勿忘草 2023/03/08 20:39

誕生日に感謝をこめて!ありがとうございます♥️特別企画発表

勿忘草です。

初めての方なにとぞよろしくお願いいたします。

応援頂いている方に心から感謝しています。
本当にありがとうございます♥️

3月8日は国際女性の日。
女性参政権のデモがNYで最初に行われた日です。
イタリアではミモザのお祭りの日です。
そして…

今日は誕生日です


3月8日は勿忘草の誕生日です。

私の身体は限界で、今日を目標に創作を続けて来ました。

誕生日に作品を発表するのが夢でした

こうして稚拙ではありますが、
作品を発表出来たのは応援頂いた方の励ましのお力です。


また特別企画へのご回答ありがとうございました!!
結果を発表させて頂きます。

特別企画結果発表!
特別企画の結果発表は小説の文末に記載しました!


今日まで創作する事が出来た事、本当に感謝しています。
今回の記事がもし最後になったら残念ですが…

私を応援して頂き本当にありがとうございます♥️

私の作品を読んで頂く事が、私には一番のプレゼントです!

小説にご興味ない方は、イラストをご覧頂けると嬉しいです。
15年前のアナログイラストをフォロワー様に公開しました!

お時間ある時に私の作品を読んで頂けると本当に嬉しいです。


勿忘草の小説を既読済みの親愛なる読者様へ

今回の短編『消えた封筒』は7月の出来事となります。
混乱がないように文芸部シリーズの時系列をご紹介します。

消えた封筒 7月

カフェ『ヴィオレ』の謎 8月 夏休み

チョコラテの謎 翌年の2月 バレンタインデー

今回の短編のみでも勿論作品として問題はありません。

消えた封筒

この小説に登場する小説やゲームは実在します。
それ以外はフィクションとなります。

………………………………………………

桜ヶ丘高校 事件関係者 

葵まこと あおいまこと
主人公 読書が好きな男子 1年2組 文芸部

本仮屋真由 もとかりやまゆ
読書が苦手な寡黙な少女  1年5組 文芸部

佐倉彩花 さくらあやか
ツインテールの美少女   1年3組 文芸部

千本木京香 せんぼぎきょうか
才色兼備の謎めいた少女  1年3組

相沢かなえ あいざわかなえ
物静かな眼鏡の少女    1年4組

荒木圭吾 あらきけいご
大人びた茶髪の男子    1年1組

武田祐介 たけだゆうすけ 
日焼けした短髪の男子   1年1組 野球部

鮎辻先生
1年3組の担任 学年生活指導担当の教師

愛川幸太郎 あいかわこうたろう
1年 野球部

平沢あずさ ひらさわあずさ
1年 軽音部

………………………………………………

事件現場図面



問題編

前回の記事の小説をまだ読まれていない方へ。

これ以上の内容は解決編となります。

『消えた封筒』の問題編を未読の方は読まないでください。

問題編はこちらになります。

読者への挑戦状をお読みください!

https://ci-en.dlsite.com/creator/15433/article/805500

ここからの内容は解決編となります。


ゆれうごく真相


「正直に教えて?葵くんが共犯なのでしょう?」
 少し濡れたような、桜色の唇がそう言った。

こんな近くで女の子の唇を見るのは、初めての体験だ。少し濡れたように、桜色に輝いているのは、リップクリームの効果なのだろか。その魅力的な唇に、僕の鼓動は早くなる。


「あ…あの…1つ…質問が…あります」
 視界の外から、本仮屋の声が聞こえる。

「何かしら?もとかりやさん」
 千本木さんが、僕から美しい顔を背けた。

「せ……千本木さんは…廊下を走りましたか?」
 本仮屋の声がまた聞こえる。

「私は廊下は走らないわ。スカートのプリーツは乱さないようにするのが、乙女のたしなみでしょ」
 千本木さんは、ようやく僕から身体を離して、本仮屋に身体を向ける。学校で有名な美少女の呪縛から、開放されたように、僕は大きく息をつく。


