無名@憑依空間 2024/03/16 15:38

★無料★<MC>改心させる男①~正しい道へ~

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーなるほど」

梅田 紀彦(うめだ のりひこ)は、
相手の話を聞きながら、そう呟くと静かに頷いたー。
優しそうな雰囲気のおじいさん、という感じの男だー。
ただ、”おじいさん”と言っても、体格的にはまだしっかりとしていて、
年老いても、衰えを感じさせるような雰囲気ではないー。

つい先日、60代中盤を迎えた彼だったが、
まだまだ彼には”やらなければいけないこと”が、たくさんあったー。

「ーーそれで、娘さんは、今、どこに?」
紀彦がそう確認すると、
紀彦の反対側のイスに座っていた夫婦のうちの母親の方が
困惑した表情で言葉を口にしたー。

「今も家には帰ってなくてー」
とー。

「ーーそうですかー」
紀彦は、そう言いながら、自分の机の上に置かれている
パソコンの方に”相談内容”を記録していくー。

梅田 紀彦は、
”何でも相談に乗る”カウンセラーとして、生計を立てている人物。
カウンセラー、と言っても精神的な悩みだけではなく、
かなり色々な分野の悩みに対応でき、
今日は、家出した娘が何度も警察の世話になってしまっているので、
なんとかそれを止めたい、という相談を
家出した少女の両親から受けている最中だったー。

「ーーそれで、梅田先生ー」
夫婦の父親の方が口を開くー。

「ーー梅田先生に診て貰えれば、
 どんな”極悪人”も心を入れ替えるー、と、そう噂を聞いて
 私たちは今日、ここまでやってきましたー。

 ーーーーうちの娘のことも、どうかー…」

父親が、”都市伝説”にもなっている、
そんな言葉を口にしたー。

そうー、
カウンセラー・梅田 紀彦は、
”どんなに極悪人相手でも、話をすれば改心する”と、言われるほど
伝説になっている人物なのだー。

一度も謝罪する姿勢を見せず、死刑判決を受けても開き直っていた
連続殺人犯が、
この梅田紀彦と話をしてから、泣きながら遺族に謝罪したり、
罪を償うような姿勢を見せたりー、

とある高校の退学直前の不良生徒が、この梅田紀彦と話をしてから、
今までの自分を悔い改め、今では真面目な大学生として
頑張っている話だとか、

あとは、犯罪グループのリーダーと話をしたあとに、
そのリーダーの男が”俺は何てバカなことをしてきたんだ”と、改心し、
心を入れ替えた、などという逸話まで残っているー。

どれも、実際に見たわけではないが、
それなりに有名な話であるのも事実ー。

そんな話を聞き、この両親は今日、梅田紀彦に会いに来たのだった。

「ーーわかりました。娘さんがそのような状況では、
 お二人とも、心配でしょう。
 僕にお任せください」

紀彦は、そう言うと二人から
娘の名前や娘の写真、娘が行きそうな場所などを
それぞれ確認する。

「ーーでは、娘さんと接触することができた際には
 またご連絡いたします。

 そうですね…
 明日の午後には時間が取れるので、
 早ければ明日の午後にでも、娘の千里(ちさと)さんと
 お話ができるはずですよ」

紀彦のそんな言葉に、
家出不良少女・千里の両親は「ありがとうございます」と、
何度も何度も、紀彦に対して頭を下げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「今のわたしがあるのは、本当に梅田先生のおかげです」
優しそうな女性がそう微笑むー。

「ーははは、僕はきっかけを与えただけでー、
 そのあとは、全部、君自身の努力のおかげだよ」

紀彦はそう言うと、
その女性・美優(みゆ)のほうを見つめたー。

”美優”は、高校時代、荒れ果てて
万引きを繰り返していた少女だー。

そんな彼女を、紀彦が救い、美優は改心。
今ではすっかり真面目になって、2人の子供を育てる母親となったー。

「ーーー今日は、どうしてここに?」

「たまたま近くを通りがかったものですから、
 先生、お元気かなぁ、って、思いまして」

美優のそんな言葉に、紀彦は
「はははー。まぁ、元気にやってるよ」とだけ言うと、
「まぁ、歳のせいもあって、最近は腰が大分やられてきたけどね」と、
笑いながら言葉を口にするー。

