を隠すのは、難しいと思うけど。それしか可能性がないでしょ?消去法で論理的な思考の結果よ」
 千本木さんは本気で言っているのだろうか。

「わかったわ。そこまで言うなら脱ぐわ!そのかわり私が犯人じゃなかったら、私の言う事を何でも聞くって約束して
 佐倉はツインテールを揺らして、千本木さんに詰め寄る。

いいわ。約束するわ
 千本木さんが答える。

「ち…ちょっと待って…僕が考えて見るから…詳しく状況を教えてくれるかな?」

校舎の外で大きな雷鳴の音が響きわたる。

こうして僕は佐倉彩花の裸を見る機会をなくした。


1年3組


佐倉以外に誰もいない教室で、アンケート封筒が千本木さんの机の上から消えてしまったんだね
 僕はあらためて状況を確認した。

「とても単純よ。私は教室を出てすぐに戻ったの、廊下には誰もいなかったわ。そしてこの教室には佐倉さんしかいなかったのよ。佐倉さん以外に論理的に犯行は不可能でしょ?」
 千本木さんはそう言うと左側の階段の方を指差した。

「誰も教室には、入って来なかったんだな?」
 不服そうに腕を組んでいる佐倉に僕は聞く。

私は気がつかなかったわ。誰にも声もかけられてないし。だから、この偉そうな千本木の自作自演でしょ。私に責任転換しないでよ!」  
 本人がそう言うなら、この教室には佐倉しかいなかったのだろう。

「だいたいなんで、教室に残っていたのかしら?佐倉さん」
 千本木さんはあくまでも納得出来ないようだ。

「私は小説を読んでいたのよ。それに雨が止むかもしれないし。アンケートの封筒なんてしらないわよ!」
 佐倉がまだ雨が激しく降る教室の窓を見ながらそう言った。

佐倉の黒板に近い、窓側の机の上には小説が置いてある。
タイトルは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』だった。

「本を読んでいたら、誰か来ても気がつかないかもしれないだろ?この教室の扉が開いていたなら」
 僕はまだ読んだ事がない独創的なタイトルの小説を見ながらそう言った。どんな砂糖菓子の小説なのだろうか。

「私は声をかけられてなくても、千本木がこの教室から出て行って、また戻って来たのにすぐ気がついたけど」
 佐倉がそう言って、廊下に向かって左側の扉を指差した。

3組の教室の扉は両方開いていたんだね?
 僕は両方の扉を確認しながらそう聞いた。

「私は冷房が苦手だから。この教室の扉は両方開いていたけど
 佐倉が冷房が苦手な事を、同じ文芸部員の僕は知っている。

「千本木が教室に戻って来たのに、すぐ気がついたわ」
 佐倉はツインテールの髪先を触ってそう答える。これは佐倉が考え事をする時の癖だった。

「それじゃ封筒が消えたのは、魔法か、超常現象かしら?」
 千本木さんは、魔法使いのように大袈裟に両手を広げる。

「私はこの教室の廊下に向かって左側の扉から、廊下の図書館側の階段に向かったの。またすぐに戻るつもりだったけど、アンケートを机の上に置いたままなのに、1階まで降りて気がついたのよ。重要ではないけど、個人情報もあるでしょ?だからすぐに教室に戻ったのよ」
 千本木さんは、あらためて自分に確認するように説明した。


 桜ヶ丘高校の図書室は図書館と言われる。実質的な図書室は図書館の3階にあった。2階と1階は学習室と資料室だ。この構造により、通常の高校より蔵書が多い図書室が、利用者が少ないのだから、構造的に問題ではないだろうか。廃部寸前の人数しかいない、文芸部員として感慨深く思う。

しかし当面の問題は、アンケートの封筒の紛失だ。

「教室を出た時も、戻った時も、廊下には誰もいないのを確認したんだね?」
 僕は学校で有名な美少女に、とても重要な事を確認した。

「教室から廊下に出た時に、廊下の左側も右側も確認したわ。また階段から廊下に戻った時も、廊下には誰もいなかったわ」
 千本木さんは桜色の唇に人差し指を置いて続ける。
「もっと正確に言うと16時18分にこの教室を出たの。そして廊下に誰もいないのを確認して、図書館側の階段に向かったわ。階段を降りて1階で気がついて、すぐに教室に向かったのよ」

「よくそんなに、正確に時間がわかるね?」
 僕は千本木さんの桜色の唇を見ながらそう言った。

「スマートフォンで確認したから。アンドロイドは正確でしょ?教室に戻って、机に封筒がないのに気がついたのは16時20分だったわ。1~2分よ。佐倉さん以外に犯行は不可能でしょ?」
 そう言うと、千本木さんは唇から離した指で佐倉を指さす。

「だから私じゃないから!この偉そうなヤツの自作自演でしょ」
 佐倉も怒って千本木さんを指差し返す。

「なんのために自作自演するのかしら?」
 千本木さんは、佐倉を指差した手をおろしてそう聞いた。確かにもっとな疑問だと僕は思う。

「アンケートに自分に都合が悪い事でも書いてあったんじゃない。それを担任の綾辻先生に見られたくないからでしょ」
 佐倉が千本木さんに、犯人に詰め寄る探偵のようにそう言った。

