無名@憑依空間 2024/06/29 16:21

★無料★花火の舞う空①~初デートの悲劇~

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男子大学生の磯原 孝之(いそはら たかゆき)は、
大学生になるまで全く”恋愛”というものに
縁がなかったー。

彼自身、イケメンとは程遠い容姿だし、
性格も奥手で、積極的ではないために、
今まで一度も彼女が出来たことがなかったー。

だが、孝之自身、特にそういった自分の
状況を気にする様子もなく、
実家もお金持ちであることから、
お金には困らず、趣味を存分に楽しむ
学生生活を送ることが出来ていたー。

しかしー
転機が起きたのは、夏休みを半月後に控えた
ある雨の日のことだったー。

持ってきていたはずの傘が無くなっていて、
”盗まれた”と不満に思いながら、
ずぶ濡れになって走ったー。

がー、
その日の帰り道ー、
ずぶ濡れになりながら交差点で信号待ちをしていた
孝之に傘を差しだしてくれたのがー
後に孝之にとって、人生初めての彼女となる、
佐々森 麻友(ささもり まゆ)だったー。

最初ー、「大丈夫ですか?」と麻友から声を
掛けられた時は、何のことか分からなかったし、
傘を2本持ってるから、と、1本貸してくれた麻友に対しても
”何かの罠なんじゃないか”と思いながら、
半信半疑で接していたー。

しかし、麻友は本当に優しい子で、
その日、一緒に歩いて帰っている際に、
同じ趣味を持っていることを知り、意気投合ー、
連絡先を交換したことをきっかけに親しくなりー、
夏休み突入直前に付き合い始めー、
今日は、孝之と麻友の初めてのデートとして
”花火大会”にやってきていたー。

「ーでもまさか、俺が別の大学の子と付き合うことになるなんて
 夢にも思わなかったよー」

孝之が花火を見つめながら言うー。

「ーだって俺、彼女とか今まで一度もいなかったし、
 このままずっと彼女なしだと思ってたしー」

孝之が言うと、麻友は「ーわたしも」と、微笑むー。

「あの時は何となく
 ”なんかすごい濡れてる人がいる!”って軽い気持ちで
 声を掛けただけだったしー」

麻友が、初めて出会った雨の日のことを
思い出しながら花火を見つめるー。

「ーーー…はは、でも、あの時は本当に助かったよー
 ありがとうー」

孝之がそう言うと、
麻友は「あの日のことで何回お礼を言われたかなぁ~」と笑うー。

恋愛経験もなく、
女性と付き合った経験もない孝之からすると、
麻友みたいな可愛い子と付き合っていても、
その扱い方が上手く分からないー。

だが、それでも、麻友は”大丈夫ー全然気にしないから”と、
孝之がおかしな行動をしても、笑って流してくれていたー。

麻友を通じて、麻友と同じ大学に通っているという友人・葵(あおい)とも
知り合うことができたし、孝之は
”人生何があるか分からないもんだな”と、
そう思っていたー

「ーでも、最初にお金目当てだったりしない?って
 言われた時はショックだったなぁ~」

麻友が少しいじわるそうに笑いながら言うー。

「ーいやいやいや、ほんとごめんー
 死ぬまで謝り続けるよー」

孝之の実家は金持ちであることや、
孝之自身、”こんなに可愛い子が意味もなく俺に近付いてくるわけがない”
と思って、出会った日の翌日、そんなことを麻友に
LINEで聞いてしまったのだー。

今から思うと、本当に失礼だったと思うー。

そもそも、実家が金持ちと言えど、
孝之のような男子大学生を狙っても
”すぐに払える金額”は限られているー。

孝之など狙っても仕方がないのだー。

麻友の友達の葵も、
麻友は”昔から困っている人を放っておけない性格”で、
小さい頃にはそれが原因で遅刻したこともあるとか、言っていたー。

あの日、傘を渡してくれたのも、そういう性格故、なのだろうー。

「ーでも、あの日、傘盗まれてなければ
 麻友と知り合うこともなかったと思うとー
 傘盗んでくれた人にはお礼を言わなくちゃな」

笑う孝之ー

「わたしも、前の日に傘忘れて、傘が2本になってなかったら
 孝之に声かけなかったと思うしー」

麻友のほうは、前日、午前中は雨で午後は晴れ、という天気だったため
傘を大学に忘れて帰ってしまっていて、
その翌日ー…麻友と孝之が出会った当日には、また朝から雨が降っていたために、
”その日の傘”と”前の日に忘れた傘”の2本を麻友が持っていて、
そのおかげで、あの日、孝之に傘を貸すことができたー