確かに4組の相沢さんは、千本木さんに廊下を走らないように、厳しい言葉で注意されたと言っていた。そんな千本木さん自身が、廊下を走る事はないだろう。

「わ…わかった!千本木さんが廊下も、階段も走らなかったらのなら、犯人がお手洗いに隠れていて、急げば犯行は可能かも」
 僕はお手洗いが盲点である可能性を指摘する。

「その可能性は絶対ないわ。図書館側の階段まで、私の視界の範囲だもの。階段から私が戻るまでに、姿を消すのは無理よ。推理小説が好きなのに、初歩的なミスだと思うわ」
 僕から離れて、千本木さんはそう言った。


「確かに…そうだね。それなら千本木さんが、一階で担任の綾辻先生に偶然会って、アンケートを渡したとか?」
 僕はホームズに登場する、レストレード警部も言わないような回答だと思いながらそう言った。僕がいま論理的な思考が出来ないのは、女の子の顔を真近で見たのが、人生で初めての体験だったからかもしれない。

僕の思考はゆれうごく。

「私は一階で綾辻先生と会ったと言ってないわ。そして私が教室を出た時に、アンケートの封筒は、私の机の上にあったと言ったわよね。私は嘘は言わないの」
 千本木さんは、教室の一番後ろの席を指差し、強く否定する。

「千本木の嘘なんでしょ?そんなに私の裸が見たいわけ?」
 佐倉が千本木さんに詰め寄る。

「それが本当に、私の動機だと思うの?佐倉さん」
 佐倉を見ながら、千本木さんは不敵に微笑んだ。


「荒木くんが犯人だと思う。1組の荒木くんは千本木さんに怨みがあるから、動機がある。そして荒木くんの彼女の平沢さんは1年3組だ。だから千本木さんの机の場所を知っている」
 僕は荒木くんと、彼女の平沢さんが、千本木さんの通報で停学になった事を思い出してそう言った。まさか千本木さんが佐倉の裸を見たいために、嘘を言っているとは思えない。

「どうして荒木くんだと、断定出来るの?」
 千本木さんは、また人差し指を唇に置いた。

「大切な事を確認するから良く聞いて欲しい。16時18分にこの階にいたのは、5組の本仮屋、4組の相沢さん、3組の千本木さんと佐倉、2組の自分、そして1組の荒木くんと武田くんだけなんだよ。この階の全てのクラスを周って確認したから」
 僕はその証言を取るために、わざわざ教室を周ったのだから。

「そうなのね?」
 千本木さんはあくまでも冷静だ。

「それは、ご苦労さま」
 佐倉はそう言うと腕を組んだ。

「この中で消去法で、5組と4組を除外すれば、2組と1組しかないんだよ。2組の僕には動機がない。でも1組の荒木くんには動機がある」
 推理小説の愛読者なのに、初歩的なミスを犯してしまった。いまが挽回するチャンスだ。僕は灰色の脳細胞を働かせる。


大きく深呼吸して、僕は続けた。

「まず隣の4組の相沢さんに犯行は無理だ。相沢さんにアリバイはないけど、4組の扉は閉まっていた。4組の扉を開けたなら音もするし、千本木さんが気がつく可能性がある」
 相沢さんの16時15分の通話履歴はアリバイにはならない。電話をかけただけで、会話をしなかった可能性がある。しかし4組の教室の扉は閉まっていた。さらに立て付けが悪く、開けると音がする。相沢さんに犯行は無理だ。

「雨の音で、扉を開ける音に気がつかなかったかも。でもいずれにしても、私が階段に向かう視界にあるから、4組に犯人がいた可能性はないわね」
 千本木さんも頷いて納得してくれる。

「それなら5組の真由は、もっとありえないじゃない?!」
 佐倉は本仮屋を守るように立っている。

「私はもとかりやさんが犯人なんて、一言も言ってないわ」
 千本木さんが言うように、本仮屋に犯行は無理だ。5組は図書館側の階段までの視界にある。階段を降りて上がる間に、3組に行き封筒を盗すむ時間がない。