1年3組の綾辻先生は学年の生活指導も担当する教師だ。

「佐倉さんは論理的な思考が出来ないのね。もしそれが理由なら、その都合が悪いアンケートだけ、破棄すればいいでしょ?封筒ごと破棄するのは不自然よ」
 千本木さんはあくまでも冷静だ。優秀な弁護士のようにその反論は理路整然としている。

「それじゃ、私がそのアンケートの封筒を盗む論理的な理由は何よ?」
 佐倉も負けていない。僕は佐倉が見た目より、頭脳明晰な事を同じ文芸部員として知っていた。

「それこそ佐倉さんに都合の悪いアンケートがあるのが、理由じゃないかしら」
 自信に溢れた声で千本木さんはそう言う。

「私は整備委員でもないのに、なんでアンケートの内容がわかるわけ?だいたい委員長の千本木が、どうしてアンケートを持ってるのよ?」
 そう佐倉が言う通りだ。

 夏休み前に実施された、整備強化アンケートをまとめるのは整備委員の役割だ。事実この大雨なのに早く帰らず、学校に独り残って、アンケートを孤独にまとめているのは、僕が整備委員だからだった。

「私はクラス委員長として、アンケートの内容を確認する責任があるのよ」
 千本木さんは桜色の唇に、人差し指をおきながらそう言った。これは千本木さんの癖なのだろうか?人形のように美しい顔の、桜色に濡れたような唇は、とても魅力的だった。

「机の上にアンケートを置いたままは、問題だと思ったんだね?」
 僕はこの終わりそうにない議論から、話をそらすようにそう聞いた。

「そうね。だからすぐに教室に戻ったの。私が教室を出る時に、緑色の封筒は、確かに私の机の上にあったわ。私は嘘は言わないの」
 千本木さんは、桜色の唇から離した人差し指で、教室の一番後ろの机を指さす。

「私も嘘は言ってないけど!」
 佐倉がツインテールを揺らしながら怒っている。


閃光のあと、窓の外で落雷の音が響き渡る。


 「わかった!佐倉も千本木さんも嘘をついていない前提なら現場を封鎖するしかない!第三者の犯行かもしれない」
 僕はサスペンスドラマの刑事のようにそう言った。本来なら学校でも有名な二人の美少女と、三人だけで教室にいるなんて幸運な事なのだろうけど、この状況は幸運とは決して言えない。

「第三者の犯行は無理な状況と思うわ。私は図書室に行こうと思ったの。アンケートの封筒を机に置き忘れたのに気がついて、教室に戻ったのに必要な時間は1~2分なのよ」
 机に座った千本木さんはそう言うけど。

お互いが正しいと思う事を譲らず主張するから、この世界にはいつまでも争い事や戦争がなくならないんだよ。真相は二者択一でなくて、第三の選択にあると僕は信じているよ
 僕は不服そうな千本木さんと佐倉にそう伝えた。

「なかなか深い哲学的な事を言うのね。アウフへーベン。弁証法?ヘーゲルやマルクスを読んだのかしら」
 そう言うと千本木さんは、また桜色の唇に人差し指を置く。

「哲学なんて机上の空論よ。あんた結局何が言いたいわけ?」
 佐倉がツインテールの髪先を触りながらそう言った。

「クローズドミステリーにする必要があるんだよ。敢えて言うけど、僕なら犯行は可能かもしれない。しかし僕は犯人じゃない!なにより動機もない。しかし僕なら物理的に可能だ」
 僕は自分の教室を指差して続ける。

「僕の教室には誰もいない。また誰も入って来なかった。だから2組に犯人はいない。いまなら間に合う。この階の全ての教室を確認して来る」
 僕はもう遅いかもしれないけど、貴重な証言が得られる可能性にかけた。

しばらくの間、教室を静寂が支配する。
窓の外の雨音だけが、大きく聞こえた。

 佐倉しかいない教室で、1~2分の間で封筒が消えてしまうのは、千本木さんが言う通り、超常現象でないなら不可能な状況だ。この世界に超常現象などあるのだろうか?しかしこの世界には、人智を超える神隠しのような、消失事件がある事実を僕は思い出した。

 突然物が消えてしまう、アポーツと言う現象を聞いた事がある。この大雨の中の人気のない薄暗い校舎は、超常現象が起きる舞台としては相応しい。

静寂を破るように、窓の外でまた落雷の音が響き渡る。


「わかったわ。あかいくん。そこまで言うなら、私は佐倉さんとこの教室に残るわ」
 千本木さんは少し考えてから、頷いて同意してくれた。相変わらず僕の名前を間違えているけど。
 
「葵だけど…急いで戻るから2人はこの現場を離れないで欲しい!」
 容疑者である2人が、現場の教室に残る事はとても重要なので、僕は大きな声でお願いした。

「私は早く落ち着いて小説の続きが読みたいの。あんた急いでよ」
 佐倉から、名前を呼ばれる日は来るのだろうか?