「ーーー二人とも、傘のおかげで出会えたんだね」
笑う麻友ー。

花火が空を舞う中ー、
先程よりも勢いよく、色とりどりの花火が
空を飾っていくー。

「ーーー」
夢中になって見つめる麻友と孝之ー。

だがー
その時だったー。

「ーーーーうっ」

隣にいた麻友が、突然変な声を出して
身体をビクンと震わせたー。

「ーー?」
孝之が麻友のほうを見るー。

麻友は少しバランスを崩したのか、
ふらっとした動きを見せると、
少ししてから、顔を上げたー。

「ーーへへー…あんた、彼氏だろ?」
麻友が突然意味不明な言葉を口走るー。

「ーーー…え…?な、何?」
孝之が困惑していると、麻友はニヤッと笑いながらー
「ーへへへへ…デートの邪魔して悪いなー」と、
いつもとはまるで違う言葉遣いで、言葉を口にしたー。

「ーえ…???ま、麻友ー…どういうこと?」
孝之が困惑しながら言うと、
「ーお前の彼女の身体は俺が貰ったー」と、
麻友が邪悪な笑みを浮かべたー。

「ーー…は…!? …は、ははっ…な、なんだよそれー
 どういうネタ?」

孝之が、冗談だと判断して、笑いながらそう返事をすると
麻友はニヤニヤしながら続けたー

「ネタじゃねぇよー。
 ”憑依”って知ってるか?

 他人の身体に乗り移って
 その身体を自由にできるってやつだー」

麻友はそう言うと、
孝之のほうを見て呟くー

「お前の女の身体は、俺が貰ったってことだよー」
クスッと笑う麻友ー。

その口調は、いつもとまるで別人のようだー。

「ーーー…い…いや…ひ、憑依ってー…」
”そんなことあり得ない”と言葉を口にしようとする孝之ー。

”憑依”という言葉は確かに知っている。
アニメか何かでもそういう描写は見たことがある。

しかし、現実にそのようなこと、できるはずがー

「嘘じゃねぇよー
 ほらー」

麻友はそう言うと、自分のスマホをバッグから取り出すとー
それを地面に叩きつけて、ブーツで自分のスマホを
踏みにじったー

「ーちょっ!?おい!」
孝之が叫ぶー

「ー自分のスマホー。
 こんな風に壊す女がいるのか?」

麻友がニヤニヤしながら言うー。

麻友のスマホは、結構傷んでいて、
理由を聞くと”死んだおじいちゃんに買ってもらったスマホだから
ギリギリまで使おうと思って”と言っていたー。

つまり、麻友にとって”おじいちゃんの形見”でもある
とても大事なスマホー。

それを、麻友は自ら壊したのだー

「う…嘘だろー…?」
孝之がそう言うと、
麻友は「嘘だと思ってもいいけどー、それなら、
そこら中の男と、お前の女の身体でヤリまくってやるぞ?」
と、低い声で脅すように呟いたー。