「4組と5組は除外していいと思う。大切なのは2W1Hだ!1組の荒木くんなら犯行が可能かもしれない」
 
3W1Hが基本だけど、犯行時間は16時18分から、16時20分に限定されているので、WHENは除外してもいいだろう。

「1組の荒木くんには、動機があるのね?」
 そう言う千本木さんは、自分の通報で、荒木くんとクラスメイトの平沢さんが、停学になったのを覚えていないのだろうか。

「荒木くんは千本木さんへ怨みがある。動機があるんだよ」
 荒木くんの停学が、正当なのかは僕には判断出来ないけど。

「問題なのはHなんだ。Hが大切なんだよ!」
 荒木くんには動機がある。しかしHOWを証明する必要が大切だ。

「あんたはエッチだから、いつも私の太股見てるわけ?」
 短いスカートの、白くて綺麗な脚を見せつけるように、佐倉がそう言った。

「そ……そのエッチじゃなくて、アルファベットのHだから」
 僕は慌てて否定する。

「そうわかったわ。葵くんは、太股が好きな英語のHなのね?」
 千本木さんがそう言う。



僕は千本木さんの太股に、ついつい視線を送ってしまった。
白のハイソックスも、悪くないのではないだろうか……
千本木さんの白いハイソックスの太股は、とても魅力的だった。

「そ……そうじゃなくて、HOWのHだから!」
 僕はまた慌てて、千本木さんの白い太股から視線を反らす。


Hの証明


対角線は底辺より長いんだよ

「小学生レベルの常識だけど、言われて見ると確かにそうね」
 流石に学年で一番優秀な千本木は、納得してくれたようだ。

「だから2組の前を往復して、階段に戻る事が可能なんだよ」
 僕はノートに書いた説明図を見せる。

「この対角線の距離は20・61メートルだ。20・61=√20の2乗+5の2乗の計算だよ」

「教室の廊下の距離を、あんたどうして知ってるわけ?」
 佐倉がツインテールの髪の触りながら眉を寄せた。

「教室の面積の基準は、「鉄筋コンクリート造校舎の標準設計」において、7m×9mなんだよ。しかしこれは公立学校の古い基準だ。桜ヶ丘高校は私立だから、教室が広くて廊下側が10メートルあるんだ」
 僕は整備委員会で、校舎図面を説明されたので知ってる。別に教室の大きさに、興味があるわけではない。廊下でメジャーで教室の長さを測っていたら、不審者だろう。

問題は正確な距離じゃないから。大切なのは底辺より、対角線が長いと言うことだよ
3人の顔を確認しながら、僕は伝えた。

「AはBとCの合計より大きい。だから同じ距離のDとEの合計より、Aは距離があるんたよ。Dは玄関側の階段から3組の後ろの扉まで、Eは3組からまた階段に戻るまでだ」
 僕はノートに書いた図面を説明する。 

「あ…葵さんの説明は…わかりやすいですね」
 本仮屋がノートを覗きこんで、感心してくれる。

もちろん階段は、正確に対角線の端の頂点にはない。でも千本木さんが階段に向かっている時に、玄関側の階段から3組に向かえば充分に間に合う
 僕はノートに書いた、千本木さんが歩いたAをなぞりながら続ける。階段を降りるには、対角線の頂点まで行く必要はない。しかし、少なくとも対角線を移動する必要がある。

千本木さんは、教室から廊下に出て、すぐ左側と右側を確認して、階段に向かったと言ったよね。その後は、玄関側の後ろを確認していないよね」
 僕は大切な事なので、もう一度確認した。

図書館側の階段に向かって歩いている時は、背後には気がつかないはずだ。そして背後の犯人が、走って大きな音を出さない限り、雷鳴と大雨の音で、廊下を歩く音は聞こえない。

「確かにそうね。教室を出て確認した後、振り返って背後は見ていないわ。私が階段に向かっている時に、犯人が3組に同時に向かっていたなら、第三者でも犯行は可能ね」
 学年で一番優秀な千本木さんも、ようやく理解してくれたようだ。

