TNG 2023/09/28 23:21

キャラクターの日常04(一部修正)

【あるお昼休みの風景】


『キーンコーンカーンコーン』

ようやくチャイムが鳴り、長かった4限目の
授業が終わる。

社会科のハゲが、やけにゆっくりした動作で
広げた教材を片付けるのを尻目に、俺は全速力で
駆け出した。
目指すは購買のコロッケパンだ。

食べごたえのある大きさ。
ソースの染みたコロッケ。
シャキっと新鮮なレタス。

どれをとっても最高で、急がなければ
アッという間に売り切れてしまう人気商品だ。

「なぁ、ホタルの……見た?」

そんな言葉が耳をかすめ、階段手前のトイレ横で
足を止める。
それは、洗面所で手を洗っている、別クラスの
男共の話し声だった。

「え?うん……見ちゃったよ」
「ブラ、白だったな」

トイレに入り、小便をするフリをする。
そんな俺に気付かず、男共は話を続けた。

「穂樽さんって、ワリと隙だらけだよねぇ」
「そうそう、この前も、もうちょっとで
 パンツ見えそうだったぜ」
「ホント?」

その話の内容に、何故だか俺は無性に苛つきを
覚える。

「今度さ。穂樽を呼び出して頼んでみようぜ?」
「何を頼むの?」
「あいつ、何かチョロそうだし、頼み込めば
 パンツくらい見せてくれそうじゃね?」
「はは、流石にそれは無理じゃない?まぁでも、
 それなら僕は隠れて動画撮るよ」

もちろん、それが本気じゃない事くらい、
分かってはいた。
だけど、どうしょうもなく苛々してしまい、
俺は、また、やってしまった。

「おい、根暗共。ハルに何かしたら、タダじゃ
 おかねぇぞ?」
「え……」

二人が驚いたようにこちらを見て、ヤバイと
いう顔をして俺から離れようとする。
そんな二人の肩に両腕を回して警告する。

「いいな?冗談でも二度と言うんじゃねぇぞ?」
「う、うん。ゴメン」
「分かったって」

コクコクと首を縦に振りながら答える二人を、
もう一睨みしてから解放する。

(はぁ……俺は何をやってんだろな。
 コロッケパンは……もう無理か)

そんな事を考えながら、慌てた様子で走り去る
二人を溜息ながらに見送った。

ハルと俺は、小学四年生からの付き合いだ。
転校してきた俺に、何の遠慮も無く話しかけて
きたのが始まりだった。
ちなみに制服着るまでは、ずっと男だと思って
いた事を、本人にはまだ言ってない。

まぁ、俺だって年頃の男だ。
人並みに女に興味はあるし、エロいのだって
色々見てる。
だが、ハルにそれを求めるのは、何か違う
ような気がした。
何が違うのかは……分かんね。
まぁ、いいや。それより昼飯だ。

美味いパンがまだ残っている事を祈りつつ、
俺は購買へと歩き出した。


かくして、奇跡は、起きた。

最後に1個だけ残ったコロッケパンを手に、
俺はホクホク顔で教室に戻った。

ふと、視界にハルの後ろ姿が映る。
コケシと机を合わせて弁当を食べているようだ。

さっきの事を思い出し、もう少し気を付けろと
言ってやろうと近付いた。
しかし……。

「おい、ハル……って、どうした!?」

俺の声に振り向いたハルは、フォークを咥えて
涙を流していた。

まさか、さっきの男共に何かされたか?
それとも、別の野郎か?

にわかに殺気立つ俺の気なんか知らず、
ハルが呑気に呟く。

「おいひぃ」
「は?」

聞けば、寝坊で朝食を抜いて走って登校して、
3限目の体育で走り回り、腹が減って減って
仕方がなかったそうだ。
それで、弁当を食った感動で涙が出てきた
とか何とか。
馬鹿らしい。

「はっ。お前が作った弁当が、そんなに美味い
 ワケねぇだろ」
「ムッ!?」

安心して自然と出た軽口に、怒った表情で唸る
ハル。
続けて何か言おうと開いた俺の口に、無理矢理
何かが捩じ込まれた。

「んぐっ、てめぇ何しや……が……」

口の中に広がる味に、俺は言葉を失ってしまう。
絶妙な焼き加減の、ふわふわ卵。
噛むと口全体に広がる、出汁の味。
それは今まで食べた中で、間違いなく最高の
出汁巻き卵だった。

「美味い……」
「でしょ!!」

思わず口を出た素直な言葉に、ハルは勝ったと
言わんばかりの笑顔を向ける。
いや、完全に、俺の負けだ。
これは、本当に美味い。

「お前、凄いな」
「へへへ、ボクは料理も天才的だからね」

笑顔が少し照れたような感じに変わり、
更にもう一つこちらへ渡そうとしてくる。

「いや、良いって。お前、腹減ってんだろ」
「あ、そうだね。じゃあ、今度またあげるね」
「おぅ、また頼むわ!!」

そう言って席に戻ると、俺はコロッケパンの
封を開けて口に運んだ。
先程の出汁巻き卵を食ったせいか、楽しみに
していたコロッケパンは少々味気なく感じた。

もう一個、断らずに食うべきだったか?
いや、あのまま居たら、横でずっと睨んでいた
コケシに殺されてたな。

ってか、あいつ、怖ぇよ。


息抜きの4作目になります。

今回は友人の男視点。
こうやって、色々な視点から主人公を見ると、
またキャラに深みが出たりするのかなぁ?
なんて考えたり考えなかったり。

描く度に外観が変わっていく気がする主人公
少女。そして奥のコケシちゃん、ちょっと
怖くしすぎた感がありますかね。

(追記)
諸事情により、内容を一部修正しました。

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