昔話を少しの間して、美優が立ち去ると、
紀彦は「さて」と、昨日、依頼を受けた”千里”という子がいる可能性が高い場所を
巡ってみよう、と、ゆっくりと歩き出すー。

「ーーー」

彼はーーー
”人を洗脳する力”を持っているー。

生まれつき、”片目だけ”目の見え方が”おかしい”状況だった紀彦ー。
右目だけ、まるでレンズ越しかのように、変な見え方をしていたのだー。

だが、生まれたときからずっとそうだったため、
しばらくは”他の人と見え方が違う”とは夢にも思っておらず、
気付いたのは、ある程度大きくなってからだったー。

そして、さらにあることに気付いたー。

高校生の頃ー、
”その目”だけで、相手を見つめながら”命令”することで、
相手を言いなりにすることができる、ということに気付いたのだー。

小さい頃から正義感の強かった紀彦が、
いじめっ子から、いじめられっ子を守ろうとした際に、
普通に見える方の目を殴られ、片目を閉じた状態で、
その相手を見つめながら「やめろよ」と、言ったところ、
相手が「あ、はいー」と、あっさりと暴力をやめ、いじめもやめたー…。

それが、最初だったー。

その後、何度か、別の出来事を経て、
”右目だけで相手を見つめながら命令する”ことで、
その相手を洗脳することができるー、ということに気付いた。

だがー、紀彦は元々正義感が強く、
その力を私利私欲のために使うことは絶対にしなかったー。

それと同時に
”普通の人が持っていないこんな力を手に入れてしまったのだから、
 何かにこの力を役立てたい”と、考えるようになったー。

その結果がー、
”今”ー

「ーーー君が千里ちゃん?」
千里を発見した紀彦が言うと、
派手なメイクをした少女・千里が「あ?なにアンタ?」と、
不満そうに声をあげたー。

その周囲にいた2人の柄の悪い男が
「じいさん、何の用だよ?」と、
ニヤニヤしながら近づいてくるー。

がー。

「ーーー真面目に心を入れ替えて、ここから立ち去りなさい」と、
右目だけ見つめながら、2回、それぞれに同じ言葉を掛けると、
柄の悪い男二人は「ーー…お、俺たちー……ま、真面目に生きます」と、
突然改心し、そのまま立ち去っていくー

「はっ!?ちょっと!なに急に!?えっ!?」
仲間の男二人が、突然”改心”してしまったことに驚く千里ー。

紀彦は、「これでやっと、君とゆっくり話せるな」とだけ言うと、
「僕は、梅田紀彦。君のご両親に頼まれてここに来たんだー」と、
言葉を口にするー。

「ーはぁ?あたしの? じゃあー、”死ね”って伝えておいて」
千里は不満そうにそう言い放つー。

紀彦は、そんな言葉を投げかけられても、根気よく会話を続けていくー。

聞けば、どうやら千里には妹がいて、
その妹の方が成績優秀で、親からも”大事にされているように”千里本人からは見えて、
劣等感と嫉妬から歪んでしまった様子だったー。

「ーーーー」
紀彦は話をしながら、”どう洗脳が必要か”を慎重に判断していくー。

彼は、人を洗脳して改心させる際には、
”極力、洗脳で無理矢理変える部分は少ない方がいい”と、
そう考えているー。

さっきの男たちのような、もはや救いようのない相手の時は
いきなり洗脳して改心させるが、
こういう千里のような、話せばある程度分かってくれそうな相手の場合、
洗脳内容を、会話しながら慎重に判断していくー。

場合によっては、”必要ない”と判断し、
洗脳せずに改心させることもなくはないー。

が、千里の話を聞いていくうちに、妹への憎しみが強すぎると判断、
そのあたりを中心に”洗脳”することで、千里を改心させることに決めたー。

「ーーー妹や家族への憎しみを捨てなさいー」
紀彦がそう言うと、千里がビクッと震えるー

「ーーあ……あ…  あれ…わたしー…」
千里が少し困惑したような表情を浮かべると、
「ーーど、どうして…こんなに怒ってたんだっけ…」と、
不思議そうに周囲をキョロキョロするー。