「でも階段からなら可能だけど、1組からだと難しいんじゃない?」
 佐倉がしばらく考えてから、そう指摘する。

「佐倉が言う通りだけど、千本木さんが図書館側の階段を降りて、また上がって来た時間を考慮すれば可能なんだよ」
 僕はそう言って、ノートに新しい説明図を書き込んだ。

「千本木さんが図書館側の階段に行くまでが20秒。階段を降りて、また上がるまでが10秒。合計30秒とする」
 僕は千本木さんが、走らず歩いた事から概算する。

「い……1メートルが1秒ですか」
 そう言う本仮屋は、歩くのがとても遅いけど。

「不動産会社の規定が、1分で80メートルと言うのは知ってるわ。信号機の歩行者の基準は、1秒で1メートルなのよね。現代の日本人は、歩くのが早すぎて雅でないわね」
 そう言う千本木さんは、不動産情報に詳しいのだろうか。

「千本木も変な事に詳しいのね」
 相変わらず髪先を触りながら、佐倉は更に眉を寄せた。

「お父様の経営する新店舗の物件が、古い規定でトラブルになったのよ。不動産会社は、なるべく駅からの徒歩時間を、少なく見積もろうとするの。あと信号機の件は、いまの信号機が、高齢化社会に適応していないと、ニュースで報道されていたわ」
 そう言う千本木さんのお父さんは、会社を経営しているのだろうか。しかしいまは不動産会社と高齢化社会の問題を、議論している時間などない。

「そして荒木くんが、1組から階段までが5秒、階段から僕のいた2組の前を往復するのが20秒、そして階段から1組に戻るまでが5秒。荒木くんに必要な時間の合計も30秒。だからギリギリだけど、千本木さんがまた廊下に戻るまで、姿を見られずに犯行は可能なんだよ」
 僕はノートの説明図を見せながらそう言った。確かに1組からだとギリギリだけど。男子なら千本木さんより、歩くのが早いはずだ。

「階段からはともかく、1組からは無理だと思うわ。その計算は、私が歩き出したのと同時の仮定でしょ?3組の私の机の封筒を取る時間がないわ」
 千本木さんは、教室の1組後ろの廊下側の自分の机を指差した。

千本木さんの机は、廊下側の一番後ろだから、5秒もかからないよ。アンケートの緑の封筒は、机の中でなく、机の上にあったのだから
 僕はそう反論した。学年で一番優秀な千本木さんを論破出来るなら壮快だけど。確かに封筒を取る時間が充分ではない。

「確かにそうだけど、私は気がつかなかったわ」
 ツインテールの髪先を触りながら佐倉が言う。

それは大雨の窓際の席で、読書していたらだよ。佐倉は黒板に向かって座って読書していたから、千本木さんの席は視界には入らない。大きな音でもたてないなら、気がつかないはずだ。そして大切なのは、この3組の扉が開いていたことだよ
 僕は窓際の佐倉の席を指差してから、後ろの扉も指差した。

「た……確かに…わ…私も教室にいて…葵さんが声をかけてくるまで…気がつきませんでしたから」
 本仮屋がそう言って援護してくれる。5組の扉が開いた教室に入った時、声をかけるまで、本仮屋は気がつかなかった。アンケートを読んでいた本仮屋を、驚かせてしまったのを思い出す。

「確かに佐倉さんの席では、振り向かないと気がつかないわね。1組の荒木くんが犯人だと思うのね?でも武田くんが一緒にいたと聞いたけど」
 千本木さんは、廊下を見ながらそう言った。

「確かに荒木くんは、武田くんと一緒にいた。でも武田くんは荒木くんのために、本当の事を言っていないのだと思う」
 僕はドーナツを奢ってしまう武田くんを思い出した。武田くんは荒木くんのお願い事なら、聞いてしまう可能性が高い。

「荒木くんのために、武田くんは偽証したと言う事かしら?」
 千本木さんは2ヶ月前に告白されて、断った武田くんを覚えているのだろうか。

「そう言う事になるね」
 今ごろ荒木くんと彼女の平沢さんは、武田くんが奢ったドーナツを食べているかもしれない。


「そ……それは…違うと思いますよ…ごめんなさい」
 俯いていた本仮屋が、顔を上げて続ける。
「た…武田さんも荒木さんも…う…嘘は言ってないと思います」

「本仮屋が、そう言う気持ちはわかるけど……」
 僕は思わね本仮屋の反論に、驚いてしまった。

本仮屋は人を疑う事をしない。
本仮屋は将来この嘘でまみれた世界で、生き抜く事は出来るのだろうか。

「いいのよ真由。真由はどうしてそう思うの?」
 佐倉が本仮屋を気使って、優しく声をかける。

「そ……それは愛川さんが困るからです…愛川さんが困る事を…荒木さんも武田さんもしないと思います…」
 本仮屋は俯いた顔を上げて言った。
「そ…それにアンケートを提出しないと…もう時間がありません」
 鞄から緑色の封筒を取り出しながらそう続ける。