1年4組


私立桜ヶ丘高校の校舎は人気がない。

薄暗い廊下に雨音が響き渡る。
大雨は少し弱くなって来たけど、まだ雨音が大きく聞こえた。
ほとんどの生徒は大雨の前に帰宅している。屋外の部活動は今日は中止と言っていだけど、文化部や体育館での活動は行われていた。
部活動の生徒が教室に戻るまでの時間が重要だ。


1年生のクラスは5組ある。
一番重要なのは現場の隣の1年4組だ。
僕は音を立てて扉を開ける。

「あのすいません。相沢さんですよね。ちょっといいですか?」
4組の教室の扉を開けると知っている女生徒が残っていた。

「葵くん?なに?珍しいわね葵くんがこのクラスに来るなんて」
 眼鏡をかけた相沢さんは、スマートフォンから顔をあげて不思議そうに僕を見る。

「相沢さんは1人でこの教室にいたのかな?」
 相沢さんはふっくらとした物静かな女生徒だ。

「うん…雨が降り止んでから帰ろうと思って。アンケートの件?同じ整備委員だもんね」
 相沢さんは、机の上に置いた緑色の封筒を持ち上げてそう言った。
「まだ先生は残ってるから、雨が止んだら職員室に提出しようと思って。まだ提出していないんだ」
 相沢さんが申し訳なさそうにそう言う。

「僕もこれから提出しようと思って。一応アンケートは個人情報だから鞄に入れて持っているんだ」
 僕は肩にかけた鞄を指さした。個人情報と言っても無記名の生徒もいるし、学校の整備問題が漏洩しても問題にはならないと思うけど。それより大切な質問が優先だ。

「アンケートに関係はあるけど…相沢さんはどのくらいこの教室にいるの?」
 まだ3組のアンケートが紛失した事は言うべきではないだろ。

「30分くらいかな?正確にはわからないけど…」
 相沢さんはスマートフォンと教室の時計、両方を確認して言った。いかにも真面目そうな相沢さんらしい。

「アンケート内容の確認をしていたのかな?」
 僕と同じように、整備委員として確認をしていたのだろう。

「『天下統一恋の乱』をしていたの」
 相沢さんはスマホの画面を見せてそう言った。

「天下統一?」
 スマホの画面には、少女漫画の登場人物のような美男子が微笑んでいる。

「スマホの乙女ゲームなの。女の子に人気あるんだよ。声優さんが凄く豪華なんだ。私の推しは上杉謙信」
 相沢さんはスマホを見ながら愛しそうにそう言った。

「上杉謙信が好きなんだ……ところで相沢さんは教室の外に出た?また誰か教室に出たり入ったりした?
 他のクラスも周るので僕は核心的な質問をする。いまは無駄話をしている時間はない。上杉謙信がなぜ好きなのかには興味があるけれど。

問題は1年3組のアンケートの行方だ。
相沢さんが、なぜ上杉謙信が好きなのかではない。

「私は30分くらい1人だけど…教室の外には出てないわ。それに誰もこの教室に出ても入ってもいないけど…葵くんが来るまで」
 この学校でも僕の名前を呼んでくれる相沢さんは、とても貴重な存分だ。

「それ証明出来るかな?難しいよね」
 相沢さんに確認する。そう言う自分が証明出来ないので申し訳ないのだけど。

「変な事聞くのね葵くん…誰か教室に出入りすれば気がつくと思うけど」
 相沢さんは、困ってアンケートの封筒をまた持ち上げて続ける。

「そう言えばアンケートにあったわ。その横にスライドする教室の扉の立て付けが悪いから交換して欲しいって。音がするから気がつくと思うけど…葵くんが来たのも気がついたし」
 このアンケートの教室の扉のリクエストは、女生徒の紺色のハイソックスよりとてもまともな要望だ。

歴史ある桜ヶ丘高校の校舎の老朽化は仕方ない。そのための整備委員会のアンケートなのだろう。
ブルマが何かはわからないけど……

「確かに少し開け難いね。教室の扉は両方しまっていたのかな?」
 僕は教室の2つの扉を片方ずつ指さして確認した。

「30分以上両方の扉は閉まったままたけど。葵くんが来るまで」
 相沢さんは、眼鏡をかけ直しながらそう答える。


「相沢さんが教室に1人でいた事の証明は難しいよね?」
 こんな質問は真面目な相沢に本当に失礼なんだけど。佐倉はあの性格だ。また千本木さんも個性的だと噂がある。相沢さんが何かしらの感情を持っいる可能性も捨て難い。

「変なの……葵くんサスペンスドラマの刑事みたい」
 相沢さんはそう言うとスマートフォントを持ち上げる。

「証明は難しいけど…お母さんに買い物を断った電話を入れたから。誰かいたら教室で電話しないもの。スマホに通話履歴があるけど」
相沢さんは電話番号の表示されたスマートフォンを見せてくれた。確かに教室でのスマートフォンでの通話は校則違反だ。

16時15分

「お母さんと何分くらい話したのかな?」
 相沢さんのスマートフォンの画面を見ながら僕は聞いた。

「5分くらいと思うけど。この大雨でしょ。だから学校の帰りに頼まれた買い物を断ったの。そしたらお母さんが、夕食の献立を豚カツに変えるとか言って」
 眼鏡に隠れた眉を寄せながら、相沢さんは続ける。
「私太っているでしょ。だからダイエットしたいから、豚カツは嫌なんだけど。豚カツはカロリー高いから」
 
「そんな太っていないと僕は思うよ」
 あらためて相沢さんを見ると、相沢さんの靴下は白色だった。確かに白いソックスは脚が太く見えるかもしれない。

「でも葵くんも私も名前が理由で大変よね。こんな決め方は理不尽だと思う。私は部活していないからまだいいけど」
 緑色のアンケート封筒を持ち上げて、相沢さんはまた眉を寄せた。