「ーー見ろよ」
麻友がそう言うと、少し離れた場所の
ビニールシートを指さすー。

そこには、男が二人いて、
一人はレジャー用の椅子に座り、足を組んでいて、
もう一人はビニールシートの上で酔いつぶれているのか
眠っているー。

「ーあの寝てるほうー…あれが俺だー
 分かるか?」

麻友がニヤニヤしながら言うー。

その言葉に、孝之がレジャーシートの上で
倒れている男を見つめながら
表情を歪めると、
同じシートで、椅子に座っている男が
ニヤッと孝之のほうを見つめたー。

「ーま、まさか本当にー…!?」
孝之が驚いた様子でそう言うと、
麻友は「最初からそうだって言ってるだろうが」と、
腕組みしながら、孝之のほうを見て言い放ったー。

「い…いや…ま…待ってくれ… え…?」
困惑する孝之ー。

”憑依”なんてことが現実に起こるなんて思えないし、
いきなりそんなことを言われても、
簡単に”はいそうですか”とはならないー

「え…な、何かのドッキリ…だろ?」
孝之が戸惑いながら言うと、
「ー鈍い野郎だな」と、麻友がうんざりした様子で言うー。

「ー自分のスマホを笑いながら壊す女がいるのかぁ?あ?」
麻友が壊れたスマホを足で踏みにじりながら笑うー。

花火の音が耳に入らないぐらいに緊張した様子で、
孝之が麻友のほうを見つめるー

麻友の表情は、いつもとは”別人”のように見えるー。

いつもの優しい感じではなく、
その笑みは悪意に満ちているー。

そしてーー

少し離れた場所から、ニヤニヤとこっちを
見つめている男ー。

「ーーー…う…嘘だー…そ、そんなー」
唖然とする孝之ー。

「ー何ならここで全部脱いで笑いながら走り回ってやっても
 いいんだぜ?
 そしたらこの女の人生は終わりだー」

麻友が自分のことを他人のように言いながら、
ニヤニヤと笑うー。

「ーや…や、やめろ!」
憑依なんて非現実的なこと、起きるはずがないー…

と、思いつつも、
次第にその現実味が増していき、
認めざるを得ない状況になっていくー。

「ーーこの女の人生が終わっても、
 俺は自分の身体に戻ればいいだけだー

 へへへ…
 この意味、分かるだろ?」

麻友はそれだけ言うと、
見下すような目で孝之を見つめるー。

孝之はついに、”本当に憑依されている”ということを
理解し、険しい表情を浮かべたー

「ま…ま、麻友を…麻友を開放してくれ!」
孝之が泣きそうになりながら言うと、
「へへへ…どうだ?自分の女が憑依されて
 俺みたいなやつに、動かされている気分は?」と
挑発的に麻友が笑ったー

「ーーさ、最悪な気分だー…
 た、頼むからやめてくれ!
 な、何が目的なんだ!」

孝之が言うと、麻友はニヤッと笑ったー

「ーこの女の身体でエロイことしまくるんだよー
 そこら中の男とヤリまくったり、なー」

麻友のそんな言葉に、絶望して
言葉すら失う孝之ー

「ーーな~んて、冗談だよ!バカ!」
麻友が孝之の反応を見てゲラゲラと笑うと、
「ー”金”だよ」
と、真顔で言い放ったー。

「ー金さえ払えば、この女を開放してやるー
 別に他の男とヤラせたりもしないー」

その言葉に、孝之は「か…金…」と、
困惑した様子で呟くー

「身代金って言葉、あるだろ?
 あれだよー。

 まぁ、俺たちの場合誘拐じゃなくて
 こうして憑依して、金を要求するんだけどなァ!」

麻友は完全に支配されてしまっているー。
この様子だと、麻友が自力で正気を取り戻すのは
難しそうだー

花火のほうを見つめる孝之ー

”初デート”ー
そんな、夢のような思い出の日に
こんな風になってしまうなんてー。

麻友の笑顔を思い出しながら、
孝之はとても悔しそうに拳を握りしめるー

「それで、いくらほしいー?」
孝之が困惑した表情で言うと、
麻友は「100万円ー」と、答えるー。

「ーひ、ひゃくま…」
孝之はそうは言いながらも、
自分の貯金と、自分の私物の売却、
そして金持ちの実家の協力を得れば
なんとかなるかもしれない金額であることを悟るー

ニヤッと笑う麻友ー。

”こういうやつには、非現実的な金を要求するんじゃなくて、
 何とかギリギリ手が届きそうな金を要求した方がー
 スムーズに払うからなー”

麻友に憑依している男は笑うー。

1000万円や1億円ー
そういう法外な値段を要求すれば、
支払いできず、結局警察に相談される可能性も高まる、と
彼は判断しているのだー

「いいかー?誰かに言ったらこの女、
 滅茶苦茶にしてやるからな?」

麻友の脅すような口調に、
孝之は震えながら「わ…わ、わかったー」と
答えることしかできなかったー

②へ続く

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コメント

夏…★花火の季節ですネ~!☆!

★無料★作品は、最終回までしっかり無料なので
いつも通り、楽しんでくださいネ~!

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