紀彦は続けて「家族と仲良くしなさい」と、”命令”を口にすると、
千里は「ーーあ……」と、声を漏らしながら
「はいー…家族と…仲良く…しますー」と、言葉を口にするー。

”家族に対する不満”が、千里の荒れた原因ー。
根っからの悪人ではない子が相手の場合、
こうして一部分だけでも洗脳してあげることで、
素行不良なども改まるケースが多いー。

だが、千里の場合は、かなり荒れている様子であったことから
”もう悪いことをしたり、悪いやつらと付き合うのはやめなさい”とだけ、
追加で洗脳しておいたー

「ーーーーぁ……」
洗脳によって、色々変えて行くと、その急激な変化に
しばらく頭が混乱するような素振りを見せる者もいるー。

千里もそうで、
しばらく”寝起き”かのように、不安そうに周囲を見渡していたー。

もちろん、”やろうと思えば”
紀彦は、相手の全てを意のままにすることもできるし、
操り人形のようにしてしまうこともできるー。

だが、彼はこの力に気付いてから一度も”悪用しよう”とは
考えたことはなく、
一度も悪用することなく、ここまでやってきたー。

こうして、”人を正しい道”に導くためだけに、
彼はこうして洗脳を用いているー。

「ーーーあ……お…親に言われて、ここに来たって言ってましたよねー?」
千里が、先ほどとは別人のような雰囲気でそう言葉を口にすると、
「ーあぁ。君のご両親もとても心配しているよ」と、
紀彦は言葉を返した。

その言葉を聞いた千里は、ほんの少しだけ考えてから
「わたし…やっぱり家に帰りますー。
 親にも、妹にも、謝らなくちゃ」と、
少し寂し気に微笑みながら、
「ー今日はわざわざ、伝えに来てくれて、ありがとうございましたー」と、
礼儀正しく、深々と頭を下げたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー

紀彦の元に、千里と両親がやって来るー。

数日前に会った時とは別人のような
”真面目な風貌”に戻った千里ー。

「ーー本当に、ありがとうございましたー
 梅田先生には何とお礼を言えばいいかー」

千里の母親がそう呟くと、
父親も静かに頭を下げるー

「ーーはははー。無事に和解できたようで何よりです」
紀彦がそう言うと、
千里は「先生のおかげで、わたし、また親と上手くやっていけそうですー」と、
静かに微笑むー。

「ーーそれは良かったー
 けど、今、君がそうやって家族と一緒にいられるのは、
 君が頑張ったからだー。

 僕はただ、ほんの少し”お手伝い”をしただけに過ぎないー

 これから先は、君自身の頑張りが大事だからー、
 頑張るんだよ」

紀彦が千里にそう言い放つと、
千里は「ありがとうございます」と、嬉しそうに頭を下げたー。

両親にも笑顔が戻ったー
本人にも笑顔が戻ったー
今日、この場にはいないが、千里の妹もきっと喜んでいるはずだー

やがて、家族は幸せそうに帰宅していくー。

あのまま千里が悪さを繰り返していれば、傷ついてしまう人間も
増えてしまったかもしれないー。
が、洗脳でそれも阻止したー。

「ーーー僕の洗脳は”人を弄ぶ洗脳”ではなく
 ”人を救う洗脳”」

そう呟くと、紀彦は次の来客がやってきたことに気付きー、
振り返るー。

「ーーーあなたが、梅田先生ですか?」
疲れ果てた表情の男が言うー。

「はい。そうですが?」
紀彦がそう返すと、その男は疲れ果てた様子で言ったー。

「彼女が、連日”死んでやる”ばかりで困っていてー…
 どうにか、なりませんかー?」

その言葉に、紀彦は「なるほどー」と、頷くと、
「ーお話を、お聞きしましょうー」と、
また、新たな仕事に着手し始めるのだったー。

だがー、
彼はまだ知らないー。

この先ー、
”人々を改心させる洗脳”が思わぬ事態を招くことをー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

人を洗脳する力を”正しい方向”に使う男の
物語デス~!
珍しいパターンですネ~笑

完結まで、無料なので安心して楽しんでくださいネ~!★

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

記事を検索