「僕の部活は週に一回だから大丈夫だよ。それに誰か引き受けないといけないわけだし」
 確かにとても理不尽だが、歴史ある桜ヶ丘高校の慣習と言われれば仕方ない。しかしこんな理不尽な慣習を、抵抗なく受け入れる事で、人は飼い慣らされた大人になるのかもしれないと僕は思った。

「理不尽と言えば……相沢さんは3組の千本木さんに、理不尽な事された事はあるかな?」
 僕は続けてそう聞いた。

遠くでまた落雷の音が聞こえる。


「千本木さん?」
 相沢さんは隣のクラスを見て少し考えてから答えた。

「3組の学級委員長の千本木さんにならあるけど……私が廊下を走っていたら、注意された事があるがあるわ。急いでたから仕方ないのに、厳しい事言われたの。校則にそんな事ないでしょ?」
 相沢さんは凄く怒ったようにそう言った。穏和な雰囲気の相沢さんには、意外と隠れた一面があるのかもしれない。

「音が煩いって酷くない?それ私が太っているってこと?」
 相沢さんは顔を赤くして僕に聞く。

どんな正統な発言も、人の心を深く傷つける事がある。
何気ない悪意のない言葉すら、人の心に傷を残すことがあるのだ。

「ち……違うと思うよ。相沢さんは太ってないから」
 確かに千本木さんと比較すれば太っているけど、モデルのような日本人離れしたスタイルの千本木さんと比較しても仕方ない。同じ学年で対抗出来るのは佐倉くらいだろう。

「ありがとう葵くん……でもなんでそんな事聞くの?」
 相沢さんが不思議な顔をした。

「それじゃ相沢さん僕は急ぐのでまた。教えてくれて本当にありがとう」
 僕は不思議そうな顔をした相沢さんに挨拶して扉に向かった。


1年5組

1年5組の教室の扉は開いていた。

誰もいないと思った暗い静かな教室に、1人の少女がいる。
窓際の席に座っているのは、長くて黒い髪の本仮屋だ。

本仮屋は僕と同じ文芸部の部員だった。

「本仮屋まだ学校にいたのか?」
 僕は後ろから声をかける。

「あ……あ…葵さん…び…びっくりしました!」
 本仮屋が驚いて椅子から立ち上がる。

「ごめん。驚かせたかな。ちょっと聞きたい事があって」
 どうやら驚かせてしまったようだ。ただでさえ臆病な本仮屋に申し訳ないと思いながら、単刀直入に聞く。

今は時間が大切だ。
相沢さんと豚カツの会話で、時間を無駄にしてしまった。
上杉謙信のことは気になるけど。

「な……な…なんでしょうか」

「本仮屋はこの教室に1人でいたのか?誰か出たり入ったりしていないか?」
 僕は1年5組の薄暗い教室を見回してそう言った。

「は……はい…わ…私1人です…誰もいません…ごめんなさい」
 本仮屋が俯いて小さなな声で答える。

「なんで謝るんだ?アンケートまとめていたのか?」
 本仮屋の机にアンケート用紙と緑色の封筒があるのが見える。

「は…はい…そうですけど…今日が提出期限ですよね」
 本仮屋が申し訳なさそうにそう言う。

 真面目な本仮屋の事だ。アンケートを丁寧に全部読んでいたのかもしれない。しかし本仮屋は文章を読むのがとても苦手だから、時間がかかるだろう。

「まだ先生達はいるから大丈夫だよ。今日の期限までに提出すれば。僕もまだ提出していないから」
 僕はなるべく優しく声をかけた。

「そ……そうですか」
 本仮屋は、慌てて机の上のアンケートをまとめ出した。


「しかし、なんで本仮屋が整備委員なんだ?」
 これは前から気になっているとても不思議な事だった。

「そ…それは……」

「別に答えたくないならいいんだよ。前から気になってて聞いただけだから」
 まさか本仮屋が、虐めにあっているとは思いたくないけど。

そ……それは…わ…わ…私が立候補したから…です
 本仮屋が想定外の言葉を言った。

「立候補したのか?!本仮屋が?」
 何事にも臆病な本仮屋が、立候補するなどあり得ないだろう。高所恐怖症の人がスカイダイビングするようだ。僕は大金を貰ってもスカイダイビングはしたくない。本仮屋は勇気を振り絞り、この理不尽な世界に抗ったのだろうか。

「だ……だ…誰も立候補しなかったので…て…手を上げただけですけど」
 本仮屋がそう答える。

「そ…それは想定外だな」
 僕がそう言うと、落雷の閃光が窓の外で光った。

本仮屋が、身体を震わして驚いて窓の外を見る。
雷が怖いのだろう。

ドラマや映画でよくある、二人だけの教室の、落雷に驚いた女の子が男子に抱きつく設定は、現実には起きないものだ。

しばらくして雷鳴が響きわる。

「あ……雨がまだ降っていますね……」
 本仮屋は、雨が降る薄暗い窓の外を見ながらそう言った。


1年1組

「オレ達はずっと二人でこの教室にいたけど」
 1年1組の荒木くんはそう言った。

「30分くらい前なら、愛川がいたけど帰ったよ」
 もう1人の真っ黒に日焼けした短髪の男子生徒がそう言う。

一緒について来た本仮屋は、教室の入口で立ったまま待っている

「俺は武田だよ。武田信玄の武田。愛川とは同じ野球部なんだ」
 どうやらこの日焼けは部活が理由らしい。

「愛川は野球部なのに、整備委員だから大変だよな」
 荒木くんがそう言った。

「愛川くん以外は誰も来なかったのかな?」
 僕はめったに話さないけど、整備委員の荒木くんは知っている。大人びて少し不良のようなのに、整備委員を勤めているのが不釣り合いな生徒だ。

