五月雨時雨 2024/06/03 21:34

男は砕け堕ちる時までわずかな悦びを惨めに追い求める

左右の足を隙間無く揃え、両腕を身体の側面に密着させる。そんな気を付けの体勢に固められた裸体を必死にもがかせながら、男が危機と屈辱からの脱出を試み続けていた。
どんなに手足に力を込めても自由は取り戻せない。塞がれた口で言葉にならない絶叫を幾ら発しても救いは訪れない。嫌というくらいに思い知らされた絶望の情報に心を打ちのめされながらも、男は一人きりの地下室で試行錯誤を休み無く繰り返し事態の打開を追い求めていた。
だが、男がどんな行動を取っても状況は変わらない。衣服を剥ぎ取られた裸体へと巻き付けられた透明なラップの縛めと、その上から重ねられた黒いテープの拘束は男がなりふり構わずに暴れてもぎちぎちと軋む音を立てるのみで緩む気配すら見せない。
裸体を厳重に縛るラップとテープの檻に閉じ込められ、更にその上から手も足も出せぬ状態となった身体を地下室の中央に位置する丸い柱へと括り付ける追い打ちのテープを執拗なまでに与えられた男はもう、柱を背にして立った姿から離れられなくされた肉体をただただ、無慈悲に嬲られるしか無い。
口を閉ざすテープの上へと鼻も同時に覆う形で重ねられた頭部を柱へと縫い付ける役割も担う数枚の白布を湿らせている淫猥な薬品が混じった呼吸を強いられている無様な男はもはや、わざとラップとテープで包むこと無く露出させられた男根が痛々しく勃起し疼きに疼いている様を為す術無く見つめながら、我慢しきれぬ呼吸に合わせて己を更なる発情という淫らな地獄へと追いやることしか出来はしないのだ。

「んんっ、ふうぅ、む、ふぶぅ……っ!」

ラップの内側に蓄積した自らの汗がもたらす熱気と滑りが、男に不快を味わわせていく。その不快を大きく上回る男根の内部で忙しなく蠢くもどかしさが、男の理性を常に削り落としていく。
もし腕が思い通りに使えたならば、男は躊躇い無く男根を慰める摩擦を一心不乱に注いでいたことだろう。仮に右腕のみに自由を残された状況を用意されていたならば、男は裸体を包囲するラップとテープを振り払う為の格闘ではなく男根を鎮める快感を手繰り寄せていたことだろう。
けれど、今の男に己の男根を情けなく扱く手段は無い。悲痛に見開かれた目から大粒の涙を零しつつ許しをねだっても、それを聞き入れてくれる存在は何処にもいない。
恥を捨てて縋り付く相手すらもいない孤独な地獄に放置された男は、惨めに前後させることも叶わない腰を狭い範囲で揺らしながら、出口を遮断され溜まる一方となった自身の淫欲に壊し尽くされるしか無いのだ。

「んぅっ、むぶぅっ、ふみゅぅぅ……っ!」

自分をこの責め苦へと置き去りにした敵達への憎しみを滾らせていた脳に誰にも届かない助けてを響かせながら、憎しみと怒りで満ちていた思考を射精への渇望に欠片も残すこと無く塗り潰されながら、男は滑稽極まりない腰振りを行って張り詰め切った男根をみっともなく踊らせて余計にもどかしさを加速させるだけのかすかな刺激を生み出し、それを正気が砕け堕ちるその時まで汲み取り続けていた。

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