「いずれにしても、アンケートを提出する期限が来たわ」 
 千本木さんが、教室の時計を見ながらそう言った。

部活が終わった生徒の声が、廊下から聞こえる。
教室の時計は17時30分まで、5分しかなかった。


「だ…大丈夫です…3組のアンケートは担任の綾辻先生が持っていますから」
 本仮屋が、アンケートの緑色の封筒を持って続けた。

「あ…葵さん急ぎましょう…アンケートを職員室に提出しないと…期限を過ぎてしまいます」


雨上がりの空


「そ…それは愛川さんが…3組の整備委員だからです」

「それは勿論わかっていた。でも愛川くんは家に帰ったはずだ」
 僕は武田くんがそう言った事を思い出す。愛川くんは家でドーナツをやけ食いしていると、武田くんは言っていたけど。

「私も愛川くんは元気がないから、今日は家に帰ったと思ったわ。愛川くんは野球部でしょ?今日は大雨で、野球部の部活動も中止だから。愛川くんは野球部と整備委員を兼任していて、私はクラス委員長の責任として、普段からサポートしているのよ」
 千本木さんは、本仮屋の左側を歩きながらそう言った。

「愛川さんは整備委員ですから…武田さんと階段で別れたあと…3組に戻って、千本木さんの机の上のアンケートの封筒を取って…担任の綾辻先生に提出したのだと思います。アンケートを提出するのは……整備委員の愛川さんの責任ですから」
 本仮屋が雨に濡れたアスファルトを見ながら歩く。大雨は止んでいたけど、アスファルトの道路には、水溜まりがところどころ出来ている。

女の子3人と一緒に帰る通学路は、いつもと違う景色のようだ。


なんとかアンケートは期限内に提出出来た。
そして問題の3組のアンケートは、職員室の綾辻先生の元にあったのだ。

「確かに愛川くんが16時16分に1組の教室を出て、階段で武田くんと立ち話をすれば、16時18分になるな。一度愛川くんは階段を降りたけど、アンケートを千本木さんに預けたままの事に気がついて、またすぐ3組の教室に戻ったわけだ」
 僕は4人の一番左端を歩きながら、そう言った。

「千本木が図書館側の階段に向かっていた時、背後の玄関側の階段から来た、愛川くんに気がつかなかったわけね。大雨で廊下を歩く音も聞こえないし」
 佐倉は右端を長い脚で、水溜まりを避けるように歩いている。

「偶然ではあるけど、玄関側の階段からなら、時間的な整合性もあるわね。でも愛川くんも、佐倉さんに一声伝言してくれれば良いのに」
 千本木さんがそう言うのももっともだ。

確かに一言伝言があれば、こんな事にはならなかった。

「そ…それは…愛川さんは…佐倉さんに」

「なに真由?」
 佐倉が立ち止って、本仮屋に顔を向けた。

「それは……愛川くんは、佐倉に声をかけずらかったんだろ」
 僕は女の子に交際を断られた経験はないけど。そもそも告白した事がないのだから、当然の事だ。愛川くんが佐倉に会わす顔がないと、武田くんが言っていた事を思い出した。

