幹部シリーズバレンタインSS集
変身ヒロインは~シリーズのバレンタインSSを書きました。
ネタバレは無いはずです。
あらすじ
エトワールのあの子が、バレンタインにチョコレートを用意していると情報を得た悪の組織の幹部たち。どうやら、彼女たちのチョコレートに大変興味があるようで……?
エトワールは彼らからチョコレートを守れるのでしょうか。
VSオネエ幹部セレス編
「その小包……なるほどね。ほかのエトワールちゃんと、友チョコ~とか言って、女の子同士で交換するんでしょ?」
その通りでした。スターバレットこと、あなたは反射的にチョコを背後に隠しました。なんだか、大切なお友達のあげるためのチョコレートを、狙われているような気がしたからです。
「でもー……あの女共にはあげて、アタシにくれないなんて、不公平じゃない。もちろん、アタシのチョコもあるわよね? スターちゃん? ああでも……アタシの分がないっていうなら、スターちゃんをデコレーションして捧げてくれてもいいのよ~? うふふふふっ」
どうやらチョコレートだけでなく、あなた自身も狙われているようです。意地悪な微笑みと共に、ずいずいと迫ってくるセレスに、あなたはつい後ずさりします。
しかし、あなたもただ押されているだけでは終わりません。
──このチョコは、友達にあげるんじゃなくて、『交換』するの。セレスこそ、交換できるチョコ持ってるの?
そうあなたが言い返すと、急にセレスがばつの悪そうな顔をしました。
「えっ、えっと……それは」
もごもごと口ごもり、目が泳いでいます。
「……手作りしたかったけど……」
最後のほうはとても小さな声で、あなたにはセレスが何を言っているか聞こえませんでした。敵が何を言ったかなんて、あなたには関係ありません。けれど、あなたには一瞬だけ、セレスが本当に困っているように見えました。
──セレス?
少しだけ漂う甘い香りと焦げ臭い匂いは、セレスからしているように思えました。
「もう! そんな意地悪しなくてもいいじゃない! もういいわ、チョコもスターちゃんも、めちゃくちゃにしてあげる。触手ちゃん達と一緒にね!」
──っ!
けれど次の瞬間には、セレスがいつも通りに触手をけしかけてきました。あなたが何かを思う前に、いつも通りの戦闘が始まります。いつも通りの日曜日が続いていきます。
VSツンギレ幹部フレイド編
フレイドはいつにもまして、イラついていました。そしていつにもまして、苛烈でした。
「さあ、おとなしくその小包を寄越せ! ムーンクレイモアーー!」
双剣を振りかざし、チョコを守るあなたに襲いかかります。あなたは暴走気味の彼をするりと受け流しながら、猛攻から身を守ります。
「っぐう!? はあ、はあ、……さっきから、チョコを庇って攻撃もままならんようだな……! そんな菓子ごときが、そんなに大切なのか! そんなに……大切な、渡したい相手がいるということなのか!?」
フレイドが激しく叫び、拳を握りました。あなたはフレイドの問いに頷きます。
──そうです。
あなたの答えに、フレイドは顔を歪ませました。歯を食いしばり、さらに拳に力をいれ、震えているようです。
「っ……! な、なっ、ならば、……! そんなこと、俺が許さない。こんなくだらない商業主義の行事なんぞに、浮かれて……う、うう。そんなチョコレート、俺が相手ごと……じゃなくて、貴様ごと叩き斬ってやろう!」
再び、フレイドが双剣をギラつかせ、襲いかかってきました。
あなたも、それを迎え撃つ覚悟を決めます。
──大切なお友達に、私の想いを伝えるチョコレート……あなたに斬られるわけにはいきません!
あなたがそう宣言すると、急にピタリとフレイドが動きを止めました。
「……貴様、今、なんと言った?」
──あなたに斬られるわけには……
「その前だ! そのチョコは、その……まさか、他のエトワール共に?」
──だとしたら、なんだというのですか?
あなたはフレイドを睨み付けましたが、フレイドは急にものすごい笑顔になっていました。
「バンザーイ! ……じゃなくて、んんっ……きっ貴様のチョコなど興味ないわ!! さっさと終わらせるぞエトワール共!」
先ほどまで、あんなにもあなたのチョコレートに固執していたようにみえましたが、フレイドは急に雑に触手を召喚し、いつもの戦闘がはじまりました。
フレイドの態度の変わりように、急にあなたの気が抜けてしまい、その日の戦闘はちょっとピンチだったのは、また別のお話。
追憶の魔術王編
魔術王は、過去の懐かしい日々を思い返していた。
学校にも行かず、暇だったあのとき。気まぐれに、ネットでみたレシピでチョコレートを作ったことを。その日遊びに来た、小さく大切なお友達……幼き日のあなたが、すごく喜んで食べてくれたことを。
──ゲームだけじゃなくて、お菓子作りまでうまいなんて。ナッちゃんってすごいね! 私なんて……
と、調理実習で失敗した話を面白おかしく話すあの子の顔を思い出す。
きっと、今もかわらないのだろう。あの子は不器用みたいだから、チョコを作って、火傷なんてしていたら心配だ。いや、そもそも、シャイなあの子に、チョコをあげるような友達なんているのだろうか? ましてや、好きな人なんて……。
今日も一人、誰にも守ってもらえないあの子を想像して、魔術王は胸を痛める。
(はやく、こんな優しくない世界を、僕が書き換えて守ってあげなければ……)
そう強く決心をして。
その頃、当のあなたが、新しいお友達とチョコを交換して笑い合っているなんて、夢にも思わずに。
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