「この雨だろ?部活がないやつはみんな早く帰ったよ。愛川が帰ってからは誰も来てないよ」
 芸能人のように整えた茶色い髪を荒木くんがかきあげる。

「愛川くんが帰った時間はわかるかな?」
 荒木くんの髪が茶色いのが校則違反にならないか心配だけど、僕は敢えて、その事を聞くのは止めてそう聞いた。

愛川が帰ったのは16時16分だけど
 荒木くんは予想外にすぐそう答える。即答されると思わなかった僕は驚いてしまった。

「たまたま16と16で覚えているから間違いないよ」
 荒木くんは、机の上のスマートフォンを僕に見せてそう言った。

「愛川に用があるならあいつはもう家に帰ったよ。いまごろドーナツやけ食いしていると思うぜ」
 武田信玄の武田くんがそう言った。武田信玄には似ていないけど。顔つきはとちらかと言うと日焼けした宿敵の織田信長だ。長篠の戦いの武田勝頼を考えると、複雑な気持ちになってしまう。

遠くでまた落雷の音が聞こえる。
落雷の音はかなり小さくなって来た。


「なんでドーナツやけ食いするのかな?」
 僕は独り言のように思わず呟いた。

問題は1年3組のアンケートの封筒の行方だ。
提出期限の17時30分が迫っている。
ドーナツにこだわっている時間はないのだけど。

「それは愛川が佐倉さんにコクってフラれたからだよ。俺が止めとけって言ったのに。昨日部活サボってコクって、更に今日の昼にもう一度しつこくコクったんだよ。あの馬鹿」 
 本当に呆れたように武田くんは言う。恋愛相談をする関係の友人に、そんな厳しい言い方をするなんて、ますます武田くんが織田信長に見えて来た。

「そう言うお前も、千本木に何度もコクってフラれただろ?オレが止めとけって言ったのに。お前も大馬鹿だよ」
 荒木くんがそう言って笑う。どうやら織田信長より荒木くんは立場が上のようだ。

「それは2ヶ月も前の事だろ。思い出させないでくれよ……」
 武田くんは顔を赤くして、恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。織田信長は意外と純情なのかもしれない。

「だからオレが女紹介してやったろ?感謝しろよ!彼女出来たんだから」
 荒木くんが武田くんの肩を叩く。

「だいたい千本木とか佐倉とか見ればわかるだろ?いかにも偉そうでガード硬いのが。ヤラせてくれないんだよ。ああいう生意気なタイプの女は」
 荒木くんはまた芸能人のように髪をかきあげて僕を見る。

「そ……それがドーナツの理由なんだ」
 つまり愛川くんは、佐倉に告白して断られたと言う事なのだと僕はようやく理解した。なぜドーナツなのかはわからないけど。

「愛川くんが家に帰ったのが、何でわかるのかな?」
 僕は気になって訪ねる。ドーナツと関係するのかもしれない。

「確か武田は愛川をわざわざ送って行ったよな。フラれた後は彼女持ちとは一緒にいたくないのにさ」
 荒木くんがそう言った。

「愛川がかなり落ち込んでいるから、階段まで一緒に行ってドーナツ食べに行こうって誘ったんだよ。そしたら愛川はドーナツ買って、家で1人で食べるって言ってたよ」 
 武田くんはそう言いいながら短髪の頭をかく。

武田くんは16時16分頃に廊下にいたんだね?
 これはドーナツから貴重な情報が得られるかもしれない。

「愛川にドーナツ屋に一緒に行こうと誘ったんだよ。もう少し待てば、雨も上がるかもしれないだろ。でもあいつは断って階段を降りて行ったぜ」
 武田くんはそう言った。

「愛川くんは階段を降りて行ったんだね。廊下には誰かいたかな?」
 1年1組の教室は、用具室を除けば一番右端にある。廊下に誰かいたら、武田くんは気がついた可能性があると僕は思った。

「廊下には誰もいなかったけど。愛川が帰ってから、すぐこの教室に戻ったよ。しかし愛川のやつかなり落ち込んでいたな……佐倉さんにキツイ事言われたらしくて」
 武田くんはそう言う。武田くんなりに同じ野球部の愛川くんが心配なのだろう。

「かなりキツイ事言われて、佐倉さんに会わす顔ないって悩んでたぜ……だから慰めてやったんだよ」
 武田くんは心配そうにそう続けて言った。織田信長は意外と優しかったと、何かで読んだ事を僕は思い出した。

「だから逆効果なんだよ。彼女持ちが慰めても」
 荒木くんが、武田くんの肩に手をかける。

「オレの彼女は軽音部なわけ。彼女の友達を武田に紹介したんだよ。そんでこいつにも念願の初カノが出来たわけ。良かっじゃん!夏休み前に彼女出来て」
 荒木くんは武田くんの肩に手をまわした。僕はようやく織田信長に似ている武田くんより、荒木くんが立場が上な理由がわかった。