「そ……そうだと思います」
 本仮屋が小さな声でそう頷いた

「佐倉…あんまりキツイ事を言うのは良くないぞ」
 失恋してビターな気持ちの愛川くんが、せめてドーナツでスイーツな時間を過ごしている事を、願うばかりだ。

「確かに言い過ぎたのは、反省しているわ。でも私には好きな人がいるから交際は出来ないと断ったのに、何度も言われても困るし」
 佐倉が雨上がりの空を見上げる。

「そう言うことなのね。愛川くんが、佐倉さんに声をかけなかったのは。あと佐倉さんの好きな人って、誰なのかしら?」
 千本木さんは、佐倉を見つめてそう言った。

「それは内緒!それより千本木覚えている?私が犯人じゃなかったら、何でも言うこと聞くって言ったの」
 大きな声で千本木さんに向き合う、佐倉の顔は真剣だ。


「そうね。そんなこと言ったかしら」
 しばらくして千本木さんは、雨上がりの空を見上げながら呟いた。
 
「忘れたとは言わせないわよ!」
 佐倉はツインテールを揺らして、黙ったままの本仮屋の前に出る。

「覚えているわ。何でも言うこと聞くわよ」
 千本木さんは冷静に答える。

「そう?じゃあここで、全部服を脱いでよ!」
 佐倉は千本木さんの胸に指を置いて、そう言った。

千本木さんの胸はスレンダーの身体なのに、ふくよかに膨らんでいる。これは女の子同士だから、許される行為なのだろうか?僕が女の子の胸に指を置いたら、犯罪者として通報されるのではないだろうか。

そして僕は雨上がりの屋外で、佐倉がとんでもない発言をしている事に、しばらくしてから気がついた。


「ここでは無理よ。佐倉さんと二人の場所なら、全部脱ぐわ」
 千本木さんは、冷静にそう応える。

「流石にここでは無理よね。わかったわ!じゃいいわ」
 佐倉はしばらく考えて続けた。

「砂糖菓子が食べたいわ。ドーナツになんで穴が空いているのか知ってる?」

「残念だけど知らないわ。ドーナツの穴を残して、ドーナツを食べる方法なら、考えた事があるけど」
 千本木さんはそう言うと、桜色の唇に人差し指を置いた。

「アルキメデスの有名な課題だね?アルキメデスの時代にドーナツはなかったけど」
 僕は図書室にあった、哲学書を読んだのを思い出した。
確か大切なのは、問題をどう解くかではなくて。どのような問題を設定するか、と言う課題だね
 
 
「ようやく今日わかったわ。ドーナツの穴を残して、ドーナツを全部食べる方法が。もともとドーナツには、穴がないのね」
 瞳を大きく開いて、千本木さんはそう言った。

「私は今日雨が止んだら、真由とドーナツ食べに行こうと思っていたの。本当は二人だけで行きたいけど……千本木が私と真由にドーナツをご馳走しなさい!」
 佐倉の指は、千本木さんの胸に置いたままだ。

「わかったわ。私が佐倉さんと本仮屋さんに、ドーナツをご馳走するわ」
 千本木さんはそう言うと、キラキラした瞳で微笑んだ。

「あんたも来る?」
 佐倉が千本木さんの胸に置いた指を離して、僕を指差した。

「葵くんにもご迷惑かけたから、私がご馳走するわ。もちろん本仮屋さんにも」
 優しい言葉で、千本木さんはそう言ってくれる。

「だ……大丈夫です…わ…私は自分で払いますから」
 本仮屋が慌てて言った。

「いいのよ。遠慮しなくて真由。でもあんたは自分で払いなさい!」
 僕を指差したまま、佐倉は華やかな顔でそう言った。

「葵くんのドーナツも、私がお礼にご馳走するわ。葵くんも大変よね。苗字が理由で、整備委員をしなくてはいけないのだから。立候補がいない場合、出席番号が一番の生徒が任命されるなんて理不尽よね」
 千本木さんは桜色の唇に指を置いたまま、同情するように僕を見た。

「確かにね。あいうえお順で決める慣習は、理不尽だと思うよ。でもドーナツは、自分で支払うから大丈夫だよ。千本木さんが悪いわけじゃない。それに今日の真相に気がついたのは、本仮屋だから」
 僕はやるべき事をしただけだ。


