キャラクターの日常11
【ある移動中の風景】
学校帰りに連れの家に寄った、その帰り道。
鼻歌交じりに自転車を漕いでいた俺は、
ふと前方に、道端でうずくまる小学生を
発見した。
俺(ん?大丈夫か?)
腹でも痛いのかと思い、自転車を止めて、
その後ろ姿をよく見る。
ハル「ねぇ、猫さん。菊ちゃんの所まで、
まだかかるの?」
猫「にゃ~」
ハル「そっか~。じゃあ、タクシーでも
呼ぶ?
あれ?タクシーって猫さん乗せても
良いのかな?
それに、今月のお小遣いも厳しいし。
あっ!?スマホ家に置いてきた!!
ムムム……」
猫相手に話し込んでいる変なのは、
小学生などではなく、俺が良く知っている
奴だった。
俺「おい、ハル。こんな所で何やって
んだ?」
ハル「え?……あ、タクシーが来た!!」
猫「にゃ~ん」
ひと鳴きした猫が、俺の自転車のカゴに
飛び乗る。
そして後ろの荷台にはハルが横向きに
ヒョイと座った。
俺「……は?」
突然の事で驚いたが、一つだけ確かな事が
ある。
俺は今から、コイツラを乗せて自転車を
漕がなくてはならないらしい。
ハル「本当にゴメンね~。
荷物まで持って貰っちゃって」
俺「構わねぇって」
猫「にゃ~ん」
俺「お前も気にすんな。
で、どこまで行けばいいんだ?」
俺の問いに、帽子を押さえながら乗っている
ハルが答える。
ハル「多分、この先の神社だと思う」
猫「にゃにゃ」
俺「了~解!!」
ここから神社までは、まだ結構な距離が
ある。
俺はペダルを漕ぐ足に力を込めた。
俺「でもハル、お前、あそこまで歩こうと
してたのか?」
ハル「ん~、正直、そこまで遠いだなんて
思って無くてさ。君が通りがかって
くれて、本当に助かったよ~。
あ、また今度、何か奢るね」
顔は見えないが、きっといつもの笑顔を
浮かべて言うハル。
俺「いいって。
それより、帰りは大丈夫なのか?」
ハル「うん。神社で菊ちゃんを見つけられ
なかったら、今日の捜索は打ち切りに
して帰るから大丈夫だよ」
俺「ふ~ん。あ、それなら帰りも乗せて
いってやろうか?」
ハル「そこまでは悪いって。
神社で菊ちゃんを探すのに、時間が
かかるかもしれないし。
……ん?って、あれ?
よく考えたら今日って、おばさんの
お店の買い出しを手伝う日じゃ
なかった?」
俺「……あ、ヤベッ。完全に忘れてた!!」
今日は母ちゃんがやっている商売の買い出し
に行く日で、男手が欲しいとかで、俺はよく
駆り出されていた。
ハル「あ~あ。おばさん、怒ってるよ~?」
俺「ハル、お前、スマホ持ってたよな?
悪いけど母ちゃんに連絡させて
くれないか?」
ハル「え~と、ゴメンね。
そうしてあげたいのは山々なんだ
けれどさ。
スマホをうっかり家に置いて
きちゃったんだよねぇ」
俺の頼みに、ハルはとても申し訳無さそうに
返事をする。
俺「あ~。んじゃ、しゃ~ね~な」
ハル「じゃあ、ボク達はここで降りるね」
そう言って、走っている自転車からポンと
飛び降りるハル。
前カゴに乗っていた猫も同時に飛び降りた。
俺「お、おい!!」
慌てて自転車にブレーキをかける。
ハル「ここまで乗せてきてくれて、
ありがとうね。
本当、凄く助かったよ。
もう神社はすぐ目の前だから、
ここからは歩くから大丈夫だよ?」
そう言って、ハルは笑顔で右手を差し出して
きた。
猫はその足元で大人しく待っている。
これ以上は、きっと意地でも再び自転車には
乗らないであろう事が俺には分かったから、
持っていたハルの荷物を下ろし、それを
差し出されたその小さな手に渡した。
俺「んじゃ悪いけど、俺は帰るわ。
後は自力で頑張れ」
ハル「うん。頑張るよ!!」
そう、元気に答えるハルに、俺は何故かは
分からないが、ふと嫌な予感を覚える。
俺「なぁ、ハル。
日が暮れる前には、家に帰れよ?」
ハル「ん?うん。そのつもりだよ?」
俺「あ~。……そか。うん。そうだな。
くれぐれも気を付けてな。
んじゃ、また明日な」
ハル「うん、ありがとね。
君も気を付けて。
ハイバ~イ!!」
自転車を方向転換させ、急いで帰り始める
俺に、ハルはその手をブンブンと大きく
振っていた。
それから、母ちゃんに小言を言われた時も、
荷物を運んでいる間も、俺の頭から嫌な
予感が消える事は無かった。
俺はいつからこんなに心配性になったんだ?
キャラクターの日常の11話目です。
「とりあえず完成を目指す」から
「出来る限り作る」に方針を転換した
関係で、登場人物が一気に増えました。
ハルの男友達である彼は、日常4話に
出てきた彼と同じですが、本編では現在、
一瞬しか出番がありません。
(もちろん、今から増える可能性も
ありますが)
そんなキャラが沢山出てきてしまって、
色々と整理が必要です。
それは次回の報告の時にでも……。