「………………」
 本仮屋はこの場に存在していないように黙って俯いている。

「なんでドーナツなのかな?」
 僕はどうでも言う事にこだわっている時間がない事に、質問してしから気がついた。

問題は1年3組のアンケート封筒の行方だ。
ドーナツではない。

「それは今日が特別全品ドーナツ100円だからだよ。今日も武田が奢れよ?」
 荒木くんが武田くんの肩に手をまわしたままそう言う。織田信長も形無しだ。

「わかったよ……そろそろ部活も終わるよな」
 武田くんは教室の時計を見ながらそう応えた。

教室の時計は17時になろうとしている。

「それでなんの用なんだよ?整備委員のアンケートの事か?」
 荒木くんが、武田くんの肩から手を離して僕に質問する。

「3組のアンケート封筒の事、なにか知ってるかな?」
 4組の相沢さんには敢えて聞かなかった質問をした。

「アンケートはまとめて封筒に入れて、担任にクラス別に渡すんだろ?他のクラスは関係ないだろ?」
 荒木くんが緑色の封筒を持ってそう言う。


「…………………」
 本仮屋は相変わらず黙って俯いている。

「名前なんだっけ?確か整備委員だよな?」
 ようやくその存在に気がついたように、荒木くんが本仮屋に声をかけた。

「……………………………」
 本仮屋は更に俯いてほとんど顔が見えない。これが夜なら『リング』の貞子のようだ。僕は大昔のホラー映画を思い出した。


「本仮屋だよ。5組の本仮屋」
 本仮屋が黙ったままなので、僕は代わりに応える。

「モトカリヤ?変な名前だな?」
 貞子のように長い髪を垂して俯いている本仮屋に、荒木くんはそう言った。真夜中に本仮屋に出会ったら、さぞ怖い思いをするだろう。


「1組のアンケートはこれから提出するのかな?」
 僕は荒木くんの緑色の封筒を見ながら確認する。まさか荒木くんが持った封筒が、3組の物とは思えないけど。緑色の封筒はクラスまでは外見から判断出来なかった。

職員室は一階だろ?わざわざ行くのかったるいから帰りに職員室に寄るんだよ。オレは彼女と玄関で待ち合わせしてるわけ。17時に軽音部の部活が終わるからさ」
 荒木くんは教室の時計を見ながら、自分に確認するようにそう言った。

「17時30分が提出期限だと聞いたけど」
 そう言って僕も教室の時計を見ると、時刻は17時になっていた。

「これからアンケートを担任に渡すから余裕だろ?その後、オレとオレの彼女と、武田と武田の彼女、4人でドーナツ屋に行くんだよ。今日はドーナツ100円だから」
 荒木くんはそう言うと、椅子から鞄と緑色の封筒を持って立ち上がった。

「俺の彼女に…千本木さんに告白した事は言わないでくれよ。ドーナツはちゃんと奢るから」
 武田くんも鞄を持って、立ち上がるとそう言った。織田信長が、ドーナツを奢ってしまっていいのだろうか。

「大丈夫だって!それより彼女と早くやっちゃえよ。もうキスはしたんだろ?」
 荒木くんはそう言うと、武田くんの肩を叩いて続ける。
「オレと武田は帰るけど。何か聞きたい事あるか?」

「そうだな…千本木さんと荒木くんは話した事あるのかな?」
 僕は千本木さんとの関係を荒木くんに確認する必要がある。武田くんが2ヶ月前に千本木さんに告白して、断られた事はわかったけど。

「あいつは絶対許せねえ!オレと彼女が一週間停学になったのは千本木の責任だからな」
 荒木くんはそう言うと、思い出したように顔を赤くした。

「知らなかったよ……荒木くんが停学になっていたなんて」
 まさかこの茶色に染めた髪のせいではないと思うけど。僕は荒木くんの、綺麗にセットした少し茶色い髪を見た。私立桜ヶ丘高校は伝統ある進学校だ。荒木くんのような生徒は数少ない。

「この髪?これはギリセーフらしいよ。担任はいい顔しないけどさ。たからオレは真面目に整備委員やってるわけ。こんな委員の決め方、マジ納得いかないけどさ、いい点数稼ぎだろ」
 荒木くんが真面目に整備委員を勤めている謎が、ようやく解けた。

「荒木くんの停学と、千本木さんがとう関係するのかな?」
 これは重要な事だろう。

「あいつが先生にチクったんだよ。オレと彼女が校舎の裏で昼休みにしてたのをさ。あんな場所に誰か来ると思わないのによ。オレと彼女がしてる事を、千本木のやつが先生に報告したわけ」
 荒木くんがそう言った。校舎の裏で荒木くんと彼女は何をしていたのだろうか。

「千本木さんが先生に報告して停学になったんだね?荒木くん」
 停学になることって何だろう。確か昔の小説で、喫煙で停学になる設定があったけど。今どき高価なタバコを吸う高校生がいるとは思えない。

「オレだけじゃなくて彼女も停学。それから学校じゃさせてくれなくなったろ。本当にあいつのせいだよ!それにオレの彼女の気持ちも考えろよ!千本木は本当にムカつく」
 荒木くんの千本木さんへの怒りが正統なのかは判断出来ないけど、停学になったのが、千本木さんの責任だと言う事はわかった。