千本木さんの隣を見ると、本仮屋が空を見上げていた。

雨上がりの空から、この世界を祝福するように光が差している。



「雨が上がった空が……とても綺麗ですね」

本仮屋は、雨上がりの空を見ながら、妖精のように微笑んだ。





あとがきと解説


私の初めての本格推理小説を読んで頂きありがとうございました。
心から感謝しています。

正解の回答

①誰が WHO 愛川くん
②理由 WHY 整備委員だから
③方法 HOW 玄関側の階段から廊下を通り後ろの扉

この小説は推理小説に敬意を持って創作しました。
しかし推理小説へのアンチテーゼでもあります。

犯罪が起きる事が前提の、推理小説の世界を否定した作品です。

小説とともに差し出される、冗長なあとがきは必要ないと思います。
本来全てのメッセージは、作品内で語られるべきです。

しかし、この作品は哲学的なテーマが根底にあるので、敢えて恐縮ながら、解説をさせて頂きます。


この作品はノックスクの10戒に違反しています。
その1
犯人は物語の当初に登場していなければならない。

このルールに違反しています。
しかし全体の概要から真相の究明が可能だと思います。

真相は全員が嘘をついていないと判断すると判明します。

この2階にいた関係者全員が、教室を出ていないと証言しています。
千本木さんも嘘を言っていません。
武田くんも愛川くんを階段で見送って、すぐ教室に戻ったと証言してます。
この証言を信じると、封筒を取れる人物は3人しかいません。

綾辻先生
愛川くん
平沢さん

この時に2階にいなかった人物となります。

綾辻先生が封筒を取ったなら、大雨の中1人で教室にいる佐倉に担任教師として声をかけるはずです。

平沢さんが部活を抜け出して、封筒を取る可能性はありますが、佐倉に声をかける可能性が高いです。

佐倉に声をかける事が出来ない理由があるのは、愛川くんだけとなります。
同じ野球部の武田くんが、愛川くんが佐倉に合わす顔がないと発言しています。

この事から封筒を取ったのは愛川くんに限定されます。

全員が嘘をついていないと信じたので、本仮屋さんは真相を究明出来ました。

ちなみにミステリーの女王アガサ・クリスティの作品で、全員が嘘をついている歴史的な大傑作がありますが……
これ以上は未読の方のために控えます。

クリスティにもノックスの10戒を破った傑作があります。


そしてこの作品には2つの哲学的なテーマがあります。

その1 弁証法
対立または矛盾する二つの事柄を合わせることにより、高い次元の結論へと導く思考法。

対立する2つの問題の1方を選択しないこと。
第3の選択により、より高い次元に導くこと。

その2 ドーナツ問題
ドーナツの穴を残して、ドーナツを全部食べる事が出来るか?

千本木さんの回答はドーナツには穴がないでした。

真ん中に空間がある砂糖菓子をドーナツと定義します。
ドーナツにあるのは穴でなく、ドーナツの構成要素とすると、ドーナツに穴はないので、この設問自体に問題があります。

この作品では、封筒が盗まれたと言う設問自体が間違っています。
封筒は盗まれていません。
愛川くんは整備委員として、責任を果たしただけです。

設問自体が間違っていると言うのが、この作品の最大のテーマでした。
犯罪が起きたとう言う前提が、大きなミスリードです。

本仮屋さんだけが、設問が間違っている事に気かつきました。

①2つの選択肢を求められた時に、第3の選択を考える。
②質問された時、回答よりその質問自体の是非を検証する。

これはとても大切な発想だと思います。

またこの構想は『愚者のエンドロール』米澤穂信先生をリスペクトしています。『氷菓』古典部シリーズの傑作です。


また愛川くんが3組の整備委員だと気がつけば、真相の判明が可能です。

アンケートを提出するのは整備委員の責任とあります。

愛川くんが整備委員であると1組の荒木くんが発言しています。

1組 荒木くん  あらき
2組 葵くん   あおい
4組 相沢さん  あいざわ
5組 本仮屋さん

5組あるクラスで、整備委員の愛川くんのクラスは、3組しかありません。
なので3組のアンケートを提出するのは愛川くんの責任です。

立候補した本仮屋さん以外は全員あ行の名前です。
愛川(あいかわ)くんは、登場人物の中で一番あいうえを順で最初の苗字です。あ行の名前なので、登場人物の中で、整備委員に任命される可能性が一番高いです。
5組の可能性がありますが、5組の整備委員は立候補した本仮屋さんです。
苗字が正解への伏線のヒントになっています。
関係者紹介にひらがなで読み方があるのが大きなヒントです。