「そう言うこと。武田!17時過ぎたから行くぞ。じゃオレ達は帰るよ。彼女待たせちゃうしな」
 荒木くんは教室の時計が17時を過ぎたのを確認して、教室の開いたままの扉に向かった。


「荒木くんもう1つだけいいかな?」
 僕は教室を出ていこうとする荒木くんを呼び止めた。

「なに?いいよ」
 荒木くんは振り返る。

「荒木くんの彼女は同じ学年なのかな?」
 僕はそう聞いた。

「そうだよ。オレの彼女は平沢あずさ。千本木と同じ1年3組だよ」
 荒木くんはそう言うと扉に向かう。

「じゃあな!葵!」
 荒木くんは武田くんと一緒に、本仮屋の横を通って教室を出て行く。

「いろいろ答えてくれてありがとう」
 僕がそう言った時は、もう二人の姿は見えなくなっていた。

僕は本仮屋を見る。
 
「…………………」
 本仮屋が黙ったまま両手の指先を合わせていた。

これは本仮屋が、謎を解けた時の決まったポーズだ。

「何かわかったのか?本仮屋」
 僕が1組の教室の時計を見ると時刻は17時を過ぎていた。あと15分もすれば部活の生徒達が教室を戻ってくるだろう。

アンケートの提出期限に30分しかない。

本仮屋には、長い廊下を5組から1組まで歩く途中でおおよその事は話している。途中で3組を通った時に、教室の扉が開いたままで、中に佐倉と千本木さんがいたのが見えた。敢えて二人には声をかけずに、真っ直ぐ1組の教室まで来たのは、時間がないからだ。

「は……はい…3組に行きましょうか」
 本仮屋が、両手の指先を離してそう言った。


封筒の行方


「ごきげんよう。はじまして。もとかりやさん」
 千本木さんは、そうお辞儀をして挨拶をした。

「変わった苗字ね。私もそうだから親近感を感じるわ」
 千本木さんが続けて言った。

「あんたのような偉そうなヤツに親近感を感じて欲しくないわ」
 佐倉が不服そうにそう言って本仮屋の側に寄る。

「なにかご用かしら?もとかりやさん」
 千本木さんは相変わらず俯いたままの本仮屋に聞く。

「なんであんた真由を連れて来たの?私の大切な人を巻き込まないでよ!真由は関係ないでしょ?」
 佐倉がツインテールを揺らして大声で僕に怒る。

「あ……あ…葵さんは…悪くありません…私が…ごめんなさい」
 本仮屋はそう言った。

 僕が本仮屋を無理やり連れて来たわけでないのだから、佐倉に大声で叱られても困ってしまう。

「あ…あのアンケートの提出期限まで20分しかないんだけど」
 僕は1年3組の教室の時計を確認した。

時刻は17時10分を過ぎようとしていた。
無駄話をしている時間はないのだ。

そして1年3組のアンケートの行方以前の問題がある。
僕も本仮屋もまだアンケートを提出していないのだから。

「それで何かわかったのかしら?あかいくん」
 千本木さんは、桜色の唇に人差し指をおいてそう言った。


『海軍条約文章事件』だよ」

「なにそれ?なんで海軍が関係するわけ?海上自衛隊のこと?」
 佐倉が首を傾げてそう言った。

「ホームズの作品ね。なるほど確かに状況が少し似ているわね」
 千本木さんはシャーロック・ホームズを読んでいるらしい。

「残酷で低俗な推理小説?2人とも馬鹿なの?」
 推理小説が嫌いな佐倉は、呆れたように腕を組んだ。

「世界中で愛されている偉大な作品を低俗はないだろ?しかも『海軍条約文書事件』は残酷な事件は起きないぞ!」
 偉大な推理小説を馬鹿にされては流石に黙っていられない。

「佐倉さんは教養がないのね。ホームズの作品で殺人事件が起きない作品は沢山あるのよ。有名な『赤毛連盟』もそうね」
 千本木さんがそう擁護してくれる。意外とこの学校で有名な美少女と共通の話題があるかもしれない。

「『海軍条約文書事件』は不可能な状況だけど、ホームズは真相を見抜いた」
 僕は偉大な歴史的な作品に敬意を持ってそう伝える。

「それで海軍の文書がどう関係するわけ?」
 佐倉がツインテールの髪先を触りながらそう聞く。

この世界のどんな不可能な状況でも、その状況を打開する方法が必ずあるんだよ。そう信じたい。それを教えてくれるのが、推理小説の大きな魅力だと僕は思うよ

「それでホームズのように真相が判明したのかしら?あかいくん」
 千本木さんは、桜色の唇を人差し指で撫でながらそう言った。相変わらず名前を間違えているけど……

「私がこの教室にずっといたんだから千本木の自作自演でしょ?」
 佐倉はあくまでも第三者とは思わないらしい。


「時間がないから、2つだけ重要な事を聞くよ千本木さん」
 千本木さんをあらためて正面から見ると人形のように美しい。

「確かに時間がないわね。ご遠慮なくとうぞ」

この教室の窓際は雨で濡れていた?
 僕は窓側を指差してそう言った。

「私もその可能性には気がついたわ。推理小説の作品にもあるわね。窓際は全く濡れていなかったわ。だからチンパンジーが、雨の中、窓から教室に入って来た可能性はないわね」
 人形のような美しい顔の千本木さんはそう言って微笑んだ。

「チンパンジー?馬鹿なの?」
 佐倉が本当に本当に呆れたように言う気持ちもわかる。

「佐倉さん違うわよ。窓際を確認した理由は、あなたが窓からアンケートの封筒を捨てた可能性よ」
 千本木さんが言う通りだ。この教室を佐倉が1歩も出なくても、アンケートの封筒を窓から捨てれば犯行は可能だ。チンパンジーが犯人だと思ったわけではない。

「これは佐倉の無罪の証明のためなんだよ。大雨だったろ?だから少しでも窓を開ければ、窓際が雨で濡れるはずだ」
 僕はあらためて窓際を指差してそう言った。

「もう1つの質問はなにかしら?」

これも大切だからよく思い出して欲しい。千本木さんが図書館側の階段に行く時、4組と5組の教室の扉は開いていた?
 今度は図書館側の教室の扉を指差して僕は確認する。

「そうね…4組の扉は両方とも閉まっていたわ。5組は両方とも開いていたわね。階段に行く時も教室に戻った時も同じよ。間違いないわ」
 千本木さんは教室の扉を見て、思い出すようにそう答えた。学年で一番成績の良い千本木さんの記憶力に間違いはないだろう。

4組の扉は両方とも閉まっていて、5組の扉は両方とも開いていたんだね
 僕は重要な事なのであらためて確認する。

「間違いないわ」
 千本木さんは僕を真っ直ぐ見つめてそう言った。

「なに?真由を疑っているわけ?」
 佐倉が本仮屋の前に出て庇うようにそう言った。

「私はそんな事言ってないわ。佐倉さん以外に犯行は不可能なのよ。いい加減白状したら?」
 千本木さんが佐倉の方に身体を向ける。

「私の廊下のロッカーも開けて見せて確認したでしょ?私が犯人だったらアンケートの封筒はどこにあるわけ?」
 佐倉が千本木さんに詰め寄った。

学校で有名な美少女同士は仲が悪いらしい。芸能人より美しい二人の美少女が、たまたま同じクラスなのは偶然なのだろうか。

かなり遠くの落雷の音が聞こえた。
窓の外の雨音も小さくなって来ている。


「真相がわかったわ」
 桜色の唇に置いた指を離して、千本木さんはそう告げた。

「あかいくんが共犯なのでしょ?佐倉さんが封筒を隣の2組のあかいくんに渡せば犯行は可能でしょ」
 千本木さんが僕の真っ正面に近付いて来る。

「ぼ……ぼ…僕が共犯と言うこと?それは論理的に可能性はあるけど…ぼ……僕にはなにより大切な動機がないよ…それに僕は……あかいじゃなくて葵だから」
 僕は思わず動揺してしまった。

これは共犯と言われただけでなくて、こんな近くで女の子の顔を見たのが、人生で初めての体験だったからだ。
さらにその女の子が、美しく有名な少女なのたがら、僕の動悸が早くなってしまうのも仕方ない。

いま嘘発見器でテストしたら、結果に自信は持てないだろう。

「佐倉さんに頼まれたら断われないじゃない?」
 千本木さんは更にその美しい顔を近付けてくる。

果実のようにとても甘い香りが僕を包む。
これは千本木さんのシャンプーの香りだろうか?
それとも女の子特有の香りなのだろうか。

「ぼ……ぼ…僕は佐倉とはたまたま部活が一緒なだけだから。べ……別に親しくもないし…ほとんど話しもしないから。動機がないから」
 佐倉ももう1人の有名な美少女だ。佐倉の特別なお願いなら、言う事を聞いてしまう男子生徒がいる事は否定出来ないけど。

「私は男子に、お願い事なんてしないけど」
佐倉がそう言うのが、視界の外から聞こえる。

「ほ……本当に…ぼ…僕は共犯者じゃないから」

 千本木さんの長い睫毛の美しい瞳はキラキラしている。そして僕の顔の近くの、美しい顔の少し濡れたような桜色の唇がとても魅力的で、さらに動悸が激しくなってしまった。

甘酸っぱい香りが、僕の全身を包みこんだ。

「そう?じゃやっぱり佐倉さんに全部脱いでもらうしかないわね」
 さらに千本木さんはその美しい顔を僕に近付けてそう言った。

 この状況で佐倉が制服を全部脱いだら、僕は間近にある美しい少女の顔から目を反らして、佐倉の裸を見る事になるのだろうか?とちらも貴重な機会なのだけれども。

「わかったわ!私が制服を全部脱ぐわ!」
 佐倉の声が聞こえる。

「葵くん?1年3組のアンケート封筒はどこにあるのかしら」
 桜色の美しい唇がそう言った。


読者への挑戦状

以上で事件の真相を把握するに足るデータはすべて出ています。

そして私は勇気を振り絞り、ここで偉大な先人達に敬意を持ってあの有名な言葉をお伝えしたい。

私は読者に挑戦する。

貴方はすでに完璧な材料を得ています。
また謎を解くヒントが非常にあからさまな形で突きつけられていることもお忘れなく頂きたい。

私はつぎの設問に対する貴方の回答をおきかせ頂きたいのです。

1年3組のアンケート封筒の行方は?

……………………………………………………………………

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正解に近い1名様なのでご了解ください。
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どなたでもご挑戦出来ます。
先着順ではありません。
お時間ある時にゆっくりご挑戦ください。

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