理不尽な桜ヶ丘高校の慣習なのですが。

また愛川くんが一度階段を降りた事が、読者へのミスリードとなっています。階段をまた上がって、図書館側の階段に向かう千本木さんの背後から、扉が開いた3組の教室に後ろから入り、封筒を取って、また玄関側の階段に向かえば、千本木さんの視界には入りません。

大雨と雷鳴で、廊下を歩く音が聞こえないのがポイントです。
千本木さんも、葵くんも、佐倉も大雨と雷鳴で廊下を歩く音に気がつきません。


この小説はコナン・ドイルの『海軍条約文書事件』をリスペクトしています。
偉大なるシャーロック・ホームズの短編小説を、敬意を込めて記載させて頂きました。

また登場した作品をご紹介します。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or a bullet』
桜庭一庭先生 百合作品
『天下統一恋の乱LoveBallad』
乙女ゲーム 戦国武将

参考文献

『精神現象学』G.W.F.ヘーゲル
『ドーナツを穴だけ残して食べる方法 』(日経ビジネス人文庫)

また今回登場した人物の名前は、敬愛するミステリー作家のお名前をリスペクトしてつけさせて頂きました。

綾辻行人 先生
東野圭吾 先生
貴志祐介 先生
湊かなえ 先生
伊坂幸太郎 先生

また余談ですが、軽音部の平沢さんは『けいおん!』をリスペクトしました。

私の本格推理小説を読んで頂き本当にありがとうございました。

推理小説としてフェアでない、と思われたら申し訳ありません。
私の不徳とすることです。
ご意見あればお待ちしています。

少しでもお心に残ればとても嬉しいです。

佐倉彩花が仲の悪かった千本木さんと親しくなる機会となった物語でした。

桜ヶ丘高校 文芸部シリーズをまた読んで頂けると嬉しいです!

またお会い出来るよう願っています。

誕生日に願いをこめて。



特別企画の結果 発表!!!


私の挑戦状にご回答頂いた方本当にありがとうございました!

沢山の方にメッセージ頂き本当に嬉しいです!

独創的なご回答もあり、素晴らしいご発想力だと感心致しました。

今回は文章量が多くて難しかったと思います。

しかしなんと正解者様がいました!!!


2W1Hにご正解されたのは…


ブレックファースト様です!!!

ブレックファースト様 特別名探偵賞をプレゼント致します。
素晴らしいです!!!名探偵です!
適格に真相を見抜かれて、本当に驚きました。
特に驚いたのは、整備委員の苗字の意味に気がつかれたことです!


おめでとうございます!!!

そして2W1Hの2つにご正解された方がいます!!
ほぼ正解です。素晴らしい推理力です!!
淫魔殺しの伝説様です!
淫魔殺しの伝説様 特別探偵賞をプレゼント致します。

おめでとうございます!!

そして2W1Hの1つにご正解された方がいます!
ぺろりん様です!
ぺろりん様 特別ワトソン賞をプレゼント致します。

名探偵ホームズも親友ワトソンの友情があってこそです。

おめでとうございました!


また正解ではありませんが、不正解とは言えないご回答をされた方がいます!
タランボ様です!
流石に『氷菓』のファンでいらっしゃいますね。
奉太郎くんのような名推理だと思いました。
タランボ様へ特別 応援賞をプレゼント致します!

また完全に不正解ですが、ご正解の方がいらっしゃいました。
ドーナツ問題にご回答されました。
相田 尚様です!!
設問に対して哲学的なご回答をされました。


相田 尚様へ特別 ドーナツ賞をプレゼント致します!

おめでとうございました!


私の小説を読んで頂いた方に心から感謝を申し上げます。

そしてご回答頂いた方本当にありがとうございました!

またホワイトデーに特別懸賞挑戦状の4回目を実施する予定です。
次回は今回より短い短編ですので、公開出来ましたら是非ご挑戦くださいませ。

先着順ではありませんので、お時間ある時にご挑戦をお待ちしています!

もし今回の投稿が最後になりましたら……
本当に残念ですが…
いままで応援本当にありがとうございました。


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